SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.1

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

抗パクリタキセルモノクローナル抗体の抗原認識メカニズムの解析
Analysis of the Antigen Recognition Mechanism of Anti-paclitaxel Monoclonal Antibody

DOI:10.18957/rr.5.1.1
2012A1068 / BL38B1

田畑 香織a, 新井 栄揮b, 田中 宏幸a, 玉田 太郎b, 森元 聡a, 黒木 良太b

Kaori Tabataa, Shigeki Araib, Hiroyuki Tanakaa, Taro Tamadab, Satoshi Morimotoa, Ryota Kurokib


a九州大学 薬学研究院, b日本原子力研究開発機構

aGraduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University, bJapan Atomic Energy Agency


Abstract

 抗パクリタキセルモノクローナル抗体のパクリタキセル認識メカニズムの解明を目的として、抗パクリタキセルFab (Fragment antigen-binding:断片抗原結合)とパクリタキセルとの複合体の結晶を調製し、続いてX線回折実験を行った。SPring-8 BL38B1にてX線回折実験を行った結果、9 Åの分解能までの低角域に数点の回折点を得ることができたものの、結晶構造を解析することはできなかった。


キーワード: パクリタキセル、モノクローナル抗体


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背景と研究目的:

 パクリタキセルはTaxus brevifoliaから単離された重要な抗癌剤として知られる天然物である[1]。パクリタキセルならびにタキソテールは重要な抗癌剤として知られており、天然化合物から調製されるこれら抗癌剤の有効活用が望まれている。我々は、パクリタキセル高含有品種の作製を目的として、育種のスクリーニングに有用なイムノアッセイ(免疫測定法)用に抗パクリタキセルモノクローナル抗体を自製している[2]。本抗体は、パクリタキセルのみならず重要な抗癌剤の一つであるタキソテールに対しても反応性を有する特徴を有することを確認している。我々が作製した抗パクリタキセルモノクローナル抗体は様々な応用研究に利用できるツールと考えており、本抗体とパクリタキセルの結合様式が解明できれば、抗パクリタキセル抗体の高機能化などの研究を進める上で、有用な情報を得ることができると考えている。

 今回、Taxus brevifoliaの育種研究やパクリタキセルやタキソテールの血中モニタリングなどに応用できるユニークな特徴を有する本抗体について、抗原との結合様式を明らかにするために、抗パクリタキセルFab (Fragment antigen-binding:断片抗原結合)とパクリタキセルとの結晶化を実施した。


実験:

抗パクリタキセルFabの調製

 抗パクリタキセルモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを10%e牛胎児血清(Thermo Fisher Scientific 社製, MA)含有e-RDF培地(極東製薬社製)を用いて大量に培養した[2]。培養後、培養上清をHi Trap Protein G HPカラム(GEヘルスケア・ジャパン社製)に付し、抗パクリタキセルモノクローナル抗体を精製した。次に、抗パクリタキセルモノクローナル抗体を材料としてPierceTM Fab Preparation Kit (Thermo Fisher Scientific社製, MA)を用いてメーカー記載のマニュアルに従いFabを調製した。


抗パクリタキセルFabとパクリタキセルの複合体の調製

 抗パクリタキセルFab溶液(15 mg/ml)とパクリタキセルをモル比1 : 3となるように混合し、PEG/ION screen (Hampton Research社製)を用い、蒸気拡散法による結晶化スクリーニングを行った。20°Cで11日間インキュベートを行った後、4°Cに結晶化プレートを移動した。


X線回折実験

 結晶化母液からφ 0.1 mmのナイロンループで結晶を拾い上げ、Paratone (Hampton Research社製, CA)に30秒間浸漬した後、100 Kの液体窒素気流下、フラッシュ冷却で凍結した。サンプルチェンジャーロボットSPACEを使用し、結晶をマウントした[3]

 X線回折実験は、SPring-8 BL38B1にて実施した。波長1.0 Å、20 secの露光時間、振動角は1°とし回折像を測定した。検出器はADSC Quantum 315r CCD detectorを用いた。測定操作プログラムはBeamline scheduling software BSS[4]およびD-Cha[3]を使用した。φ rangeは0°、90°とした。


結果:

 調製した抗パクリタキセルFabとパクリタキセルを用いて、複合体の結晶化を試みた。20°Cで11日間インキュベートを行ったが、結晶が得られなかったため、4°Cでインキュベートしたところ4日後にPEG/ION screen 96条件中10条件で沈殿が観察され、0.2 M magnesium nitrate、20%PEG3350(PEG/ION I-16)において微小な針状結晶が析出した(図1)。

 得られた結晶を用いて、SPring-8 BL38B1にてX線回折実験を実施した。その結果、9 Åの分解能までの低角域に数点の回折点を得ることができたものの、結晶構造を解析することはできなかった。



図1. X線回折実験に供した結晶


今後の課題:

 今後は、抗パクリタキセルモノクローナル抗体の抗原認識メカニズムの解明が進められる良質な結晶を得るために、Crystal Screen I,II、Wizard I,II、Synergyキットなどを活用して、より高純度、高濃度のサンプルの調製並びに結晶化の最適化を進めて行く計画である。


謝辞:

本研究は、JSPS科研費19590119基礎研究(C)、武田科学振興財団研究助成の薬学系研究奨励金を受けたものです。ここに感謝の意を表します。


引用文献:

[1] Wani, M. C., Taylor, H.L., Wall, M.E., Coggon, P., McPhail, A.T., J. Am. Chem. Soc., 93, 2325-2327 (1971).

[2] Chao, Z., Tan, M., Paudel, M.K., Sakamoto, S., Ma, L., Sasaki-Tabata K., Tanaka, H., Shoyama, Y., Xuan,L., Morimoto, S., J. Nat. Med., 67, 512-518 (2013).

[3] Okazaki, N., Hasegawa, K., Ueno, G., Murakami, H., Kumasaka, T., Yamamoto, M., J. Synch. Rad., 15, 288-291 (2008).

[4] Ueno, G., Kanda, H., Kumasaka, T., Yamamoto, M., J. Synch. Rad., 12, 380-384 (2005).



ⒸJASRI


(Received: June 16, 2016; Early edition: September 26, 2016; Accepted: December 12, 2016; Published: January 31, 2017)