SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

小角X線散乱による末端機能化ゴム材料を用いた 配合物中でのシリカの三次元階層構造の解析(2)
Analysis of Three-dimensional Hierarchical Structure of Silica in Formulation with Advanced Rubber Material Having Functionalized Polymer Ends by Small Angle X-ray Scattering (2)

DOI:10.18957/rr.6.2.325
2016B1557 / BL19B2

曽根 卓男, 冨永 哲雄, 湯淺 毅, 千賀 寛文, 山村 浩樹

Takuo Sone, Tetsuo Tominaga, Takeshi Yuasa, Hirofumi Senga, Hiroki Yamamura

JSR株式会社

JSR Corporation

Abstract

 低燃費タイヤに用いられる末端機能化スチレン・ブタジエンゴムの基礎データとして、BL19B2に設置した一軸延伸装置を使用し、加硫ゴムシートを延伸させながら、応力と小角X線散乱の同時測定を行い、補強剤として使用されるシリカの凝集状態や階層構造の変形挙動を観察した。延伸倍率の増加に伴い、補強剤に由来する二次元散乱像の異方性は大きくなった。そして、異方性の大きさは官能基の有無に依存し、重合体末端と補強剤表面との相互作用の強さが、変形時の凝集状態や階層構造に大きく影響を及ぼした。


Keywords: 合成ゴム、末端機能化SBR、シリカ、応力、小角X線散乱


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背景と研究目的:

 低燃費タイヤの開発では、グリップ力や耐久性、耐摩耗性のバランスを取りながら、転がり抵抗の小さい高機能なゴム材料を開発する必要がある。リビングアニオン重合法により末端を機能化したスチレン・ブタジエンゴム(SBR)は、重合体末端に導入した官能基が補強剤であるシリカやカーボンブラックを微分散化させることにより、転がり抵抗を低減できる材料である。これまでの研究から、我々は末端の官能基構造がシリカの分散状態に影響を及ぼすことを、そして小さな転がり抵抗を示す材料では、シリカ粒子が均一に微分散していることを放射光X線小角散乱法から明らかにしてきた[1]。また、前報では、SBR/シリカ配合物の加硫ゴムシートを200%延伸させた状態で超小角X線散乱(USAXS)測定を行い、二次元散乱像の異方性の強さがSBR末端に導入した官能基の有無で異なることを、更にシリカ凝集体構造の変形挙動に影響を及ぼすことを定性的に明らかにした[2]。しかし、補強剤の分散状態や階層構造とゴム物性がどのように相関しているのかは研究が開始されたばかりで不明な点が多い。

 ゴム材料の機能発現メカニズムを解明するアプローチの一つとして粗視化分子動力学(MD)シミュレーションが有効と考えられている。我々は、末端機能化SBRの機能発現メカニズム解明を目的に、SPring-8のビームライン(BL08B2、BL24XU、BL19B2)で測定したUSAXSデータを用いて補強材の分散状態を評価し、それらの分散状態モデルを用いた大規模粗視化MDシミュレーションをスパコンで行っている。そして、補強材の分散状態や凝集構造、更にはSBR/補強剤間の相互作用や架橋密度が応力-歪み曲線に及ぼす因子について検討している[3]、[4]。今回、このシミュレーションの精度を検証するため、BL19B2に一軸延伸装置を持ち込み、応力-歪み曲線とUSAXSの同時測定から、延伸途中の補強剤の凝集状態、特に階層構造の変化と応力に関する情報を得る目的で実験を行った。


実験:

 一般的なリビングアニオン重合法を用いて三種類のSBRを合成した。合成したSBRは、重合体の終末端に官能基をもたない未変性SBR(SBR[i])と終末端にアミノ基とアルコキシシリル基の二種類の官能基を導入した末端機能化SBR(SBR[ii])および終末端にアルコキシシリル基を導入した末端機能化SBR(SBR[iii])である。これらSBRに、補強剤であるシリカあるいはカーボンブラック(CB)、ゴム配合薬品、硫黄などの加硫用薬品を添加し、バンバリー型ミキサーで混練り後、160 °C で40分間プレス加硫成型を行った。得られた 2 mm 厚の加硫ゴムシートをUSAXSの測定に用いた。ビームラインはBL19B2を使用し、X線エネルギーを18 keVにしてUSAXS(露光時間2 s、カメラ長 41.597 m、散乱ベクトル範囲 0.004 nm-1 < q < 0.2 nm−1)を測定した。カメラ長の校正はコラーゲン 試料の回折ピークを用いて行った。ビームサイズは約 200 µm で、検出器はDECTRIS社製PILATUS-2Mを用いた。ゴム試料の延伸とその際の引張応力検出は一軸延伸装置を使用し、歪み印加方向が検出器の赤道方向に対して垂直となる位置関係で延伸させながら測定した。材料は 2 mm/s の速度で延伸させ、応力検出しながら 0–200% の範囲で1往復させた。USAXSは約 40% の歪み間隔で測定し、延伸と戻りを合わせて11水準の二次元散乱データを得た。本実験では、前報で二次元散乱像の異方性が十分に確認された 0–200% の歪み印加範囲でのUSAXS測定を行い、延伸途中の補強剤の凝集状態変化と応力の相関を検証した。

 表1に今回実験に用いた加硫ゴムシートのサンプルをまとめた。SBR[i]、[ii]、[iii]に対してシリカあるいはCBを50 phr(phrはゴム重量100に対する配合剤の重量部を表す単位)配合した後、硫黄架橋した加硫物シート試料を使用した。SBR[iii]はこれらSample-1-5について、一軸延伸装置を用いて歪み量、応力およびUSAXSの同時測定を行った。


表1. 散乱実験に使用したサンプル
Sample SBR 末端官能基 補強剤種類 補強剤充てん量
Sample-1 SBR[i] None Silica 50 phr
Sample-2 SBR[ii] NH2 & SiOR Silica 50 phr
Sample-3 SBR[iii] SiOR Silica 50 phr
Sample-4 SBR[i] None CB 50 phr
Sample-5 SBR[ii] NH2 & SiOR CB 50 phr

結果および考察:

 末端に官能基を持たないSBR[i]を、そして、末端にアミノ基とアルコキシシリル基を、またはアルコキシシリル基をそれぞれ導入したSBR[ii]またはSBR[iii]を用いてSample1-5の硫黄加硫物を調製した。これらサンプルを一軸方向に延伸させながらUSAXS測定を実施した。図1にシリカを 50 phr 配合したSample-1および2の応力-歪み曲線を示す。尚、図中に示したa–kは、USAXSの測定点である。図1が示す通り、延伸時の応力-歪み曲線はサンプル間で差は小さかった。一方戻り時の応力-歪み曲線では、末端機能化したSBR[ii]を用いたSample-2の方が、Sample-1に対して、同じ歪みに対する応力が高くなる傾向を示し末端機能化SBRを用いることで応力緩和が小さくなることが分かった。


図1. Sample-1およびSample-2の応力-歪み曲線(SBR/Silica配合)


 次に、Sample-1-5について、0 %(延伸前)、60 %、100 %、140 %、180 %と伸張した際に同時測定したUSAXSの二次元散乱像を図2に示す。延伸方向は、図の上下方向に対応している。各サンプルとも延伸比の増加に伴い二次元散乱像は異方性を示し、シリカあるいはCBの凝集状態が延伸により変化することを確認した。前報のBL19B2(2014B1589)で静的な延伸状態で測定した実験結果と同様、終末端にアミノ基とアルコキシシリル基を導入したSBR[ii]とシリカの組み合わせであるSample-2は、終末端に官能基を持たないSBR[i]とシリカの組み合わせであるSample-1と比較して早い、延伸初期の歪 60% 時点で異方性が生じており、延伸比が増加するほど強い異方性を示すことが分かった。これら異方性の生じ方の差は、SBR末端と充填剤表面の相互作用の強さの違いが起因と推定している。


図2. Sample-1-5の各延伸比における二次元散乱強度分布


 図2で得られた延伸時の二次元散乱像のうち、異方性の差が最も顕著に見られたSample-1と2について、円環平均、延伸軸に対して ±15°、および直交軸に対して ±15° の範囲に関して一次元化処理を行い、図3にそれぞれの延伸時(破線)と戻り時(実線)の q-I プロットを示す。図中、(A)と(B)はSample-1の 60% および 180% 伸長時、(C)と(D)はSample-2の 60% および 180% 伸長時の一次元プロファイルをそれぞれ示し、そして、緑線は伸長時の円環平均(360°の範囲で平均化)、赤線は伸長時の延伸方向の平均(延伸軸に対して ±15° の範囲)、青線は伸長時の直交方向の平均(直交軸に対して ±15° の範囲)の結果を、また、紫線は比較用として示した延伸前の円環平均の一次元プロファイルである。左上(60% 伸張)と右上(180%)の二つの図が末端に官能基を持たないSBR[i]を用いたSample-1、そして、左下(60% 伸張)と右下(180%)が末端機能化したSBR[ii]を用いたSample-2の q-I プロットである。破線で示した延伸時の散乱プロファイルを比較すると、Sample-1と2で異なっており、SBR末端に導入する官能基の有無によって、配向のしやすさや集合状態に違いがあることが分かる。Sample-1の場合、シリカの一次凝集体のサイズの指標となる q-I プロットの肩の位置が延伸前(1a)では q = 0.01–0.02 nm−1 だが、60% 伸長(1c)では円環平均、延伸方向および直交方向で得られた散乱プロファイルとも肩の位置は1aとの差は見られず、シリカの凝集状態の変化は小さかった。しかし、180% まで伸長(1f)させると円環平均から得た q-I プロットが変化し、直交方向ではほとんど変化がなかったのに対して、延伸方向は q = 0.03 nm−1 と広角側にシフトすることが分かった。Sample-1では伸張に伴って延伸方向にサイズが小さくなるシリカの凝集構造へ変化することが示唆された。


図3. シリカを配合したSample-1および2の q-I プロット

(A)はSample-1の 60% 伸長時、(B)はSample-1の 180% 伸長時、(C)はSample-2の 60% 伸長時、(D)はSample-2の 180% 伸長時の一次元プロファイル。破線は延伸時、実線は戻り時の一次元散乱プロファイル。緑線は伸長時の円環平均(360° の範囲で平均化)、赤線は伸長時の延伸方向の平均(延伸軸に対して ±15° の範囲)、青線は伸長時の直交方向の平均(直交軸に対して ±15° の範囲)、紫線は延伸前の円環平均の一次元プロファイル。


 一方、Sample-2は、延伸前(2a)から、60 % 伸張(2c)、180 % 伸張(2f)と歪の大きさに依存して q-I プロットも変化し、Sample-1と比べて伸張の初期段階からシリカの凝集構造が変化することが明らかとなった。q-I プロットで比較すると、2aの示す q = 0.07 nm−1 の肩が、直交方向では伸張による散乱プロファイルがわずかしか変化しないのに対して、延伸方向の散乱プロファイルは大きく変化し、この肩が2cでは q = 0.03 nm−1 と大きく小角側に、そして2fでは更に q = 0.02 nm−1 と小角側にシフトした。Sample-2では、伸張初期からシリカ一次凝集体の配向が延伸方向で始まり、歪みが大きくなるにつれて、延伸方向への配向が強くなると推定している。以上の結果から、SBRの末端官能基の有無で延伸時のシリカ一次凝集体の凝集構造・階層構造が大きく変わることが、そして、その変化は今回印加した延伸速度でも差が生じることが分かった。

 また、重合体末端の官能基の有無は戻り時のシリカの凝集状態に変化を及ぼすことがわかった。Sample-1では、図3の1c(延伸時)と1j(戻り時)、1f(延伸時)と1g(戻り時)を比較すると円環平均、延伸方向および直交方向とも散乱プロファイル間の差はほとんど見られなかった。一方でSample-2では、図3の2f(延伸時)と2g(戻り時)の比較から、180 %まで緩和させた2gの散乱プロファイルは2fとほとんど差が見られなかった。一方、2c(延伸時)と2j(戻り時)を比較すると、応力緩和が進んだと考えられる60 %伸張時では、2cのプロファイルは延伸方向と直交方向でシリカ一次凝集体に由来する肩ピークの位置が大きく異なり、強い異方性を示したが、2jではこの肩ピークの位置に顕著な差は見られずに、延伸時と戻り時で大きく異なっていた。シリカ一次凝集体の凝集構造・階層構造は、末端官能基を持たないSBR[i]を用いたSample-1が歪みに依存して変化するのに対して、末端に官能基を持つSBR[ii]を用いたSample-2では、小さな歪みで凝集体の配向が始まるが、緩和時には歪みに依存せずに延伸前に近い状態にすぐに戻ることが示唆された。

 図1で示した通り、応力緩和(延伸時と戻り時の応力差)は、SAXS実験結果と同様、末端官能基の有無で異なることを示し、シリカの凝集構造・階層構造の変化が応力-歪み曲線の応力緩和にも影響を及ぼす可能性を示唆した。しかし、応力緩和に影響を及ぼす因子は、シリカ凝集構造・階層構造の変化以外にも、ポリマーマトリックス中の架橋構造や分布の変化、更にはシリカ-ポリマー界面の変化も重要と考えている。末端機能化SBRの力学特性を解明するために、現在、大規模粗視化MDシミュレーションで解析する検討を進めている。そのためには、異方的な二次元散乱像を定量的に解析できる計算モデルの確立が、そして、シミュレーションの検証のため、ゴム試料の破断に至るまでの延伸領域について、様々な測定条件で散乱実験を行う必要があると考えている。


今後の課題:

 今回の実験で、SBRの末端構造が変形時のシリカ凝集体の階層構造に大きな影響を及ぼすことを確認した。今回得られた散乱実験結果を大規模物性シミュレーションに展開することで材料強度との相関を詳細に考察すると同時に、更なる精度向上に向けた補完実験を計画する。一方で、USAXSを測定した範囲の延伸比 200% 以下のため、ゴムの破断領域に近い高伸長領域での測定が課題である。破断手前の高伸長領域では秒スケールで測定可能なビームラインの選定が重要となる。今後は、短時間測定が可能なビームラインを検討すると共にサンプル形状や機器の改良を行う予定である。


参考文献:

[1] 湯淺毅 他、日本ゴム協会誌、86, 249 (2013).

[2] 曽根卓男 他、SPring-8利用研究成果集 3, Sect. B, 2014B1589/BL19B2, 596 (2015).

[3] 冨永哲雄、HPCIシステム利用研究課題 利用報告書、京産業利用(実証利用)、hp140082 (2014).

[4] 萩田克美 他、日本ゴム協会誌、89, 199 (2016).




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(Received: February 21, 2017; Early edition: April 25, 2018; Accepted July 3, 2018; Published August 16, August)