SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

非合法性が疑われる未知薬物の粉末X線回折測定による構造解析
Structure Analysis of Unknown Drugs Suspected of Illegality using Powder Diffraction Method

DOI:10.18957/rr.6.2.203
2014B1053 / BL02B2

橋本 敬, 本多 定男

Takashi Hashimoto, Sadao Honda

(公財)高輝度光科学研究センター

 JASRI

Abstract

 放射光を用いた非破壊的な高感度X線回折法によって、乱用薬物の危険ドラッグの結晶構造解析を行った。測定は結晶をメノウ乳鉢で粉砕しリンデマン製ガラスキャピラリー(内径 0.3 mmΦ)に入れ粉末X線回折測定を行った。測定データの解析はEXPOを用いた直接法により初期構造を決定し、リガクのPDXLを用いて精密化を行うことができた。


キーワード: 科学捜査、合成覚せい剤類、粉末X線回折


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背景と研究目的:

 近年、薬物の取り締まりの法令を逃れるため、新しい禁止成分が指定されるたびに麻薬指定薬物の末端基などを変化させた新種の薬物が脱法ドラッグとして流通することが多い。通常、取締機関が行う質量分析によるガスクロマトグラフ-質量分析などでは化学式と構造式の情報のある標準試料を必要とするが、これら法規制前の薬物は、同定を行うための標準品の入手が困難であり、急を要する捜査に支障をきたす場合が多い。こうした状況下、流通開始から間もない脱法薬物について、迅速に化合物(薬物名)及び構造式を特定する分析手法の開発が求められている現状がある。本研究では、化学式と平面構造の判明している脱法薬物の微量粉末から粉末X線構造解析により未知の分子構造(立体構造)を明らかにし、脱法薬物の成分の特定手法の開発を行うことを目的として実験を行った。


実験:

材料

【試料】

ジフェニジン塩酸塩、4-メトキシPCP、α-PHP合計3検体の薬物について粉末X線回折測定を計画した。

 上記の薬物は乱用薬物として流通していたが、2015年の計画段階では未指定の薬物であり、研究機関で入手できる状態であったので実験材料として選択した。しかし、入手直後に指定薬物となり規制対象薬物となったため厚生労働省に許可申請を行いJASRIで保管することが認められたものである。


測定

 本実験では、指定薬物であるジフェニジン塩酸塩、4-メトキシPCP塩酸塩、α-PHP塩酸塩について、放射光粉末X線回折分析を行った。測定は内径 0.3 mmΦ のキャピラリーに数ミリ程度の長さに充填して行った。 測定条件を表1に示す。


表1. 測定条件



測定装置を図1に示す。

図1. BL02B2のゴニオメーター


結果および考察:

 ジフェニジンと4-メトキシPCPについては回折データが得られたが、解析はジフェニジンのみについて行った。また、α-PHPについては結晶性がよくないため良好な回折データが取れなかった。

データの解析はリガク製の統合粉末X線解析ソフトウェア

PDXL https://www.rigaku.com/ja/products/xrd/pdxl を用いて行った。

 初期構造の解析はPDXLに組み込まれた「逆空間法(直接法)構造解析ソフトウェア」EXPOにより行い、PDXLで精密化を行った。

 解析されたジフェニジン塩酸塩の結晶構造を図2に示す。

 測定対象が軽元素の炭素、窒素、酸素からなる有機低分子ではあったが、水溶性とするため塩酸塩として塩素が含まれることと放射光X線による良好なデータであったためにEXPOで初期構造解析が十分可能であった。


図2. ジフェニジン塩酸塩


今後の課題:

 今回の試料であるジフェニジン塩酸塩、4-メトキシPCP塩酸塩については課題実験2014B1807でBL40XUで単結晶構造解析を行い2015年のデンバーX線会議で発表している[1]。SPring-8であれば今回の試料のような数ミクロン径の微結晶でも単結晶構造解析が可能であり、絶対構造解析であれば単結晶構造解析を行う方が望ましい。

 粉末X線回折では絶対構造の解析を行うことができないが、食塩、砂糖などの増量を目的とした不純物が混じっている場合には含有不純物の定性定量を同時に行えることから法科学的には有効な手法であると考える。

 また、産地、製造者により結晶構造に有意な違いがあるかどうかを判定するにはロット内の変動とロット間の変動について統計解析を行うことが必要であるので今後の検討課題と考えられた。


参考文献:

[1] Takashi Hashimoto et al, Advances in X-Ray Analysis, 59, 169-175, (2016)



ⒸJASRI


(Received: December 14, 2017; Early edition: January 31, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)