SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

アイソタクチックポリプロピレン(PP)/熱可塑性エラストマー2成分ブレンド系における熱膨張挙動とPP格子定数及び長周期の温度変化
Study on Temperature Dependence of Crystalline Structure and Long Period of Injection-molded Isotactic Polypropylene/Thermoplastic Elastomer Binary Blends

DOI:10.18957/rr.6.1.115
2015A1948 / BL19B2

小野 道雄

Michio Ono

ダウ・ケミカル日本株式会社

Dow Chemical Japan, Ltd.

Abstract

 ポリプロピレン/熱可塑性エラストマーブレンドの長周期及び格子定数の温度変化を小角X線、広角X線散乱測定を用いて調べた。PP長周期は温度と共に増大した。エラストマーブレンドによりPP長周期は大きく増加し、高メルトインデックス(低粘度)のエラストマーブレンド系ほど長周期の温度変化が大きくなることがわかった。またPP格子定数はac軸はエラストマーブレンド系において大きく増加したが、b軸は若干小さくなることがわかった。各格子定数の温度変化はエラストマーのメルトインデックスと強い相関があることもわかった。


キーワード: 小角X線散乱、広角X線散乱、長周期、格子定数、熱膨張係数、射出成形、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー

 

背景と研究目的:

 エラストマー強化ポリプロピレン(以下TPO)とはアイソタクチックポリプロピレン(PP)にエチレン系熱可塑性エラストマー及び必要に応じてフィラーを溶融混練したポリマーアロイであり、自動車のバンパーやインストパネルなどの大型重要保安部品に大量に使用されている。エラストマーやフィラーでPPを強化することで材料の物性を自動車用保安部品としての物性値を満足するレベルまで高めることができる。近年ではこれらTPO部品は意匠部品としての役割も担っており、見栄えや外観も重要視されるようになっている。中でも熱変化に対する寸法変化(線膨張係数:CLTE)の抑制が課題の一つである。TPOのCLTEは5.0〜10 ×10−5 K−1程度であり、鉄(1.0 ×10−5 K−1)と比較すると5〜10倍も大きい。これにより熱変形による鉄部品との隙間及び干渉が発生することになり、意匠性の悪化を招くことになる。従ってTPO部品における面内方向のCLTEの低減が大きな技術課題となっている。

 これまでの社内検討ではPP/種々のエチレン系熱可塑性エラストマーのモデルTPOを溶融混練で作製、射出成型法で試験片を作製してCLTEを評価してきた。その結果、相対的に面内方向に低いCLTEを示すTPOでは以下の三つの特徴があることがわかった。1) エラストマードメインがラメラ形状である(面内方向にシート状に分散し、それらが厚み方向に積層した構造)。2) PP結晶格子のa, c軸が面内、b軸が面直に選択的に配向、3) 熱機械分析データ(TMA)の温度/寸法プロファイルにおいて、PPのガラス転移温度域に明瞭な変局点が存在することを見出している[13]。1) はエラストマードメインとPPの界面張力が温度上昇により不安定になり、安定な球状に戻ろうとする力がPPマトリックスドメインの膨張を抑えようとすることが面内方向のCLTEの抑制に寄与していると考えている。しかしながら2) についてはPP結晶格子のabc各結晶軸の格子間隔の温度変化が影響していると思われるが、格子間隔と温度との関係が明らかになっていないため、推測の領域を出ない。また3) については変局点がPPのガラス転移温度付近で見出されることから、PP非晶部の温度変化に関係した変化が関係していると思われるが、温度変化とPP長周期の関係が明らかになっていないため、推測の域を出ない。今回これらを明らかにするためにエラストマードメイン形状の異なるTPO射出成型サンプル(ドメイン形状が球状及びラメラ形状)を準備した。球状ドメインのTPO成型品では面内方向のCLTEは相対的に大きいことが分かっている。今回SPring-8放射光を利用して、これらのサンプルのPP結晶格子間隔の温度変化及びPP長周期の温度変化とCLTEの変化との関係性を調べた。

 

実験:

 PPはメルトインデックス(MI)(230°C測定)が30 g/10 minのアイソタクチックPP(hPP)を使用した。熱可塑性エラストマーはMI(190°C測定)の異なる6種類のエチレン-1-オクテン共重合体(EO)を使用した。各原料のMI値と密度を表1に示す。本研究ではEOは、同程度の密度のものを使用しており、MI値のみが異なる。原料名のEOの後の数値はMIを示す。従って本研究はEOの粘度(MI値)変化とSAXS、WAXSデータとの関係性を調べていると考えて良い。

 

Table 1. Raw material information

 各hPP-EO(70/30 w/w%)ブレンドは同方向二軸押出し機による溶融混練により作製した。試験片は射出成形により作製した。試験片は100°Cで24時間熱処理を施し、熱及び残留応力履歴を取り除いたものを使用した。

 BL19B2ビームラインの温度可変SAXS、WAXS測定を行った。使用したX線のエネルギーは24 keV、カメラ長はSAXS測定が3,076 mm、WAXSが783 mmであり、試料で散乱したX線をPILATUS-2M検出器により計測した。カメラ長はベヘン酸銀の回折プロファイルを用いて較正した。測定温度はSAXS測定では−20〜120°Cまで10°C刻みで変化させた。WAXSは−20、0、25、40、60、100°Cの各温度で測定を行った。X線露光時間は各温度10 s とした。X線は試験片の厚み方向に平行に照射した。図1に試験片への照射方向を示す。

図1. X線照射方向

 

 解析は2次元散乱プロファイルを1次元データ化したものを用いたが、本研究では流動方向のCLTEとの関連を論ずるために、解析領域はSAXSでは85/95°、−85/−95°、WAXSでは80/100°、−80/−100°で行った(流動方向)。図2(a)、(b)にSAXS, WAXSの2次元散乱プロファイル上での解析領域を示す。

図2. (a) SAXS解析領域、(b) WAXS解析領域

 

結果と考察:

 まず試験片の電子顕微鏡で試験片の形態観察を行った。試験片の観察面を図3に、代表的なブレンド品試験片断面の観察結果を図4に示す。流動方向に平行な面のコア層の形態観察を行った。

図3. 電子顕微鏡観察面


図4. 射出成形品断面の電子顕微鏡観察結果:左上から(a) hPP-EO0.5、(b) hPP-EO1.0、(c) hPP-EO5.0、(d) hPP-EO30 および (e) hPP-EO500

 

 基本的にはhPPとEOは非相溶もしくは部分相溶であり[4,5]、図4の明るい部分はPPマトリックス領域、暗い部分はEOドメインであると思われる。EOのMIが上がる(EOが低粘度になる)ことでEOは流動方向に変形していく様子が観測された。

 非相溶または部分相溶系のポリマーアロイの溶融状態でのマイナー成分の粒子径Rnは、流動場中では基本的にはTaylerの式(1)に従う[6]。

 

 ここでΓ、γ、m、i は界面張力、せん断速度、マトリックスの粘度、マイナー成分の粘度を表す。本研究で用いたブレンド系は、 (1) 同条件下での成形であること、(2) マトリックスPPは同一のものを使用していること、(3) EOの密度(またはコモノマー量)は、ほぼ同一であることを考慮すると、せん断速度、マトリックス粘度及び界面張力は各アロイでほぼ同等と考えられる。従ってEO粒子径は粘度比に依存する。

 本研究の系ではMIが上がる(低粘度)につれてPPマトリックスとの粘度比が小さくなることでEOドメインのせん断流動場での変形が容易になり高MIのEOドメインの変形が促されたものと思われる。

 25℃でのPP-EO0.5(数値はMI)の2次元SAXS散乱プロファイルを図5示す。子午線方向(流動方向)に大きく配向している様子が明瞭に観察される。温度可変時では強度(濃度)は変化するものの流動方向への配向は大きくは変化しなかった。またその他のアロイも同様に子午線方向(流動方向)への明瞭な配向が観測された。

図5. hPP-EO0.5射出成形品の2次元SAXS散乱プロファイル

 

 図2(a)の解析領域でhPP-EO0.5の各温度での2次元散乱プロファイルを1次元データ化して、散乱強度(I)を散乱ベクトルの波数(q値)の関数としてプロットしたものを図6に示す。q=0.3〜0.4 nm−1近辺に明瞭なピークが観測される。これはd値で18〜20 nmに相当し、PPラメラの長周期構造に由来するものと思われる。また強度は温度上昇と共に増加している。これはPP非晶部が溶融し、結晶部との密度差が増加したことによると思われる。またピークトップは温度上昇と共に小角側に若干シフトしている。他のブレンド品も同様に、各温度における1次元データ解析を行った。

図6. hPP-EO0.5の各温度での1次元SAXSプロファイル

 

 図7に各ブレンド品の周期長と温度との関係をプロットした。各ブレンドのEOの後の数値はEOのMI値である。数値が大きいほど低粘度である。また各ブレンド品の試験片の流動方向(MD)の線膨張係数(CLTE)も記載した。hPP単身とブレンド品の周期長の絶対値を比較すると、ブレンド品の周期長が大きいことがわかる。PP非晶領域にEOが存在し、非晶領域の厚みを厚くしているためと思われる。各ブレンド間では、高MI(低粘度)のEOほど周期長の温度変化が大きいことがわかる。これに関しての考察はまだ十分ではないが、PP結晶/非晶界面に存在するEOが溶融することによって見かけ上、PP非晶部の厚みが増すことと関係があると推測している。

図7. 各ブレンドの長周期と温度との関係

 

 図8に25℃でのhPP-EO0.5(数値はMI)の2次元WAXS散乱プロファイルを示す。SAXSほど明瞭ではないものの、各格子面からの反射によるデバイリングの強度は方向によって異なり、配向している様子が観測される。特徴的なのは(040)面の回折が流動方向に対し垂直方向に配向している点である。これはSAXS散乱プロファイルで確認されたラメラ面のc軸方向が流動方向に配向していることと一致する。

図8. hPP-EO0.5射出成形品の2次元WAXS散乱プロファイル

 

 図2(b)の解析領域でhPP-EO0.5の各温度での2次元散乱プロファイルを1次元データ化して、散乱強度(I)を散乱ベクトルの波数(q値)の関数としてプロットしたものを図9に示す。PPのα晶由来の(110) (040) (130) (111)及び(041)面からの反射ピークが観測される。これに加えてβ晶の(300)面からのピークも観測された。

図9. hPP-EO0.5のWAXSプロファイル

 

 他のブレンド品も同様に各温度に対して1次元プロットを行った。また各ブレンドの結晶(単斜晶)の各温度での格子定数abcは次式(2)、(3)から算出した[7]。

 

 

 結果を図10(a)、(b)、(c) に示す。まずEOブレンドにより各軸の絶対値が変化している点に注目したい。ac各軸は長くなり、b軸は若干短くなっている。結晶軸の変化は基本的には格子振動の非調和性及び結晶弾性率の変化に依存する[8,9]。しかしながらPPと非相溶もしくは部分相溶[4,5]のEO添加により、これらが変化したとは考え難く、図2のSAXSのデータを考慮して別の要因を考えるべきであろう。PP非晶部は運動性が拘束された中間相と自由度の高い相からなることが報告されている[10,11]。この中間相は結晶と非晶の界面近傍に存在することから、結晶格子の運動性にも影響を与えていると思われる。ブレンド系では非晶部分に溶け込んだEOが中間相の拘束を緩和する働きをすることは考えられる。これによりPP結晶の運動性にも変化が生じたものと思われる。

図10. 左から(a) 各ブレンドのa軸の温度変化、(b) 各ブレンドのb軸の温度変化、(c) 各ブレンドのc軸の温度変化

 

 各格子定数のCLTEは、例えばa軸のCLTE(a)は次式(4)から算出した。

 

 

 ここでa25は25℃におけるa軸の格子定数、Δaは−20°Cと100°C間のa軸の格子定数の温度変化、ΔTは−20℃から100℃の温度変化(従って、この場合は120℃)である。同様にbc軸の温度変化も求めた。図11(a) に各格子定数のCLTEとEOのMIとの相関を示した。図11(b) に試験片(バルク)のCLTE(MD:流れ方向)とEOのMIとの関係を示している。図11(a)からa軸はMI依存性がなく、ほぼ一定であるのに対し、bc軸はMI依存性を示すとこがわかる。特にc軸はMI依存性が大きく、MI=30まではほぼ直線的に下がっていき、MI>30かからは逆に増加していく傾向を示す。この挙動は図11(b)のバルクの線膨張と同じであり、c軸がバルクの線膨張と強い相関があることを示すものである。

図11. 左(a) 各結晶軸の CLTE と EO の MI、右(b) 各ブレンドのバルク CLTE と EO の MI

 

今後の課題:

 本研究ではPPとエチレン-オクテンエラストマーブレンドの粘度依存性を確認した。今後はコモノマー量、コモノマー種依存性も同様な実験ができればと考えている。また今回の実験でPP非晶部の拘束相の緩和挙動の重要性が示唆されたので、NMR等を用いてより詳細に調べる予定である。また今回のWAXS測定でPP結晶c軸とバルクの熱膨張に相関があることがわかったので、c軸配向度を極点作図測定等で定量的に把握したいと考えている。

 

参考文献:

[1] M. Ono et al., Polymer, 46, 4899 (2005).

[2] M. Ono et al., Polym. J., 36, 563 (2004).

[3] M. Ono et al, J. Appl. Polym. Sci., 107, 2930 (2008).

[4] 佐野博成 他, 高分子論文集, 56, 693 (1999).

[5] C.J. Carriere et al., J. Appl. Polym. Sci., 66, 1175 (1997).

[6] G.I. Taylor, Proc. Royal Soc. A, 146, 501 (1934).

[7] 田所宏行,「高分子の構造」, 化学同人, 京都 (1976).

[8] 中前勝彦 他, 高分子論分集, 42, 241 (1985).

[9] 中前勝彦 他, 高分子論文集, 42, 361 (1985).

[10] C. Hedesiu et al., Macromolecules, 40, 3977 (2007).

[11] Q. Zia et al., Macromolecules, 41, 8095 (2008).

 

ⒸJASRI

 

(Received: January 29, 2016; Early edition: September 22, 2017; Accepted: December 18, 2017; Published: January 25, 2018)