SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

シリカ配合ゴムの時分割小角X線散乱および粘弾性同時測定による内部構造観察
Observation of Silica-filled Rubber Using Simultaneous Measurement of Time-resolved Ultra-small Angle X-ray Scattering and Viscoelastic Properties

DOI:10.18957/rr.5.1.92
2013B1537 / BL19B2

三原 諭a, 網野 直也a, 菅原 優輝b, 西辻 祥太郎b, 竹中 幹人c

Satoshi Miharaa, Naoya Aminoa, Yuki Sugawarab, Shotaro Nishitsujib, Mikihito Takenakac


a横浜ゴム株式会社, b山形大学大学院理工学研究科, c京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻

aTHE YOKOHAMA RUBBER CO.,LTD., bGraduate School of Science and Engineering, Yamagata University,

cDept. of Polymer Chemistry, Kyoto University


Abstract

 LAOS (Large Amplitude Oscillatory Shear)下における時分割超小角X線散乱/小角X線散乱測定および粘弾性の同時測定を行い、シリカ充填量の異なるゴムの内部構造変化を観察した。LAOS下では、周期ひずみに同期して散乱強度が変化した。また、シリカ体積分率の増加やシランカップリング剤未配合により、せん断ひずみ印加による散乱強度の変化に異方性が観測された。


キーワード: シリカ、凝集、分散、粘弾性



背景と研究目的:

 フィラー充填系ゴムの典型的な非線形挙動としてペイン効果と呼ばれる現象がある[1]。これは、一定のせん断速度でひずみを増加させると動的弾性率が低下する現象である。ペイン効果は、フィラー充填系ゴムの内部構造変化のひずみ振幅依存性によるものであり、シリカ充填ゴムにおけるシリカの分散性の指標として用いられている。シリカ等のフィラーの分散状態は、ゴムの粘弾性特性の支配因子のひとつであり、タイヤの低転がり抵抗性能や湿潤路面における制動性能に大きな影響を及ぼす。そのため、我々は、シリカ、シランカップリング剤、ポリマーの種類やそれらの量、さらにそれらを配合したゴムの加工方法を工夫することでシリカの分散向上を図っている。しかしながら、フィラーの分散状態は、非線形領域のせん断変形場にあるゴムの混合や押出加工時、或いは車の走行時に時々刻々と変化する。ゴム中にはフィラーの階層的構造(1次粒子、アグリゲート、アグロメレート)が存在し、これらの構造はゴムの補強や物性発現において大きな役割を担っている[2]。従って、このようなフィラーの階層構造が、ゴムの製造過程やタイヤとして使用中にどのように変化するのかを観測することで、タイヤ性能やゴムの加工性発現のメカニズムを明らかにすることができると考えられる。

 そこで、本実験ではLAOS (Large Amplitude Oscillatory Shear)下で時分割USAXS/SAXSおよび粘弾性の同時測定を行い、フィラー充填系ゴムの内部構造と粘弾性特性の関係を明らかにすることを目的とした。


実験:

 BL19B2にて時分割超小角X線散乱測定(q: 0.004–0.4 nm−1 (q=4πsinθ /λ 、ここでθは散乱角,λはX線の波長で0.069 nm,露光時間2 s, カメラ長7.8 m))および小角X線散乱測定(q: 0.04–1.0 nm−1、露光時間2 s,カメラ長3.0 m)を行った。カメラ長は標準サンプルとして面間隔が既知のコラーゲンを用いて算出した。サンプルとしてTable 1に示す配合の未加硫ゴム(E-SBR=100重量部、シリカの体積分率=10、15、20、25%、シランカップリング剤としてビストリエトキシシリルプロピルテトラスルフィド(TESPT)=0 wt.%またはシリカ重量の8 wt.%)を準備した。これらのゴム試料をせん断印加装置にセットし、室温にて正弦波形のせん断ひずみ(ひずみ:200%、周波数0.01 s−1)を与え、散乱プロファイル変化の観測と同時に応力、ひずみの測定を試みた。しかしながら、本実験ではせん断印加装置の不具合により応力を検出できず、せん断ひずみのみの測定となった。また、本実験では40水準の試料をUSAXS測定に準備したが、Table 1に示した5水準の試料以外は、せん断印加装置上の問題により100%以上のせん断ひずみを与えるとゴム/チャック間で滑りが発生した。また、せん断ひずみが100%未満の場合、散乱プロファイルに変化が見られなかった。

 そのため、本報告では、Table 1に示した試料に繰り返し200%せん断変形を与え、せん断方向(Parallel)およびせん断に対して垂直方向(Perpendicular)の散乱プロファイルの変化を観測した。


Table 1. Sample Description


結果および考察:

 Fig.1にシリカ体積分率が異なるゴムの貯蔵弾性率のひずみ振幅依存性(ペイン効果)を示した。シリカの体積分率が増加すると、貯蔵弾性率のひずみ振幅依存性が大きくなり、また、シランカップリング剤が未配合の試料では、貯蔵弾性率のひずみ振幅依存性が著しく増加した。

 このようなシリカ充填量の増加やシランカップリング剤未配合で観測される非線形粘弾性はゴムの内部構造変化に起因していると考えられる。



Fig.1. Strain Dependence of Storage Modulus (Payne Effect) for Different Volume Fraction of Silica


 ペイン効果測定と同一試料について、変形前および200%せん断ひずみを静的に印加したときの散乱像をFig.2に示した。Fig.2中のΦは、ゴム全成分中におけるシリカの体積分率を表す。シリカの体積分率Φが20%を超えると、200%せん断変形によりアブノーマルバタフライパターンが観測された。一般に高分子融液をずりせん断させた状態で光散乱実験を行うと、せん断方向と垂直にバタフライパターンが発生することは良く知られた事実で、これは分子鎖のせん断方向への配向であると理解されている。今回見られたバタフライパターンは延伸方向と同一なので、散乱体であるシリカ粒子の配向は延伸方向に垂直であることになる。このような結果は、ランダム性を有する化学架橋ゲルの延伸実験で得られている。この起源については理論的にも解析されており、濃度揺らぎとひずみがカップリングした散乱関数で表され、架橋の不均一性が大きな材料を延伸したときには延伸方向と垂直に変形し難い高架橋の成分が配向すると説明されている。これは通常のバタフライパターンと区別するためにアブノーマルバタフライパターンと呼ばれており、今回見られた結果はこれに相当する。



Fig.2. Scattering Images for Silica Filled Rubbers at 0% and 200% Strain


 また、シランカップリング剤未配合の系でも、同様に200%せん断変形によるアブノーマルバタフライパターンが観測された。散乱像から、200%せん断変形によりゴムの内部にシリカの凝集に由来する不均一構造が形成されることが示唆された。そこで、Fig.3に示すように散乱像をひずみに対して平行方向(−10°–10°)および垂直方向(80°–100°)のそれぞれについて1次元のq-I曲線に変換しFig.4を得た。その結果、Fig.4に示したようにシリカの体積分率が20%を超えると、せん断方向とそれに対して垂直な方向で散乱プロファイルに異方性が観測された。さらに、シランカップリング剤が未配合のゴムでは、このような散乱プロファイルの異方性が顕著となった。



Fig.3. Azimuth Transformation of Scattering Image



Fig.4. Vertically-Shifted USAXS/SAXS Profiles for Different Volume Fraction of Silica

Red Line: Parallel Direction to Strain; Blue Line: Perpendicular Direction to Strain

0%: No Silane (Silane 0) ; 10%: 10 vol.% of Silica (Silica 10) ;

15%: 15 vol.% of Silica (Silica 15) ; 20%: 20 vol.% of Silica (Silica 20) ;

25%: 25 vol.% of Silica (Silica 25)


 これらの結果は、シリカ体積分率が20%を超えるゴム試料にはシリカの凝集に由来する不均一な構造が存在し、さらにせん断ひずみ印加により不均一性が増大することを示唆する。

 実際のゴム加工やタイヤ使用時の環境を考慮すると、ゴムには静的なひずみではなく動的な変形が与えられると考えられる。そこで、Fig.5に示すように周期的に200%せん断ひずみをゴムに与えた。このとき得られる散乱像をひずみに対して平行方向(−10°–10°)および垂直方向(80°–100°)のそれぞれについて1次元のq-I曲線に変換し、q=0.02 nm−1における散乱強度の時間依存性をFig.5に示した。シリカの体積分率に関わらず、散乱強度は正弦波形のひずみに同期して変化した。シリカの体積分率が20%を超えると、せん断ひずみ印加による散乱強度の変化に異方性が観測された。また、シランカップリング剤未配合の系でも、同様に散乱強度の変化に異方性が観測された。



Fig.5. Scattering Intensity as a Function of Time under Dynamic Shear Deformation

Blue Line: Perpendicular Direction to Strain; Red Line: Parallel Direction to Strain

Silane 0%: No Silane (Silane 0) ; Silica 10%: 10 vol.% of Silica (Silica 10) ;

Silica 15%: 15 vol.% of Silica (Silica 15) ; Silica 20%: 20 vol.% of Silica (Silica 20) ;

Silica 25%: 25 vol.% of Silica (Silica 25)


 これらの結果から、シリカ充填ゴムの内部構造は周期変形に同期して変化していることがわかった。また、シリカ体積分率の大きいゴムでは、内部構造が異方的に変化し、内部構造の不均一性が増加することも明らかとなった。


今後の課題:

 フィラー充填系ゴムにおいて、周期変形による内部構造の不均一性の増大は、ゴムのエネルギーロス発生の一因と考えられる。そのため、このようなフィラーの分散状態は、タイヤの転がり抵抗性能や湿潤路面における制動性能、加工特性に大きな影響を及ぼすことが予想される。本研究では、せん断印加装置の不具合により周期変形時の応力を検出することができず、粘弾性特性のリアルタイム測定を行うことができなかった。今後、シリカ充填ゴムの内部構造不均一性と粘弾性特性の関係について明らかにすることで、タイヤ性能およびゴムの加工性の改善に結びつける。


参考文献:

[1] A. R. Payne, J. Appl. Polym. Sci., 9, 1073 (1965)

[2] T. Koga, T. Hashimoto, M. Takenaka, K. Aizawa, N. Amino, M. Nakamura, D. Yamaguchi, S. Koizumi, Macromolecules, 41, 453 (2008)



ⒸJASRI


(Received: April 25, 2014; Early edition: September 26, 2016; Accepted: December 12, 2016; Published: January 31, 2017)