SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

水素/空気二次電池用触媒の結晶構造解析
Crystal Structure Analysis of Catalysts for Metal Hydride Air Batteries

DOI:10.18957/rr.5.2.270
2016B1609 / BL19B2

梶原 剛史a,夘野木 昇平a, 甲斐 拓也a,土井 修一b, 安岡 茂和a

Takeshi Kajiwaraa, Shohei Unokia, Takuya Kaia, Shuuichi Doia, Shigekazu Yasuokaa

aFDK株式会社,b(株)富士通研究所

aFDK Corporation, bFujitsu Laboratories, Ltd.

Abstract

 正極活物質に大気中の酸素を用いる次世代二次電池「水素/空気二次電池」の開発に向け、放射光粉末X線回折を用いて、酸素還元・発生の二元活性を持つBi2Ru2O7パイロクロア型酸化物触媒の結晶構造を調査した。触媒試料は、共沈法により調製した前駆体を焼成することで作製するが、共沈時に分散剤を加えた試料は結晶子サイズが小さく副生成物が減少したが、電池評価では放電電圧が低下した。


キーワード: 空気二次電池、酸素還元触媒、粉末X線回折、充放電特性

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背景と研究目的:

 水素吸蔵合金を負極活物質に、空気(酸素)を正極活物質に用いる「水素/空気二次電池」は、大気中の酸素を利用するため正極容量は無限大であり、高エネルギー密度化が期待できる新しい二次電池である(図1)。ニッケル水素二次電池にも利用される水素吸蔵合金負極は、充放電時に溶解析出反応を伴わないため、LiやZnのような金属デンドライト成長による内部短絡がなく、安定した電池特性が期待できる。


図1 水素/空気二次電池の模式図


 水素/空気二次電池の正極(空気極)は、ガス拡散電極であり、放電時には酸素を取り込み還元する。充電時にはアルカリ電解液中の水酸化物イオンを酸化させて酸素が発生する。これら酸素の還元・発生の二元活性を持ち、かつ、アルカリ水溶液中で安定な触媒として、Bi2Ru2O7やBi2Ir2O7などのパイロクロア型酸化物(図2)が報告されている[1]。


図2 Bi2Ru2O7構造の模式図


 本実験では、製造条件の異なるBi2Ru2O7触媒の粉末X線回折測定を行い、格子定数や結晶子サイズを定量的に評価した他、充放電を80回繰り返した後の結晶構造の変化を調査した。


実験:

 Bi2Ru2O7触媒は、Bi(Ⅲ)とRu(Ⅲ)を含む水溶液にNaOH水溶液を滴下し、共沈させた前駆体を焼成することで調製した。ここで、試料(1)~(4)は分散剤の効果と製造バラツキの切り分けを行うために共沈時に分散剤なしで同条件に作製しロット間バラつきを比較した。試料(5)は分散剤としてカチオン性界面活性剤を加えて調製した。試料(6)~(10)は分散剤なしで共沈した前駆体を600℃~800℃で焼成温度を変えて調製した。これらの触媒試料を0.3 mmφのリンデマンガラスキャピラリーに充填し、BL19B2のデバイシェーラーカメラ装置一式を用い、波長0.4 ÅのX線により粉末X線回折(XRD)を実施した。検出器はイメージングプレートを用い、露光時間はリートベルト解析により結晶構造が精度よく決定できるよう60分とすることで、回折角度 2θ = 3~70° の範囲の高計数XRDデータを得た。

 電池評価には、上記触媒とNi粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混練して4 cm × 4 cmのシート状に成形した空気極と、水素吸蔵合金を発泡Ni中に充填した負極と、5 mol/LのKOH水溶液で構成された水素/空気二次電池を使用した。空気極表面に大気ガスを53 mL/minでフローしながら、室温環境下にて180 mA (開口面積当たり20 mA/cm2)の定電流充放電評価を実施した。また、上記同様に作製した電池を用いて、80サイクルの定電流充放電試験を実施した後、電極をそれぞれ粉砕・水洗して回収し、上記同様に粉末XRDを実施した。


結果および考察:

 図3に触媒試料(1)~(10)の 2θ = 5~25° 範囲の粉末XRDプロファイルを示す。図3において、各試料のXRDプロファイルは、Bi2Ru2O7の最強線である 2θ = ~7.75° の222回折ピークの強度が一致するように規格化した後、見やすさのためにシフトしてプロットしてある。全ての試料において主要なXRDピークのパターンはBi2Ru2O7(JCPDS番号01-077-9359)と一致していることから、今回の製造方法で目的生成物が得られていることが確認できた。試料の合成条件によらず、ピーク位置は一致しており、触媒の格子定数はほぼ等しいものの、分散剤なしでの合成条件で作成した試料(1)~(4)は、全てのロットで微小ピークが多数検出され、複数の副生成物が存在しているが、分散剤ありでは微小ピークが観察されず、分散剤の効果を確認した。


図3 製造方法が異なる各種Bi2Ru2O7触媒の放射光XRDプロファイルの比較


図4 分散剤の有無によるBi2Ru2O7触媒の放射光XRDプロファイルの比較


図5 水素/空気二次電池の充電カーブ


図6 水素/空気二次電池の放電カーブ


 詳細な比較を行うために、図4に分散剤なしの代表例として試料(4)と、分散剤ありの試料(5)の粉末XRDプロファイルを示す。試料(4)は試料(5)に比べて図中○で示した微小ピークが多数検出され、副生成物が多く存在していた。また、図4中の主要ピークの半値幅は全て試料(5)の方が大きくブロードであり、シェラーの式において形状因子を0.9として見積もった結晶子サイズの平均は試料(4)が202 Å、試料(5)が180 Åであった。

 試料(4)、(5)の触媒を用いて空気極を作製し、水素/空気二次電池の評価を行った。1サイクル目の充電カーブを図5に、放電カーブを図6に示す。図6から分かるように放電容量は同等であったが、放電電圧は試料(4)の方が高かった。また、図5の充電電圧も試料(4)の方が低かった。これは、試料(4)を用いた空気極は、試料(5)を用いた空気極よりも充放電時の抵抗が低いことを表してり、格子歪みや格子欠陥などの結晶性が異なる可能性があり、今後詳細な分析が必要である。


 次に、充放電時の触媒および水素吸蔵合金の安定性を評価するために、試料(4)を用いた水素/空気二次電池において、充放電サイクル試験を実施した。80サイクル後の電池を抜き取り及び、解体を行い、正極及び負極を取り出した。尚、80サイクルの放電容量や充放電時の電圧挙動は、初期と同等であった。図7、8にはサイクル前後の空気正極および水素吸蔵合金負極のXRDプロファイルを示す。Niは導電材として極板作製時に添加したものである。空気極の触媒試料に含まれていた結晶性の副生成物は評価後には消失したが、触媒の主要ピークに変化は見られなかった。副生成物は充放電で溶解したが、本触媒は安定であることが分かった。また、水素吸蔵合金負極についても、主相であるCe2Ni7型(A2B7(2H))[2]のピークに変化は見られなかった。アルカリ水溶液により腐食され生成した希土類酸化物のピークがわずかに観察されたのみであった。この結果から、充放電時を繰り替えてしても触媒や水素吸蔵合金の結晶構造の変化はなく、安定であることを確認した。


図7 80サイクルの充放電評価前後の空気正極(触媒)の放射光XRDプロファイル


図8 80サイクルの充放電評価前後の水素吸蔵合金負極の放射光XRDプロファイル


今後の課題:

 今回、放射光XRD測定で特定できなかった副生成物については、SEMやXAS等の他の分析手法と複合させて特定を試みる。リートベルト法による詳細な結晶構造解析を実施するとともに、電池特性との関係を調査する。


参考文献:

[1] M. Morimitsu, T. Kondo, N. Osada, K. Takano, Electrochemistry, 78(5), 493 (2010).

[2] S. Yasuoka, Y. Magari, T. Murata, T. Tanaka, J. Ishida, H. Nakamura, T. Nohma, M. Kihara, Y. Baba, H. Teraoka, Journal of Power Sources, 156, 662 (2006).



ⒸJASRI


(Received: January 17, 2017; Accepted: July 18, 2017; Published: August 17, 2017)