Volume6 No.1
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
固体酸化物形燃料電池用酸化物イオン伝導体のXRD解析
XRD Analysis of Oxygen Ion Conductor for SOFC
(株)ノリタケカンパニーリミテド
Noritake Co., Ltd.
- Abstract
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固体酸化物形燃料電池(SOFC)電極や集電材に用いる酸化物イオン伝導材料として、現在もっともよく利用されているのがぺロブスカイト型酸化物 La1-xSrxCo1-yFeyO3−δ(LSCF)である。長期信頼性の確立、さらなるコスト低減を推し進めることで、SOFCの普及拡大が期待されている。SOFCの作動温度条件におけるLSCFの主要な劣化要因は、周辺部材の耐熱合金から蒸散してくるCrとの反応により、電極としての活性が低下することである。本実験にて微量存在するCrとLSCF組成による反応性の変化を確認した。材料の安定性や不純物相などの情報は工業的に重要な知見である
キーワード: ペロブスカイト型酸化物、in-situ XRD、燃料電池
背景と研究目的:
資源・エネルギー問題の解決、循環型社会の実現を目指し、水素エネルギーシステムの確立が強く望まれている。高効率な固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、触媒に貴金属が不要で、熱と電気の併給が可能であり、天然ガス、アンモニア、バイオガス等種々の燃料が利用可能である等の利点を活かし、災害時対応も可能な家庭用分散電源としての応用が期待されている。
SOFCには、膜材料や電極材料として、酸素イオン伝導材料が用いられており、我々は高性能かつ低価格な酸素イオン伝導材料開発に取り組んでいる。Fe系ペロブスカイト酸化物に代表される新規材料の探索に成功している。
SOFCには低温作動化が期待されている。従来の 800°C 以上の運転温度から 600-700°C まで低下させることで、周辺部材やインターコネクタなどの材料の選択肢が広がり、より安価な材料を使用することが可能となる。しかし、低温化することで、正極(空気極)の電極抵抗が増大し、著しい性能低下が起こることが大きな課題となっている。この課題に対して、LSCFをはじめとする酸素イオン・電子混合伝導体を正極として用いる開発が精力的に行われており、実用化に向けた性能実証も多く進められている。これら材料はペロブスカイト構造(ABO3)と呼ばれる結晶構造をしている。
LSCFは、SOFCの作動条件で長時間使用すると周辺部材からの被毒(主にCr)や酸素分圧の変化などによって異相が形成する可能性があることがわかってきた。この異相は微量析出相として存在するため、結晶相の同定および定量をリートベルト解析によって実施し、本課題にてLSCF組成とCrとの反応性の差異を確認した。
実験:
試料粉末La1-xSrxCo1-yFeyO3−δ(x : y = 0.1 : 0、0.2 : 0、0.4 : 0、0.4 : 0.8、0.5 : 0)はLa、Sr、Co、Feの酸化物もしくは炭酸塩を出発原料として、それぞれ化学両論比で混合し、固相法で合成した。合成した粉末を粉砕し、所定の粒度となるように調整した。以後、試料名として上記x : y組み合わせ順に、LSC91、LSC82、LSC64、LSC55、LSFC6428と表記する。その後、市販の Cr2O3 標準試料を 1wt% 混合した。その後、各種粉末をSOFCの発電温度である 700°C および 800°C で熱処理した。
試料(組成 5水準 × 温度2水準 × 熱処理時間 3水準[1, 100, 1000 h])は内径 ϕ0.3 mm の石英ガラスキャピリーに充填した。粉末X線回折の測定はSPring-8のBL19B2に設置してある大型Debye-Scherrer計を使用し、検出器は散乱角 2θ が高角度の回折線まで捉えられるImaging-Plate (IP)を用いた。測定に使用した波長は 0.4 Å であり、波長較正は CeO2 標準試料を用いて実施した。
実験で得られたXRDパターンについて、RIETAN-FP[1]を用いてリートベルト解析を行い、Dysnomia[2]を用いてMPF解析も合わせて実施した。結果の描画にはVESTA[3]を用いた。
結果および考察:
図1にLSCFの構造モデルを示した。本実験において、LSCFと Cr2O3 との反応は以下式で定義した。
aLa1-xSrxCo1-yFeyO3−δ + bCr2O3 → cSrCrO4 + d(Co,Fe)3O4 + eLa1-xSrxCo1-yFeyO3−δ+ f Cr2O3
図1. LSCFの構造モデル(空間群:R-3c、Green: La, Sr、Blue: Co, Fe、Red: O)
今回のリートベルト解析において、上記式の a、b、c、d、e、f の生成比を算出した。c/ e をCr種とLSCFの反応係数として算出し、その結果を表1および図2、3に示した。一例としてリートベルト解析結果を図4に示した。
表1. 各反応温度と反応時間におけるLSCF材料組成と Cr との反応係数(c/e)
温度 (℃) |
時間 (hr) |
LSC91 | LSC82 | LSC64 | LSC55 | LSC6428 |
700 | 1 | 0.1 | 0.6 | 1.0 | 3.5 | 1.3 |
100 | 0.5 | 3.3 | 2.4 | 6.1 | 3.5 | |
1000 | 0.6 | 7.5 | 10.9 | 13.5 | 11.7 | 800 | 1 | 0.2 | 1.8 | 68.0 | 76.8 | 44.3 |
100 | 1.4 | 6.2 | 125.0 | 205.5 | 98.0 | |
1000 | 3.6 | 13.5 | 605.0 | 908.0 | 305.0 |
図2. 反応時間に対する反応係数(c/e)の変化
図3. Sr/La比率と反応係数(c/e)の関係
図4. LSC82(700℃、100hr)のリートベルト解析結果
(Rwp = 7.795 %、LSC82相のRB = 1.505 %、RF = 0.774%)
図2から、700°C および 800°C を比較すると温度が高い、かつ反応時間が長くなるとCrとの反応係数が高いことが確認できた。温度が高い方が、反応時間に対する反応係数の傾きが大きい傾向であることが確認できた。また、図3より、ペロブスカイト構造のAサイトのSr比率が高くなるとCrとの反応係数が高いことが確認できた。
Sr濃度の増加(ホールドーピング)により、導電特性は向上するが、Crとの反応性は増加することが確認された。LSCF6428およびLSC64の結果の比較から、BサイトへのFe添加についてはCrとの反応性という点において、明確な効果は確認できなかった。AサイトのLa/Sr比に依存すると考えられる。
今後の課題:
継続検討により、発電出力という点ではSr濃度が高い方が効果があるが、耐久性という点では今回の結果からSr濃度を減らした方が効果的であるということを確認できた。今後はこの関係を明確化し、最適なLSCF組成を決定していく。
参考文献:
[1] F. Izumi, and K. Momma, Solid State Phenom.,, 130, 15 (2007).
[2] K. Momma, et al., Powder Diffraction,, 28, 184 (2013).
[3] K. Momma, and F. Izumi, J. Appl. Crystallogr., 44, 1272 (2011).
ⒸJASRI
(Received: May 26, 2017; Accepted: December 18, 2017, Published: January 25, 2018)