SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

使用済み液晶ディスプレイガラスからのゼオライト合成と遷移金属の局所構造解析
Synthesis of Zeolite from Wasted LCD Panel Glass and Investigation of Local Structures of Transition Metals

DOI:10.18957/rr.6.2.277
2013B1823 / BL14B2

小橋 正a, 鴻池 知輝a, 内海 康彦a, 柿森 伸明a, 佐藤 充孝b, 八木 俊介c*, 中平 敦c

Tadashi Kobashia, Tomoki Kounoikea, Utsumi Yasuhikoa, Nobuaki Kakimoria, Mitsutaka Satob, Shunsuke Yagic*, Atsushi Nakahirac

aシャープ(株), b東北大学金属材料研究所, c大阪府立大学

aSharp Co. Ltd., bIMR, Tohoku University, cOsaka Prefecture University

*:現所属:東京大学

*: Current affiliation: The University of Tokyo

Abstract

 使用済み液晶ディスプレイに使用されているガラス基板を原料として、作製したゼオライトに含まれている遷移金属であるCuおよびInの局所構造をXAFSにより調べた。その結果、廃液晶ディスプレイガラスから合成したゼオライトには、ガラス基板の電極中に含まれているCuが2価イオンと類似の構造で存在していることがわかった。また、Inは合成前後で In2O3 と同様の局所構造をとっていることが判明した。


Keywords: ガラス、ゼオライト、液晶ディスプレイ、Cu、In、局所構造、XAFS


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背景と研究目的:

 将来的に排出量が増加すると予測される液晶ディスプレイガラス基板を資源として有効に利用することを見据え、アルミノホウケイ酸ガラスを原料とし、アルカリ水熱処理によりゼオライトを合成する研究を行ってきた[1, 2]。軟化温度の高いアルミノホウケイ酸ガラスを加熱軟化せずに新たな機能材料としての再資源化が可能となる。これまでの研究により、100℃ 以下での水熱処理により、ゼオライトの合成が可能であることがわかっている。廃液晶ディスプレイには、電極材料としてガラス基板表面に遷移金属が含まれており、ゼオライトの合成過程や生成したゼオライトの物性に影響を与える可能性がある。本研究では、廃液晶ディスプレイガラスを用い、ゼオライトを合成した場合の生成物中の遷移金属の局所構造を調べることを目的とする。


実験:

 廃液晶ディスプレイガラスをボールミルにより、中央粒径 8 μm に粉砕し、得られた粉体にアルミン酸ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウム水溶液中で 95℃ での水熱処理を施した。X線回折にて生成相を確認した結果、A型ゼオライトが生成していた。合成前のガラスと合成後のガラスA型ゼオライトに含まれる遷移金属であるCu元素(K殻 8.98 keV)およびIn元素(K殻 27.9 keV)の局所構造を評価するため、ビームラインBL14B2を使用し、Si(311)面結晶面により、19素子Ge半導体検出器を用いた蛍光法によってXAFS測定を行った。また、参照試料として準備した Cu2O、CuO、および、In2O3 と、市販のA型ゼオライトを硝酸インジウム水溶液に浸漬させて In3+ イオンを担持させた試料についても、透過法により測定を行った。


結果および考察:

 図1にゼオライトを合成する前のガラスと合成後のガラスA型ゼオライトのCu-K殻吸収端におけるXANES領域の測定結果を示す。合成により、CuのXANESスペクトルは高エネルギー側へシフトしていることから、合成前は1価イオンと類似の構造をとっていたCuは、その価数が増加し、酸化されていることが判明した。


  (a)

  (b)

図1. ゼオライト合成前の廃液晶ディスプレイガラスと、廃液晶ディスプレイガラスを原料として合成したガラスA型ゼオライトのCu-K殻XANESスペクトル。(a)は並べて比較、(b)は重ねて比較。


 図2にゼオライトを合成する前のガラスと合成後のガラスA型ゼオライト、In3+ イオンを担持した市販のA型ゼオライトのIn-K殻吸収端におけるXANES領域の測定結果を示す。合成前後でInのXANESスペクトルに大きな変化はみられず、それぞれ In2O3 と類似のXANESスペクトルを示し、3価の状態で存在していることが示された。また、In3+ イオンを担持した市販のA型ゼオライトにおいても、ゼオライトを合成する前のガラスや合成後のガラスA型ゼオライトと同様のスペクトルが得られた。以上の結果から、Cuはゼオライトの合成過程において、Cuの価数が1価から2価へと変化し、異なる価数でゼオライトへと取り込まれたことが考えられる。Cuがイオン交換サイトやそれ以外のサイトに存在しているかについては引き続き検証をする必要がある。また、Inに関しては合成前後でXANESスペクトルに変化が見られなかったため、Inが合成過程に影響を与える可能性は少ないと考えられる。さらに、In3+ イオンを担持した市販A型ゼオライトも同様のXANESスペクトルを示したことから、Inはガラスからゼオライトを合成する過程において、また、イオン交換サイトに存在していても、その局所構造が変化しないことが判明した。そのため、合成後のInは3価の酸化物のような状態で存在している、あるいは、In3+ の状態でイオン交換サイトに存在している可能性が示唆された。


  (a)

  (b)

図2. ゼオライト合成前の廃液晶ディスプレイガラスと、廃液晶ディスプレイガラスを原料として合成したガラスA型ゼオライトのIn-K殻XANESスペクトル。(a)は並べて比較、(b)は重ねて比較。


今後の課題:

 液晶ディスプレイガラスを用いたゼオライト合成において、合成前後でガラス基板の電極中のCuの局所構造が変化することが判明した。これにより、Cuが取り込まれたゼオライトを触媒として用いた場合、その性能に変化がみられることが考えられる。ゼオライトに金属イオンを担持させて触媒能を発揮させるためには、金属イオンが存在する溶液中でのイオン交換による方法等が用いられるが、単純にイオン交換により担持した2価のCuと、ガラス基板表面のCuがゼオライトに取り込まれた場合とで局所構造に変化があるか検証を行うことが今後の課題である。また、Inを担持したゼオライトを触媒として使用する際に、廃ガラスから合成したA型ゼオライトと、それと同じ局所構造を示すイオン交換によりInを担持したゼオライトが同等の性能を示すかを検証する必要がある。


参考文献:

[1] 辻口 他、材料 62, 357 (2013).

[2] M. Tsujiguchi et al., J. Am. Ceram. Soc. 97, 114-119 (2014).



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(Received: March 18, 2016; Early edition: April 25, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)