SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.1

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

放射光顕微赤外吸収分光法によるパターン化光架橋性高分子薄膜上に配向した液晶層の分子凝集状態評価
Analysis of Molecular Aggregation States of Liquid Crystals on Patterned Photo-crosslinking Polymer Thin Film by Synchrotron Radiation Microscopic Infrared Spectroscopy

DOI:10.18957/rr.5.1.32
2013A1463 / BL43IR

檜垣 勇次a, b, 石毛 亮平a, 篠原 貴道b, 小林 大悟b, 高原 淳a, b

Yuji Higakia, b, Ryohei Ishigea, Takamichi Shinoharab, Daigo Kobayashib, Atsushi Takaharaa, b


a九州大学 先導物質化学研究所, b九州大学 大学院工学府

aInstitute for Materials Chemistry and Engineering, Kyushu Univ, bGraduate School of Engineering, Kyushu Univ.


Abstract

 液晶配向を誘起する光架橋配向性アクリレート薄膜と液晶(5CB)からなる積層膜を調製し、放射光顕微赤外分光法により、配向性基板上に塗布した液晶の配向状態評価を試みた。5CBのCN伸縮振動およびフェニル基C=C伸縮振動に由来する吸収の強度比より、光架橋配向性アクリレート薄膜の硬化による液晶積層膜の配向度の変化が観測された。パターン化基板の面内配向異方性評価に必要な、局所領域における赤外吸収スペクトルの計測は、光架橋配向性薄膜や5CB積層膜の面内不均一性により困難であった。光照射時間や光架橋配向性アクリレート組成物の組成など、硬化条件の最適化による面内不均一性の低減が課題である。


キーワード: 液晶、薄膜、光パターニング


pdfDownload PDF (257 KB)

背景と研究目的:

 ディスプレイに代表される液晶デバイスにおいて、液晶の配向制御はデバイス性能に直結する極めて重要な要素技術である。従来、液晶の配向方法として基板上に塗布した液晶膜を布で擦る、いわゆるラビングが用いられてきた。しかしながら、ラビング処理工程では摩耗粉によるコンタミネーションや、直接布を接触させて擦るために液晶分子の付着や応力分布による不均一性の発生等の欠点があり、新規液晶配向法の開発が求められている [1, 2]。近年、液晶を塗布する基板に液晶配向性付与する液晶配向手法が注目されている [3]。基板の配向膜と液晶分子の相互作用と凝集構造が液晶配向性に多大な影響を及ぼすが、その相関について系統的に解析された事例の報告例はない。液晶の面内配向異方性について、偏向顕微赤外分光法により分子配向を可視化することが可能である。放射光より得られる高輝度赤外光を利用し、集光した赤外光をスリットでトリミングすることで高空間分解能の計測が可能となる。本研究は、光架橋配向性アクリレート薄膜を製膜した配向性基板を調製し、配向性基板上に塗布した液晶の配向状態を明らかにすることを目的とし、放射光顕微赤外分光法による局所配向状態の評価を検討した。


実験:

 CaF2板上にスピンコート法により光架橋性アクリレート薄膜を製膜した。製膜した光架橋性アクリレート薄膜に対し、UV光を15分間照射することで薄膜を硬化し、さらに液晶分⼦である4-cyano-4'-pentylbiphenyl (5CB)を蒸着法により積層した。光架橋処理前後の光架橋配向性アクリレート薄膜、5CB蒸着積層薄膜の顕微IR測定を⾏い、重合性官能基の吸収強度より光架橋反応の進⾏、偏向⽅向による配向性置換基の吸収強度の変化より5CB蒸着積層薄膜の配向状態を評価した。顕微IR測定は、SPring-8 BL43IRにて、ミラー調整にて集光した⾚外光をスリットでトリミングすることで、測定領域を100 μm×100 μm(32回積算)もしくは10 μm×10 μm(1024回積算)とし、波数分解能4 cm-1にて透過法にて測定した。


結果および考察:

 図1(a)にアパーチャーでビーム照射領域を100 μm×100 μmとして測定した光架橋性アクリレート薄膜、5CB蒸着積層薄膜の顕微IRスペクトルを示す。いずれもCaF2板の吸収を差し引いている。試料のIDはそれぞれ、UV(+) / (-)、5CB(+) / (-) はUV光照射および5CB蒸着積層薄膜の有無、末尾の100、10はそれぞれ測定領域のサイズを示す。光架橋処理前の薄膜(UV(-)_5CB(-)_100)において、1644 cm-1付近にC=C伸縮振動に由来する吸収が見られた。一方、光照射した薄膜(UV(+)_5CB(-)_100)では1644cm-1付近の吸収が消失しており、UV光照射による光架橋反応の進行を確認した。一方、5CBを蒸着した試料において、2226 cm-1付近および1606 cm-1付近に、5CBのCN伸縮振動およびフェニル基C=C伸縮振動に由来する吸収がそれぞれ観察された。ここで、2226 cm-1 / 1606 cm-1のピーク強度比を算出したところ、UV(-)_5CB(+)_100 において1.1、UV(+)_5CB(+)_100 において0.8であり、光照射による液晶配向性の変化が観測された。

 しかしながら、ピーク強度比に大きな差がないことから、100 μm×100 μmの測定領域において平均化された異⽅性を観測しているものと考えられる。図1(b)に、ビーム照射領域を10 μm×10 μmとして測定した顕微IRスペクトルを示す。未処理の薄膜(UV(-)_5CB(-)_10)において、1726 cm-1付近にカルボニル伸縮運動に由来する吸収のみが見られた。一方、光照射した薄膜(UV(+)_5CB(-)_10)において1726 cm-1付近の吸収は消失した。ビーム照射領域10 μm×10 μmで測定した際に観測された吸収ピークの消失は、膜厚が薄く十分な赤外光吸収がないこと、膜の不均一性に起因すると考えられる。UV光照射前の薄膜(UV(-)_5CB(+)_10)において5CBに由来する吸収が強く観測された。一方で、UV光照射後の薄膜(UV(+)_5CB(+)_10)において吸収は観測されなかった。これは、100 μm×100 μm領域を測定した際と同様に、光架橋に伴い液晶との相互作用が変化することを示している。


 

図1. 光架橋性アクリレート薄膜、5CB蒸着積層薄膜の顕微IRスペクトル。試料IDのUV (+) / (-)、5CB(+) / (-) はUV光照射および5CB蒸着積層薄膜の有無、末尾の100、10はそれぞれ測定領域のサイズ(100: 100 μm×100 μm、10: 10 μm×10 μm)を示す。


今後の課題:

 光架橋性アクリレート薄膜を光パターニングすることで、面内液晶配向異方性の付与を計画していたが、膜の不均一性に起因する赤外吸収スペクトル強度の面内不均一性が存在するため、光パターニングによるマッピング計測では異方性を観測することができなかった。光架橋性配向性薄膜と液晶蒸着膜の均一製膜を実現することで光照射による面内液晶配向異方性が実現されると考えられる。UV光照射時間、基板の前処理、膜厚、光架橋配向性アクリレート組成物の組成など、硬化条件の最適化による面内不均一性の低減が今後の課題である。


参考文献:

[1] Paek, S. H. Duming, C. J. Lee, K. W. Lien, A. A mechanistic picture of the effects of rubbing on polyimide surfaces and liquid crystal pretilt angles. J. Appl. Phys., 83 (3), 1270-1280 (1998).

[2] Nishikawa, M. Design of Polyimides for Liquid Crystal Alignment Films. Polym. Adv. Tech., 11, 404–412 (2000).

[3] Ichimura, K. Photoalignment of Liquid-Crystal Systems. Chem. Rev., 100, 1847–1874 (2000).



ⒸJASRI


(Received: September 6, 2016; Early edition: October 25, 2016; Accepted: December 12, 2016; Published: January 31, 2017)