SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

使用済み液晶ディスプレイガラスからの ゼオライト合成とCu局所構造解析
Synthesis of Zeolite from Wasted LCD Panel Glass and Investigation of Local Structures of Cu

DOI:10.18957/rr.6.2.305
2015B1598 / BL14B2

小橋 正a, 鴻池 知輝a, 内海 康彦a, 柿森 伸明a, 佐藤 充孝b, 八木 俊介c*, 中平 敦c

 

Tadashi Kobashia, Tomoki Kounoikea, Utsumi Yasuhikoa, Nobuaki Kakimoria, Mitsutaka Satob, Shunsuke Yagic*, Atsushi Nakahirac

aシャープ(株), b東北大学金属材料研究所, c大阪府立大学

aSharp Co., Ltd., bIMR, Tohoku University, cOsaka Prefecture University

* 現所属:東京大学

* Current affiliation: The University of Tokyo

Abstract

 液晶ディスプレイガラスから合成したガラスゼオライトのCuの局所構造を調べるため、液晶ディスプレイガラス基板の電極中に含まれるCuがゼオライト合成後にとる局所構造と、合成後にさらにイオン交換によりCuを担持させた際の局所構造の変化をXAFSにより分析した。電極中に含まれるCuは、合成後にゼオライトに取り込まれた場合と、合成後にさらにイオン交換によりCuを担持させた場合とでは、XANESスペクトルが異なり、もともと電極中に含まれていたCuはイオン交換サイトに存在するCuと異なる局所構造をとることが示唆された。また、原料ガラスの粒径によっても生成物のCuの局所構造が異なることが判明した。


Keywords: ガラス、ゼオライト、液晶ディスプレイ、Cu、局所構造、XAFS


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背景と研究目的:

 将来的に排出量が急激に増加すると予測される液晶ディスプレイガラス基板の軟化加工が不要な再資源化方法として、100°C 未満での加熱処理により、環境浄化材料として注目されているゼオライトを合成する試みを行ってきた[1, 2]。

 ガラスゼオライトに遷移金属を導入することによる、触媒や抗菌材料としての応用展開を見据えた場合、遷移金属の局所構造の知見は非常に重要となってくる。本報では、液晶ディスプレイガラスから合成したガラスゼオライトのCuの局所構造と合成後にさらにイオン交換によりCuを担持させた場合の局所構造の変化を分析した。また、原料ガラス粒径がゼオライトに取り込まれるCuの局所構造に与える影響についても評価した。


実験:

 廃液晶ディスプレイガラスをボールミルにより、中央粒径 8 µm と 300 µm に粉砕し、Si/Alモル比を調整するため、アルミン酸ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウム水溶液中で 95°C での水熱処理を施した。X線回折にて生成相を確認した結果、それぞれの粒径でA型ゼオライトが生成していた。さらに、合成後のガラスA型ゼオライトを 7.87 mmol/L または 15.7 mmol/L の塩化銅(Ⅱ)水溶液に浸漬させてイオン交換によりCuを 0.5 wt% と 1.0 wt% 担持させた試料を作製した。同様の手順で、市販のA型ゼオライトと市販のY型ゼオライトに対しても、15.7 mmol/L の塩化銅(Ⅱ)水溶液に浸漬させて、Cuを 1 wt% 担持させた試料を作製した。作製した試料と参照試料として準備した Cu、Cu2O、CuO のCu元素(K殻 8.98 keV)の局所構造を解析するため、ビームラインBL14B2を使用し、Si(311)面結晶面を用いて、透過法により、XAFS測定を行った。また、ガラス(8 µm および 300 µm)とガラスA型ゼオライト(8 µm および 300 µm)においては、含まれるCuが微量であるため、19素子Ge半導体検出器を用いた蛍光法により、測定を行った。


結果および考察:

 図1に合成後のガラスA型ゼオライト(8 µm と 300 µm)にイオン交換により、Cuを 0.5 wt %または 1.0 wt% 担持させたゼオライトと、市販A型ゼオライトと市販Y型ゼオライトにイオン交換により、Cuを 1 wt% 担持させたゼオライトのCu-K殻吸収端におけるXANES領域の測定結果を示す。図1より、Cuの担持量を変化させても同様のスペクトルを示し、また、ゼオライトの粒径が異なっていても同様のスペクトルを示した。さらに、A型ゼオライトは、ガラスからの合成品、あるいは、市販品であっても同様のスペクトルを示すことが判明した。一方で、Cuを 1 wt% 担持させたY型ゼオライトは、ピークが鋭く、やや低エネルギー側にシフトしている傾向がみられた。これはSi/Al組成比の違いにより、骨格構造が異なるA型ゼオライトやY型ゼオライトにCuが担持されることによって、Cuの局所構造がわずかに異なっている可能性が考えられる。また、Y型ゼオライトはA型ゼオライトと比較するとイオン交換容量が小さく、かつ、A型ゼオライトの細孔径が 0.41 nm であるのに対して、Y型ゼオライトは 0.74 nm と大きい。そのため、Cuのイオン半径と細孔径とが近いA型ゼオライトの方が安定的にイオン交換サイトにCuを保持することができる。これにより、Y型ゼオライトの場合は、イオン交換サイトに十分に保持されなかったCuが塩化物等の状態で表面に存在し、XANSEスペクトルに影響を及ぼしている可能性も考えられる。

 これらの結果から、イオン交換によりゼオライトに担持されたCuは、Cuの担持量やゼオライトの粒径に関わらず、同じ局所構造をとっていることが明らかとなり、Cuを担持するゼオライトの種類による局所構造の違いに関しては引き続き検証が必要である。


  (a)

  (b)

図1. Cuを 0.5 wt% または 1.0 wt% 担持させたA型ゼオライト(8 µm と 300 µm)と、Cuを1 wt%担持させた市販A型ゼオライトと市販Y型ゼオライトのCu-K殻吸収端のXANESスペクトル。(a)は並べて比較、(b)は重ねて比較


 次に、ゼオライトの合成前後でのCuの局所構造の変化について評価するため、図2にゼオライトを合成する前のガラス(8 µm)、合成後のガラスA型ゼオライト(8 µm)、合成後のガラスA型ゼオライト(8 µm)にイオン交換によりCuを 1 wt% 担持したゼオライトのCu-K殻吸収端におけるXANES領域の測定結果を示す。合成により、スペクトルが高エネルギー側にシフトし、酸化されていることがわかる。また、合成後と、合成後にさらにイオン交換によりCuを担持させた場合のスペクトルは異なることが判明した。この結果から、合成後のCuはイオン交換サイト以外のところに存在している可能性が示唆された。


  (a)

  (b)

図2. ガラス(8 µm)、ガラスA型ゼオライト(8 µm)、Cu 1 wt% 担持ガラスA型ゼオライト(8 µm)のCu-K殻吸収端のXANESスペクトル。(a)は並べて比較、(b)は重ねて比較


 続いて、原料ガラス粒径の違いによる影響を評価するため、図3にゼオライトを合成する前のガラス(300 µm)、合成後のガラスA型ゼオライト(300 µm)、合成後のガラスA型ゼオライト(300 µm)にイオン交換によりCuを 1 wt% 担持したゼオライトのCu-K殻吸収端におけるXANES領域の測定結果を示す。図3より、ガラスをボールミルで粒径が 300 µm になるように、1時間ほど粗く粉砕した際には、ガラス表面に存在する電極中のCuは反応がほとんど進まず、金属のCuと同じスペクトルを示した。次に、8 µm にまで粉砕するため、ボールミルで24時間粉砕した際には、ピークが高エネルギー側にシフトし、1価に類似のイオン状態をとることが判明した。300 µm のガラス表面に存在している金属のCuは、アルカリ溶液中において、95℃ で水熱処理をすると酸化されて、2価に類似のイオン状態をとることがわかった。また、原料ガラス粒径の違いにより、8 µm と 300 µm で合成後のガラスA型ゼオライトのスペクトルが異なることが明らかとなった。


  (a)

  (b)

図3. Cu-K殻吸収端のXANESスペクトル。(a) はガラス(8 µm と 300 µm)、ガラスA型ゼオライト(8 µm と 300 µm)を並べて比較。(b) はガラス(300 µm)、ガラスA型ゼオライト(300 µm)、Cu 1 wt% 担持ガラスA型ゼオライト(300 µm)を重ねて比較。


 もともと液晶ディスプレイガラス基板の電極中に含まれていたCuが合成後にとる構造と、合成後にイオン交換により導入したCuの構造とが異なり、また、原料ガラス粒径によっても異なるスペクトルのゼオライトが得られるため、これらのゼオライトを触媒や抗菌材料として使用した際に、異なる性能が発揮される可能性が考えられる。


今後の課題:

 液晶ディスプレイガラスの電極中に含まれるCuが合成後にとる局所構造と、合成後にさらにイオン交換により導入したCuの局所構造が異なることが判明した。合成後にイオン交換によりCuを担持させる方法では、一般的にCuはゼオライトのイオン交換サイトに存在すると考えられるが、合成直後のCuはゼオライトの骨格内などに存在する可能性やクラスターとして存在する可能性も示唆されるため、これらの検証を進める必要がある。また、Cuの局所構造により、触媒性能や抗菌性能にも差が生じることが考えられるので、原料ガラスの粒径やCuの担持方法に起因するCu局所構造と、Cu担持ゼオライトが示す性能の関係性について評価を行うことが今後の課題である。

 ゼオライトの種類によって、担持されているCuの局所構造が異なるかについては、より低濃度の塩化銅(Ⅱ)水溶液を用いてCuを担持したY型ゼオライトの局所構造を調べることや、イオン交換処理後に、ゼオライトのイオン交換サイトではなく、表面に付着しているだけの塩化銅などを洗浄処理で十分に洗い流すといった対策が必要である。また、塩化銅(Ⅱ)のみのXANSEスペクトルも測定して、ゼオライトの種類によって、担持されたCuの局所構造が異なるかについて明確にすることも今後の課題である。


参考文献:

[1] 辻口 他、材料 62, 357 (2013).

[2] M. Tsujiguchi et al., J. Am. Ceram. Soc. 97, 114-119 (2014).



ⒸJASRI


(Received: March 18, 2016; Early edition: April 25, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)