SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

2次元検出器を用いた半導体パッケージ用樹脂の熱硬化過程における残留応力その場観察
In Situ Residual Stress Analysis in Resins for Semiconductor Packaging during Curing Process with 2D Detector

DOI:10.18957/rr.5.1.124
2015B1622 / BL19B2

若林 みどり, 和泉 篤士, 加々良 剛志, 長島 大, 渡邊 俊明

Midori Wakabayashi, Atsushi Izumi, Takeshi Kakara, Dai Nagashima, Toshiaki Watanabe


住友ベークライト(株)

SUMITOMO BAKELITE CO., LTD.


Abstract

 X線回折法を用いた半導体パッケージ用樹脂/銅箔界面の熱時残留応力その場観察において、樹脂の熱硬化反応過程におけるより詳細な応力変化挙動を明らかとするため、2次元検出器PILATUS 300Kを用いた熱時残留応力その場観察を検討した。2次元回折像に対してsin2ψ法を適用することで、半導体パッケージ封止用熱硬化性樹脂/銅界面の残留応力変化の観察に成功した。ビームサイズおよび露光時間の最適化による評価時間を短縮することは今後の検討課題である。


キーワード: 半導体パッケージ、長期信頼性、熱硬化過程、残留応力測定、2次元検出器


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背景と研究目的:

 近年の半導体高性能化および長期信頼性の観点から、半導体パッケージ用樹脂には高度な耐熱性、電気絶縁性、熱伝導性、耐湿性が求められている。半導体パッケージは、熱硬化性樹脂と無機フィラーを主成分とする樹脂と金属(配線およびリードフレーム)で構成される複合部材である。それら異種材料間の弾性率と線膨張率(CTE)が異なるため、半導体パッケージ製造工程における熱プレスおよび熱硬化、半田リフローなどの複数の加熱冷却過程を経ることにより樹脂と金属界面に発生する熱応力が残留応力として蓄積し、半導体パッケージの歪みや反りの要因となる。それらは、金属界面の密着性に影響を与え、最終的には剥離という半導体パッケージにおける致命的な不良につながる。そこで半導体パッケージ製造の各工程において発生する熱応力をその場観察し、残留応力発生メカニズムを把握することができれば、プロセス改善による金属界面の密着性向上や信頼性評価時間の短縮につながることが期待される。我々はこれまでに0次元検出器であるシンチレーションカウンターを用いたsin2ψ[1–3]による半導体パッケージ用樹脂/銅界面の残留応力の評価手法を確立し、更に試料加熱ステージを併用することで熱プロセス中における応力変化のその場観察にも成功した[4]

 一方で、1測定当たり約40分を要する測定時間の短縮化が課題である。樹脂の熱硬化過程におけるリアルタイムな応力変化を検出するためには、測定時間を数分オーダーにまで短縮する必要がある。そこで本課題では残留応力評価時間の短縮を目的として2次元検出器を用いた残留応力評価の検討を行った。


実験:

 半導体パッケージにおける樹脂/銅界面のモデル試料として、銅箔(厚さ12 μm)上に半導体パッケージ封止用樹脂であるシリカフィラー含有熱硬化性樹脂を成形し、20 mm × 20 mm × 0.5–1.5 mmの測定試料を得た。X線回折測定はBL19B2ビームラインのHUBER社製多軸回折計を用いて行い、入射X線エネルギーは8.0 keV、入射X線ビームサイズは縦0.2 mm × 幅1 mmとし、回折X線はPILATUS 300Kにより計測した(図1)。課題申請時はcos α法による評価を予定していたが、残留応力によって生じる回折角シフトの検出に必要なピクセル分解能とカメラ距離のトレードオフのため、カメラ距離を短くして銅の回折ピーク全周を得ることが困難であったため、得られた2次元回折像を用いてsin2ψ法による解析を行った。

 まず初めに、2次元検出器を用いたsin2ψ法による応力評価手法の妥当性を検証するため、事前にシンチレーションカウンターを用いて残留応力を評価した熱硬化処理後のリファレンス試料および銅箔単体について室温での測定を行い、検出器間の比較を行った。次に、アントンパール社製試料加熱ステージDHS1100を用いて、樹脂の熱硬化過程を想定し250°Cで2時間、およびその前後で230°Cに加熱して残留応力変化のその場観察を2次元検出器を用いて行った。測定に用いた結晶面はCu(331)面で側傾法により測定した。sin2ψ法におけるオフセット角度(ψ)は、0.0, 13.6, 24.1, 31.8, 38.6, 41.8, 45.0°とし、試料台傾斜時の試料落下防止のため、試料台付属のクリップを用いて測定試料の四つ角を固定した。残留応力計算に用いる銅の弾性率(E)とポアソン比(ν)は、各々65.0 GPa、0.343とした[5]。各ψ毎の露光時間は十分な回折強度を得るために5分とした。また、PILATUS 300Kの各ピクセル位置(a, b)における回折角2θは、検出器アーム角tth = 0°で観測されるダイレクトビーム座標(a0, b0)、および(a0, b0)におけるカメラ距離(CL = 375.5 mm)の関数として算出した。CLはtth = 0°および5°で測定したダイレクトビームの座標の変位(d)を用い、CL = d / tan 5°の式により算出した。



図1 残留応力測定セットアップ


結果および考察:

 検出器アーム角tthを8.0 keVにおける無歪銅の(331)面の回折角2θ0 = 138.4°(PDF card number 01-070-3039)に設定し、ψ = 0°においてPILATUS 300Kにより得たリファレンス試料のCu(331)面の2次元回折像を図2に示す。



図2 リファレンス試料のCu(331)面の2次元回折ピークプロフィール


 回折ピークの1次元プロフィールは、回折強度を図中に示す円周方向の角度γ = 267.5°–272.5°の範囲でセクター平均し動径方向に1次元化することで求め、ローレンツ関数フィッティングによりCu(331)面の回折ピークトップ(2θ*)を算出した。

回折プロフィールのψ依存性を図3に示す。図4に示す2θ*-sin2ψ線図の近似直線の傾きとその誤差(標準偏差)および式(1)より算出した残留応力(σ)を、従来のシンチレーションカウンターを用いたsin2ψ法により算出した応力値と比較した結果を表1に示す。銅箔単体およびリファレンス試料の樹脂/銅箔界面の応力値は検出器間でよく一致しており、無歪試料として評価した銅箔単体の応力がほぼ0 MPaであることが確認され、2次元検出器を用いた本手法においてもsin2ψ法による妥当な応力評価が可能であることが確認された。



図3 リファレンス試料のCu(331)面の回折プロフィールのψ依存性



図4 Cu(331)面の回折ピークトップの2θ*–sin2ψ線図


表1 シンチレーションカウンターとPILATUS 300Kによる残留応力評価結果の比較


 次に半導体封止用樹脂のモデル試料におけるその場観察結果を図5に示す。封止樹脂Bは封止樹脂Aと比較して熱サイクル密着信頼性試験の結果が良好な樹脂である。いずれの試料においても熱時における応力は引張方向に増大した。これは樹脂の熱膨張によるものと推定される。一方で加熱後室温に戻した際、封止樹脂Aは引張応力が増大、封止樹脂Bは引張応力が減少して圧縮応力を示した。これより加熱前後の応力変化が熱サイクル信頼性に影響を及ぼしている可能性がある。しかしながら、今回の測定では十分な回折強度を得るために各ψでの露光時間を5分としたことより40分程度の測定時間を要し、シンチレーションカウンターを用いた際と比較して評価時間短縮には至らなかった。そのため、図5に示すとおり、樹脂の250°Cにおける熱硬化反応過程における詳細な応力変化挙動を確認することができなかった。熱サイクル信頼性と界面応力の相関解明のためには、これまで明らかにされてこなかったより短時間における応力変化の挙動の評価が必要と推定され、今後、ビームサイズおよび露光時間の最適化により、数分オーダーへの評価時間短縮を目指す。



図5 半導体封止用樹脂モデル試料の熱時その場観察結果


今後の課題:

 本実験課題により2次元検出器を用いた残留応力の測定時間を短縮するためにはX線強度の増大が必要であることが分かった。このためスリットサイズを最適化することでX線強度を増大させ、測定時間短縮の検討を進め、熱硬化過程の詳細な応力変化の評価を行う予定である。

 また、2次元検出器を用いた応力解析手法である2D法を適用することによっても測定時間は短縮可能と推定される[6]。本課題により確立した応力評価手法は、複数の回折環を同時に観測することが可能であるため、樹脂/銅界面と樹脂/銀界面の同時観察など複数の異なる界面における残留応力の同時測定への展開が期待できる。これにより、今回着目した樹脂/銅界面のみならず、銀ペーストやメッキ加工部等、半導体パッケージ内部における異種材料間の残留応力を同時評価することでさらに多面的な長期信頼性材料開発へのアプローチに繋がると考えられる。


参考文献:

[1] 田中啓介 他, "放射光による応力とひずみの評価",及川清, 養賢堂, 東京 (2009) p56-60.

[2] K. Nakamae et al., J. Appl. Polym. Sci., 40, 2231 (1990).

[3] T. Nishino et al., J. Appl. Polym. Sci., 45, 1239 (1992).

[4] 若林みどり 他, SPring-8利用課題実験報告書: 2014A1767, 2014B1598, 2014B1895.

[5] 小出昭一郎, "物理学", 真喜屋実孜, 裳華房, 東京 (2003) p89.

[6] B. B. He, “Two-Dimensional X-Ray Diffraction,” John Willey & Sons, Inc., New Jersey, (2009), pp.249–328.



ⒸJASRI


(Received: March 9, 2016; Early edition: August 25, 2016; Accepted: December 12, 2016; Published: January 31, 2017)