SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.1

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

高エネルギーX線回折を用いた銅酸化物高温超伝導体における電荷密度波の研究
CDW in High-Tc Cuprates Studied by High-Energy X-ray Diffraction

DOI:10.18957/rr.6.1.46
2014A3712, 2014B3712 / BL22XU

石井 賢司a, 佐藤 研太朗b, 浅野 駿b, 藤田 全基b, 中尾 裕則c

Kenji Ishiia, Kentaro Satob, Shun Asanob, Masaki Fujitab, Hironori Nakaoc

a(国研)量子科学技術研究開発機構放射光科学研究センター,b東北大学金属材料研究所, c(共)高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所

aQST, bTohoku University, cKEK

Abstract

 CuO2面が三層重なったBi系銅酸化物高温超伝導体 Bi2Sr2Ca2Cu3O10+δ(Bi2223)における電荷密度波を探索するため、高エネルギーX線回折実験を行った。低温で出現し、温度上昇により消失する超格子反射は観測されたが、銅 L3 吸収端では等価な波数位置には観測されないため、電荷密度の変調に由来した超格子反射ではないと結論づけた。結晶中のCuO2面間でホール濃度が不均一である三層系における電荷密度波の特徴とその超伝導との関係について議論を行う。


キーワード: 銅酸化物高温超伝導体、電荷密度波、X線回折

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背景と研究目的:

 銅酸化物高温超伝導体では、主にホール濃度が超伝導転移温度(Tc)最大よりも少ない不足ドープ領域で擬ギャップと呼ばれる状態が存在する。そこでは、電子状態密度の減少、フェルミ面の一部消失などが観測され、このような擬ギャップの起源と超伝導相との関わりの理解が銅酸化物における超伝導の解明に必須であると考えられている。一方、銅酸化物超伝導体の不足ドープ領域での電荷密度波(Charge Density Wave, CDW)については、数年前までは電荷ストライプと呼ばれていたLa系 [La2-x(Sr,Ba)xCuO4] に特有の現象と考えられていたが、最近になってY系[1,2]やBi系[3,4]でも電荷の周期変調が観測されるに至り、CDWがホールドープ型の不足ドープ領域に共通の現象である可能性が出てきた。また、いくつかの系では、観測されたCDWに由来する超格子反射は擬ギャップとほぼ同じ温度から出現し、超伝導相に入ると強度と相関長が減少してくることから、CDWが擬ギャップと密接な関係を持っており、超伝導とは競合していることを示唆している。

 本研究はCuO2面が三層重なっているBi系銅酸化物高温超伝導体 Bi2Sr2Ca2Cu3O10+δ(Bi2223)を対象として、X線回折実験によりCDWを観測し、超伝導、擬ギャップとの関係を明らかにすることが目的である。通常、Bi2Sr2Can-1CunO2n+4+δ の化学式で表されるBi系銅酸化物高温超伝導体は Bi22(n-1)n と略して呼ばれており、図1に示すように n が結晶中での CuO2 面の層数に対応する。n ≥ 3では外側の CuO2 面(Outer Plane, OP)と内側の CuO2 面(Inner Plane, IP)が結晶学的に非等価であり、ホール濃度もOPの方がIPに比べて高いという不均一が生じる[5,6]。これまでにCDWが観測された銅酸化物高温超伝導体はすべて単層もしくは二層の物質であり、Bi2223 に研究対象を拡げることでホール濃度の異なったOPとIPでの層間結合効果という新しい観点での研究が期待できる。


図1. Bi2Sr2Can-1CunO2n+4+4+δの[Bi22(n-1)n]の結晶構造


 CDWに由来する超格子反射は概して強度が非常に弱く、通常行われる 10 keV 程度のX線を用いた回折実験で観測するのは困難であることが多い。これまでにX線を用いて行われたほとんどすべての研究は、CDW付随した格子歪みを高エネルギーX線回折で観測する方法[2,7]か、価数変調に敏感な銅のL吸収端(約 0.9 keV)を利用した共鳴軟X線回折で観測する方法[1-3,8]かのどちらかである。高エネルギーX線の利点は、高い透過能により試料体積が稼げ、高波数まで観測が可能という点にある。本研究では両方の方法を用いて Bi2223 でのCDWの観測を目指した。


実験:

 測定は、合成直後の最適ドープにある as-grown 試料、および、アニール処理によって酸素量(δ)を調整することで不足ドープとなった annealed 試料の二種類に対して行った。 Tc は、それぞれ、110 K と 67 K である。高エネルギーX線回折実験はSPring-8のBL22XUにおいて行い、利用可能な最高のエネルギーである 70 keV を用いた。一方、銅 L3 吸収端での共鳴軟X線回折実験は、KEK PFのBL-19Bを利用した。単結晶試料を冷凍機に搭載し、いずれの実験も π 偏光のX線を照射することでCDWによる超格子反射を探索した。実際の Bi2223 の結晶構造は斜方晶に属する[9]が、本稿では慣例に従い a = b ≈ 3.8 Å、c ≈ 37.1 Å の正方晶での単位胞で波数ベクトル(Q)を表記する。


結果および考察:

 図2に高エネルギーX線回折の結果を示す。他の物質の研究では不足ドープ領域でCDWがより強く現れていることから、まず annealed 試料について議論する。図2(a)は Q = (0.22,0,L)でのL方向(c*方向)へのスキャン結果である。6 K ではLが整数のところに系統的にピークが現れているのに対し、300 K ではそれらが消失していることがわかる。図2(b)、2(c)は、より詳細な温度依存性として Q = (0,K,49)、および、Q = (0,K,56)での測定結果をそれぞれ強度マップにしたものである。図2(a)の Q = (0.22,0,L)と等価である K ≈ 0.22 に低温でピークが見られ、およそ 260 K 付近でそれが消失することがわかる。


図2. 70 keV のX線を利用した Bi2223 の高エネルギーX線回折。(a)-(c)が annealed 試料、(d)-(f)が as-grown 試料に対する測定結果。(e)では縦軸方向に1ずつシフトさせてプロットしている。量子量ともおよそ 260 K 付近を転移温度とする超格子反射が H ≈ 0.22-0.24(K ≈ 0.22-0.24)に観測されている。


 同様の測定を as-grown 試料に対して行った結果が図2(d)-(f)である。図2(d)の 6 K のデータが示す通り、as-grown 試料ではL方向に強度が連続的に分布しており、整数のLでピークを形成した annealed 試料とは対照的な結果となっている。しかし、図2(e)のK方向のスキャンではピークとなっており、温度上昇によりピークが消失することも確認できる。従って、as-grown 試料では ab 面内での二次元的なものであるが、類似の秩序が存在していることになる。図2(f)は、波数ベクトルを ab 面内にとった配置(L = 0)での測定であるが、図2(e)と等価な波数である Q ≈ (3,3.24,0)にピークが見られ、300 K ではそれが消失していることがわかる。

 高エネルギーX線回折からは、annealed、as-grown いずれの試料においても H ≈ 0.22-0.24(K ≈ 0.22-0.24)に何らかの秩序形成による超格子反射が現れることがわかった。高エネルギーX線回折は広い波数空間を走査できるメリットはあるが、測定しているものはあくまで格子の変調である。CDW形成に伴った格子の変調を観測している可能性はあるが、別の可能性も否定できない。その点を解決するために、銅の価数など電子状態の空間変調を直接観測できる銅 L3 吸収端での共鳴軟X線回折実験を行うことにした。銅酸化物高温超伝導体の銅 L3 吸収端X線吸収スペクトルでは、X線の偏光が CuO2 面に平行な条件で、(3d)10 を終状態とする鋭いピークが現れる[10]。共鳴軟X線回折での入射エネルギーはこのピークに合わせた。その条件で測定した結果を図3に示す。高エネルギーX線回折の結果とは異なり、図3(a)の annealed 試料、図3(b)の as-grown 試料とも H ≈ 0.22-0.24 に超格子反射は観測されなかった。以上の結果から、高エネルギーX線回折で観測された超格子反射は、当初の目的であったCDWによるものではないと結論づけられる。


図3. 銅 L3 の吸収端を利用した Bi2223 の共鳴軟X線回折。(a)が annealed 試料、(b)が as-grown 試料に対する測定結果。高エネルギーX線回折とは異なり、H ≈ 0.22-0.24 に超格子反射は観測されなかった。


 Bi系銅酸化物高温超伝導体では、単層の Bi2201 [3]、二層の Bi2212 [4]とも銅 L3 吸収端での共鳴軟X線回折でCDWが観測されており、さらにホール濃度の増加とともにCDWの変調ベクトルが小さくなることがわかっている[3,11,12]。先に述べた通り Bi2223 ではOPとIPでホール濃度が異なっており、OPとIPが異なる波数で秩序化しようと競合した結果、系全体としてのCDW形成が抑制され、同じ手法では観測できなかったのかもしれない。Hg系の三層物質 HgBa2Ca2Cu3O8+δ と比べて Bi2223 ではOPとIPのホール濃度の差が大きいとも報告されており[13]、ホール濃度が不均一である効果がより顕著に現れた可能性がある。CDWが抑制されればそれに付随した格子変調も弱くなるため、本研究の主目的であった高エネルギーX線回折によるCDWの観測ができなかったということが言える。また、Bi2223 は Bi2201、Bi2212 と比べて高い Tc を持っているが、超伝導と競合するCDWの抑制が Tc 上昇の要因となっていれば大変興味深い。


今後の課題:

 CDWではないと結論した高エネルギーX線回折で観測された超格子反射の起源であるが、Bi2212 で観測されているBiO面での格子変調による超構造[14,15]と類似の変調が一つの可能性として考えられる。Bi2212 では今の単位胞の取り方で[110]方向、すなわち、Bi-Oの結合方向に変調ベクトルがあるのに対し、今回 Bi2223 で観測された超格子反射は[100]方向であり、その点は異なっている。Bi2223 については過去の粉末試料に対する実験室X線源での研究[9]では、Bi2212 と同じ[110]方向の超構造はないとされているが、単結晶を使った放射光X線での測定を改めて行うことで観測できたのかもしれない。超格子反射を系統的に測定することでBiO面での格子変調の有無を議論することは原理的には可能である。しかし、銅酸化物高温超伝導体の物性の主役はあくまでCuO2面であり、BiO面に関してさらに追求することは意義が小さいと考え、高エネルギーX線回折による研究はここで終了することとした。

 一方、Bi2223 でのCDWの有無の検証については、より感度の高い手法が求められる。図3に結果を示した共鳴軟X線回折実験は、検出器の分解能(~ 100 eV 程度)内にあるX線をすべて取り込んだエネルギー積分型の実験であり、2-4 eVの励起エネルギーにある dd 励起がバックグラウンドの大部分を占めている。十分な分解能を持ったエネルギー分解型の実験、すなわち、共鳴非弾性軟X線散乱分光器を用いた(準)弾性性散乱の測定で dd 励起を分離すれば、バックグラウンドを下げた感度の高い実験が可能となる。その有用性はLa系以外で初のCDW発見[1]で実証されており、その成果がここ数年で大きく発展した銅酸化物高温超伝導体におけるCDWの研究の先駆けとなった。今後、Bi2223 においても非弾性散乱分光器を用いた観測に期待したい。また、層間結合効果という点では、Hg系などの他の三層物質での測定を行うことも課題と考えられる。


参考文献:

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[2] J. Chang et al., Nature Phys. 8, 871 (2012).

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(Received: August 24, 2017; Early edition: October 27, 2017; Accepted: December 18, 2017; Published: January 25, 2018)