Volume6 No.1
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
XAFSによる可視光応答型光触媒の構造解析
Structure Analysis of Visible-light-driven Photocatalysts by XAFS Method
a昭和電工セラミックス(株), b昭和電工(株)
aShowa Denko Ceramics Co., Ltd., bShowa Denko K.K.
- Abstract
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可視光照射によって、抗菌・抗ウイルス性能を発揮する、銅(II)化合物担持酸化チタン(昭和電工(株)「ルミレッシュ®CT-2」)について、表面の銅化合物の構造や、光照射時の銅の価数を明確にすることを目的として、SPring-8 BL14B2ラインを使用して、XAFS分析を行った。抗菌・抗ウイルス挙動から考慮して、光照射によって酸化チタン表面にて銅(I)化合物の生成が強く示唆されるが、今回の測定では、銅(I)に帰属できる結果を得ることはできなかった。
キーワード: 可視光応答型光触媒、抗菌、抗ウイルス、銅、酸化チタン
背景と研究目的:
筆者らは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」(2007年~2012年)において、可視光照射によって抗菌・抗ウイルス性能を発揮する光触媒を開発した。それは、銅化合物担持酸化チタンである。東京大学と共同で開発した銅化合物担持酸化チタン(以後、「東大法触媒」と称す)については、可視光照射によって、担持された銅(II)化合物が、酸化チタン表面において銅(I)化合物に還元されることを、SPring-8 BL14B2ラインでの測定において確かめている[1]。これらの光触媒は、優れた抗菌・抗ウイルス性能を発現することが確認されており、他の知見と鑑みて、酸化チタン表面に生じる銅(I)化合物によるものと、強く示唆される。
その後、銅化合物担持酸化チタンの製法を改良し、量産に適した方法とした。この触媒は、昭和電工(株)より「ルミレッシュ®CT-2」の商品名で市販している。この触媒においても同様に優れた抗菌・抗ウイルス性能を発揮することを確認している。そこで、ルミレッシュ®CT-2においても、東大法触媒と同様に、銅(I)化合物の生成されていることを確かめるために検討を行った。
実験:
(1) 東大法触媒の調製:文献[1]記載の Cu(II)/TiO2 の調製法に準じて合成した。つまり、CuxO/TiO2 合成工程から、グルコースとNaOHによる処理工程を除いた方法である。
(2) その他の試料:次に示す市販品を使用した。ルミレッシュ®CT-2:昭和電工 市販品、水酸化銅(II):関東化学 鹿特級、酸化銅(II)(粉末):関東化学 鹿特級、酸化銅(I):関東化学 鹿特級。
(3) 測定条件:ビームラインBL14B2にて、Cu-K端、Ti-K端のXAFS測定を透過法で行った。
(4) 放射光測定用サンプルの作製:Δµtが1となるようにサンプルとBNと混合してメノウ乳鉢で粉砕後、プレス成型することで、測定用サンプルを得た。
(5) 可視光を照射しながらの測定:測定サンプルをテドラーバッグに入れ、窒素で置換した。内部に少量のエタノールを注入した。キセノンランプ光源(林時計工業 LA-410UV)の光10万ルクスを、シャープカットフィルターL42(HOYA)にて紫外線をカットしてサンプルに照射した。本実験では、光触媒が可視光で励起されたなら、励起電子が銅化合物を還元し、ホールがエタノールを酸化分解することを想定した。課題申請の段階では、ガスフローによる実験を計画していたが、簡便性の観点から上記実験内容に変更した。
結果および考察:
各サンプルのTi-K端の測定では、いずれの条件下においても、ルチル型TiO2 のそれと全く変化がなかった。よって、Tiの状態に変化はないものとし、ここでの結果と考察は行わず、Cu-K端についてのみ報告する。
図1に、XANESを示す。東大法触媒とルミレッシュ®CT-2は、吸収端の位置が、水酸化銅(II)とほぼ同じで、酸化銅(II)に近い位置となっており、銅は2価の状態であると示唆される。参照データである酸化銅(I)には、低エネルギー側にピークが観察される。また、金属銅においても、これに近い位置のピークが観察されており、明らかに酸化チタン表面に担持している銅は0価、1価の状態とは異なると言える。図2には、エタノールを含む雰囲気の中で光照射しながらXANESを測定した結果を併記した。図2では判別しづらいが、ルミレッシュ®CT-2のエタノール雰囲気下光照射時のスペクトル(紫)は、光なしのスペクトル(青)とほぼ重なっている。一方の東大法触媒は、光あり(黒)と光なし(赤)は、スペクトルの変化が明確であり、吸収端の変化から、銅1価の生成が観られる。したがって、東大法触媒では、可視光照射によって、銅1価の生成が確認できるが、ルミレッシュ®CT-2においては、それらしき変化を見出すことはできなかった。
図1. Cu-K XANES
図2. Cu-K XANES 光照射による変化
図3は、Cu-Kの動径構造関数(RSF)である。ルミレッシュ®CT-2のCu種は、東大法触媒とも異なった局所構造を有しているように見える。また、参照として、酸化銅(II)と水酸化銅(II)についても測定したが、明らかに異なるプロファイルとなった。なお、東大法触媒、酸化銅(II)、水酸化銅(II)のRSFについては、入江らが報告している結果[2]とも一致しており、測定に問題はないものと考えている。
図3. CuO、Cu(OH)2、東大法触媒、及びルミネッシュ®CT-2 のCu-K端の動径構造関数
以上の結果より、以下の結論を導いた。
(1) 東大法触媒とルミレッシュ®CT-2は、銅担持工程に違いがある。今回、ルミレッシュ®CT-2について詳細に調べたところ、酸化チタン表面の銅化合物は、銅2価状態であることが確認できた。
(2) ルミレッシュ®CT-2は、可視光照射による銅1価への還元を観察することができなかった。ただし、今回の結果で、銅1価への還元を否定するのは時期尚早であると考えている。なぜならば、可視光照射による抗菌・抗ウイルス性能については、東大法触媒も、ルミレッシュ®CT-2も、非常に類似の挙動を示している。これらは、共に、可視光照射によって、酸化チタン表面に銅1価化合物が生成したと考えるのが、もっとも説明しやすい。
今後の課題:
東大法触媒とルミレッシュ®CT-2の違いについて、さらに詳細に検討し、微細構造の解明につなげる。
参考文献:
[1] X. Qiu, et al., ACS Nano, 6, 1609 (2012).
[2] H. Irie, et al., J. Phys. Chem. C, 113, 10761 (2009).
ⒸJASRI
(Received: March 31, 2017; Accepted: December 18, 2017; Published: January 25, 2018)