SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

液相界面ボトムアップ法による分離膜向け分子ナノシートの創製と構造解析
Structural Analysis of Molecular Nanosheets for Separation Membrane Assembled with a Bottom-Up Approach at Liquid Interfaces

DOI:10.18957/rr.6.1.137
2016B1862 / BL19B2

大畑 孝司a, 廣沢 一郎b, 渡辺 剛b, 牧浦 理恵a

Takashi Ohataa, Ichiro Hirosawab, Takeshi Watanabeb, Rie Makiuraa

a大阪府立大学 大学院工学研究科,b(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室

aOsaka Prefecture University, bJASRI

Abstract

 配位高分子は、有機分子を主成分とした多孔性物質であり、有機分子の設計性を生かし、細孔サイズや形状を多様且つ容易に変化させることができる。そのため、ナノシート化により、透過性と選択性を兼ね備えた分離膜としての応用が期待される。これまでに、気液界面を用いて配位高分子ナノシートの作製に成功しているが、ナノシートの形成状態(厚さ、面積、結晶化度)に影響を及ぼす条件因子、ガス選択性や透過性は未解明である。本課題においては、固体基板に転写した配位高分子ナノシートの構造評価及び気液界面におけるナノシート形成過程解明のためのその場測定に向けた条件確認を行った。波長 0.124 nm における微小角入射X線回折(GIXRD)測定を行い、in‒plane および out‒of‒plane 測定の両方に関してピークが得られていることから、配位高分子ナノシートは高い結晶性を有し、さらに基板に対して配向していることがわかった。また、ビーム打ち下ろし設定における水表面からの全反射の確認を行った。


キーワード: 分離膜、ナノシート、配位高分子、気液界面、微小角X線回折

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背景と研究目的:

 質の分離・精製は、環境、エネルギー、化学工業などにおいて不可欠な操作である。膜による混合物の分離は、吸着分離や深冷分離などに比べ簡便かつ省エネルギーな方法として重要視されている。分離膜の材料としては、主にポリイミドなどの有機ポリマーが用いられており、作製が容易である一方、細孔径には分布が生じる。それゆえに、選択性(分離効率)を向上させるためには適度な厚みが必要であるが、厚すぎると透過性(生産性)が低下するというトレードオフの関係が Robeson upper bounds として知られている[1]。分離効率と生産性の両方を向上させるために、分子スケールでサイズの定まった規則ナノ細孔を有する極めて薄い膜(以降ナノシートと呼ぶ)の開発が強く望まれている(図1上)。その候補として、配位高分子などの、有機分子を主成分とする結晶性固体が挙げられる[2, 3]。有機分子の設計性を生かし、細孔サイズや形状を多様且つ容易に変化させることができる。しかしながら、一般的に用いられる合成方法では微結晶粉末として得られるため、そのナノシート化が大きな課題である。


図1. 研究目的の概要図


 申請者らはこれまでに、配位高分子ナノシートの作製に成功し、SPring-8 BL13XUにおいて実施した構造評価により得られた成果を報告している[4, 5]。これは結晶性且つ完全配向した配位高分子超薄膜の初めての例であり、気体と液体が接する2次元界面において形成されている点が特徴である(図1下)。一方で、この手法を適用できる分子の種類やナノシートの形成状態(厚さ、面積、結晶化度)に影響を及ぼす条件因子、ガス選択性や透過性は未解明である。そこで、本研究ではこれらの点を明らかにし、究極の性能を有する分離膜開発に向けた原理確認を行う。そのために、得られた薄膜の構造解析は必須である。固体基板に転写後のナノシートの構造評価に加え、気液界面におけるその場X線回析測定を行い、界面で分子が連結し長周期構造を形成する過程を逐次把握する。


図2. トリフェニレン誘導体


実験:

【試料】

 基板:Si (100)(表面は自然酸化膜)

 試料:基板表面に作製された有機分子(トリフェニレン誘導体(図2))からなるナノシート(吸収スペクトル及び走査型顕微鏡より、膜の厚さ、ドメインサイズ、銅線源を用いたX線回折装置にて想定ピーク位置を予め確認してある試料)

【波長】0.124 nm (10 keV)

【回折計】

 測定はBL19B2に設置されている多軸回折装置を用いて行った。受光側は2基の四象限スリット(入射側:横 6 mm、縦 0.3 mm、受光側:横 10 mm、縦 4 mm)とソーラースリット(発散角度 0.19°)でコリメーションを形成した。

【試料の固定】

 試料はBLに準備されている標準的な試料ホルダーを用いて試料を保持し、BLに備え付けの He カプトンドーム内に収納した。

【試料位置調整】

 試料面法線が回折装置のφ軸と並行になるように試料を設置した。BLで一般的に用いられているマクロコマンドを使用して試料位置調整を行った。

【測定法】

 微小角入射 in-plane X線回折(GI in-plane XRD)測定:GI in-plane XRD 測定は、試料表面への入射角及び散乱X線の take‒off 角が常に 0.15° になる条件で、散乱角(two theta角)3° から 45° の範囲を備え付けのマクロコマンドを用いて 2θxy 走査測定を行った。

 Out-of-plane X線回折測定:Out-of-plane XRD 測定は、散乱角(two theta角)3° から 30° の範囲を備え付けのマクロコマンドを用いて θ-2θz 走査測定を行った。また、散乱角が 1° から 10° の範囲においては、自動アッテネーターのプログラムにより測定した。

 ビーム打ち下ろし設定:気液界面における直接測定に向け、Si単結晶を用いたビーム打ち下ろし設定における水の全反射の確認を行った。


結果および考察:

 作製条件(溶媒、濃度)の異なる3種類のナノシート(NS:Nanosheet, NS1, NS2, NS3)に関して、GI in‒plane XRDプロファイルおよび out‒of‒plane XRDプロファイルを図3に示す。全ての試料において、in‒plane および out‒of‒plane 測定の両方に関してピークが得られていることから、結晶性を有することが確認された。ピーク位置の解析から得られた結晶系は六方晶で、格子定数は a = b = 21.292(8) Å、c = 3.23(1) Å であった。In‒plane XRD と out‒of‒plane XRD のプロファイルは全く異なり、共通のピークが見られないことから、NSは配向(液面に対して垂直方向を c 軸とすると、c 軸配向)していることがわかった。3つの試料に関して、ピークの数及び位置は一致していることから、結晶中の分子配向は同じであると考えられるが、ピークの強度及び線幅には違いが見られ、気液界面における作製条件がNSの結晶性やドメインサイズに影響を与えることが示唆された。


図3. トリフェニレン誘導体からなる配位高分子ナノシート(作成条件の異なる3種類のナノシート、NS1、NS2、NS3)の GI in-plane XRD プロファイル(左)と out-of-plane プロファイル(右)


 NSの加熱に伴う GI in‒plane XRDプロファイルの変化を図4に示す。200℃ までは室温と同様のXRDプロファイルを示していることから、この温度まで結晶性が保たれることが明らかになった。また、50℃ おいては、室温よりもピーク強度が大きくなっており、低温における加熱が結晶性の向上への効果があることが示唆された。

 今後の、気液界面における直接測定に向け、ガラス容器に水を満たし、シリコン結晶によりビームを打ち下ろしすることにより、水の全反射を確認した。


図4. トリフェニレン誘導体からなる配位高分子ナノシート(NS1)の GI in-plane XRD プロファイルの加熱に対する変化


今後の課題:

 本実験課題においては、気液界面にて作製した配位高分子ナノシートを、シリコン基板に転写後、XRD測定により構造評価を行った。本研究で目的とするナノシートの形成過程の解明及び作製条件因子がナノシートの形成状態に与える影響の解明を達成するためには、気液界面におけるその場測定が必要である。今後は、打ち下ろし測定によるその場測定に向けた光学系の整備を進める必要がある。


参考文献:

[1] L. M. Robeson, J. Membr. Sci, 320, 390 (2008).

[2] S. Kitagawa, R. Kitaura and S. Noro, Angew. Chem., Int. Ed., 43, 2334 (2004).

[3] H.-C. Zhou, J. R. Long and O. M. Yaghi, Chem. Rev., 112, 673 (2012).

[4] 牧浦理恵 他, 平成21年度 重点ナノテクノロジー支援課題報告書(2009A), 2009A1703.

[5] R. Makiura, S. Motoyama, Y. Umemura, H. Yamanaka, O. Sakata and H. Kitagawa, Nat. Mater., 9, 565 (2010).




ⒸJASRI


(Received: June 29, 2017; Early edition: November 24, 2017; Accepted: December 18, 2017, Published: January 25, 2018)