SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

XAFSを用いた硫酸水溶液中におけるチタンイオンの溶液構造解析
Structural Analysis of Titanium Ion in Sulfuric Acid Solutions by XAFS.

DOI:10.18957/rr.5.1.145
2016A1685 / BL14B2

鶴村 達也a, 矢木 一範a, 亀田 恭男b

Tatsuya Tsurumuraa, Kazunori Yagia, Yasuo Kamedab


aテイカ(株), b山形大学

aTAYCA CORPORATION, bYamagata University


Abstract

 硫酸法による二酸化チタン製造過程で生成する硫酸-チタン水溶液中のTi(IV)イオンの溶液構造を調査するため、硫酸濃度を変更した硫酸-チタン水溶液を作製し、XAFS(X-ray absorption fine structure)測定を行った。XANESの結果から、硫酸濃度を変更することでTi(IV)イオンの配位構造が変化していることを示唆する結果を得た。Ti-K吸収端のEXAFS振動の結果も同様に硫酸濃度の変更に伴うスペクトルの変化が確認された。EXAFS振動k3χ(k)のFourier変換(k=3.0-7.0 Å-1)により求めた動径構造関数より、硫酸濃度の増加に伴い、最近接Ti-Oピーク強度の増加と結合距離が短くなっており、錯体種の変化や配位子の変換、Ti-O配位結合距離の変化が起きていると推察される。


キーワード: 硫酸-チタン水溶液、XAFS、溶液構造解析、配位構造


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背景と研究目的:

 濃硫酸を用いてイルメナイト鉱(FeTiO3)を溶解し、Fe等の不純物を分離・精製し、加水分解反応ののち、焼成することで二酸化チタンを得る硫酸法では、中間体として硫酸水溶液中に4価のTiイオンが溶解した水溶液が得られる[1]。この水溶液は系内の硫酸濃度やTiイオン濃度によって、加水分解反応が起きやすい場合、硫酸塩が析出しやすい場合、水溶液として長期間安定に存在する場合がある。二酸化チタン製造方法のさらなる効率化や高機能な二酸化チタンを合成する上で、水溶液中のTiイオンの溶液構造を把握することは重要である。

 そこで、本課題では、放射光を利用したTi-K吸収端のXAFS測定を行い、硫酸濃度の変化に伴うTiの最近接の配位構造変化を調査することを目的とした。


実験

 硫酸チタニル結晶(TAYCA社製)と95%濃硫酸(Sigma-Aldrich社製)を原材料として使用し、イオン交換水に溶解することで各試料1~4(Table 1)を作製した。試料は厚み0.03 mmのポリプロピレン製フィルムに挟み、吸収端近傍のX線吸収率を確認しながら、測定可能な厚みに調整し測定を行った。

 また、標準物質として窒化ホウ素(関東化学社製)をバインダーとし、アナターゼ型酸化チタン(AMT-600、TAYCA社製)のペレットを調製し、測定した。


Table 1 各試料のTiと硫酸濃度


 SPring-8 BL14B2に設置されているXAFS測定装置を用いて、透過法によりTi-K吸収端の測定を室温にて行った。


結果および考察:

 硫酸水溶液中でのTi(IV)イオンの溶液状態は、硫酸の濃度により変化すると考えられている[2]。硫酸濃度の増加に伴い、TiO2+種、TiOSO4種、[TiO(SO4)2]2-種へと変化するとの報告や、ラマン分光の結果から、Ti周りに配位する水分子と硫酸イオンの数が変化するとの報告[3]がある。他にも、硫酸水溶液中のTi(IV)イオンは、(Ti-O-Ti-O-Ti)nのような鎖状又は環状の構造をとった多量体で存在するとの報告もある[2,4]

 Fig. 1に各硫酸濃度におけるTi水溶液のTi-K吸収端について、XANESスペクトル(A)及びプレエッジ領域のスペクトル(B)を示す。Fig. 1の(B)より、硫酸濃度が高くなるにつれて、プレエッジピークが小さくなっていることがわかる。XANESの結果は、これまで報告されているように水溶液中の硫酸濃度が変わることで、Ti(IV)イオンの配位構造が変化することを示唆している。



Fig. 1 XANES (A) and Pre-edge (B) spectra of Ti K-edge for aqueous solutions containing 1.5 M Ti with different H2SO4 concentrations.


 Fig. 2に各硫酸濃度におけるTi水溶液のTi-K吸収端EXAFS振動k3χ(k)を示す。また、Fig. 3にTi-K吸収端EXAFS振動k3χ(k)のFourier変換(k=3.0-7.0 Å-1)により求めた各硫酸濃度における動径構造関数を示す。



Fig. 2 Ti K-edge EXAFS oscillation weighted with k3 for aqueous solutions containing 1.5 M Ti with different H2SO4 concentrations.



Fig. 3 Fourier transforms of Ti K-edge EXAFS for aqueous solutions containing 1.5 M Ti with different H2SO4 concentrations.


 今回、標準試料として測定したアナターゼ型酸化チタンのTi-K吸収端EXAFS振動k3χ(k)をFig. 4(A)、EXAFS振動k3χ(k)のFourier変換(k=3.0-11.0 Å-1)により求めた動径構造関数をFig. 4(B)示す。Fig. 4(B)より、1.5 Å付近に現れる最近接ピークはTi-O(1.96 Å: [1])に由来するピークであり、Ti-Oの位相シフトは0.4 Å程度だと考える。



Fig. 4 Ti K-edge EXAFS oscillation weighted with k3 (A) and Fourier transforms of Ti K-edge EXAFS

(B) for TiO2 (Anatase).


 また、Miyanagaらの硫酸チタニル水溶液のXAFSの報告[4]よると、硫酸チタニル水溶液で得られる最近接ピークはTi-O(2.0 Å)に由来するとのことである。

 以上のことから、今回EXAFSより得られた動径構造関数(Fig. 3)の1.6〜1.8 Åにみられる最近接ピークはTi-O結合に由来するピークと示唆される。このTi-O結合は、これまでの報告からTi(IV)イオンと水分子や硫酸分子中の酸素原子との配位結合に帰属されるもの、またはTiO2+種のようなオキソ酸や (Ti-O-Ti-O-Ti)nのような鎖状又は環状の構造に由来するものと考える。Fig. 3より、Ti-O結合に由来するピークが硫酸濃度の増加に伴い、最近接のピーク強度が増加し、結合距離が短くなっていることがわかる。

 XANESとEXAFSで示された結果から、既報の内容と同様に水溶液中での硫酸濃度の変化に伴い、錯体種や配位構造の変化(配位子変換や配位結合距離の変化)が起きていることがわかった。EXAFSの結果から、その変化はTiイオンの最近接原子である酸素の結合距離及び結合数と関係していることが明らかとなった。今後はEXAFSの詳細な解析を進め、硫酸濃度の変化に伴うピーク強度やピーク位置のシフトの要因を明らかにし、配位結合や溶液構造の特定を行っていく必要がある。


今後の課題:

 今後の課題は、X線全散乱やS-K吸収端のXAFSなどのその他の実験手法を効果的に活用し、定量的な議論ができるよう検討を進めることである。


参考文献:

[1] 酸化チタン―物性と応用技術、清野 学著、技報堂出版 (1991).

[2] K. C. Sole, Hydrometallurgy 51, (1999) 239-253.

[3] F. Baillon et al., J. Mol. Liq., 143, (2008) 8-12.

[4] T. Miyanaga et al., Bull Chem. Soc. Jpn., 63, (1990) 3282-3287.



ⒸJASRI


(Received: August 21, 2016; Accepted: December 12, 2016; Published: January 31, 2017)