SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

固体酸化物形燃料電池用酸化物イオン伝導体のXRD解析
XRD Analysis of Oxygen Ion Conductor for SOFC

DOI:10.18957/rr.6.1.125
2016A1566 / BL19B2

岩井 広幸,齋藤 正紀,高橋 洋祐

Hiroyuki Iwai, Masaki Saito, Yosuke Takahashi

(株)ノリタケカンパニーリミテド

Noritake Co., Ltd.

Abstract

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)電極に用いる酸素イオン伝導材料として、現在もっともよく利用されているのがぺロブスカイト型酸化物 La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3−δ(LSCF)である。長期信頼性の確立、さらなるコスト低減を推し進めることで、SOFCの普及拡大が期待されている。SOFCの作動温度条件におけるLSCFの主要な劣化要因は、微量存在する不純物との反応による材料組成変化(高抵抗相の形成等)である。LSCFの合成条件や発電条件が異なる場合において結晶構造の安定性について工業的に重要な知見が得られた。製造時から発電時まで、材料の結晶性を安定させるために合成温度を高くすることが有効であるという指針を得られた。


キーワード: ペロブスカイト型酸化物、in-situ XRD、燃料電池

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背景と研究目的:

 資源・エネルギー問題の解決、循環型社会の実現を目指し、水素エネルギーシステムの確立が強く望まれている。高効率な固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、触媒に貴金属が不要で、熱と電気の併給が可能であり、天然ガス、アンモニア、バイオガス等種々の燃料が利用可能である等の利点を活かし、災害時対応も可能な家庭用分散電源としての応用が期待されている。

 SOFCには、膜材料や電極材料として、酸素イオン伝導材料が用いられており、我々は高性能かつ低価格な酸素イオン伝導材料開発に取り組んでいる。Fe系ペロブスカイト酸化物に代表される新規材料の探索に成功しており、世界トップレベルの性能発現を実証してきた。

 SOFCには低温作動化が期待されている。従来の 800℃ 以上の運転温度から 600〜700℃ まで低下させることで、周辺部材やインターコネクタなどの材料の選択肢が広がり、より安価な材料を使用することが可能となる。しかし、低温化することで、正極(空気極)の電極抵抗が増大し、著しい性能低下が起こることが大きな課題となっている。この課題に対して、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3 をはじめとする酸素イオン・電子混合伝導体を正極として用いる開発が精力的に行われており、実用化に向けた性能実証も多く進められている。これら材料はペロブスカイト構造(ABO3)と呼ばれる結晶構造をしている。

 LSCFは、SOFCの作動条件で長時間使用すると周辺部材からの被毒や酸素分圧の変化などによって異相が形成する可能性があることがわかった。しかし、どのような結晶相が析出しているのか不明であり、またその析出量も不明であるという課題がある。そこで、本課題にてLSCFの合成条件や運転条件によって、材料そのものにどのような変化が起こっているか検討した。

 

実験:

 試料粉末 La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3−δ(LSCF)はLa、Sr、Co、Feの酸化物もしくは炭酸塩を出発原料として、それぞれ化学両論比で混合し、固相法で合成した。合成温度は 1000℃、1050℃、1100℃ とした。比較として、pechini法(液相法)で合成したLSCF粉末も準備した。合成した粉末を粉砕し、所定の粒度となるように調製した。その後、市販のSOFCハーフセルにペースト化したLSCFをスクリーン印刷し、1100℃ で焼成することによって、SOFCセルを作製した。合成条件の異なるLSCFを用いたSOFCセルの発電耐久試験(700℃、1000時間)を実施した。発電前後のLSCF電極を剥がし、乳棒・乳鉢を用いて粉末化した。

 試料(合成条件 4水準 発電条件 3水準[合成後、SOFCセル作製後(焼成後)、耐久試験後])は内径 0.3 mm の石英ガラスキャピリーに充填した。なお、計画に対して、合成や発電評価に不備があり、準備できなかった8水準の粉末があった。粉末X線回折の測定はSPring-8のBL19B2に設置してある大型 Debye-Scherrer 計を使用し、検出器は散乱角 2θ が高角度の回折線まで捉えられる Imaging-Plate(IP)を用いた。測定に使用した波長は 0.4 Å であり、露光時間は 20〜60 min とした。波長較正は CeO2 標準試料を用いて実施した。

 実験で得られたXRDパターンについて、RIETAN-FP[1]を用いてリートベルト解析を行った。。結果の描画にはVESTA[2]を用いた。

 

結果および考察:

 図1にLSCFの構造モデルを示した。このモデルで各材料のリートベルト解析を行った結果を図2および図3に示した



図1. LSCFの構造モデル(上)および pechini 法で合成した粉末のリートベルト解析結果<(下)/p>

(空間群:R-3c、a = b = 5.495 Å 、c = 13.378 Å、α,β = 90°、γ = 120°、Rwp = 3.693、RB = 0.972、RF = 0.593)


図2. リートベルト解析により算出した LSCF の合成後、耐久試験前、耐久試験後、各条件の格子定数 a, b


図3. リートベルト解析により算出した LSCF の合成後、耐久試験前、耐久試験後、各条件の格子定数 c

 

 図2はリートベルト解析により精密化した a および b 軸の格子定数である。合成後の粉末で比較すると、固相法の場合、合成温度が低いほど a , b 軸の長さが短いことがわかった。結晶性が比較的高いpechini法LSCFと 1100℃ 合成が 5.495〜5.500 Å 程度で同等となることがわかった。図3には同じく精密化した c 軸の格子定数の結果を示した。a , b 軸の結果に対して、合成温度が高くなるほど c 軸の長さが短くなることが確認された。1100℃ 合成とpechini合成は 13.38 Å 程度で同等となることがわかった。合成後の粉末と 1100℃ でSOFCセルに電極として焼き付けた後の耐久試験前を比較すると、1000℃ 合成および 1050℃ 合成は a , b 軸の長さは 1100℃ の熱処理によって増加し、c 軸長さは減少することで、1100℃ 合成およびpechini法で合成した粉末に近づくことがわかった。焼き付けの段階で、熱処理によって合成温度が低い材料の結晶が成長したことが影響したと予測している。また、耐久試験前後についてはいずれの条件について、格子定数は変化していないことを確認した。

 図4にXRD測定によって検出した異相となる炭酸ストロンチウム(SrCO3)の定量結果を示した。固相法で合成したLSCFはいずれも合成後からSOFCセルの電極として形成するための焼き付けを経ることで SrCO3 量は減少することを確認した。それに対して、Pechini法で合成したLSCFは SrCO3 量の変化は少なかった。いずれにしても、SOFCセルの耐久試験前後で SrCO3 の変化は少ないことから、今回検出した SrCO3 の耐久性に与える影響は初期の1000 時間においては大きくはないと予測した。


図4. Rietan-FP にて計算した LSCF に対する SrCO3

 

 リートベルト解析の結果から、CoおよびFeを中心とする配位多面体について検討した。CoおよびFeを中心に酸素が6配位の八面体を形成している構造である。八面体構造の対称性を表す尺度(低い方が対称性が高い)である Bond Angle Variance(結合角分散、以下BAV)の算出結果を図5に示した。固相法で比較すると、合成温度が高くなるほどBAVが高くなることを確認した。pechini法で合成したLSCFが 0.37 付近で最もBAVが高かった。


図5. リートベルト解析結果より算出した Co、Fe-O 八面体の結合角分散

 

 耐久試験前、耐久試験後で比較すると、固相法で合成したLSCFはBAVが増加していることが確認された。一方、pechini法で合成の場合はほとんど変化していないことがわかった。ペロブスカイト型酸化物(ABO3)については遷移金属Bと酸素Oの B-O-B 結合が電子伝導性に寄与することが報告されており[3]、配位多面体の構造が物性に大きく寄与することが予測される。耐久試験前後において、固相合成の場合、格子体積はほとんど変化していないにも関わらず、BAVは変化していることがわかった。合成温度が低い方が、この増加度合は小さい傾向がある。現時点ではこの現象が、SOFCセルの劣化に直接結びつくかは不明であり、継続検討する。

 

今後の課題:

 今回のデータを基に、低コスト化が期待できる固相合成法のプロセス改良を検討し、格子体積および配位多面体の対称性(結合角分散)の変化とSOFCセルの耐久性の関係性を議論すること。

 

参考文献:

[1] F. Izumi, K. Momma, Solid State Phenom., 130, 15 (2007).

[2] K. Momma, F. Izumi, J. Appl. Crystallogr., 44, 1272 (2011).

[3] J. Richter, P. Holtappels, T. Graule, T. Nakamura, J. Gauckler, Monatsh. Chem., 140, 985 (2009).



ⒸJASRI

 

(Received: January 31, 2017; Early edition: November 24, 2017; Accepted: December 18, 2017; Published: January 25, 2018)