SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

D-DIA型高圧変形装置を用いたせん断変形および摩擦実験の試み
Experiments toward Shear and Frictional Deformation in D-DIA Apparatus

DOI:10.18957/rr.6.2.170
2012B1472, 2013A1535, 2015B1545 / BL04B1

久保 友明a, 岩里 拓弥b, 肥後 祐司c, 今村 公裕c

Tomoaki Kuboa, Iwasato Takuyab, Yuji Higoc, Masahiro Imamurac

a九州大学, b新日本非破壊検査(株), c(公財)高輝度光科学研究センター

aKyushu University, bShin-Nippon Nondestructive Inspection Co., Ltd., cJASRI

Abstract

 D-DIA型高圧変形装置に一軸圧縮変形セルと単純せん断変形セル、二軸摩擦変形セルを組み込んで比較実験を行った。単純せん断変形セルを用いた実験では試料部で均質なせん断変形が起こったがその歪み量は小さく、また応力解析からせん断変形に加え一軸圧縮成分の寄与が認められた。二軸摩擦変形セルを用いた実験ではピストン−試料間で局所変形(スリップ)が起こり、ラジオグラフィー像の時分割測定からそれは安定すべりであることが示唆された。


Keywords: 深発地震、高圧変形実験、単純せん断変形、摩擦変形


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背景と研究目的:

 沈み込む海洋プレート内で脆性-塑性転移条件を超えて起こるやや深発地震(深さ約 60 〜 300 km)と深発地震(深さ約 300 〜 700 km)は、地球内部における未解明の謎の一つである。これまでに断熱不安定や転移断層、脱水脆性化などのモデルが提案され、約 5 GPa までの条件で定量的変形実験による検証が行われ始めている[1][2][3]。特にやや深発地震に関しては蛇紋石の脱水がせん断不安定化を引き起こすことが長年指摘されてきたが、蛇紋石単相では安定すべりを示唆する結果も報告されている[4]。それらのほとんどが一軸圧縮変形場による実験であるが、やや深発地震、深発地震とも断層運動により地震が発生しており、大歪みのせん断変形場において変形が局所化するプロセスを詳細に観察することが重要である。特に単純せん断変形場では高圧相転移や脱水反応によって生じる細粒反応生成物やフルイドなどの弱線部の連結がより効率的に促進される可能性も指摘されている[5]。そのような背景のもと本課題では、アンチゴライトおよびアンチゴライトとカンラン石の2相系において、高圧下でせん断不安定化が起こる条件を制約することを目的として実験的研究を行った。まず一軸圧縮変形場で応力-歪み曲線とacoustic emission(AE)を同時測定する技術開発を行い、その後、高圧下でせん断変形を実現できる実験手法の開発に取り組んだ。本報告では特にアンチゴライト単相を試料として一軸圧縮変形セル、単純せん断変形セル、摩擦変形セルを用いて行った比較実験の予備的結果を報告する。一軸圧縮変形セルでは2相系試料についても実験を進める予定であったが、脱水反応する試料とは別の独立した応力マーカーの設置など実験セルの開発が中心に行われた。また圧電素子を用いて試料からのAE波も測定しているが、この段階では素子数が充分でないので正確な震源位置決定ができていない。そのため本報告ではアンチゴライト単相試料に対するセルの比較実験に焦点をあて、AE測定の詳細および2相系試料の結果に関しては、その後行われた実験と併せて別の機会に報告する。


実験:

 実験はSPring-8のBL04B1設置のD-DIA型高圧変形装置に小型六方圧縮装置を組み込んだ6-6型システムを用いて行った。一軸圧縮変形セル(図1a)、単純せん断変形セル(図1b)、二軸摩擦変形セル(図1c)の3種類の実験セルを用意した。50 keV の単色X線を入射光として2次元X線回折パターンとX線ラジオグラフィー像を約5分毎に時分割測定し、応力と歪みのデータを得た。せん断変形および摩擦変形セルに関しては1秒毎にラジオグラフィー像を得ることでスティックスリップの検出も試みた。出発物質として長崎県の栄上および河原木場産のアンチゴライトを円柱状もしくは板状にカットして用いた。3種類の実験セルとも常温加圧後に加熱し、圧力 2.5 〜 3 GPa、温度 400 〜 670℃ においてD-DIA型高圧変形装置の上下アンビルを変位速度 200 〜 300 µm/h で動かし変形実験を行った。


図1. 本実験で用いた実験セル (a)一軸圧縮変形, (b)単純せん断変形, (c)二軸摩擦変形。いずれもアンビル先端切り欠きサイズ 6 mmで使用(bおよびcはヒータ部のみ表示)。


結果および考察:

 図2、3、4に変形中に得られた各実験セルのラジオグラフィー像とそこから読み取った試料の変位を示す。一軸圧縮変形セル(図2)ではアンビル変位速度を一定に保つことで、最大約40%の軸歪みまでほぼ一定の歪み速度で試料が変形している。


図2. 一軸圧縮変形実験セルを用いたアンチゴライト円柱の変形実験(3.1 Gpa、400℃)におけるラジオグラフィー像(左)と軸歪みの時間変化(右)。アンビル変位速度 300 µm/h、試料の軸歪み速度 6.7 × 10-5 s-1


 一方で単純せん断変形セル(図3)では、脱水温度以下の 500℃ において試料部で比較的均質なせん断変形が起こったがその歪み量は小さい。その後昇温し脱水反応が起こると、試料部のせん断変形は起こらず周囲のhBNが試料部に貫入してきた。そこでは一軸圧縮変形に加えて脱水による体積減少が起こったと考えられる(試料部は金属カプセルなどで封入していない)。脱水反応中の試料部の変位を1秒毎にモニタしたが、スティックスリップに対応するような不連続な変位挙動は観察されなかった。

 二軸摩擦変形セル(図4)では試料部全体の均質変形は起こらずに、中心ピストンとその左右の試料との間で局所変形(スリップ)が起こった。変形中に歪みマーカーの変位を1秒毎にモニタしたが、不連続な変位が見られないことから安定すべりによる局所変形が示唆される。変形の後半では中心ピストンが下部ピストンに近づくことにより変位が進まなくなった。


図3. 単純せん断変形セルを用いたアンチゴライト板の変形実験(2.5 GPa)におけるラジオグラフィー像(左)と歪みマーカー距離の時間変化(右)。脱水温度以下の 500℃ で約 4000秒の変形を行いせん断歪み(γ=tanθθ は試料部上下Au箔の水平からの角度)が 0.20 から 0.28 へ増加。その後 670℃ まで昇温させながら脱水反応する試料部の変位を観察。アンビル変位速度 200 µm/h。


図4. 二軸摩擦変形セルを用いたアンチゴライト板の変形実験(2.5 GPa、400℃)におけるラジオグラフィー像(左)と歪みマーカー距離の時間変化(右)。アンビル変位速度200 µm/h。


 変形実験中の2次元X線回折パターンとそこから得られるd値の方位角依存性を図5に示す。一軸圧縮成分のみの場合は試料の主応力軸がD-DIAの主応力軸(方位角=90、270°)と一致し、単純せん断成分のみの場合は試料の主応力軸がD-DIAの主応力軸から低角側に 45° ずれたところにくる。実際に一軸圧縮変形セルではD-DIAと試料の主応力軸が一致している(図5右の緑)。一方で単純せん断変形セルでは主応力軸がより低角側にずれてはいるものの 45° にはなっていない(図5右の赤)。これは、試料左右に配置されたせん断ピストンだけでなく上下ピストンの影響も加わり両成分が合わさった状態であると考えられ、理想的な単純せん断変形は実現できていないことがわかる。二軸摩擦変形セルではd値の方位角依存性に顕著な変動が見られず、試料と中心ピストン間の摩擦抵抗が少なくスムーズにスリップしていることが示唆される(図5右の青)。


図5. 単純せん断変形セルで得られたアンチゴライトの2次元X線回折パターンの例(左図:2.5 GPa、500℃、せん断歪み約0.3)とd値の方位角(azimuth angle、ϕ)依存性の実験セルによる違い(右図、緑:一軸圧縮変形セル、赤:単純せん断変形セル、青:二軸摩擦変形セル)。


今後の課題:

 高圧下のせん断変形実験ではピストンを 45° にカットした実験セルが用いられることが多いが、その場合、一軸圧縮成分の寄与が避けられず、単純せん断変形場に比べ弱線部の連結組織に違いが生じることが指摘されている[5]。また 45° カットセルではデバイリングにおいて一軸圧縮成分とせん断変形成分の主応力軸が一致するため両者を分離することは困難である。本研究で試みた単純せん断変形セルでは一軸圧縮成分の寄与を減らしかつ両者の主応力軸を分離することが可能である。しかし現状ではせん断歪み量が未だ小さく、また一軸圧縮成分の寄与も大きい。目的の温度圧力条件においてアンビル変位が試料部に伝わるように、実験セル内部のアルミナピストンの空隙率を調整するなどの工夫が必要である。二軸摩擦変形セルではピストン−試料間でスリップし試料部がほとんど変形しなかった。これはピストンに溝加工を施さなかったことが原因かもしれない。本研究で試みたラジオグラフィー像の高速時分割測定によるスティックスリップの検出は、応力の高速時分割が困難な現状では、AE測定とともに高圧下で不安定すべりを検出する手段として期待される。


謝辞:

 本研究はJSPS科研費 JP25247089, 15K13596の助成を受けたものです。


参考文献:

[1] A. Schubnel et al., Science, 341, 1377 (2013)

[2] T. Ohuchi et al., Nature Geoscience, 10, 771 (2017)

[3] T. Ferrand et al., Nature Communications, 8, 15247 (2017)

[4] L. Chernak and G. Hirth, Geology, 39, 847 (2011)

[5] B. Zhang et al., Earth Planet. Sci. Lett., 405, 98 (2014)



ⒸJASRI


(Received: January 11, 2018; Early edition: March 29, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)