SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

オーステナイト系Fe-Ni-Cr-Al合金上に形成する保護性アルミナ皮膜形成に及ぼすCrの効果
Effect of Cr on Formation of Al2O3 Scale Formed on Austenitic Fe-Ni-Cr-Al Alloys

DOI:10.18957/rr.5.1.84
2013A1824 / BL46XU

林 重成a, 米田 鈴枝b, 佐伯 功c, 土井 教史d, 工藤 大貴b, 戸島 勇太c, 杉谷 浩規c

Shigenari Hayashia, Suzue Yonedab, Isao Saekic, Takashi Doid, Daiki Kudob, Yuta Toshimac, Hironori Sugitanic


a北海道大学大学院工学研究院, b北海道大学大学院工学院, c室蘭工業大学材料工学科, d新日鐵住金(株)

a,bHokkaido University, cMuroran Institute of Technology, dNippon Steel & Sumitomo Metal Corporation


Abstract

 (Fe, Ni)-Cr-Al合金表面上に生成するAl2O3皮膜の生成・成長挙動に及ぼすCrの影響を構造解析により検討し、Cr添加によるAl2O3皮膜形成に必要なAl濃度の低減機構を検証した。本実験ではFeおよびCrの両者がAl2O3スケールの形成および相変態に及ぼす影響を区別し、Crの影響のみを検討するため三元系Ni-Al-Cr合金を用いた。Ni-14Al-20Cr合金表面には酸化の初期にCr2O3が生成し、その後準安定Al2O3スケールが形成することなくα-Al2O3スケールが生成した。一方、Ni-14Al合金にCrコーティングを施した試料表面には酸化の初期にCr2O3が生成するが、その後スピネル型NiCr2O4スケール→NiOが順に生成し、Al2O3スケールは生成しなかった。


キーワード: Al2O3スケール、相変態、Ni-Al合金、臨界Al濃度、in-situ高温X線回折測定


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背景と研究目的:

 オーステナイト系合金上へのAl2O3スケールの形成には、フェライト系とは異なり高濃度のAl添加が必要である。しかしながら、耐熱合金中への高Al添加は合金の靭性等の機械的特性を著しく低下させる。従って、機械的特性の確保のために合金中のAl添加量は制限され、その結果Al2O3スケールの形成・維持が困難になっており、これを解決するためにはAl2O3スケール形成のための臨界Al濃度を低減させることが求められる。これまでの研究から、合金中へのCrの添加は臨界Al濃度を低減することが広く知られており、この機構としてThird Element Effect(TEE)機構が提案されている。TEE機構では酸化の極初期にCr2O3スケールが生成し、これがスケール/合金界面の酸素分圧を低下させることで、溶媒金属元素(FeやNi)の酸化を抑制することにより、Al2O3スケールの形成が促進されると説明されている。

 一方、著者らのこれまでの研究からAl2O3スケール形成合金上への薄い(~100 nm)FeやCrコーティングは、Al2O3スケールの相変態挙動に顕著に影響を及ぼし、特に、準安定Al2O3相の生成なしにα-Al2O3スケールの生成を促進することを発見している[1]。また、Feコーティングが相変態を促進する機構として、SPring-8によるIn-situ高温X線回折測定より検討を進め、これまでに、酸化の初期に形成するα-Al2O3と同一の結晶構造を有するFe2O3がα-Al2O3の生成サイトとなるSympathetic Nucleation(SN)機構を提案している[2, 3]

 上述した、Crの添加によるAl2O3皮膜形成に必要なAl濃度の低減機構には、TEE機構だけでなく、このSN機構もまた関連していると考えられることから、本研究では、Crコーティングおよび合金中のCrがAl2O3スケールの相変態に及ぼす影響およびAl2O3スケール形成のための臨界Al濃度に及ぼす影響を区別して検討することを目的とした。


実験:

 本測定は、ビームラインBL46XUで実施し、X線のエネルギーは12.39 keV(λ=1.0008 Å)を用いた。ビームラインに設置された多軸ゴニオメーター(HUBER社製)に高温ステージ(ANTON PAAR社製DHS 1100)を組み合わせ、試料への入射角α = 12°とした。回折X線は一次元検出器Mythenを中心角度2θ = 25°で設置し、カメラ長を511.84 mmとして検出した。カメラ長は、ゴニオメーター上に設置した一次元検出器を異なる角度で配置した際のダイレクトスポットの位置を検出し、それらダイレクトスポットの位置から幾何学的に求めた。測定試料は二元系Ni-40AlおよびNi-14Al上に50 nmのCrコーティングを施した試料と施していない試料、および三元系Ni-40Al-20Cr, Ni-14Al-20Cr合金試料を用いた。高温酸化は、試料を高温ステージ上に設置して、大気中、室温から50°C/minで1000°Cまで昇温し、その後1時間の等温酸化を行った。測定は10秒毎に1秒間行った。


結果および考察:

 図1にNi-40Al, CrコーティングNi-40Al, Ni-40Al-20Cr合金の加熱時間を含むin-situ X線回折パターンを示す。二元系Ni-40Al合金では、酸化の初期よりθ-Al2O3が生成し、実験終了までα-Al2O3の生成は認められない。一方、Crをコーティングした試料では強いCr2O3からの回折信号が検出された後、直ちにα-Al2O3が生成していることがわかる。しかしながら、この際形成したα-Al2O3からの回折信号は、FeコーティングやFe基合金上で初期にFe2O3が形成した場合に認められるダブルピーク構成[2, 3]とは異なり、明瞭なシングルピークで構成されており、上述したSN機構によるα-Al2O3形成メカニズムだけでは説明が付かないことがわかった。

 一方、合金中にCrを含む三元系合金では、酸化の初期にCr2O3からの微弱な回折信号が検出されるが、θ-Al2O3が次いで生成し、その後α-Al2O3が生成することがわかる。これより、酸化の初期に形成するCr2O3の形成量が十分でない場合にはα-Al2O3への相変態促進効果は少ないことがわかる。



図1 種々の40Al試料の大気中、1000°Cにおける昇温および等温酸化中のX線回折パターン


 一方、図2に示す回折実験結果から、Ni-14Al合金上には酸化の初期からNiOが形成し、測定終了までNiO以外の酸化物の形成は認められなかったのに対し、Crを添加した三元系合金上には、酸化の初期にCr2O3の微弱な回折信号が検出され、その後NiO次いでCrおよびAlを含むと思われるNi(AlCr)2O4, α-Al2O3が順に生成する。またNi-14Al合金上にCrコーティングした試料でも生成する酸化物の順は同様であり、酸化の初期に強いCr2O3の回折信号が検出され、次いでNiO, NiCr2O4が順に生成し、その後Al2O3が生成する。なお、Crコーティング試料上に形成するAl2O3は安定相ではなく準安定θ-Al2O3であった。準安定θ-Al2O3およびNiCr2O4のピークはその後急激に低下し、長時間の酸化ではNiOのみが観察されるようになった。

 これらNi-40Al合金およびNi-14Al合金における結果を比較すると、試料上に形成するAl2O3スケールの相変態に及ぼす合金中のCrおよびCrコーティングの影響が全く逆となっていることがわかる。すなわち、Ni-40Al合金では、Crコーティングは相変態に強く影響を及ぼしたが、Ni-14Al合金ではその影響は顕著ではないこと、また、Ni-40Al合金ではCr添加が相変態に及ぼす影響は小さいが、Ni-14Al合金では顕著に相変態を促進したことがわかった。

 Ni-40AlまたはNi-14Al合金にCrを添加すると、合金素地は単相合金から二相合金(Ni-40Al:β-NiAl+α-Cr相, Ni-14Al:γ'+γ相)となる。従って、特にNi-40Al合金では、母相β-NiAl中のCr固溶限が小さいため(~5%以下)、Crの影響が顕著に認められなかったと考えることが出来る。一方、Crコーティングで異なる結果が得られた理由については今回の実験からは明らかにすることが出来ていない。



図2 種々の14Al試料の大気中、1000°Cにおける昇温および等温酸化中のX線回折パターン


 図3に示すように、Crコーティングを施したNi-14Al合金上に酸化の初期に形成したCr2O3皮膜の(01-4)面の面間隔は、純粋なCr2O3とほぼ同じ値であるが、Ni-40Al合金上に形成したCr2O3では小さくなった。これは、Ni-40Al合金上に形成したCr2O3中には微量のAl2O3が固溶していることを、一方、Ni-14Al上のCr2O3皮膜中には、Al2O3が殆ど固溶していないことを示唆している。一方、合金中にCrを含有したNi-14Al-20Cr合金上に初期に生成したCr2O3皮膜の面間隔も小さく、すなわち、合金中のCrが酸化されて形成したCr2O3皮膜では、Cr2O3中にAl2O3が固溶していることを意味している。従って、Ni-低Al合金へのCrの添加はAl2O3形成を促進したが、Crコーティング試料ではAl2O3皮膜形成へと至らなかった要因は、酸化の初期にAl2O3が固溶したCr2O3皮膜の形成にあると言える。言い換えれば、酸化の初期にCr2O3だけでなくAl2O3もまた形成することが、Ni-低Al合金のAl2O3形成のための臨界Al濃度を低減させるCrの効果であると言える。しかしながら、今回の実験からはその詳細を完全に理解するまでには至らなかった。



図3 種々の合金上に形成したCr2O3の面間隔の時間変化


今後の課題:

 今回の実験では、酸化の初期よりAl2O3皮膜を形成する十分なAlを含有するNi-高Al合金上へのCrコーティングは、Feコーティングと同様に準安定Al2O3相の生成を抑制しα-Al2O3を酸化の初期から形成することが明らかになったが、α-Al2O3のCr2O3存在下における直接生成機構は、Fe2O3存在下とは異なることが示唆された。

 CrによるNi-低Al合金へのAl2O3皮膜形成のための臨界Al濃度低減効果について、これまで提案されているTEE機構の元となる初期のCr2O3皮膜の形成については、Cr2O3皮膜の生成のみが臨界Al濃度を下げる直接の理由とは言えないことがわかった。初期に形成するCr2O3中のAl2O3の固溶等、初期に形成するCr2O3皮膜の特性がAl2O3皮膜形成のための臨界Al濃度低減についての重要な情報を有していると考えられることから、今後、初期形成Cr2O3皮膜からAl2O3皮膜に至る遷移挙動を詳細に検討することにより、CrのTEE機構についての詳細なメカニズムを明らかにすることが出来ると考えられる。

 また、今回のオーステナイトを用いた検討では、酸化に及ぼす母相中の析出層の影響を無視することが出来ず、結果の解釈が極めて困難となった。今後においては、単相合金を用いた実験にて、析出層の影響を排除した条件下で初期の酸化挙動の詳細を検討すべきであると思われる。


参考文献:

[1] Y. Kitajima, S. Hayashi, T. Nishimoto, T. Narita, and S. Ukai, Oxid. Met., 73, 375 (2010).

[2] S. Hayashi, I. Saeki, Y. Nishiyama, et al., Mater. Sci. Forum, 696, 63 (2011).

[3] S. Hayashi, Y, Takada, I. Saeki, et al., Materials and Corrosion, 63, 862 (2012).



ⒸJASRI


(Received: September 6, 2016; Early edition: December 2, 2016; Accepted: December 12, 2016; Published: January 31, 2017)