SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section C: Technical Report

多目的ハイスループット回折計の設置調整および検出器インストールに関する予備的技術検討
Preliminary Study of Versatile High-Throughput Diffractometer

DOI:10.18957/rr.6.2.372
2014A1894 / BL14B2

大坂 恵一a,松本 拓也b,渡辺 剛a,佐藤 眞直a

Keiichi Osakaa, Takuya Matsumotob, Takeshi Watanabea, Masugu Satoa

a(公財)高輝度光科学研究センター,b(株)スプリングエイトサービス

aJASRI, bSPring-8 Service Co., Ltd.

Abstract

 BL14B2産業利用IIビームラインに設置した多目的ハイスループット回折計に関して、装置アライメントに必要なX線強度計測機器整備、ならびにピンホールなどの治具の性能検証など、装置立ち上げに関わる予備的な技術検討を行った。その結果、回折計を精密にアライメントするためには、装置部品の高剛性化を図る必要があることがわかった。


キーワード: 粉末回折,新装置開発,自動化,高効率化,高度化


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背景と研究目的:

 SPring-8のBL02B2ならびにBL19B2に設置されている粉末回折装置(大型デバイシェラーカメラ)は、数 mg 程度の極微量な試料でも電子レベルの精密構造解析が可能なデータが収集できる。そのため、学術界のみならず、産業界においても、新規材料開拓に必要不可欠な実験・解析技術として認知されている。我々は、BL19B2の装置において、試料搬送・精密位置決めロボット「JukeBox」を開発し[1]、データ収集の高効率化・省力化を推進し、X線を利用した実験に慣れていないユーザでも高品質のデータを効率よく収集できる仕組みを作り上げた。この装置は検出器としてイメージングプレートを利用しており、信頼性の高いデータを得られる。しかしながら、開発元の富士フイルム社が新規技術開発を終了し、読取装置の更新も事実上出来ない状態になっており、新しい検出器を利用した粉末回折装置の開発が急務となっている。そこで我々は、利便性のさらなる向上を目指し、「オンライン検出器」を用いた新しい粉末回折装置の開発に着手した。検出器として導入を検討しているMYTHEN[2, 3]は、Swiss Light Sourceの Materials Scienceビームライン(MS-X04SA)の粉末回折用検出器として開発されたフォトンカウンティング型1次元固体Si検出器である。我々は、この検出器の特徴を活かした新回折計の設計に着手しており、高速時分割測定を応用した結晶粒度評価法を提案し[4]、高分解能なデータを収集するための最適なカメラ半径の検討[5]、および産業利用ビームラインの粉末回折実験で頻繁に用いられるエネルギー領域のX線に対するMYTHENのX線検出感度の検証を行ってきた[6]。これらの技術的な検証を反映させて、我々は、最新の技術を導入した新しい回折測定装置「多目的ハイスループット回折計」(以下、新回折計)を開発し、2013年度にBL14B2にインストールした(図(1))。この装置はMYTHEN検出器を2θ方向に沿って最大12基搭載することで、広角の粉末回折プロファイルを同時に測定する事ができる。さらに、高感度CdTeセンサなど、さらに高性能な検出器が将来開発される事を見越して、検出器の交換が容易に行える構造になっている。また、この回折計は、粉末回折装置としてだけではなく、様々な形状の試料の特殊な実験にも対応できるように設計された、まさに多目的な回折装置である。具体的には、

 ● 図(2)中に赤点線で示す「azimuth軸」の周りで回転させることによって、回折角2 の方向を自在に変更できる。

 ● 試料と検出器の間にソーラスリット等を設けて、平板試料等様々な実験条件で測定できる。

 ● ユーザ持込装置が組み込めるような大きなスペースが設けられている。

等である。本実験では、この新回折計の設置調整、および本格的な検出器インストールを前にした予備的な作業を行った。

図 BL14B2に設置された多目的ハイスループット回折計。(1) 外観写真、(2) azimuth軸周りの回転による2θの方向変化の概略図、(3, 4) azimuth軸上に設置されたアライメント用ピンホール固定用治具((3) X線上流側、(4) 同下流側)、(5, 6) azimuth軸を90° 回転させた時のアライメント用ピンホール位置のずれ((5) X線上流側、(6) 同下流側。白線はazimuth = 0° の時のピンホールの位置)。

実験:

【(1):装置制御のための環境整備】

 新回折計は、BL19B2やBL46XUで利用しているコマンドインターフェース言語SPEC[7]で制御される。一方で、BL14B2では、XAFS遠隔実験実施のために、MADOCA2を利用した装置制御系を構築している。そこで、SPEC-MADOCA2間のデータ通信環境の整備を行った。具体的には、ビームライン既存の光学系制御ワークステーション端末およびX線強度測定系(入射および透過X線強度測定用のイオンチャンバ)に、EthernetあるいはGP-IB経由で接続した。SPECにおける制御コマンドファイル(マクロ)は、BL19B2で開発されたものを改良して利用した。以上の結果、SPECを利用して回折計調整に関わる制御することが可能となった。

 

【実験内容 (2):回折計アラインメントのための治具機構】

 回折計を位置調整する場合、入射X線が回折計の中心(試料および検出器回転軸)を通過することは当然であるが、新回折計においては、これに加え、2θの方向を変更するための回転軸であるazimuth軸がX線進行方向と一致している必要がある。このような配置を実現するために、azimuth軸上の2ヶ所に精密ピンホールを設置して、これらが入射X線に対して一致するように調整することにした。図(3)および(4)に、ピンホールの位置を調整するための治具を示した(図(3)がX線上流側、図(4)が同下流側に位置する)。両ピンホール間の距離は400 mm、ピンホールの直径は最小0.3 mmϕ である。これらの固定治具にはピンホールの位置を移動するための手動ステージが取り付けられており、ピンホールがazimuth軸上に位置しているかどうかは、azimuth 軸を 0-90° の間で回転させて、CCDカメラで観察するピンホールの位置が動かないことで確認できる。言い換えれば、ピンホールがazimuth軸に位置していなければ、ピンホールはazimuth軸を中心に「円弧」を描くように移動することになる。ここでazimuth = 0° および90° の位置は、それぞれ図(2)の中に赤字で示した位置である(すなわち、図(1)はazimuth = 0°の位置に相当する状態である)。

 しかしながら、azimuth = 30° 程度回転させた際に、観察しているピンホールの円弧を描く動きではなく、ある一方向に「スライド」するように動くことが観測された。図(5)および(6)は、それぞれ、上流側および下流側のピンホールをazimuth = 90° の位置でピンホールを撮影した写真である。これらを見ると、白色のグリッド線で示したazimuth = 0° におけるピンホールの位置からずれている。このずれは、azimuth軸が回転している途中にピンホールの位置が「スライド」したことによって生じており、ピンホールを回転するazimuth軸上に正確に位置させることができない状態であることを示している。本実験終了後に、この問題の原因が、回折計の回転ステージとパルスモータを接続しているカップリング部の剛性が低いことであることであると判明した。そこで、本実験終了後に高剛性の部品と交換を行った。

 

今後の予定:

 本実験では、XAFSビームラインBL14B2において新回折計の装置調整に関わる機器の整備が行われた。その結果として、装置の一部分に剛性不足な点があるなど、精密な装置アライメントを行うにあたって改良すべき点が見つかったことは大きな成果である。2014B期には、1次元検出器MYTHENを回折計上に設置し、広角の粉末回折プロファイルを測定できるような装置調整を予定しており、その前に回折装置としての基本的な性能を高めるための重要な知見が得られた。

 

参考文献:

[1] K. Osaka et al, AIP Conference Proceedings, 1234, 9-12 (2010).

[2] B. Schmitt et al, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, 501, 267-272 (2003).

[3] https://www.psi.ch/detectors/mythen

[4] 大坂 恵一 ら, SPring-8/SACLA利用研究成果集 (SPring-8/SACLA Research Report), 4, 75-78 (2016).

[5] 大坂 恵一 ら, SPring-8/SACLA利用研究成果集 (SPring-8/SACLA Research Report), 4, 248-251 (2016).

[6] 大坂 恵一 ら, SPring-8/SACLA利用研究成果集 (SPring-8/SACLA Research Report), 5, 74-77 (2017).

[7] https://www.certif.com/content/spec/

 

ⒸJASRI

 

(Received: November 9, 2017; Early edition: February 27, 2018; Accepted July 3, 2018; Published August 16, 2018)