SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

XAFSによるスズおよびコバルトを還元析出した白金触媒の局所構造解析
Local Structure of Sn and Co Species Reductively Deposited on Pt Catalysts

DOI:10.18957/rr.6.1.86
2013B1709 / BL14B2

谷屋 啓太, 今井 智太, 桶本 篤史, 市橋 祐一, 西山 覚

Keita Taniya, Tomota Imai, Atsushi Okemoto, Yuichi Ichihashi, Satoru Nishiyama

神戸大学

Kobe University

Abstract

 SnまたはCoカチオンを水素雰囲気下の液相中で Pt/SiO2 上に還元析出させた、Sn-deposited Pt/SiO2 触媒および Co-deposited Pt/SiO2 触媒における各添加金属種の局所構造についてX線吸収微細構造(XAFS)測定を行った。XANESの結果から、Pt/SiO2 上に析出したSn種およびCo種はそれぞれ4価および2価で存在していることがわかった。また、EXAFSの結果から、SnおよびCoの最近接にはO原子が存在することが示唆されたが、それぞれの化合物種の同定には更なる検討が必要である。


キーワード: Sn-deposited Pt/SiO2、Co-deposited Pt/SiO2、液相還元析出、選択水素化

 

背景と研究目的:

 同一分子内に C=C 結合と C=O 結合を有する不飽和アルデヒドから、その C=O 結合のみを水素化して得られる不飽和アルコールの合成は、香料や医農薬中間体などの合成において重要な反応の1つである。Ptなどの一般的な水素化触媒では、C=C 結合が優先的に水素化され、飽和化合物が主に生成する。このため、不飽和アルコールの選択率向上を目的とした研究が盛んに行われている[1]。

 不飽和アルコールの選択率向上の方法の1つとして、反応溶液中に金属カチオンを溶解する方法が挙げられる[2, 3]。Yuら[2]によると、ポリビニルピロリドンで安定化したPtナノ粒子触媒を用いたシンナムアルデヒドの選択水素化反応において、FeやCoのカチオンを反応溶液に添加すると目的生成物であるシンナミルアルコールの選択率が著しく向上することを報告している。また、Richardら[3]は、活性炭担持Pt触媒を用いたシンナムアルデヒドの選択水素化反応において、反応溶液中に添加したFeカチオンがPt上に析出することを報告している。当研究室では、シンナムアルデヒドの水素化反応溶液中に添加した SnCl2 や CoCl2 が反応中に Pt/SiO2 上に還元的に析出し、Pt表面近傍で2元系触媒となり触媒性能が向上すると考えている。SnやCoが析出した Pt/SiO2 触媒(それぞれ、Sn-depoisted Pt/SiO2 および Co-deposited Pt/SiO2)において、SnやCo種がどのように反応に寄与しているかは明らかとなっていない。不飽和アルデヒドの選択水素化に効果的な触媒の設計指針を構築するためには、触媒上で各添加金属種周辺の局所構造を解析することが不可欠である。

 本研究課題では、Sn-depoisted Pt/SiO2 および Co-deposited Pt/SiO2 触媒中のSnおよびCo種の化学状態を明らかにするため、XAFS測定によりSnおよびCo種の価数や配位構造の解析を行った。


実験:

 Pt/SiO2 触媒は H2PtCl6 水溶液を用いてPt担持率が 4 wt% となるように含浸法により調製した。含浸後、623 K で空気焼成および 573 K で水素還元を行った。Sn-depoisted Pt/SiO2 および Co-deposited Pt/SiO2 触媒の調製はステンレス製オートクレイブを用いて行った。Snカチオン濃度が 1.0 mM になるように SnCl2·2H2O を2-メチル-2-ブタノールに溶解した。Coの場合は、0.5 mM となるように CoCl2·6H2O を2-メチル-2-ブタノールに溶解した。これらの溶液 4 mL に、Pt/SiO2 を 25 mg 分散し、オートクレイブ中で水素雰囲気下(2.0 MPaゲージ圧)、393 K で 4 h 撹拌した。SnおよびCoの担持量は、触媒調製前後の溶液を原子吸光分析することで算出した。本条件では、Sn担持量は 63.9 μmol/g-cat であった。一方、Co担持量は 78.7 μmol/g-cat となり、添加したCoのほぼ全量が Pt/SiO2 上に担持されたことを意味する。また、SnはCoに比べて担持されにくいことがわかる。

 XAFS測定はBL14B2ビームラインで行った。Snに関しては、Sn-deposited Pt/SiO2触媒および標準試料である Sn foil、SnO、SnO2 および SnCl2·2H2O の Sn-K 端領域について測定した。Coに関しては、Co-deposited Pt/SiO2 触媒および標準試料である Co foil、CoO および CoCl2·6H2O の Co-K 端領域について測定した。Sn foil および Co foil を除いた試料に関しては、約 20 mg の試料を 100 kg/cm2 でプレスし、直径 1 cm のペレットにしたものを測定に用いた。標準試料は透過法により測定し、Sn-depoisted Pt/SiO2 および Co-deposited Pt/SiO2 触媒は19素子SSDを検出器として用いた蛍光法により測定した。XAFSの解析には、REX2000を使用した。

 シンナムアルデヒド(Ph-CH=CH-CHO)の水素化反応には、ステンレス製オートクレイブを用いた。シンナムアルデヒド 0.2 mL、触媒 25 mg、溶媒として2-メチル-2-ブタノール 4.0 mL を用い、水素雰囲気下(2.0 MPaゲージ圧)、反応温度 393 K、で反応した。反応時間は Sn-deposited Pt/SiO2 触媒では 2 h、Co-deposited Pt/SiO2 触媒では 0.5 h とした。生成物の分析はGC(FID)により行った。


結果および考察:

 表1に各触媒上でのシンナムアルデヒドの水素化反応の結果を示す。シンナムアルデヒドの C=O 結合のみが水素化された目的生成物であるシンナミルアルコール(UOL)、C=C 結合のみが水素化され3-フェニルプロピオンアルデヒド(SAL)およびそれら両方が水素化された 3-フェニル-1-プロパノール(SOL)が生成物として得られた。Pt/SiO2 にSnを液相還元析出することで、転化率が 14.9% から 53.4% に、目的生成物であるUOLの選択率が 10.1% から 86.1% まで向上した。一方、Coを液相還元析出すると、転化率が 14.9% から 43.4% に、UOLの選択率は 10.1% から 95.3% まで飛躍的に向上した。UOL選択率の観点から見ると、SnよりもCoの方が添加金属として適している事がわかる。


表1. 各触媒上でのシンナムアルデヒドの水素化反応


 図1に各試料におけるSn-K端のXANESスペクトルを示す。標準試料である Sn foil、SnO、SnO2 および SnCl2·2H2O の吸収端エネルギーは、それぞれ、29195.5 eV、29196.0 eV、29201.2 eV および 29195.9 eV であった。また、Sn-depoisted Pt/SiO2 触媒に関して、吸収端エネルギーは 29199 eV 程度となり、4価の標準試料であるSnO2 の吸収端エネルギーに近い値となった。また、スペクトル形状も4価の SnO2 や2価の SnO の形状に類似したものとなった。これらのことから、Sn-depoisted Pt/SiO2 触媒では、Sn種は4価で存在していると示唆される。


図1. Sn foil、SnO、SnO2、SnCl2·2H2O および Sn-deposited Pt/SiO2 における Sn-K 吸収端のXANESスペクトル


 図2にSn-K端のEXAFS干渉関数およびフーリエ変換した後に得られる動径構造関数を示す。動径構造関数(図2b)において、Sn foil に見られる 2.8 Å のピークは、Sn-Sn(3.02 Å)に帰属される [4]。SnOにおいて 1.8 Å および 3.3 Å に見られるピークは、それぞれ Sn-O(2.21 Å)およびSn-O-Snに帰属される [4-6]。なお、いずれの参考文献にも Sn-O-Sn の原子間距離については記載されていなかった。SnO2 において 1.7 Å、3.0 Å および 3.5 Å に見られるピークは、それぞれ Sn-O(2.05 Å)、Sn-O-Sn(3.18 Å)および Sn-O-Sn(3.71 Å)に帰属される [4, 6]。SnCl2·2H2O では、2.1 Å にピークが見られた。既報[7]によると、SnCl2·2H2O の Sn(II) は1つの酸素原子と2つの塩素原子とでピラミダル構造を形成する。それぞれの原子間距離は、Sn-Oが 2.33 Å、Sn-Clが 2.50 Å および 2.56 Å となる [7]。いずれの原子間距離もとても近い値を示すため、動径構造関数においては1つのピークとして観測されたものと考えられる。Sn-deposited Pt/SiO2 触媒では、1.7 Å にピークが見られ、SnCl2·2H2O で見られたピークとは明らかに異なっていた。また、そのピーク位置は SnO2 の Sn-O や SnO の Sn-O に近い値を示した。前述のXANESの結果から、Sn種は4価で存在することが示唆されたため、Sn-deposited Pt/SiO2 触媒で見られた 1.7 Å のピークに関して SnO2 のSn-Oを用いてカーブフィッティングを行った(表2および図3)。実験結果とフィッティングデータはよく一致した(図3)。また、原子間距離は SnO2 のSn-Oとよく一致したものの、配位数は異なっていた。これらのことから、Snの最近接原子はO原子であることが示唆されたが、Sn-deposited Pt/SiO2 触媒中のSnがどのような化合物として存在しているかを明らかにするためには、更なる検討が必要である。


図2. Sn-K吸収端に関する (a) EXAFS干渉関数および (b) 動径構造関数(フーリエ変換範囲:k = 3-12Å-1


表2. 各試料の構造パラメーターと Sn-deposited Pt/SiO2 のカーブフィッティング解析値

図3. Sn-deposited Pt/SiO2 における Sn K-edge k3-weighted EXAFS のカーブフィッティング(R = 1.7 Å のピークを、SnO2 の Sn-O により解析


 本研究課題の申請時の計画では、Sn-deposited Pt/SiO2 および Pt/SiO2、従来の逐次含浸法で調製した Sn/Pt/SiO2のSn吸収端およびPt吸収端を比較する予定であった。申請時点では、Sn種がPt上に還元的に析出することで、SnとPtが相互作用し金属間化合物のようになっていると考えていた。金属間化合物で存在する場合、Sn種は金属状態で存在する。しかしながら、実験中に Sn-deposited Pt/SiO2 におけるSn種のXANESの解析をしたところ、Sn種が酸化状態で存在することがわかった。このため、Sn種とPtとの相互作用を観測することは困難であると考え、Pt吸収端の測定を行わなかった。また、当研究室では Co-deposited Pt/SiO2 触媒も本反応に効果的であったため、SnとPtの相互作用が観測できなかった際のバックアップとして準備していた Co-deposited Pt/SiO2 触媒およびCoの標準試料についてXAFS測定を行った。

 図4に各試料におけるCo-K端のXANESスペクトルを示す。標準試料である Co foil、CoO および CoCl2·6H2O の吸収端エネルギーは、それぞれ、7712.3 eV、7716.4 eV および 7716.3 eV であった。また、Co-deposited Pt/SiO2 触媒に関して、吸収端エネルギーは 7716 eV 程度となり、2価の標準試料である CoO や CoCl2·6H2O の吸収端エネルギーとほぼ同じ値となった。また、スペクトル形状も0価のCo foilとは異なり、2価の標準試料である CoO や CoCl2·6H2O の形状に類似したものとなった。これらのことから、Co-deposited Pt/SiO2 触媒では、Co種は2価で存在していると示唆される。


図4. Co foil、CoO、CoO、CoCl2·6H2O および Co-deposited Pt/SiO2 における Co-K 吸収端のXANESスペクトル


 図5に各試料における Co-K 端のEXAFS干渉関数およびフーリエ変換した後に得られる動径構造関数を示す。動径構造関数(図5b)において、Co foilに見られる 2.3 Å のピークは、Co-Co(2.51 Å)に帰属される [8]。CoO において 1.6 Å および 2.8 Å に見られるピークは、それぞれ Co-O(2.13 Å)および Co-O-Co(3.02 Å)に帰属される[8]。CoCl2·6H2O では、1.5 Å および 2.1 Å にピークが見られた。既報[6]によると、CoCl2·6H2O のCo2+ カチオンには最近傍に4つの H2O および2つのCl-アニオンが配位しており、[CoCl2·4H2O]を形成する。この[CoCl2·4H2O]において、Co-O(H2O) および Co-Cl の距離はそれぞれ 2.12 Å および 2.43 Å と報告されている[9]。以上のことから、CoCl2·6H2O の動径構造関数でみられたピークは、それぞれ Co-O(H2O) および Co-Cl であると考えた。Co-deposited Pt/SiO2 触媒では、1.6 Å に明らかなピークが見られたが、CoCl2·6H2O で見られた Co-Cl に帰属されるピークはほとんど見られなかった。このことから、Co-deposited Pt/SiO2 触媒の調製過程で CoCl2 は分解されたことが示唆される。また、そのピーク位置は CoO における Co-O のピーク位置とよく一致していた。表3に 1.6 Å に見られたピークを CoO の Co-O でカーブフィッティングした結果を示す。原子間距離および配位数ともに CoO における Co-O とよく一致した。また、実験結果とフィッティングデータはよく一致した(図6)。実験データとこれらのことから、Co-deposited Pt/SiO2 触媒のCoの最近接原子はO原子であることが示唆されたが、化合物種の同定には更なる検討が必要である。


図5. Co-K吸収端に関する (a) EXAFS干渉関数および (b) 動径構造関数(フーリエ変換範囲:k=3-12Å-1


表3. 各試料の構造パラメーターと Co-deposited Pt/SiO2 のカーブフィッティング解析値


図6. Co-deposited Pt/SiO2 における Co K-edge k3-weighted EXAFS のカーブフィッティング(R = 1.6 Å のピークを、CoO の Co-O により解析


まとめと今後の課題:

 液相での還元析出により調製した Sn-deposited Pt/SiO2 触媒および Co-deposited Pt/SiO2 触媒において、XAFS測定により析出したSn種およびCo種の局所構造の解析を行った。XANESの結果からSn種は4価、Co種は2価で存在していること、また、EXAFSの結果からSnおよびCoの最近接原子はO原子であることが示唆されたが、化合物種の同定には更なる検討が必要である。

 窒素下で調製された Sn-deposited Pt/SiO2 触媒および Co-deposited Pt/SiO2 触媒は水素下で調製された触媒よりもUOL選択率が低いことから、触媒調製時に in-situ で触媒上のSn種やCo種が還元され真の活性サイトとして機能している可能性がある。本課題では、測定用サンプルを空気雰囲気下で作成したため、還元されていたSn種およびCo種が容易に酸化され、酸化状態のSn種およびCo種が観測されたものと考えられる。今後、触媒調製後に空気雰囲気に晒さないような測定サンプルの作成や、in-situ で還元しながらのXAFS測定を行い、SnおよびCoの局所構造解析を行うことで反応中に真に有効なSn種およびCo種を調べていく予定である。


参考文献:

[1] P. Mäki-Arvela, et al., Appl. Catal. A 292, 1 (2005).

[2] W. Yu et al., J. Mol. Catal. A: Chem. 138, 273 (1999).

[3] D. Richrad et al., Catal. Lett. 3, 53 (1989).

[4] A. EI Abed et al., J. Chim. Phys. 94, 54 (1997).

[5] D. A. McKeown et al., J. Non Cryst. Solids 354, 3142 (2008).

[6] F. Montilla et al., J. Phys. Chem. B 108, 5044 (2004).

[7] H. Kiriyama et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 46, 1389 (1973).

[8] A. Yu. Khodakov et al., J. Catal. 168, 16 (1997).

[9] J. Mizuno, J. Phys. Soc. Jpn. 15, 1412 (1960).



ⒸJASRI


(Received: January 6, 2017; Early edition: November 24, 2017; Accepted December 18, 2017; Published: January 25, 2018)