SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

貴金属を使用しない燃料電池カソード触媒のHAXPESによる解析 5
HAXPES Analysis on Non-PGM Oxygen Reduction Reaction Electrocatalyst for Fuel Cells Part 5

DOI:10.18957/rr.5.2.234
2014B1886 / BL46XU

岸 浩史a , 朝澤 浩一郎a, 田中 裕久a, 松村 大樹b, 田村 和久b, 西畑 保雄b

Hirohumi Kishia, Koichiro Asazawaa, Hirohisa Tanakaa, Daiju Matsumurab, Kazuhisa Tamurab, Yasuo Nishihatab

aダイハツ工業(株),b(独)日本原子力研究開発機構

aDaihatsu Motor Co., LTD., bJAEA

Abstract

 非貴金属触媒の活性要因を明確にするためHAXPESによる構造解析に取り組んでいる。今回新たに取り組んだ二元金属(FeMn)錯体触媒の測定によってFeおよびMnの錯体構造を調べることができた。解析結果から、両金属が狙いとするキレート構造を形成していることが分かった。


キーワード:燃料電池、アニオン交換膜形、非貴金属カソード触媒、HAXPES

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背景と研究目的:

 ダイハツでは、アルカリ性のイオン交換膜を用いた「アニオン交換膜形燃料電池」の早期実現に向けて、国内外の大学・研究機関と連携して研究開発を行っている。発電の心臓部分である電極触媒の開発では、燃料側のアノード触媒および空気側のカソード触媒において、非白金ながら白金の性能を超える出力性能が得られており、実用化の可能性がみえてきている。[1-5]

 カソード電極触媒としては金属原子に配位子を配位させたキレート触媒の開発に注力しており、これまでCoやFeを活性種とする金属キレート触媒をアニオン燃料電池に適用し、燃料電池特性が飛躍的に向上することを報告した。

 現在は触媒の高活性化に加え、選択性向上による高耐久化に取り組んでおり、錯体を構成する金属元素を複数種組み合わせ、検討を行っている。選択性向上には触媒の活性構造を明らかにする必要があり、SPring-8で硬X線光電子分光測定 (HAXPES)を用いた触媒解析を行っている。

 今回、新たに試作したFeMnキレート触媒のうち、アミノアンチピリン(AAPyr)を前駆体としたFeMnAAPyrの活性種の構造を解析した。


実験:

 硬X線光電子分光測定(HAXPES)において、光電子分光アナライザーにはBL46XUに設置されているVG-SCIENTA社製R-4000を用いた。Pass Energyは200 eV、スリットサイズはcurved 0.5 mmとした。光源はSPring-8の標準型真空封止アンジュレータ、モノクロメータは間接液体窒素冷却Si(111)二結晶分光器を用いた。モノクロメータとミラーの間にチャンネルカットモノクロメーター(Si(444)反射)を用いた。サンプルは、Agテープ状にサンプル粉末を固定することによって形成した。入射エネルギーは7940 eV、エネルギー較正にはAu4fを用いた。光電子出射角度(TOA)は80°に設定し、触媒中の主な要素であるFe, Mn, N, C, Oについて光電子スペクトルを測定した。

 事前の活性評価でFeおよびMnが高活性であったため活性金属はFe、Mn(一元金属)およびFeMn(二元金属)の試料を評価した。またMnの錯体化の背反となるメタル粒子化に焼成温度が影響すると考え、Mnキレート触媒について900、950、1000℃焼成試料を評価した。さらに前駆体の差異の影響を調査するためアミノアンチピリンに加えナイカルバジンを用いた試料を評価した。


結果および考察:

 FeMnAAPyrのFe2p、Mn2p、N1sの光電子スペクトルをそれぞれFig. 1、Fig. 2、Fig. 3に示す。Fig. 1では錯体構造形成の確認のため、一元金属錯体触媒(FeAAPyr)を比較参照した。またFig. 2では、FeAApyrと同様の製法で作製したMn錯体触媒(XAFSにてMnのキレート構造および酸化物の形成を確認した試料、MnComplex)を比較参照して構造を確認した。さらにFig. 3では、FeMnAAPyr、FeAApyr、MnComplexの構造を確認した。なお、金属濃度は約1~5wt%、N濃度は0.5~4wt%、O濃度は0.5~4wt%、残りはCである。積算数はFe2p 30 回、Mn2p 20 回、N1s 20 回、O1s 5 回、C1s 3 回とした。Fig. 1よりFeは二元化してもメタル化することなくキレート構造を形成していることが分かった。またFig. 2においてMn錯体触媒と同様のピークがみられており、Mnについてもメタル化はしていないことを確認した。さらにFig. 3においてキレート構造として金属と配位するNは、比率が異なるものの五員環(ピロリック結合)と六員環(ピリジニック結合)を主としたキレート構造を形成していることが確認できた[6]。 本傾向は、焼成温度違い(900、950、1000℃の3水準)、前駆体違い(ナイカルバジン)について大きな差異は見られなかった。また、O、Cの結合状態について各試料ともに大きな差異はみられなかった。

 事前に行った回転リングディスク電極(RRDE)測定による評価結果で、FeMnAAPyrはFeAAPyrに比べてHO2-の生成が低減されるといった結果が得られており、Mn錯体触媒の添加効果はMnのキレート構造あるいはMn酸化物による選択性向上によるものと考えられる。


Fig. 1 Fe2p spectra of HAXPES


Fig. 2 Mn2p spectra of HAXPES


Fig. 3 N1s spectra of HAXPES


今後の課題:

 今後は、上記解析結果に基づいた酸素還元反応中の触媒構造変化のモデルを検証するために、同時に行ったXAFS測定や量子力学に立脚した理論計算と併せて解析を行う。解析から得られたデータと今回得られた測定結果とを照合し、触媒設計に反映することで、より高活性なカソード触媒の早期実現を目指す。


参考文献:

[1] H. Tanaka et al., ECS Transactions, 16, 459, 2008.

[2] K. Asazawa et al., Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8024, 2007.

[3] K. Asazawa et al., ECS Transactions, 33, 1751, 2010.

[4] A. Serov, et al., Electrochem. Comm., 22, 53, 2012.

[5] A. Serov, et al., Angew. Chem. Int. Ed., in press

[6] M. H. Robson, et al., Electrochim. Acta, 90, 656, 2013.



ⒸJASRI


(Received: April 10, 2015; Early edition: May 25, 2017; Accepted: July 18, 2017; Published: August 17, 2017)