SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.1

SPring-8 Section C: Technical Report

BL14B2における遠隔XAFS環境の開発
Development of Remote-XAFS at BL14B2

DOI:10.18957/rr.6.1.150
2014A1891 / BL14B2

高垣 昌史, 井上 大輔, 古川 行人, 本間 徹生

Masafumi Takagaki, Daisuke Inoue, Yukito Furukawa, Tetsuo Honma

(公財)高輝度光科学研究センター

JASRI

Abstract

 BL14B2において開発を進めている遠隔XAFSシステムの基盤である MADOCA が MADOCA2 にバージョンアップしたのを受けて、遠隔XAFSシステムを構成する、自動試料搬送、Quick XAFS測定、および自動光学調整プログラムの MADOCA2 への移行、および動作試験を行った。


キーワード: 遠隔実験、XAFS


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背景と目的:

 産業利用推進室では、制御・情報部門との協力体制のもと、BL14B2のXAFS自動化技術を基盤として、インターネット経由でXAFS測定を可能とする「遠隔XAFSシステム」の開発を進めている。産業利用分野においては、人的、資金的、時間的資源上の制約から、ユーザー実験は小数の熟達した測定担当者が行い、実験結果を真に求めている試料提供者が実験に参加できず、その意見が実験進行にフィードバックされづらいケースが少なくない。遠隔XAFSシステムが完成すれば、ネット接続が可能な環境にいる限り、どこからでも実験に参加することが可能となるため、試料提供者の意見をリアルタイムにフィードバックすることが可能となり、より商品開発に密着した高品質の実験結果の創出が期待される。

 遠隔XAFSシステムの基盤である制御フレームワーク「MADOCA」が「MADOCA2」にバージョンアップしたことを受けて、本課題では、(1) 自動試料搬送ロボット制御プログラム「Sample Catcher」、(2) Quick XAFS測定プログラム「QXAFS」、(3) 自動光学調整プログラム「Auto-Optics」のMADOCA2への移行、および動作試験を行った。各プログラムは、サーバー側とウェブクライント側の一対で構成されており、双方の動作を確認した。

 

方法と結果:

 MADOCA2への移行作業は、サーバー間の通信を担う「Message Server」を中心とした基幹サーバー群、および専用マクロ言語「Command Interpreter (CI)」のバージョンアップというかたちで実施された。以下で試験を行った3つのプログラムのほとんどはCIで記述されたものである。

 Sample Catcherでは、ピンホールスキャンによるX線光軸上への試料搬送ロボットのアライメント、試料のピックアップ動作、試料アライメント用カメラの動作の3点に関して試験を行った。サーバー側プログラムは良好な結果を得たが、ウェブクライントへのメッセージ配信において、送信メッセージの不要な結合、重複配信等の、一部不具合が発見された。これらの不具合は、制御・情報部門の協力のもと、ウェブクライント接続に関わるサーバー構成の見直し等によって解決した。加えてこの見直しにより、メッセージの送信処理能力が約10倍向上し、1メッセージあたり約7ミリ秒で処理が可能となった。

 QXAFSの動作試験は、BL-USER-LAN(*1)の外部からの操作で行った。OA-LANからウェブブラウザーでユーザー認証接続を行い、Cu-KでXAFS測定を行った。この試験を前後2期間に分けて行った。前半において発見された不具合を修正し、後半において再試験を行った。

 第1の不具合は、1測定動作(所要時間約60秒)中にウェブクライアントとサーバーの接続が頻繁に切断されるというものであった。これはWebSocket接続機構の問題であり、制御・情報部門の協力により解決した。

 第2の不具合は、モノクロ角度のスイープ動作を開始する際のタイミングルーチン上の問題である。本来、モノクロ角度の台形加速動作終了とともに測定動作を開始するところ、台形加速終了を待たずに測定を開始する、というものであった。これは、CI上の問題であることが確認されており、本課題においては、OSの遅延コマンドを利用するかたちで暫定的に対応した。CIに関しては、制御・情報部門の協力のもと対応予定である。

 Auto-Optics (図1)の動作試験では、イオンチャンバーガス混合機の制御サーバー、モノクロ∆θ軸スキャン、高調波除去ミラーおよびスリットのスキャン、関連サーバーの動作状況の総合チェック機能と、各機能の個別試験、および総合試験を行った。総合試験では、QXAFSと同様、OA-LANからウェブブラウザーで接続し、Cu-K端用の光学調整を モノクロ結晶面Si(111)とSi(311)で、Fe-K端用の調整をSi(111)で行った。調整対象機器は、上流から順にTCスリット1、モノクロ、TCスリット2、第1ミラー、第2ミラー、実験ハッチ内定盤、定盤上に設置された4Dスリットおよびイオンチャンバーである。各機器の調整パラメータはデータベースに保存されており、吸収端名(“Cu-K”, “Fe-K”等)とモノクロ結晶面(Si(111)もしくはSi(311))を指定するだけで、完全自動の光学調整が行われる。調整手順は従来版Auto-Optics[1]に準じており、いずれも問題は確認されず、良好な結果を得た。


図1. Auto-Opticsのウェブクライアント画面(プロトタイプ)

 

今後の予定:

 光学調整、試料交換、Quick XAFS測定と、個別の実験操作を担うプログラムの安定動作が確認されたことを受けて、全体を統括する、完全自動実験プログラム「Auto-XAFS」の開発を進める予定である。Auto-XAFSは、ユーザーがあらかじめ入力した実験手順に従い、上記3つのプログラム、およびカレントアンプゲイン自動調整プログラム「amptune」を統括制御することで、完全自動実験を実現する。Auto-XAFSの完成をもって、遠隔XAFSシステム(透過配置)が完成する予定である。

 

(*1) ビームラインが属するSPring-8内サブネットワーク。同じく事務等を行うOA-LANがある。セキュリティ上、OA-LANからBL-USER-LANにはアクセス出来ず、この意味でOA-LANと外部ネットは同等である。

 

参考文献

[1] Hiroshi Oji et al., J. Synchrotron Rad. 19 (2012) 54-59.



ⒸJASRI

 

(Received: September 13, 2017; Early edition: December 8, 2017; Accepted: December 18, 2017, Published: January 25, 2018)