SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

Pd含有材料の in-situ XAFS 測定
In-situ XAFS Measurement of the Pd -containing Materials

DOI:10.18957/rr.6.2.319
2016A1506 / BL14B2

黒岡 和巳, 上野 巌, 畑 秀樹, 米住 元匡

Kazumi Kurooka, Iwao Ueno, Hideki Hata, Motomasa Yonezumi

パナソニック(株)

Panasonic Co., Ltd.

Abstract

 大量の水素を安定的に安価で貯蔵する技術開発が望まれており、我々は、水素貯蔵ができる新規Pd含有材料の開発を行っている。今回、本材料の水素貯蔵メカニズムについて細孔径が異なるゼオライト(4A、13X、4Aナノ、ZSM5)から合成したPd含有ゼオライトへの水素の貯蔵・放出過程での構造変化を、Pd-K端の in-situ XAFS測定を行うことによって評価した。

 今回の実験では、いずれの試料もPdは水素暴露によってPd-Oが還元され、Pd-Pd距離が金属Pdの距離よりも伸びていること、水素貯蔵後に温度を上げるとPd-Pd距離が短くなったことから、今回の材料では、水素はPd-Pd間に導入され、加熱によって脱離し、Pd金属に変化していることが確認できた。しかしながら、細孔サイズによる吸着挙動に差異は明らかにできなかった。


Keywords: XAFS、Pd、水素貯蔵、ゼオライト


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背景と研究目的:

 石油代替エネルギーとしての水素社会の実現のためには、大量の水素を安定的に安価で貯蔵する技術開発が望まれており、従来から水素吸着材料として金属有機構造体(MOF)をはじめ非常に多くの材料が検討されている。しかしながら、MOFは熱安定性に課題がある[1] 。

 我々は、熱安定性と化学安定性に優れ、MOFと同等またはそれ以上の特性を発揮する無機材料の開発を目指しており、これまでに独自の複合化技術によって、金属Pdに比べて5~6倍もの水素を貯蔵し、しかも常圧において 50°C 程度から放出開始する、市販のゼオライト4AとPdイオンを複合化した新材料を発見した(特願2015-051157号公報参照)。水素貯蔵量が金属Pdよりも多いことから、本材料の水素吸着放出メカニズムが金属Pdのそれと異なると考えられる [2] 。そこで、水素吸着初期のPdの構造変化を捉えることができる in-situ QXAFS を用いて、細孔サイズが異なると水素吸着量が異なることから細孔サイズが異なる新規Pd含有材料を評価することによって水素吸着放出メカニズムを明らかにする

 

実験:

 実験条件は以下のとおりである。

 測定試料:ゼオライト(4A:細孔サイズ 4Å)、ゼオライト(13X:細孔サイズ 13Å)、ゼオライト(4Aナノ:細孔サイズ 4Å、4Aと比べてゼオライト自体の粒子径が小さい)、ゼオライト(ZSM5:細孔サイズ 5Å)にPdをそれぞれ約 5 wt% 導入したものを錠剤に成型し、高温セル中でヘリウム濃度 100%、流量 100 cc/min、150°C の雰囲気で10分間加熱し水分を除去した後、室温まで冷却して測定に供した。また標準試薬として、Pd(foil)、PdOも併せて測定した。

 測定方法:高温セルを用いた in-situ QXAFS測定

 使用ビームライン:BL14B2

 測定条件:Si(111)、ミラー 1.9 mrad、Pd-K端を測定

 測定雰囲気:2% 水素+98% ヘリウム混合ガスを 100 cc/min

 測定シーケンス:室温下で上記水素混合ガスを流しながら、2分間隔でデータを取得する in-situ QXAFS 測定を実施し、XANES 領域の変化がなくなるまで水素を貯蔵させた。その後、ヘリウム(100%)を流しながら 600°C まで昇温し、600°C で10分間加熱したのち、室温まで冷却し、再度、水素混合ガスを流しながら、in-situ QXAFS 測定を実施した。

 

結果および考察:

 図1に、(a) Pd含有ゼオライト(4A)の水素暴露 0、8、20、30、40分とbake out後、(b) Pd含有ゼオライト(13A)の水素暴露 0、16、30、40、50分と (c) PdOの水素暴露 0、20、30、50、60、70、80分とbake out後のPd-K吸収端近傍のX線吸収スペクトル(XANES領域)を示す。両Pd含有ゼオライトは、水素暴露前は吸収端が低エネルギー側にずれている。その原因は不明であるが、その形状はPdOに近かった。そして、両試料ともに、水素暴露により低エネルギー側にシフトをした。このことから、Pd含有ゼオライト(4A)中のPdは、水素貯蔵後は低次の酸化状態になっていると考えられる。この変化は、Pd含有ゼオライト(13X)ついてもほぼ同様であったが、変化が収束するまでの時間がPd含有ゼオライト(4A)では約20分、Pd含有ゼオライト(13A)では約40分と2倍程度の違いでしかなかった。一方PdOは、収束に約70分かかった。


     (a) Pd含有ゼオライト(4A)


     (b) Pd含有ゼオライト(13X)


          (c) PdO

図1. Pd含有ゼオライトのXANESスペクトル

(水素暴露とともに低エネルギー側にシフト)

 

 水素は、Pdの表面、内部とゼオライトの細孔内に水素が貯蔵されていると考え、細孔の大きいほうが水素貯蔵量が大きい可能性があると考えられたが、図2のSEM観察写真からわかるように今回評価した試料では、ゼオライト表面に過剰のPdが析出し、一部の細孔を塞いだため、水素貯蔵における細孔の効果がゼオライト(4A)とゼオライト(13X)であまり差が出なかったと考えられる。また、他のゼオライト(4Aナノ、ZSM5)に関しては、4Aとほぼ同じ時間で変化が収束した。以上の結果より、今回のPd含有材料の合成法に課題があることがわかった。


      (a) Pd含有ゼオライト(4A)            (b) Pd含有ゼオライト(13X)

図2. Pd含有ゼオライトのSEM観察結果(表面にPd金属(赤丸)は析出Pd

 

 図3に、(a) Pd含有ゼオライト(4A) と (b) Pd含有ゼオライト(13X)と (c) PdOのEXAFS振動を示す。また、2 < k < 15 Å-1 の範囲でフーリエ変換したPdの動径構造関数を図4に示す。

 (a) Pd含有ゼオライト(4A) と (b) Pd含有ゼオライト(13X)ともに水素貯蔵前では、(c) PdOで認められる第3近接のPd-Oのピークが認められないことから、Pd-Oクラスターとして存在すると考えられる。そして、水素暴露によって、Pd-O結合が消滅し、Pd-Pd結合が増加してくる。Pdは金属格子を連続的に膨張させながらPd-Hになるまで水素を収蔵し続けると言われていること[3]から、今回評価したPd含有ゼオライトは、水素によってPd-OがPd-Pdに還元され、その後Pd-Pd間に水素を貯蔵していると考えられる。

 ゼオライトの細孔サイズと細孔内に形成されるPdナノクラスターの大きさにより水素貯蔵量が変化すると予想していたが、今回の試料では、その関係性は明らかにできなかった。これは、ゼオライト表面に過剰なPdが析出して一部の細孔を塞いだため、その関係性が不明瞭になったためであると考えられる。


     (a) Pd含有ゼオライト(4A)


     (b) Pd含有ゼオライト(13X)


          (c) PdO

図3. Pd含有ゼオライトのEXAFS振動(2 < k < 15Å-1 の範囲で解析)


     (a) Pd含有ゼオライト(4A)


     (b) Pd含有ゼオライト(13X)


          (c) PdO

図4. Pd含有ゼオライトの動径構造関数

 

今後の課題:

 今回の試料では、試料表面に水素貯蔵に関係しないと考える過剰のPdが析出していたため、ゼオライト細孔径と細孔内に形成されるPdナノクラスターの大きさによる水素貯蔵の関係については明らかにすることができなかった。今後、Pd含有量を含めた合成法の検討が必要である。

 

謝辞:

この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものです。

 

参考文献:

[1] N. Nishimiya, 水素エネルギーシステム 37, 348 (2012).

[2] 有賀 哲也, 表面化学 27, 341 (2006).

[3] 福西 快文, 触媒 33, 271 (1991).

 

ⒸJASRI

 

(Received: August 10, 2016; Early edition: February 27, 2018; Accepted July 3, 2018; Published August 16, 2018)