SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

BL19B2 X線小角散乱装置の集光ミラー導入による信号強度向上の検討
Improvement of Signal of X-ray Small Angle Scattering Measurement at BL19B2 Installing Horizontal Focusing Mirror

DOI:10.18957/rr.6.2.234
2012A1763 / BL19B2

佐藤 眞直

Masugu Sato

(公財)高輝度光科学研究センター

JASRI

Abstract

 測定能率向上を目的として、2012年度夏季停止期間に水平集光ミラーを光学ハッチに導入して入射X線ビームフラックスを向上することによる信号強度増強を検討しているBL19B2のX線小角散乱装置において、改造による信号強度利得を評価するために、参照試料(界面活性剤混合試料、Cu-Cu合金試料)の小角散乱プロファイル測定を行った。


Keywords: X線小角散乱、ヘルスケア、金属、集光ミラー


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背景と研究目的:

 BL19B2のX線小角散乱(SAXS)装置ではユーザーの増加に伴い、さらなるユーザー拡大、新規利用分野開拓を目指して、測定能率向上を主目的とした装置機能強化を行うため、信号強度の向上のための水平集光ミラー導入を2012年度夏季停止期間に行った。

 図1にBL19B2のSAXS装置のレイアウトを示す。BL19B2は光学ハッチと三つの実験ハッチで構成され、光源から最下流の第3実験ハッチまでの長さが約120 mと非常に全長の長いビームラインである。光源は偏向電磁石で、SAXS装置は第3ハッチに設置されている。従来のレイアウトでは、光学ハッチ内のモノクロメータ下流に設置された高次光除去用の二つのX線ミラーは長さ 1 m の平板ミラーで、ミラーを湾曲させるベンド機構によりビームを垂直方向で集光させることが可能である。SAXS測定では小散乱角領域の散乱測定の角分解能を確保するために2次元検出器位置のビームサイズを数 100 μm 程度まで小さくする必要がある。垂直方向のサイズは前述のX線ミラーの垂直方向集光機能により、ビームの強度を損なうことなく必要なサイズを実現できる。しかしながら、水平方向のサイズについては集光機能がないため、水平方向に広がったビームを第3ハッチ内のSAXS装置上流側に設置した4象限スリットで制限することにより整形する必要がある。そのため、ビーム強度の損失が大きく、その結果、SAXSデータの測定能率向上の障害となっていた。この問題を解決するためには水平集光による検出器位置でのビームサイズ整形が必要である。そこで上述の夏季停止期間に実施した改造において、光学ハッチ内の下流側のX線ミラーにシリンドリカルミラーを導入した。水平集光による信号強度利得の評価を改造前後における参照試料の小角散乱プロファイルを比較することによって行うため、本課題では改造前のデータ取得を行った。


図1. BL19B2のX線小角散乱装置の光学系配置図


実験:

 BL19B2のSAXS装置において、主にヘルスケア分野と金属材料分野を今後のユーザー拡大のターゲットとしているため、参照試料として両分野の典型的な試料を選んだ。課題申請書では各分野5種類程度ずつ、計10種類程度用意する予定であったが、結果的に調達できたのは以下の2種類だけであった。ヘルスケア分野からは、化粧品や洗剤などの材料として使用される界面活性剤混合試料(試料組成:ベヘニルアルコール(5.0 %):バチルアルコール(1.8 %):ポリオキシエチレンベヘニルエーテル(3.5 %):グリセリン(7.5 %):ジプロピレングリコール(7.5 %)の水溶液)、金属材料分野からはCo析出物を分散させたCu-Co合金試料(Co組成 3 mass% / 973 K で 20分agingしてCoを析出)を用意した。界面活性剤試料は厚さ 3 mm のガラス板に直径 10 mm の穴をあけ、厚さ 0.12 mm のカバーガラスをX線透過窓として封じた試料セル中に封入した。Cu-Co合金試料は厚さ 200 μm の薄片試料を用意した。実験条件としては界面活性剤試料はBL19B2のSAXS装置の運用において標準的な条件であるX線エネルギー 18 keV、カメラ長 2.7 m、Cu試料については透過率の低い試料が多い金属分野でニーズが高い高エネルギーの条件:X線エネルギー 30 keV、カメラ長 2.7 m で測定を実施した。両エネルギー条件ともにX線ミラーのミラー角は 2 mrad、図1に示した光学系の各スリットの開口サイズは表1の通りで、検出器位置でのビームサイズは直径約 400 μm であった。使用した検出器はPILATUS-2Mである。カメラ長の較正は参照試料のコラーゲンの回折データを用いて行った。


表1. 実験時の各スリット開口条件
スリット 開口サイズ(横幅/mm×縦幅/mm)
TCslit1(光学ハッチ内モノクロメータ上流) 0.1 mm(水平幅)× 0.75 mm(垂直幅)
TCslit1(光学ハッチ内モノクロメータ下流) 0.1 mm(水平幅)× 0.8 mm(垂直幅)
Slit0(第1ハッチ) 0.1 mm(水平幅)× 1 mm(垂直幅)
Slit1(第2ハッチ) 0.15 mm(水平幅)× 0.9 mm(垂直幅)
ガードスリット(第3ハッチ) >ϕ 1 mm

結果および考察:

 図2に測定したSAXSデータを示す。図2(a)は界面活性剤混合試料のデータ、図2(b)はCu-Co合金試料のデータである。赤線が試料の透過率補正済みの測定データ、黒線がバックグラウンド(試料なしの空気散乱)データで、両者とも測定時間は5分である。前者には界面活性剤混合試料が形成する会合構造のα相のラメラ構造の回折ピークが、後者にはCo析出物からの散乱プロファイルが確認できる。


図2. (a) 界面活性剤混合試料(試料組成:ベヘニルアルコール(5.0 %):バチルアルコール(1.8 %):ポリオキシエチレンベヘニルエーテル(3.5 %):グリセリン(7.5 %):ジプロピレングリコール(7.5 %)の水溶液)、(b) Co析出物を分散させたCu-Co合金試料(Co組成 3 mass% / 973Kで20分agingしてCoを析出)のX線小角散乱データ。赤線が測定データ。黒線がバックグラウンドデータ。


今後の課題:

 水平集光ミラー導入後の2012B期にはこれらのデータを再度測定し、両者を比較して、集光ミラー導入による信号強度利得を評価する予定である。



ⒸJASRI


(Received: March 29, 2016; Early edition: April 25, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)