SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

放射光X線小角散乱法によるZr-Cu-Ni-Al-(Pd, Pt, Ag or Au)系 金属ガラスにおける構造不均一性の評価と塑性変形誘起ナノ結晶化挙動の解明
Evaluation of Structural in Homogeneity by Small Angle Synchrotron Radiation X-ray Scattering and Elucidation of Plastic Deformation Induced Nanocrystallization Behavior in Zr-Cu-Ni-Al-(Pd, Pt, Ag or Au) Bulk Metallic Glasses

DOI:10.18957/rr.6.2.250
2012B1894 / BL19B2

山田 昌弘*, 神里 良, 吉田 慎二, 足立 大樹, 山崎 徹

Masahiro Yamada*, Ryo Kamizato, Shinji Yoshida, Hiroki Adachi, Tohru Yamasaki

兵庫県立大学大学院

University of Hyogo

*現所属:NTN株式会社

*Current affiliation: NTN Corporation

Abstract

 Zr-Cu-Ni-Al系金属ガラスにおけるPd、Au等の貴金属元素の添加は、非晶質構造中にナノクラスターを形成し、塑性変形能を改善させる。また、Au添加合金においては、ガラス転移温度( Tg )以下でのAnnealによって、さらに大きく塑性変形能が改善する。本研究では、Zr-Cu-Ni-Al-(Pd, Pt, Ag or Au)系金属ガラスのAnneal前後でのX線小角散乱を測定し、非晶質構造の不均一性について評価した。Au添加合金では、Ag、Pt添加合金と比べて、圧縮破面近傍での散乱強度の増加が小さく、せん断帯付近における不均一性の成長が抑制されることから、高い塑性変形能を示すと考えられる。


Keywords: Zr-Cu-Ni-Al系金属ガラス,構造不均一性,変形誘起ナノ結晶化,X線小角散乱


pdfDownload PDF (437 KB)

背景と研究目的:

 従来、ナノ・マイクロ材料としてSiがある。しかしながら、Siは本質的に脆く、それに代わる高耐久な材料が望まれている。Zr基金属ガラスは、高均質で高強度を有するため、Siに代わる材料として期待される。その一方、塑性変形時には局所的にせん断帯を形成して脆性的な破壊を生ずることから、構造材料として広く用いるのは困難である。

 Zr基金属ガラスの塑性変形能を改善しようとした研究はいくつかある。井上らは、Zr-Cu-Ni-Al系金属ガラスの非晶質構造が二十面体的局所原子配列を有しており、Zr65Cu17.5Ni10Al7.5 金属ガラスにPd、Au等の貴金属元素をCu量と置換する形で 5 at% 以上添加した合金では、結晶化過程における二十面体構造をもつ準結晶相(I相)の析出が促進されることを明らかとし、ナノサイズの I 相を非晶質相中に分散させることによって塑性変形能が向上することを報告している[1 - 3]。また、才田らは、これらPdを添加したZr基金属ガラスにおいては、非晶質構造中に I 相に類似のナノクラスターが存在することを明らかとしており、このクラスターの存在が非晶質構造を不均一化させていることに加えて、塑性変形中にはクラスターが成長して I 相と類似構造を有する fcc-Zr2Ni 相が数nm程度のサイズで析出することを報告している[4, 5]。Panらは、Zr含有率の高いZr69.5Cu12Ni11Al7.5 金属ガラスにおいては、上記の貴金属添加合金と同様に、I 相に類似のクラスターが非晶質構造中に存在しており、クラスターの存在が塑性変形能を改善すると予想している[6]。これらの報告から、I 相に類似のクラスターの存在による非晶質構造の不均一性の促進が、Zr基金属ガラスの塑性変形能を大きく向上させると考えている。

 一方、著者らは、Zr-Cu-Al系およびZr-Cu-Ni-Al系金属ガラスの機械的特性における合金組成依存性についてしらべ、これら合金のZr含有率の上昇が、破壊靱性、衝撃特性、さらには、引張・圧縮時の塑性変形能の向上に有効であることを報告している。例えば、Zr59Cu31Al10 合金では構造緩和中の脆化が大きく抑制されることや、Zr55+xCu30-xNi5Al10 (x = 0 ~ 10 at%)金属ガラスでは、Zr含有率の上昇にともなって塑性変形能が高くなることを明らかとしている[7 - 10]。また、過冷却液体温度領域が広く高成形性を有するZr65Cu20Ni5Al10 金属ガラ等、65 at%以上のZr含有率を有するZr-Cu-Ni-Al系金属ガラスに、Au等の貴金属元素をCu量と置換する形で 0.5 ~ 3.0 at% の範囲内で微量添加すると、昇温時に形成される過冷却液体中に I 相を析出するようになり、I 相の析出によって過冷却液体の粘度が大きく上昇されることを明らかとしている。特に、Au添加合金では、高い塑性変形能を示すことから、塑性変形中に形成されるせん断帯の内部において、I 相が析出し、変形抵抗が高められていると推定している。また、Au添加合金では、Tg 以下でのAnnealによって、さらに塑性変形能が大きく改善されることを報告している[11, 12]。これらAuを添加した合金の塑性変形後のせん断帯近傍では,ナノサイズの I 相の析出を確認しており,それらの粒径が,As-cast材で 10 nm 程度、Annealed材で 5 nm 程度と、Annealの有無で異なることから、せん断帯内部における I 相の析出挙動がAnnealにより変化し、この変化が塑性変形能に強い影響を与えていると考えている[13]。

 本研究では、Au等の貴金属元素を添加したZr-Cu-Ni-Al-(Pd, Pt, Ag or Au)系金属ガラスのX線小角散乱強度を測定し、非晶質構造中に存在するクラスター、ナノ結晶などの不均一性のサイズについてしらべ、塑性変形による不均一性の成長挙動を検討るとともに、これら合金の塑性変形能と不均一性との関係を明らかにすることを目的とした。


実験:

 供試材は、Zr65Cu17Ni5Al10M3(M = Pd, Pt, Ag or Au :それぞれZr65Pd3、 Zr65Pt3、 Zr65Ag3、 Zr65Au3と略称)金属ガラスおよびI相の析出を促進させるためZr含有率を高めたZr66.5Cu15.5Ni5Al10Au3(Zr66.5Au3と略称)、Zr68Cu14Ni5Al10Au3(Zr68Au3と略称)金属ガラスとした。As-cast試料、Annealed試料、それに加えて、圧縮試験後の試験片を主せん断帯に平行に研磨して破面近傍を残した試料を評価対象とした。Anneal条件は、加熱温度 (Tg - 50) K、保持時間 5.4 ks とした。これら試料のX線小角散乱強度の測定を透過法により行った。試料厚さは約 45 μmとし、X線エネルギーは 20 keV、検出器にはPILATUS 2Mを用いた。カメラ長は 3072 mm とし、較正にはコラーゲンの回折ピークを用いた。露光時間は 60 s とした。


結果および考察:

 Fig. 1に、本測定でのバックグラウンド(BG)と、Zr含有率 65 at% の合金におけるX線小角散乱プロファイルを示す。BG強度は、測定した q 領域において、各試料の散乱強度の10分の1以下であった。また、Fig. 1中の各試料における散乱強度は、BG強度を差し引いて補正されている。いずれの貴金属添加合金においても、散乱強度は q の低下とともに増加した。また、q の低下とともに散乱強度の増加の傾きが大きくなっており、二次曲線的な変化を示した。いずれの合金においても、圧縮試験後の破面近傍試料の散乱強度は、圧縮試験前のAs-cast試料およびAnnealed試料の散乱強度と比較して高い傾向にあった。このような破面近傍試料における散乱強度の増加は、Fig. 1(b)、 (c)に示すZr65Pt3、Zr65Ag3合金において顕著に見られた。Zr65Ag3合金におけるAnnealed材の破面近傍試料では、高 qq = 1 nm-1 付近から散乱強度が増加し始め、q の低下とともに q = 0.1~0.3 nm-1 の間でわずかに上に凸の強度曲線の屈曲を示した。Zr65Ag3合金で、As-cast材の破面近傍試料でも q の低下にともなう散乱強度の増加程度は大きいが、Annealed材で見られたような屈曲を生ずる局所的な増加は見られなかった.また,As-cast材の破面近傍試料における q = 0.1 nm-1 以下の領域では、Annealed材の破面近傍試料よりも大きな傾きで散乱強度の増加が見られた。これと同様な破面近傍試料における散乱強度の増加は、Zr65Pt3合金におけるAnnealed材でも見られた。一方、Fig. 1(a)、(d)に示すZr65Pd3およびZr65Au3合金においても、q の低下にともなう散乱強度の増加は、Annealed材の破面近傍試料で大きい傾向にあるが、その程度はZr65Ag3、Zr65Pt3合金の破面近傍試料と比較して明らかに小さかった。


Fig. 1 Background profile and the intensity of small angle synchrotron radiation x-ray scattering of as-cast (As-c.) and annealed (Ann.) specimens for the Zr65Cu17Ni5Al10M3 (M = Pd, Pt, Ag or Au) bulk metallic glasses at (Tg -50) K for 5.4 ks. The results of specimen near fracture surface (FS) are also shown.


 上記のように、圧縮試験後の破面近傍試料における散乱強度は、いずれの合金も q の低下とともに高い傾向にあり、塑性変形中に生じたせん断帯の内部における非晶質構造中は、存在する不均一性の数密度が増加しており、さらには、これら不均一性が大きく成長していると考えられる。また、各種貴金属元素を添加したいずれの合金においても、強度曲線には顕著な凹凸を生じる屈曲は認められないことから、これら合金の非晶質構造中には特定サイズの不均一性が優先的に存在しているのではなく、種々の大きさの不均一性が存在しており、それらの存在比が各試料で異なっていると考えられる。したがって、各試料の非晶質構造中の不均一性におけるサイズごとの存在比について検討するため、Fankuchen法による解析を実施した[14]。Fig. 2に、その結果を示す。横軸は不均一性の慣性半径であり、縦軸はその質量比の相対値を示している。慣性半径が 2~20 nm の範囲の結果を示した。Zr基金属ガラスにおける非晶質構造の規則化は、通常等方的に生じることから、慣性半径は球形モデルで算出した[15, 16]。いずれの試料も、慣性半径が小さくなるほど、不均一性の質量比は大きく上昇しており、特に、2 nm 以下の領域となるとほとんど曲線は重なっていた。Fig. 1で、散乱強度がqの低下とともに高い値を示した試料ほど、質量比は高い値で推移しており、慣性半径 2 nm 以上の不均一性の数密度が増加している。Fig. 2(c)に示すZr65Ag3合金におけるAnnealed材の破面近傍試料での不均一性の質量比は、圧縮試験前のAs-cast,Annealed 試料と比較して、慣性半径が増加するほど著しく大きくなっており、Fig. 1で見られた散乱強度曲線の屈曲に対応して、慣性半径 10 nm 付近で局所的な質量比の増加が見られる。As-cast材破面近傍試料においても圧縮前試料と比べて質量比は大きな値で推移しており、さらには、慣性半径 10 nm 付近からの質量比の低下度合は小さい。したがって、慣性半径10 nm以上の不均一性のサイズ間での存在比差が小さいことがわかる。これと似た変化は、Fig. 2(b)に示すZr65Pt3合金のAnnealed材破面近傍試料においても、見られる。一方、Fig. 2(a)、(d)に示すZr65Pd3、Zr65Au3合金においては、慣性半径の増加にともなう質量比の低下程度は、Annealed材の破面近傍試料では緩やかとなっているが、Zr65Ag3、Zr65Pt3合金と比較してその程度ははるかに小さい。


Fig. 2 Mass ratio of as-cast and annealed specimens for the Zr65Cu17Ni5Al10M3 (M = Pd, Pt, Ag or Au) bulk metallic glasses at (Tg -50) K for 5.4 ks as a function of radius of gyration. The results of specimen near fracture surface are also shown.


 Fig. 3に、Zr66.5Au3、Zr68Au3合金におけるX線散乱強度と、不均一性の慣性半径ごとの質量比の解析結果を示す。Zr66.5Au3合金では、いずれの試料も散乱強度に大きな差は見られなかったが、Zr68Au3合金では、q = 0.3 nm-1 付近でわずかに上に凸の屈曲を示していた。これら合金の非晶質構造における不均一性の慣性半径ごとの質量比の変化は、試料間で大きな差はなかった。


Fig. 3 (a) and (b) The intensity of small angle synchrotron radiation x-ray scattering of as-cast (As-c.) and annealed (Ann.) specimens for the Zr66.5Cu15.5Ni5Al10Au3 and Zr68Cu14Ni5Al10Au3 bulk metallic glasses at (Tg -50) K for 5.4 ks. (c) and (d) Mass ratio of the specimens as a function of radius of gyration. The results of specimen near fracture surface (FS) are also shown.


 以上のように、貴金属添加合金の破面近傍試料では、圧縮試験前の試料より 2 nm 以上の不均一性が多く存在する傾向にあり、塑性変形中のせん断帯内部では非晶質構造中における不均一性が成長しているものと考えられる。また、その程度は、Zr65Ag3、Zr65Pt3合金で顕著であり、これら合金における不均一性の成長速度は大きいと推定される。一方、Zr65Pd3、Zr65Au3合金では、不均一性の成長速度は小さい。したがって、著者らの過去の研究で得られたAu添加合金における塑性変形能の改善は、特に、非晶質構造中の不均一性の成長速度は小さいことに起因すると考えられる。また、いずれの合金においても、圧縮試験前のAs-castとAnnealed試料の間で、散乱強度に大きな差は認められていないが、Zr65Ag3やZr65Pt3合金におけるAs-cast材とAnnealed材の破面近傍試料では散乱強度に大きな差があり、これらの不均一性の成長挙動は明らかに異なっている。 これは、Tg 以下でのAnnealによって、As-cast材の非晶質構造に変化が生じていることを示唆しており、Au添加合金においてもAnnealによるわずかな構造変化が塑性変形能の向上に影響を与えていると推定される。


今後の課題:

 破面近傍試料における不均一性の成長は、破面を形成する主せん断帯内部での温度上昇に起因して生ずると考えられる。したがって、塑性変形量の増加とともに不均一性の成長は促進されること推察されるが、本測定に用いた破面近傍試料については、圧縮試験に主せん断帯で生じた塑性変形量は均一ではなかった。また、測定試料の厚さは約45 μmであったが、この厚さは,推定されるせん断帯厚さよりもかなり大きく、今回の測定結果は破面最表面から45 μm内部にかけての平均値として得られている[17]。したがって、破面最表面のみにおける非晶質構造の変化を厳密に捉えられていない。今後、Zr基金属ガラスの非晶質構造における不均一性と塑性変形誘起ナノ結晶化挙動、さらには、これらに関連する塑性変形能の改善効果について、X線小角散乱法を用いてさらに詳細に検討していくには、主せん断帯での塑性変形量の統一と試料厚さの減少が有効と考える。


参考文献:

[1]: A. Inoue, et al., Mater. Trans. JIM, 40, 1181 (1999).

[2]: A. Inoue, et al., Mater. Sci. Eng. A, 294-296, 727 (2000).

[3]: 井上明久,精密工学会誌,70, 1154 (2004).

[4]: J. Saida, et al., Mater. Trans.JIM, 50, 2079 (2009).

[5]: J. Saida, et al., J. Phys.: Condens. Matter, 23, 175303 (2011).

[6]: J. Pan, et al., Intermetallics, 24, 79 (2012).

[7]: Y. Yokoyama, et al., Acta Mater., 56, 6091 (2009).

[8]: T. Yamasaki, et al., Mater. Sci. Forum, 654-656, 1046 (2010).

[9]: Y. Yokoyama, et al., Intermetallics, 19, 1683 (2011).

[10]: Y. Yokoyama, et al., Mater. Sci. Eng. A, 606, 74 (2014).

[11]: T. Yamasaki, et al., Collected Abstracts of the Int. Conf. on PM2012, 105.

[12]: 有吉広明,他,日本金属学会154回大会講演概要集,2014, 416.

[13]: 山田昌弘,他,日本金属学会誌,78, 449 (2014).

[14]: 山崎徹,他,日本金属学会誌,54, 362 (1990).

[15]: A. Inoue, et al., Mater. Sci. Eng. A, 294 -296, 727 (2000).

[16]: B. S. Murty, et al., Acta Mater., 48, 3985 (2000).

[17]: P. E. Donovan and W. M. Stobbs, Acta Metall., 29, 1419 (1981).


ⒸJASRI


(Received: January 30, 2016; Early edition: February 27, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)