Volume5 No.2
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
貴金属を使用しない燃料電池カソード触媒のHAXPEによる解析3
HAXPES Analysis oh Non-Platinum Cathode Catalysts for Fuel Cell part 3
aダイハツ工業(株),b関西学院大学,c(国)日本原子力研究開発機構
aDaihatsu Motor Co., Ltd., bKwansei Gakuin University, cJAEA
- Abstract
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アニオン交換膜形燃料電池に用いられるカソード触媒の成分を明確にするために、硬X線光電子分光(HAXPES)を用いた解析に取り組んだ。現在着目しているキレート触媒は中心金属に配位子が配位しており、その原料や焼成方法によって性能が大きく変化する。今回は粒子径の異なるテンプレート材から作製したFeキレート触媒の成分解析を行い、ラボXPSでは分からなかったFe組成の違いが明らかになった。
キーワード: 燃料電池、アニオン交換膜形、非白金カソード触媒、HAXPES
背景と研究目的:
次世代自動車として期待されている燃料電池車は、2015年に市場投入され今後さらに市場拡大を計画しているが、依然、水素貯蔵の方法や電極に使用する白金の資源問題がある。ダイハツでは、アルカリ性のイオン交換膜を用いた「アニオン交換膜形燃料電池」の早期実現に向けて、国内外の大学・研究機関と連携して研究開発を行っている。発電の心臓部分である電極触媒の開発では、燃料側のアノード触媒および空気側のカソード触媒において、非白金ながら白金の性能を超える出力性能が得られており、実用化の可能性がみえてきている[1]。カソード電極触媒としては金属に配位子が配位したキレート触媒の開発に注力しており、これまでCoやFeを活性種とする金属キレート触媒をアニオン燃料電池に適用し、燃料電池特性が飛躍的に向上することを報告した[2, 3]。
上記金属キレート触媒で起こる酸素還元反応には、金属と配位子の結合状態が重要な役割を果たす。我々はこれまでCoキレート触媒とFeキレート触媒について解析実験を行い、触媒性能との相関について知見を得てきた。
金属との配位構造を構成するNを含有する前駆体の種類が、触媒活性に影響を与えることが見出され始めており、触媒活性の向上に成功している[4]。また、触媒合成時には、物質拡散に必要なメソ孔を形成するためにシリカを混合しているが、シリカの種類が合成反応の進みやすさを変え、触媒組成を変える可能性がある。そこで今回、シリカの種類が触媒組成に与える影響を調査することを目的に、粒子径の異なるシリカを用いて合成したFeキレート触媒の解析を行った。各触媒の活性については、電池発電性能測定により事前評価し、HAXPES測定と発電性能評価の結果を照らし合わせることで、触媒組成と活性との相関を調査した。
実験:
測定試料については、FeアミノアンチピリンをCabot社製のシリカM5(平均粒子径:10nm)またはシリカL90(平均粒子径:20nm)と混合して焼成し、焼成後にシリカを除去する事によって2種類の触媒サンプルを作製した。
硬X線光電子分光測定(HAXPES)において、光電子分光アナライザーにはVG-SCIENTA社製R-4000を用いた。Pass Energyは200 eV、スリットサイズはcurved 0.5 mmとした。光源はSPring-8の標準型真空封止アンジュレータ、モノクロメータはSi(111)を用いた傾斜配置直接水冷型二結晶モノクロメータが 採用されている。モノクロメータとミラーの間にチャンネルカットモノクロメーター(Si444反射)を用いている。ビームサイズは0.5 mm(H)× 0.5 mm(V)で、サンプルの固定は、これまで銅板に直径3 mmの穴を開けてそこに触媒粉末を押し込むことでサンプルを形成していたが、サンプルによっては固定が甘く、部分的にサンプルの脱落が起こったため、銀テープ上に固定する方法に変更した。入射エネルギーは7940 eV、エネルギー較正にはAu4fを用いた。光電子出射角度(TOA)は80° に設定し、触媒中の主な要素であるFe、N、C、Oについて光電子スペクトルを測定した。
結果および考察:
Fig. 1にラボXPSによるFe2p測定スペクトル、Fig. 2にHAXPESによるFe2p、N1s、O1s、C1sの測定スペクトルを示す。ラボXPSでは触媒M5および触媒L90のFe2pスペクトルに大きな違いは見られていなかった。一方、HAXPESでは触媒M5、L90ともにFeメタル(0価)のピークが検出されており、触媒M5に比べて触媒L90はFeメタルの割合が多いことが分かった。ラボXPSでは殆ど検出されていなかったFeメタルがHAXPESで検出されたのは、ラボXPSの分析深さ(数nm)に対し、HAXPESの分析深さが数十nmと深いため、触媒の内部に存在するFeメタルを検出したためだと考える。その他、HAXPES測定でのN1sスペクトルにおけるPyrrolic窒素とPyridinic窒素の割合は、ほぼ同じであった。O1sのピークに由来する成分はC-OH、C1sはC-C結合と一部グラファイト化カーボンが含まれていると思われる。
電池発電試験による触媒活性評価では、触媒M5はL90に比べ、触媒活性が反映される低電流領域において電圧が高く、触媒活性が高いことが分かっている。今回の結果から、Feメタルの生成を抑制したことが、活性点であるFeキレート構造を増やすことにつながったという仮説を立てている。今後、Feメタルの生成抑制と触媒活性との相関を検証していく。
Fig. 1 異なるシリカテンプレートを用いたFeキレート触媒のXPSによるFe2p測定結果
Fig. 2 異なるシリカテンプレートを用いたFeキレート触媒のHAXPESによるFe2p、N1s、O1s、C1s測定結果
今後の課題:
今回、サンプルの固定方法を圧縮成型から銀テープ固定に見直したことによって、当初計画に対してサンプル数を変更する必要が生じた。今回の結果を受けて、次回からは、銀テープ固定とする。今後は、触媒の合成原料や合成条件を詳細に検討することにより、Feメタルの生成を抑えることによる触媒活性の向上について検討を行い、燃料電池の高性能化を目指す。
参考文献:
[1] H. Tanaka, et al., ECS Transactions, 16, 459 (2008).
[2] K. Asazawa, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8024 (2007).
[3] K. Asazawa, et al., ECS Transactions, 33, 1751 (2010).
[4] A. Serov, et al., Electrochem. Comm., 22, 53 (2012).
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(Received: March 27, 2017; Accepted: July 18, 2017; Published: August 17, 2017)