SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

燃料電池カソード触媒の合成過程の in-situ XAFS 測定
In-situ XAFS Measurements for Synthesis Process of Cathode Catalysts for Fuel Cell

DOI:10.18957/rr.6.2.330
2016B1881 / BL14B2

岸 浩史a, 坂本 友和a , 山口 進a, 松村 大樹b, 田村 和久b, 西畑 保雄b

Hirofumi Kishia, Tomokazu Sakamotoa, Susumu Yamaguchia, Daiju Matsumurab, Kazuhisa Tamurab, Yasuo Nishihatab

aダイハツ工業(株), b(国研)日本原子力研究開発機構

aDaihatsu Motor Co., Ltd., bJAEA

Abstract

 貴金属を使用しない燃料電池カソード触媒の反応機構を明確にするために、X線吸収微細構造(XAFS)のその場測定に取り組んでいる。今回、Fe錯体触媒の選択性向上に寄与する局所構造(Feメタル粒子低減)[1]の生成要因を検証するため、異種材料(前駆体)で合成中(材料混合、熱処理)の触媒についてFeの配位数・価数の差異を調査した。ex-situ 解析から異種前駆体を用いた触媒において、材料混合時にFeメタル粒子のピーク強度に差異がみられた。また、熱処理中の in-situ 解析から前駆体の融点近傍でFeの価数が大きく変化していることが分かった。Feの局所構造および電子状態に前駆体種の寄与が大きいことを示唆する結果を得た。


Keywords: 燃料電池、アニオン交換膜形、非貴金属カソード触媒、in-situ XAFS


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背景と研究目的:

 ダイハツでは、アルカリ性のイオン交換膜を用いた「アニオン交換膜形燃料電池」の早期実現に向けて、国内外の大学・研究機関と連携して研究開発を行っている。発電の心臓部分である電極触媒の開発では、燃料側のアノード触媒および空気側のカソード触媒において、非白金ながら白金の性能を超える出力性能が得られており、実用化の可能性がみえてきている。[2-8]

 カソード触媒としては金属原子に軽元素を配位させたキレート触媒の開発に注力しており、これまでにCoやFeを活性種とするキレート触媒をアニオン交換膜形燃料電池用のカソード触媒に適用し、燃料電池特性が飛躍的に向上することを報告した。

 

 得られた反応メカニズムの知見を生かし、Fe系キレート触媒の出力向上に加え、耐久性の向上をねらい選択性の向上(HO2- の低減)に取り組んでいる。選択制向上について電気化学反応測定および ex-situ XAFS(課題番号:2015A1953、2015B1889)から、Feキレート触媒表面のFeメタル粒子の低減が HO2- 抑制に寄与することを見出し、本指針を織込んだ試作を進めている。当該知見を生かし触媒合成プロセス(①材料混合、②熱処理、③酸処理)を最適化するには、触媒合成プロセスにおける局所構造の変化を把握する必要がある。しかし、動的な変化をとらえる測定は十分な検討が行われておらず、HO2- 低減合成プロセスの確立には至っていない。そこで今回は、in-situ 測定により触媒合成中のFeの局所構造および電子状態の変化を調査する。その結果を発電評価(HO2- 低減性能)と照合することで、選択性の向上指針を見出し、さらに高耐久なカソード触媒の実現を目指す。

 

実験:

 試料をセットした透過法用石英製 in-situ セル(BL14B2付帯設備、温度調整器:~1000°Ϲ)を用い、透過法によりFe-K端のXAFS測定を行った。試料はFe錯体触媒(前駆体:2水準、ともに粉体)のペレットを準備した。金属濃度は約 1 wt% である。in-situ 測定は窒素ガスを供給(100 cc/min)し、セル温度を制御(200、220、240、260、280、300、400、600、800、900、950°Ϲ、11水準)することによって錯体構造を形成させ、Fe-K端のXAFS測定を行った。

 

結果および考察:

 Fig. 1、2 に異種前駆体(precursor A and B)を用いた触媒(2水準)における材料混合後のex-situ XAFS解析の結果(Fe K端のEXAFS振動および動径構造関数(波数範囲:2~9 Å-1))を示す。事前の構造解析から酸処理後においてprecursor Aの触媒はBに比べFeメタル粒子が少ないことが分かっている。材料混合後の触媒についてprecursor Aの触媒はBに比べ、第1近接のFe-N結合(Fe錯体構造に帰属)が多く、第2近接のFe-Fe結合(Feメタル粒子に帰属)が少ないことが分かった。このことから触媒合成プロセスにおいて材料混合時、既に前駆体種によってFeメタル粒子の多寡が決まっていることを示唆していると推察した。


Fig. 1. EXAFS oscillations of Fe-K edge of (a) precursor A and (b) precursor B


Fig. 2. The Fourier transform of Fe-K edge of (a) precursor A and (b) precursor B

 

 またFig. 3、4 にそれぞれprecursor A、Bを用いた触媒の熱処理中の in-situ XAFS 解析の結果(Fe K端のXANESの推移)を示す。Fig. 3 からprecursor Aを用いた触媒について 240~260°Ϲ の間でFeの電子状態が低価数化していることが分かる。当該前駆体の融点が 250°Ϲ であることからFeの電子状態は前駆体の融解によりFeと軽元素との結合に大きく依存することを示唆していると推察した。また、260~950°Ϲ において 7124 eV 近傍のピークが減少し、Fe foilのピーク形状に近づく変化がみてとれる。260~950°Ϲ の高温焼成によりFeメタルの凝集が進んでいると推察した。当該変化はFig. 4 からprecursor Bを用いた触媒においても同様にみられる現象であることが分かった。両触媒の差異を評価するためFig. 5 に 300~950°Ϲ における 7124 eV 近傍のピークの高さの変化を示す。


Fig. 3. XANES spectra of Fe-K edge of catalyst with precursor A in heat treatment.


Fig. 4. XANES spectra of Fe-K edge of catalyst with precursor B in heat treatment


Fig. 5. Peak shift of XANES spectra (@7124 eV) of catalyst with precursor A and B.

 

 precursor Bの触媒はAに比べ、ピークの高さが低くFe foilに近い値で推移していることが分かった。材料混合時同様、高温焼成時もprecursor Aの触媒はBに比べFeメタル粒子が少ないことを示唆していると推定した。

 これらの結果は、Fe錯体触媒において選択性に寄与するFeの局所構造は前駆体種が支配的であることが分かった。今後のFe錯体触媒の設計において前駆体種、混合方法を最適化することでFeメタル粒子の低減による選択性向上を図る。

 なお、今回の試験において 200~300°Ϲ 間で温度依存による電子状態の変化が大きかった。そのため当該変化を詳細にとらえることを重視し、precursor Aを用いた触媒の熱処理中の in-situ XAFS 解析において温度水準を増やし前駆体種を当初計画の3から2に減らして実験を行った。

 

今後の課題:

 上記解析結果に基づいた反応モデルを検証するために、理論計算を用いた構造解析を行う。解析から得られたデータと今回得られた測定結果とを照合し、触媒設計に反映することで燃料電池の耐久性向上を図る。

 

参考文献:

[1] 岸浩史 他、平成27年度産業新分野支援課題・一般課題(産業分野)実施報告書(2015B) , 2015B1889.

[2] K. Asazawa et al., Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8024, (2007).

[3] K. Asazawa et al., ECS Transactions, 33, 1751, (2010).

[4] A. Serov et al., Electrochem. Comm., 22, 53, (2012).

[5] A. Serov et al., Angew. Chem. Int. Ed., 126, 10504, (2014).

[6] T. Sakamoto et al., Electrochim Acta, 163, 116, (2015).

[7] 岸浩史 他, 自動車技術会論文集, 46, 361, (2015).

[8] 坂本友和 他, 表面科学, 37, 78, (2016).

 

ⒸJASRI

 

(Received: May 18, 2017; Early edition: February 27, 2018; Accepted July 3, 2018; Published August 16, 2018)