SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

高分解能X線CTを用いたセメント不使用結合材の硬化過程の解析
Observation of Temporal Changes of Non-Cementitious Binders using High Resolution X-ray CT

DOI:10.18957/rr.5.2.255
2015B1627 / BL46XU

人見 尚a,鵜山 雅夫a

Takashi Hitomia, Masao Uyamaa

a(株)大林組

aObayashi Co., Ltd.

Abstract

 放射性廃棄物処分場における長期安定性の確保のためカルシウムを溶出するセメントを用いない建設用の結合材料の開発を目的として、,産業副産物を主成分とした新たな結合材について検討を行っている。特定の条件では硬化するという知見までは得られているが、その際の硬化メカニズムは未解明である。本課題では硬化体の微細組織に着目し,高分解能X線CTを用いて硬化体の微細組織の空間情報を取得した。従来の製品との硬化組織の微細構造の比較を行い、異なる組織の形成を示唆する結果を得た。


キーワード: セメント代替材、高分解能X線CT、硬化微細組織

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背景と研究目的:

 現在のコンクリートの結合材であるセメントは、ポルトランドセメント(Ordinary Portland Cement: OPC)を基材としている。OPCはカルシウムやケイ素の水和生成物を主成分とし、長期間水に触れるコンクリート構造物は徐々にカルシウムを水に溶出させ劣化するとされる。大深度地下に建設が検討されている高レベル放射性廃棄物処分場は、超長期において廃棄体からの放射性物質の封じ込めを期待されているが、その建設にはセメント系材料の使用が検討されている。構造物の劣化に加えて硬化セメントより溶出したカルシウムは、止水用の粘土材に影響を及ぼし品質劣化が懸念されている。これらの理由より、カルシウムを溶出しない結合材が必要とされる。代替えの結合材は容易に入手が可能で安価であることより、ケイ素が有望と考えられる。このため我々はフライアッシュ(Fly Ash: FA)に注目した。FAは、石炭火力発電所の運転に伴い発生する産業副産物で、主成分はケイ素及びアルミの酸化物である。FAの表面はガラス状組織で、アルカリ刺激により化学的な反応性を持つことが知られている。この反応に着目して硬化体を作成する技術にジオポリマーがある[1]。これらの硬化体ではケイ素の重合反応による微細組織の形成が推定されるが、X線回折などの鉱物の分析では、生成した微細組織に関する情報は得られず、硬化組織はアモルファスな構造と推定された。硬化メカニズムの解明は、硬化体の材料設計や最適調合を求めるのに欠かせない情報である。このため、複数の配合に関し、キャピラリ注入後から生成した組織の時分割観察を計画したが、配合の違いが見られずかつ硬化が早いため、得られた硬化体の微細構造の形状の詳細観察を行うこととした。


実験:

 高分解能CTを用い、硬化組織の微細組織を観察した。ビームラインはBL46XUを用い、エネルギーはセメントの事例で十分にX線が透過可能であることの知見のある15 keVとし、CCDは浜松ホトニクス社製のC4880-41Sを用いた。画素数は、横方向4000、縦方向1600、画素長は0.35 μmであり、視野は横方向1.4 mm、縦方向0.56 mmである。露光時間は150ミリ秒、投影数は838とした。

 試料は、FAに水酸化カリウム3 mol/lの濃度のアルカリ溶液を水粉体比42%で練り混ぜたもの(FA硬化体)、比較用にOPCに水粉体比50%で水を加えて練り混ぜたもの(OPC硬化体)、さらに放射性廃棄物処分場用セメントとしてCa含有量の少ないHFSC (Highly Fly-ash containing Silica-fume Cement: (OPC : Slica-fume : FA = 4 : 2 : 4、重量比))に水粉体比50%で水を加えて練り混ぜたもの(HFSC硬化体)の3種を観察対象とした。いずれも観察直前に乳鉢で練混ぜを行い、シリンジを用いて、内径1 mmの低吸収ガラスキャピラリに注入した。キャピラリの両端は粘土で封止する乾燥防止処理を行った後に冶具に設置した。キャピラリ注入後から試料の設置までに要した時間は5分程度で、設置後にすぐに、FA硬化体では、1時間おきに4回、OPCとHFSC硬化体では1時間おきに11回の観察を実施した。なお、FA硬化体は硬化速度が早く、1時間程度でほぼ硬化することが事前の検討で明らかになっているため、キャピラリ注入後から4時間までの変化を観察した。

 当初はFA硬化体の配合を変えたものを加え,合計8種類の供試体の観察を計画していたが、FA試験体は、水分割合や水酸化カリウム濃度など変えた配合の違いで、硬化体組織の大きな違いが見られなかったため、これら3種に絞って観察を行った。

 CT観察においては、観察対象を搭載したXYステージを一定の速度(0.38°/s)で回転させ、連続スキャンによってデータを取得した。


結果および考察:

 図1および図2にFA硬化体の断面のキャピラリ注入直後と1時間経過後のX線CT像を示す。ここでは、吸収の大きい領域は白色で、吸収の小さい領域は黒といったグレースケールで表される。以下グレースケールの明るさを輝度と表記する。硬化組織は,キャピラリ注入後より均質な性状を示し、わずかにFAと思われる若干明るい島状の組織を示す結果となった。これは、硬化体がFA由来の比較的原子番号の近いケイ素とアルミニウムから構成されるためと考えられる。また、例えば図1において上部左側から右側に縦に分布する黒色の領域である、キャピラリ注入時に混和した大きな気泡以外に硬化組織には微細な空隙は見られなかった。当初の予想では、硬化後も硬化組織の変化が生じているものと考えていたが、硬化が完了するキャピラリ注入後1時間以降は変化が見られなかった。


図1 FA硬化体の断面(キャピラリ注入直後)

図2 FA硬化体の断面(キャピラリ注入後1時間経過)


 図3、図4および図5にOPC硬化体の断面のキャピラリ注入直後、5時間と10時間経過後のものを示す。図6、図7および図8にHFSC硬化体の断面のキャピラリ注入直後、5時間と10時間経過後のものを示す。なお、OPC硬化体及びHFSC硬化体は、硬化に24時間程度要することが知られている。


図3 OPC硬化体の断面(キャピラリ注入直後)

図4 OPC硬化体の断面(キャピラリ注入後5時間経過)

図5 OPC硬化体の断面(キャピラリ注入後10時間経過)

図6 HFSC硬化体の断面(キャピラリ注入直後)

図7 HFSC硬化体の断面(キャピラリ注入後5時間経過)

図8 HFSC硬化体の断面(キャピラリ注入後10時間経過)


 OPC硬化体とHFSC硬化体では、キャピラリ注入直後は硬化が完了していないため、キャピラリ注入直後と硬化後で断面の形状が異なっていた。さらにHFSCでは、撮影時間内の変形が原因と考えられる図1や図6の黄色の囲み線の中に見られるような線状のノイズが見られた。また、図3および図8に示す、黄色の点線が示すように、粒状の白色の領域が分散している様子が見られた。これらの硬化体はOPCが主材であるため、粒状の領域は原子量の大きいカルシウムと酸化ケイ素からなるセメントクリンカーに相当すると推定された。HFSCは全体の粉体量のうち40%がOPCであるためセメントクリンカーの量も少ないことから、図8の赤色の点線囲み線で示す暗灰色の大きな粒状の領域は、元来ナノ材料であるSilica-fumeの凝集体であると考えられる。

 CT像では画素の輝度は画素に含まれる物質の原子量と質量密度の積に応じて明るい色で示される。硬化体断面図について画素ごとのX線吸収係数のヒストグラムを求め、硬化体性状の変化を求めた。図9にOPC硬化体におけるX線吸収係数と対応する画素数のヒストグラムを示す。同様に、図10にHFSC,図11にFA硬化体のX線吸収係数のヒストグラムを示す。また、OPCおよびHFSCでは,10時間に及ぶ測定時間中においてOPCにおける初期の1時間を除き、X線吸収係数のヒストグラムには大きな変化は見られなかった。FA硬化体では、硬化に伴い2~10 [1/cm] 領域の画素数が減少する傾向を示したが、これは硬化に伴い低密度の領域の減少に伴うものと考えられる。


図9 OPCのX線吸収係数の分布

図10 HFSCのX線吸収係数の分布

図11 FAのX線吸収係数の分布


 図12に示すように、各材料の硬化後のX線吸収係数のヒストグラムでは、OPC、HFSC、FA硬化体の順にX線吸収係数の 20 〜 60 [1/cm] の領域に画素数の多い結果を得た。これは、この順にカルシウム含有量が減少し、FA硬化体ではカルシウムの含有はほとんど無く、ケイ素とアルミニウムの含有が卓越するためと思われる。以上より、FA硬化体はOPCを基材とした従来の硬化体とは異なる硬化組織をある可能性を示唆する結果を得た。


図12 測定終了時のX線吸収係数の分布


今後の課題:

 高分解能CTでは、FA硬化体は従来の結合材とは異なる硬化様式を示す可能性が高いことがわかった。しかし,硬化組織がどのようなものから成り立っているかを理解するには、別の観察手法と組み合わせた硬化メカニズムの検討が必要である。

 事前のX線回折による検討では、特定の鉱物は検出されていない。このため、ケイ素の結合状態を観察できるような手法を見いだすことが必要である。


参考文献:

[1] 菊池 他,コンクリート工学年次論文集, 38, 2283 (2016).



ⒸJASRI


(Received: May 25, 2016; Accepted: July 18, 2017; Published: August 17, 2017)