SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

アニオン形燃料電池カソード触媒のXAFSによるその場測定
In-situ XAFS Measurements of Oxygen Reduction Reaction Electrocatalysts for Anion Exchange Membrane Fuel Cells

DOI:10.18957/rr.5.2.263
2016A1755 / BL14B2

岸 浩史a, 坂本 友和a , 山口 進a, 松村 大樹b, 田村 和久b, 西畑 保雄b

Hirofumi Kishia, Tomokazu Sakamotoa, Susumu Yamaguchia, Daiju Matsumurab, Kazuhisa Tamurab,Yasuo Nishihatab

aダイハツ工業(株), b日本原子力研究開発機構

aDaihatsu Motor Co. Ltd., bJAEA

Abstract

 貴金属を使用しない燃料電池カソード触媒の反応機構を明確にするために、X線吸収微細構造(XAFS)のその場測定に取り組んでいる。今回、ペロブスカイト系金属酸化物触媒(La0.6Sr0.4Mn0.7Co0.3O3)の発電反応における過酸化水素(HO2)の低減要因を検証するため、in-situ XAFS測定により電位変化に対するMn、Coの配位数・価数の差異を比較調査した。Co近傍に酸素欠損が生じ、低配位数化したCoが酸素還元反応を促進させていることが分かった。当該Co近傍の酸素欠損はCoとMnのBサイトでの共存により、Coが低価数化し酸素イオン(O2-)との結合力が低下したものと考える。


キーワード: 燃料電池、アニオン交換膜形、非貴金属カソード触媒、In-situ XAFS

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背景と研究目的:

 ダイハツでは、アルカリ性のイオン交換膜を用いた「アニオン交換膜形燃料電池」の早期実現に向けて、国内外の大学・研究機関と連携して研究開発を行っている。発電の心臓部分である電極触媒の開発では、燃料側のアノード触媒および空気側のカソード触媒において、非白金ながら白金の性能 を超える出力性能が得られており、実用化の可能性がみえてきている[1-7]

 カソード触媒としては金属原子に軽元素を配位させたキレート触媒の開発に注力しており、これまでにCoやFeを活性種とするキレート触媒をアニオン交換膜形燃料電池用のカソード触媒に適用し、燃料電池特性が飛躍的に向上することを報告した。

 得られた反応メカニズムの知見を生かし、Fe系キレート触媒の出力向上に加え、耐久性の向上をねらい選択性の向上(HO2-の低減)に取り組んでいる。選択制向上について電気化学反応測定およびin-situ XAFS(課題番号:2015A1953、2015B1889)から、①Feキレート触媒表面のFeメタル成分の低減がHO2-抑制に寄与することを見出し、本指針を織込んだ試作に取り組んでいる。並行して、②HO2-不均化触媒(ペロブスカイト系金属酸化物触媒[8])を用いた触媒の複合化を進めており、HO2-抑制効果を確認している。当該知見からHO2-低減指針を得るには、電位変化に対する触媒反応スキームや局所構造の変化を把握する必要がある。しかし、動的な変化をとらえる測定は十分な検討が行われておらず、HO2-低減指針の確立には至っていない。そこで今回は、ペロブスカイト系金属酸化物触媒のin-situ XAFS測定を行い、発電中の配位数・価数の変化から触媒反応スキームや局所構造の変化を比較評価した。


実験:

 ペロブスカイト系金属酸化物(構造:ABO3型)について、活性に寄与すると考えられるBサイトに着目し、測定対象にはLa0.6Sr0.4Mn0.7Co0.3O3(LSMC)、La0.6Sr0.4CoO3(LSC)、La0.6Sr0.4MnO3(LSM)[8]の3水準を用いた。In-situ XAFS測定手法は2015A1953、2015B1889と同様で、測定対象をアルカリ電解液中に浸漬させ、ポテンシオスタットにより電位をかけることによって酸素還元反応を起こし、in-situ測定を実施した。セルは3電極型であり、リファレンス電極にはHg/HgO、カウンター電極には白金コイルを用いた。ペロブスカイト系金属酸化物はアニオン形アイオノマを加えて触媒インクを作製し、それをカーボンペーパー上に塗布し電極を形成し、作用極とした。ポテンシオスタットで外部から作用極の電位を制御した。設定電位については、① -600 mV, ② -400 mV, ③ -200 mV, ④ 0 mVおよび⑤ 250 mVの5水準とした。

 触媒の初期状態を電解液供給前に把握した後、酸素を電解液中にバブリングし、溶存酸素の有無を制御した。モノクロメーターにSPring-8標準二結晶分光器で、分光結晶にはSi(111)結晶が採用されているBL14B2で測定を行った。放射光は試料面に垂直に入射させ、透過法によりCo-K端およびMn-K端のin-situ XAFS測定を行った。


結果および考察:

 Fig. 1, 2に (a) LSMC, (b) LSCのCo-K端のEXAFS動径構造関数およびEXAFS振動を示す。第一近接ピーク(Co-Oに相当)の比較(LSMC:FT = 1.5、LSC:FT = 2.1)から、LSMCはLSCに比べ初期構造において低配位数化がみられ、発電反応(低電位化)に対する配位数の変化が大きいことが分かった(FT変化量 LSMC:0.25、LSC:0.09)。

 反応中のCoとMnの相互作用を評価するため、Fig. 3にXANESスペクトル、Fig. 4にXANESスペクトルにおける標準強度((a) Co-K端は0.8、(b) Mn-K端は0.7を採用)のエネルギー値をプロットした。CoおよびMnの価数変化を表すXANESスペクトルのエッジポジションシフトの比較から、初期状態(250 mV)においてLSMCのCoの価数はLSCのCoと比べ低価数化し、LSMCのMnの価数はLSMと比べ高価数化することが分かった。またBサイトが単一元素である触媒(LSC、LSM)に比べてCo、Mnが共存しているLSMCの方が電位変化(250 mVから-600 mV)に対するCo、Mnの価数変化が大きいことが分かった。

 これらの結果から、LSMCにおいてCo近傍に酸素欠損が生じ、低配位数化したCoが酸素還元反応を促進させていることが分かった。当該Co近傍の酸素欠損はCoとMnのBサイトでの共存によりCoが低価数化し酸素イオン(O2-)との結合力が低下したものと推察する。


Fig. 1 FT spectra of Co-K of (a) LSMC and (b) LSC


Fig. 2 EXAFS oscillations of Co-K of (a) LSMC and (b) LSC



Fig. 3 XANES spectra of Co-K of (a) LSMC, (b) LSC and Mn-K of (c) LSMC, (d) LSM


Fig. 4 XANES edge position shift of (a) Co-K of LSMC and LSC, (b) Mn-K of LSMC and LSM


今後の課題:

 上記解析結果に基づいた反応モデルを検証するために、理論計算を用いた構造解析を行う。解析から得られたデータと今回得られた測定結果とを照合し、触媒設計に反映することで電池の耐久性向上を図る。


参考文献:

[1] K. Asazawa et al., Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8024, 2007.

[2] K. Asazawa et al., ECS Transactions, 33, 1751, 2010.

[3] A. Serov et al., Electrochem. Comm., 22, 53, 2012.

[4] A. Serov et al., Angew. Chem. Int. Ed., 126, 10504, 2014.

[5] T. Sakamoto et al., Electrochim Acta, 163, 116, 2015.

[6] 岸浩史 他, 自動車技術会論文集, 46, 361, 2015.

[7] 坂本友和 他, 表面科学, 37, 78, 2016.

[8] T. Nagai et al., J. Electrochem Soc., 163, F347, 2016.



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(Received: Junuary 29, 2017; Early edition: May 25, 2017; Accepted: July 18, 2017; Published: August 17, 2017)