Volume6 No.2
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
形成期の惑星内部における鉄合金メルトとケイ酸塩の分離過程
Metal-Silicate Separation Process in the Planetary Interior
a岡山大学, b大阪大学, c東京大学, d東北大学, e (公財)高輝度光科学研究センター
aOkayama University, bOsaka University, cUniversity of Tokyo, dThohoku University, eJASRI
- Abstract
-
形成期の惑星内部で起きた金属核と珪酸塩マントルの分離過程について高温高圧実験とX線CT測定を用いて調べた。部分溶融したマントル内でFe-Sメルトはその体積が10~18%を超えるとネットワークを形成する。その結果、Fe-Sメルトはマントルを浸透流として沈降し重力分離を起こす。また、マントルが高いメルト分率を持ち液体的に振る舞う場合、マントルの上にあるFe-Sメルト層は直ちにダイアピルを形成し沈降を始める。
Keywords: 核・マントル分離過程、X線マイクロCT、高温高圧
背景と研究目的:
鉄合金からなる金属中心核と珪酸塩マントル分離過程は惑星形成期における主要な分化過程である。形成期の惑星ではマグマオーシャンの底に蓄積した鉄合金メルト層が、その下のマントル層の中を浸透流やダイアピルなどとして沈降して中心核を形成すると考えられている。浸透流はケイ酸塩の粒界に鉄合金メルトがネットワークを作るときに起こる。ダイアピルは鉄合金メルトがケイ酸塩を変形させながら流れる過程である。
浸透流による核形成過程については固体のケイ酸塩鉱物と鉄合金メルトのぬれ性に関する2面角測定の研究[1]と、鉄合金メルトのネットワークが連結する鉄合金の割合の閾値を求める研究[2-5]が行われている。形成期の惑星ではマグマオーシャンの下にある珪酸塩マントルは部分溶融状態であることが予想される。このような部分溶融状態のマントルにおける浸透流についても急冷実験による同様の研究がある[3,6,7]。Holzheid [7]は急冷回収試料の組織観察から、かんらん石と鉄合金メルトの2面角がケイ酸塩のメルト分率と鉄合金メルトの割合に依らず60度より大きいことを示した。また、珪酸塩が部分溶融している場合、ネットワークを形成する時の鉄合金の割合の閾値が増加することが報告されている [3,7]。
ダイアピルの形成や成長については、主にアナログ物質を用いて研究されている[8]。マントルの粘性率の変化に伴う脆性-塑性転移付近で沈降する金属メルトの形状はダイク的なものからダイアピル的なものへと変化し、移動速度が変化することが予想されている。部分溶融したマントルでのダイアピルの形成と成長も興味深い現象である。部分溶融したマントルの粘性率はメルト分率によって変化する。メルト分率が増加して閾値を超えると、ケイ酸塩マントルは粘性率が急に下がり流体的に振る舞う[9]。粘性率の減少はダイアピルの形成と成長を加速することが予想される。
ここでは、浸透流とダイアピルによる核・マントル分離過程に対するマントルの部分溶融の影響を調べることを目的に、高温高圧実験とX線マイクロCTを組み合わせた研究の結果を報告する。
実験:
浸透流の実験は、鉄合金メルトがネットワークを形成するのに必要とする鉄合金の割合の閾値を求めることを目的として行った。部分溶融した珪酸塩と鉄合金メルトを、高温高圧で保持して組織平衡化をした試料についてX線CT測定を行った。組織平衡試料は岡山大学理学部で川井型高圧装置を用いて作成した。組織平衡化実験の試料には、珪酸塩はかんらん石に15体積%玄武岩を混合したもの、鉄合金は Fe60S40 組成を用いた。鉄合金をそれぞれ10、18、30体積%含む3種類の試料を 1.5 GPa、1600 K で5時間保持した後、急冷凍結した。実験条件は玄武岩の液相線より高温であるので、玄武岩は全て溶けている。
ダイアピルに関する実験は、珪酸塩の粘性率が急変するあたりのメルト分率で鉄合金メルトがどのように沈降するのかを調べるために、BL20XUにおいてトモグラフィ用80トンプレスを用いたその場観察法で行った[10]。高圧発生は一軸押しのトロイダルアンビルを使用し、約 1.5 GPa、1600 K で実験を行った。高圧セルの断面図を図1に示す。ヒーターと試料カプセルにはグラファイト、圧力媒体にはX線透過性の高いボロン-エポキシおよびボロン焼結体を使用した。試料はかんらん石と玄武岩(40または55体積%)の混合物の上にFeとFeSの混合物(Fe60S40組成)を置いた2層構造となっている。
図1. 高圧セルの断面図
X線マイクロCT測定はBL20XUで行った。25 keV の単色X線を使用し、CMOSカメラで透過像を撮影した。ピクセルサイズは 1.493 µm/pixel である。0.2度毎に撮影した900枚の透過像からCTイメージの再構築を行った。トモグラフィプレスは2本の柱を持ち、その間の開口角は160度と制限されている。このため透過像には柱の影が映りこみ、再構成したCTイメージには影によるアーティファクトが現れる。今回の実験目的に対してはアーティファクトの影響は限定的であり、CT再構成像から必要な情報を得ることができた。
図2. 浸透流実験回収試料の二値化したCT再構成像。白がFe-Sメルトを示している。上は2次元イメージ、下は3次元イメージ。(A) Fe-Sメルトを10体積%含む試料、(B) 18体積%含む試料。
結果および考察:
浸透流実験から部分溶融した珪酸塩中でのFe-Sメルトのネットワーク形成に対する、鉄合金の割合の閾値を検討した。珪酸塩部分のメルト分率は回収試料の組織観察から約0.2と見積もった。組織観察からFe-Sメルトとケイ酸塩メルトは共存しており、かんらん石中に孤立したFe-Sメルトはほとんどないことがわかった。Fe-Sメルト(鉄合金メルト)を10体積%と18体積%含む試料のCTイメージを図2に示す。3次元イメージから、10体積%ではFe-Sメルトは孤立しているが、18体積%の場合はFe-Sメルトがネットワークを形成していることがわかる。このデータから連結度を求めてみると図3のようになり、Fe-Sメルトの割合が10体積%と18体積%の間で、大きな変化があることがわかる。この結果から、部分溶融状態の珪酸塩中で鉄合金メルトがネットワークを形成する時、鉄合金の割合は10から18体積%の間に閾値を持つと考えられる。この値はYoshino et al. [3]と調和的であり、珪酸塩が固体の場合[2,3]の5~10体積%より明らかに大きい。部分溶融している場合に閾値が大きくなるのは、鉄合金メルトと珪酸塩メルト間の大きな界面エネルギーによると考えられる。珪酸塩メルトとFe-Sメルトが共存している場合、表面エネルギーの差から珪酸塩メルト中に球状のFe-Sメルトが孤立して分布する。このため、ネットワークを形成するために必要な鉄合金の割合が大きくなってしまう。孤立した鉄合金の成長速度は遅いため[11]、鉄合金が沈降してマントルから分離するためには大きな重力が必要となる[6]。一方、自己重力の小さい小惑星のような天体の場合は金属の割合が18体積%を超えない限り、浸透による核マントル分離は有効に働かないであろう。
図3. 浸透流実験における鉄合金メルトの割合と連結度の関係。連結度は鉄合金メルトのクラスター体積と全体積の比で定義した。100%でFe-Sメルトは完全にネットワーク化している。
高温高圧X線CT実験から鉄合金メルトのダイアピルの成長過程を観察した。回収試料から見積もった珪酸塩のメルト分率は、玄武岩を40体積%含む試料では0.52、55体積%含む試料では0.89であった。部分溶融した珪酸塩が急減して液体的になるメルト分率は0.4~0.6程度であるとされているので[9]、今回の実験はそれぞれ境界領域と液体的振る舞いをする領域で行われたと考えられる。部分溶融した珪酸塩の実効粘性率はそれぞれ400と10 Pa・sと見積もった。X線その場観察では、いずれの場合もダイアピルの形成が確認された(図4)。ダイアピル形成に要した時間はそれぞれ15分と5分であり、珪酸塩の粘性率が小さい方がダイアピルの成長は速かった。これは、Olson and Weeraratne [12]によるアナログ実験の結果と調和的である。今回の結果は、部分溶融したマントルのメルト分率が高く液体的振る舞いをする場合は珪酸塩が容易に変形し鉄合金が沈降することを示している。
図4. メルト分率0.52の試料のCT再構成像。(A) 加熱前、(B) 加熱後。
今後の課題:
その場観察では、Fe-Sメルトのダイアピルは形成後すぐに成長が止まり、カプセルの底まで沈降することはなかった。実験中にダイアピルの成長が止まった原因としては、ダイアピルが固体の珪酸塩結晶とほぼ同じサイズであること(スケール効果)、グラファイトカプセルとFe-Sメルトの反応、固液分離した珪酸塩の粘性率の場所による不均質性などが考えられる。サンプルサイズと試料カプセル、試料セル内の温度分布の最適化等により、実験上の問題点を解決することが今後の研究を展開するために必要である。
謝辞:
この研究は日本学術振興会科学研究費補助金23340129の助成を受けて行われた。回収試料の組織観察と化学分析は岡山大学自然生命科学研究センターの電子プローブマイクロアナライザーを用いて行った。
参考文献:
[1] H. Terasaki et al., Earth Planet. Sci. Lett., 273, 132-137 (2007).
[2] T. Yoshino et al., Nature, 422, 154-157 (2003).
[3] T. Yoshino et al., Earth Planet. Sci. Lett., 222, 625-643 (2004).
[4] N. Bagdassarov et al., Phys. Earth Planet. Int., 177, 139-146 (2009).
[5] H.C. Watson and J.J. Roberts, Phys. Earth Planet. Int., 186, 172-182 (2011).
[6] N. Bagdassarov et al., Earth Planet. Sci. Lett., 288, 84-95 (2009).
[7] A. Holzheid, Eur. J. Mineral., 25, 267-277 (2013).
[8] I. Sumita and Y. Ohta, Earth Planet. Sci. Lett., 304, 337-346 (2011).
[9] A.M. Lejeune and P. Richet, J. Geophys. Res., 100, 4215-4229 (1995).
[10] S. Urakawa et al., J. Phys.: Conf. Ser., 215, 012026 (2010).
[11] T. Yoshino et al., Earth Planet. Sci. Lett., 235, 453-468 (2005).
[12] P. Olsen and D. Weeraratne, Phil. Trans. A., 366, 4253-4271 (2008).
ⒸJASRI
(Received: January 22, 2018; Early edition: February 27, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)