SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

BL19B2のX線小角散乱装置におけるバックグラウンド低減の検討
Reduction of Instrumental Background Signal of Small Angle X-ray Scattering Measurement at BL19B2

DOI:10.18957/rr.6.2.261
2013A1811 / BL19B2

佐藤 眞直

Masugu Sato

(公財)高輝度光科学研究センター

JASRI

Abstract

 BL19B2における極小角X線散乱(USAXS)測定、および小角X線散乱(SAXS)測定のバックグラウンド低減の為、真空パス等の測定装置の構成部品起因のBG源の特定、サンプル周りの空気散乱のビームパス長さ依存性の検討、真空パスの窓からの散乱プロファイルについて窓材(カプトン、スペリオUT、Be窓)による違いの検討を行った。BG源の特定についてはカプトンフィルムを散乱体としてUSAXS測定の光学系の途中に挿入し、BGプロファイルへの影響を検討することで行った。その結果、USAXS測定のサンプルを設置している第2実験ハッチ内がBG源になっている可能性が高いことがわかった。また、サンプル周りの空気パスからの散乱については、USAXS測定ではその長さ変更によってBGプロファイルに影響がほとんど見られないことからこの空気パスからの散乱のBGへの寄与はほとんどないことがわかった。一方SAXS測定ではこの空気パスを長くすると高q域のBGが大きくなる影響が確認された。真空パスの窓材からの散乱についてはスペリオUTフィルムがカプトンフィルム、Be窓よりもUSAXS、SAXS測定ともに十分に散乱が小さく、BG抑制に適した窓材であることが確認できた。


Keywords: 界面活性剤、金属組織、析出物、USAXS、SAXS


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背景と研究目的

 BL19B2の小角X線散乱(SAXS)装置の利用実験において、特に極小角X線散乱(USAXS)レイアウトによる界面活性剤の会合構造や金属材料中の析出物などSAXS信号強度が微弱な試料の測定で、バックグラウンド(BG)の低減が求められている。本実験ではBG低減のための装置レイアウト改造を検討するために、BG源についての調査を行った。


実験:

以下の三つの検討項目について検討を行った。


(1) 測定装置の構成部品起因のBG源の特定

(2) サンプル周りの空気中のビームパスの長さによるBGの影響の検討

(3) 真空パスの窓材によるBGの影響の検討


 (1)については、SAXSレイアウトでは検討を完了しており、真空パスの真空度の向上、窓材の薄膜化(サンプル直下流の真空パスのカプトン窓の厚さを 25 μm から 7 μm に変更)によりBGの低減に成功しているため、USAXSレイアウトについてのみ、実施した。(2)、(3)についてはUSAXS、SAXS両レイアウトで検討を行った。

 USAXSレイアウトの概念図は図1に、SAXSレイアウトの概念図は図2にしめす。実験条件はX線エネルギー 18 keV、USAXSレイアウトのカメラ長は 42 m、SAXSレイアウトのカメラ長は 3 m である。カメラ長の較正はコラーゲン試料の回折ピーク位置を用いて行った。USAXSレイアウトではX線ミラーは使用せず、SAXSレイアウトではX線ミラー角を 2 mrad に設定し、第1ミラーのミラーベンド機構と第2ミラーのシリンドリカルミラーにより検出器位置を焦点にしてビーム集光を行っている。光学系の各スリット(図1参照)の条件(開口サイズ)については、USAXSレイアウトは表1に、SAXSレイアウトは表2に示す。検出器は2次元ピクセル検出器PILATUS2Mを用いた。データは2次元イメージデータを方位角 360° で平均化し、散乱角に対する散乱強度の1次元プロファイルに変換して評価した。


図1. USAXSレイアウトの概念図


図2. SAXSレイアウトの概念図


表1. USAXSレイアウトでの実験時の光学系の各スリット条件
スリット 開口サイズ
TCslit1(光学ハッチ内モノクロメータ上流) 0.1 mm(水平幅)× 0.1 mm(垂直幅)
TCslit1(光学ハッチ内モノクロメータ下流) 0.25 mm(水平幅)× 0.25 mm(垂直幅)
Slit0(第1ハッチ) 0.3 mm(水平幅)× 0.3 mm(垂直幅)
Slit1(第2ハッチ) 1.2 mm(水平幅)× 1.2 mm(垂直幅)
ガードアパーチャ(第2ハッチ) ϕ 1 mm

表2. SAXSレイアウトでの実験時の光学系の各スリット条件
スリット 開口サイズ
TCslit1(光学ハッチ内モノクロメータ上流) 5 mm(水平幅)× 0.7 mm(垂直幅)
TCslit1(光学ハッチ内モノクロメータ下流) 6 mm(水平幅)× 1 mm(垂直幅)
Slit0(第1ハッチ) 6 mm(水平幅)× 1 mm(垂直幅)
Slit1(第2ハッチ) 4 mm(水平幅)× 0.8 mm(垂直幅)
Slit1(第3ハッチ) 0.4 mm(水平幅)× 0.4 mm(垂直幅)
ガードアパーチャ(第3ハッチ) ϕ 1 mm

結果および考察:

 まずUSAXSレイアウトにおける(1)BG源の特定について、図1のUSAXSレイアウトの各チェック箇所に 125 𝜇m 厚のカプトンフィルムを透過配置で設置しBGプロファイルを測定した結果を図3に示す。検出器の露光時間は5分である。これをみると第1ハッチ、第3ハッチからの影響はほとんどなく、試料が設置されている第2ハッチからの影響が顕著である。

これは、

• 第1ハッチ、第3ハッチのチェック箇所からの散乱のBGプロファイルに対する影響は光学系のコンポーネント(スリット、ビームストッパー等)で十分抑制できていること

• 第2ハッチに設置された真空パスの窓材もしくは空気パスからの散乱を低減することでUSAXSレイアウトのBGプロファイル低減できる可能性があること

を意味する。


図3. USAXSレイアウト中のチェック箇所(図1参照)に 125 μm 厚のカプトンフィルムを透過配置で設置した時のBGプロファイル(5分露光)。


 次に(2)サンプル周りの空気中のビームパスの長さによるBGの影響の検討について、USAXSレイアウトの結果を図4に、SAXSレイアウトの検討結果を図5に示す。検出器の露光時間は5分である。USAXSレイアウトでは標準的なサンプル周りの空気パスの長さ 4 cm に対し、12 cm まで長くして比較してみたが、ほとんど変化がなかった。すなわち、USAXSレイアウトではサンプル周りの空気パスからの散乱はBGプロファイルにほとんど影響していないことがわかった。


図4. USAXSレイアウト中のサンプル周りの空気パス(図1参照)の長さを変更した時のBGプロファイル。


図5. SAXSレイアウト中のサンプル周りの空気パス(図2参照)の長さを変更した時のBGプロファイル。


 SAXSレイアウトでは標準的なサンプル周りの空気パスの長さ 4 cm に対し、8 cm、12 cm に長くしてBGプロファイルを比較してみた。検出器の露光時間は10秒である。その結果、サンプル周りの空気パスを長くすると q レンジで q = 0.2 nm-1 以上のBGプロファイルが増大することがわかった。その程度は標準の 4 cm に対し 8 cm で約1.5倍、12 cm で約2倍程度である。

 次に(3)真空パスの窓材によるBGへの影響検討として、窓材のカプトンフィルム及びスペリオUTフィルム、Be窓のUSAXS及びSAXSプロファイルを測定した結果を図6に示す。図6(a)はUSAXS、図6(b)はSAXSのデータを比較して示したものである。露光時間はUSAXSで5分、SAXSで100秒である。データはそれぞれ透過率補正を施し、BGを差し引いてある。結論から述べるとスペリオUTからの散乱はUSAXS、SAXSの両測定域ともに他の窓材よりも十分に小さく、BG低減対策に適した窓材であることが確認できた。図6(a)のスペリオUTのデータが散乱プロファイルが荒れており、極低 q 域で欠落しているのは測定データとBGプロファイルとの差が非常に小さいことが原因である。USAXS、SAXSの両データを合わせて比較してみると、まずカプトンフィルムと比べてスペリオUTの散乱は全体的に1/10以下である。また、Be窓とスペリオUTを比較するとSAXSの高q域ではほぼ同等であるが、低 q 域でやはりスペリオUTの方が散乱が1/10以下程度も小さいことがわかった。


図6. 真空パスの窓材であるカプトンフィルム(100 μm 厚)、スペリオUTフィルム(100 μm 厚)、Be窓のUSAXSレイアウト(a)及びSAXSレイアウト(b)で測定した散乱プロファイル。


今後の課題:

 今回の結果をまとめると、まずUSAXSレイアウトについて検討した結果、装置の構成部品起因のBG源は主に第2ハッチにあることが予想された。そのBG源の種類について検討した結果、まずサンプル周りの空気パスからの散乱は空気パスの長さを変更してもBGプロファイルにほとんど影響がないことから無視しても良いことがわかった。さらに真空パスの窓材からの散乱について、窓材の種類による散乱プロファイルの違いを比較したところ、現状のカプトンフィルムよりスペリオUTフィルムの方が、散乱強度が1/10以上小さかった。つまり、第2ハッチの真空パスの窓材をスペリオUTに変更することでよりBGを抑制できる可能性があることわかった。今後、この点についてUSAXSレイアウトの改造を検討する。

 また、SAXSレイアウトについて検討した結果、まずサンプル周りの空気パスからの散乱について空気パスの長さに対するBGプロファイルの依存性を調べたところ、長くなるにつれて特に高 q 域で数倍程度大きくなることが確認された。しかしながら、SAXSレイアウトについては十分BGの抑制が達成できており、この数倍程度の変化はそれほど深刻な影響とは考えられない。この影響の深刻度はサンプルの信号強度次第であり、問題になるかどうかは利用者の判断にゆだねられる。今回得たデータは今後ユーザーの判断材料として活用する予定である。さらに窓材からの散乱についてUSAXSと同様に窓材の種類による散乱プロファイルの違いを比較したところ、やはりSAXSの測定 q レンジでも現状のカプトンフィルムよりスペリオUTフィルムの方が、散乱が1/10以上小さかった。今後、SAXSレイアウトについても真空パスの窓材変更を検討する。



ⒸJASRI


(Received: September 29, 2017; Early edition: April 25, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)