SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume5 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

加振状態下での小角X線散乱その場観察によるフィラー凝集構造変化とゴムの振動伝達特性との相関
In-situ SAXS Study on Relationship between Structure Change of Aggregates of Fillers in Rubber Materials under Vibration State

DOI:10.18957/rr.5.1.128
2015B1637 / BL19B2

高松 成亮a, 矢島 高志a, 山本 勝宏b

Shigeaki Takamatsua, Takashi Yajimaa, Katsuhiro Yamamotob


a住友理工株式会社, b名古屋工業大学

aSumitomo Riko Co. Ltd, bNagoya Institute of Technology


Abstract

 カーボンブラック(CB)で補強されたゴムの粘弾性特性に対するCBの分散構造の影響を調査した。CBと混錬した架橋ゴム(以下ゴムと省略)において、ブタジエンゴム(BR)末端に官能基を導入した変性BR(XBR)をブレンドすることで歪振幅増大に伴う貯蔵弾性率の低下が抑制されていることが確認されている。このメカニズムを解明するため、CB補強ゴムに微振幅加振(0.05–1.3%)を与え、加振状態でのCB分散状態でBL19B2において超小角X線散乱(USAXS)測定を行った。得られたデータの解析では、加振方向(θ //)と加振に対して垂直方向(θ)に分けて、静的な状態の散乱プロファイルとの比較を行った。その結果、XBRを配合したゴムのθ //方向におけるq = 0.005–0.01 nm−1において、散乱強度が上昇し、q = 0.01 nm−1より大きい領域では、散乱強度が減少した。一方、θ方向では全体的に散乱強度の低下が確認された。XBRを配合していないものは、θ//、θ方向ともに散乱強度の上昇が認められなかった。以上の結果より、歪振幅増大による貯蔵弾性率の低下抑制に対してq = 0.005–0.01 nm−1における加振方向でのCB分散構造変化に着目することが重要であることがわかった。


キーワード: ゴム(rubber),補強材(reinforcing material),静的ばね定数(static spring constant),動的弾性率(dynamic modulus),ペイン効果(Payne effect)


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背景と研究目的:

 カーボンブラック(CB)、シリカ等の補強材(フィラー)を配合することにより補強されたゴムは、自動車、産業用機器におけるタイヤ、防振ゴム製品に用いられている。しかし、補強材配合ゴムにおいて、補強材の充填量が増すほど、微振幅領域(0.05%)から振幅が大きくなるに従い貯蔵弾性率が低下する現象があらわれる(ペイン効果[1])。この現象はゴム内部で補強材が形成する凝集体ネットワーク構造が崩れることによるものと一般的に考えられている。しかし、実際に実験的に捉えた例はほとんど報告されていない。

 今回、我々は放射光利用計測技術の持つ時間分解能の高さを利用し、ゴムの加振状態におけるCB分散状態を捉えることにより、ゴムの貯蔵弾性率に及ぼすCB分散状態の影響を明らかにすることを目的に実験を行った。過去に、SPring-8 BL19B2でゴム材料の小角・超小角X線散乱実験を実施し、散乱強度プロファイル(I(q))のq依存性I(q)∝qaのべき指数より、質量フラクタル次元a(以下「べき乗の値」)を解析することで、ゴム中のCB凝集体ネットワーク構造が伸長(5–50%)により大きく変形するゴムほど貯蔵弾性率の歪依存性が小さい傾向を確認してきた[2, 3]。この結果を踏まえ、今回は防振ゴムやタイヤの実使用領域に近い微振幅歪(0.05–5%)をゴムに与え、同時に超小角X線散乱測定を行うことで補強材であるCBの分散状態と特性との関係を調査した。


実験

 原料ゴムとしてイソプレンゴム、ブタジエンゴム(BR)末端に官能基を導入した変性BR(XBR)を使用した。原料ゴム中へのCBの混練は、密閉式混練機(容量2400 ml)を用いて行った。架橋剤の混練は8インチロールで実施した。加硫は、熱板温度160°Cのプレスにてプレス圧15 MPaで20分間行った。実験に用いたCBは、ASTMの分類で高耐摩耗性とされるHAF(High Abrasion Furnace)級CB、中補強性とされるSRF(Semi Reinforcing Furnace)級CBである。実験に用いたゴム試料の内容及びCBのコロイダル特性に関しては、表1にまとめた。実験に用いた試料のCB配合量、CB混練時間について予備実験を行った。CB配合量は、粘弾性試験結果より、ポリマー100グラム当量に対して50グラム当量未満の配合では歪振幅に対する貯蔵弾性率の変化が小さいことから、CB配合量50グラム当量のゴムで実験を実施した。また、混練時間に関しては、1分と6分の混合時間違いでゴムを作製して粘弾性測定試験を実施した結果、6分練りのゴムの方がゴム物性の動倍率が良化していたことから、6分練りのゴムで実験を実施した。

 得られた2 mm厚のゴムシートを物性測定ならびに超小角X線散乱(USAXS)測定に用いた。USAXS測定はSPring-8のBL19B2で実施し、X線エネルギーは18 keV、入射光サイズが約200 μm、カメラ長41.3 m, 散乱ベクトルqのレンジは0.005–0.04 nm−1、ダイレクトビームストッパー径は3 mmとした。カメラ長の較正はコラーゲン試料の回折ピークを測定して行った。検出器はPILATUS 2Mを使用した。加振しながらのUSAXS測定における露光時間に関しては、1〜5分の間に設定して実験を行っており、今回実施した100 Hzの加振における振動1周期に対して十分に長い時間となっている。また、静的状態でUSAXS測定を行う場合、伸長前後のゴムを測定する場合には、露光時間を5分としている。

 ゴムの加振装置は、BL19B2の第2実験ハッチ内に設置した(図1)。測定ゴム試料(縦30 mm × 横5 mm × 厚み2 mm)を取り付けた後、100 Hzで歪を0.05%、0.5%、1.3%で加振し、同時にビームを試料部分に照射しUSAXS測定を実施した。今回、加振時間を1、2、4、5分と変え、その間露光し続けるUSAXS測定を行ったが、散乱プロファイルに差異は確認できなかった。そのため、それ以上の長時間加振の測定は行わず、5分の加振条件を基本として測定を実施した。測定により取得した散乱強度の二次元データは、加振方向に垂直方向(二次元散乱パターンの赤道方向)を方位角θ = 0°として、加振方向(−135° ≤ θ ≤ −45°, 45° ≤ θ ≤ 135°, θ//)と加振方向に対して垂直方向(−45° ≤ θ ≤ 45°, 135° ≤ θ ≤ 225°, θ)に分けて平均化(扇形平均)し、一次元プロファイル化した後、静的状態で測定した散乱強度に対して加振状態での散乱強度増減率を比較することで、静的状態と加振状態でのCB分散状態の違いを評価した。伸長前後のゴムをUSAX測定する際は、伸長治具にセットした未伸長のゴムをUSAXS測定した後、そのゴム試料を50%伸長し、続けてゴムが伸長された状態のまま測定を実施した。なお、測定試料は、伸長方向が実験ハッチ床面と水平になる様にセットしている。取得した散乱強度の二次元データは、伸長方向(二次元散乱パターンの赤道方向)を方位角θ = 0°として、−45° ≤ θ ≤ 45°, 135° ≤ θ ≤ 225°で一次元プロファイル化している。



図1 測定装置の概要と二次元散乱パターンの一次元プロファイル化方向


結果および考察:

 今回の実験に用いた表1の各ゴムをミクロトームにより面出し、CBの分散状態を観察するため、その表面を位相像モードAFM(Atomic Force Microscope)により観察した(図2)。HAF級CBと、SRF級CBを用いたゴムでの分散状態の差は明確に判断できるが、XBRがCBの分散に与える影響は明確にすることができなかった。そのため、USAXS測定により各ゴムの散乱プロファイルを取得し、解析によりCBの分散状態を調べた結果を表1にまとめた。表1のRgは粒子の慣性半径を表し、Rは粒子が球状であることを仮定した場合の半径であり、R=Rg(5/3)0.5の関係がある。Rg及びRは、各試料について行ったUSAXS測定から得られる試料中の平均構造を代表する値である。静的状態のゴム試料で測定した散乱プロファイル(図3)をUnified-Guinier Power Law[4]を用いてフィッティングを行った。散乱プロファイルの解析結果から、HAFにおいては直径129 nm程度の二次粒子を形成していることと、SRF試料には直径271 nm程度の二次粒子が存在していることがわかった。また、SRF試料にXBRを配合したゴムにおいても直径245 nm程度の二次粒子が存在していることがわかり、静的なUSAXS測定ではXBRを配合することで二次粒子径の減少が確認できた。さらに、小角側の散乱強度もそれぞれ増大していることからCBがより高次の構造を形成していることが伺える。

 表1に示したゴム特性として併記した動的弾性率と静的ばね定数の比の違いは、静的状態でUSAXS測定したCB分散状態から説明することは難しい。更に、CBをSRF級CBとして、XBRの配合有無が異なるゴム(表2)で伸長前後でのUSAXS測定を行うと、XBRを配合したゴムは、凝集体ネットワーク構造に由来するqが0.01 nm−1よりも小さい領域での散乱プロファイルの変化が大きく(図4)、べき乗の値の変化が大きくなることが確認されている(表2)。これは、XBRとCBとの密着性が高くなることで、凝集構造が分断し難くなり、ポリマーの変形にCBの凝集構造が追従していることを示唆していると考えられる。


表1 カーボンブラック(CB)特性とゴム中のCB分散状態ならびにゴム特性



図2 位相像モードAFMで実験に用いたゴムのCBの分散状態を観察した結果

A:ポリマーがイソプレン、CBがHAF級CBのゴム

B:ポリマーがイソプレン、CBがSRF級CBのゴム

C:ポリマーがイソプレン+XBR、CBがSRF級CBのゴム



図3 静的・動的(加振)状態のUSAXS散乱プロファイル

静的は未加振の状態、動的は100 Hzで歪が1.3%加振時のプロファイル、

黒の実線はUnified-Guinier Power Lawによる計算プロファイルを表す。



図4 未伸長時と伸長時のUSAXS散乱プロファイル


表2 変性BR(XBR)有無による伸長時におけるべき乗の値の変化


 次に、CB種違い及びXBRを配合した試料の15 Hzでの貯蔵弾性率の歪依存性について図5に示す。XBRを配合したゴムが最も貯蔵弾性率の歪依存性が小さいことがわかる。



図5 CB種違い及びXBRを配合した試料の15 Hzで測定した貯蔵弾性率の測定結果


 加振状態でのUSAXS測定を実施すると、静的状態と加振状態で散乱プロファイルの強度変化が確認でき、([加振状態の散乱強度]−[静的状態の散乱強度])/ [静的状態の散乱強度]×100を強度増減率として計算した。θ//方向での静的状態と加振状態の散乱プロファイルの強度変化率を確認すると、貯蔵弾性率の歪依存性が大きいHAF級CBを用いたゴムは、q ≤ 0.01 nm−1でのCBの凝集体ネットワーク構造に起因する部位の散乱強度増減率が大きく減少した(図6a)。それに対し、貯蔵弾性率の歪依存性の小さいXBRを用いたゴムは、θ//方向におけるq ≤ 0.01 nm−1の強度増減率がプラス方向になっていた(図6a)。一方、θ方向においては、XBRを用いたゴムはq ≤ 0.01 nm−1の強度増減率は変化しないが、高q領域の強度増減率はマイナスとなる。他の試料のθ方向の強度増減率は、マイナス方向になる傾向にある(図6b)。XBRを用いたゴムと、他のゴム試料との強度増減傾向の違いに関しては、θ//方向、θ方向共に、図6a、図6bにおいて破線(水色)で表したq = 0.01 nm−1近傍で現れる。


              

図6a 100 Hz、歪1.3%の振動におけるθ//方向での    図6b 100 Hz、歪1.3%の振動におけるθ方向での

散乱プロファイルの強度増減率            散乱プロファイルの強度増減率


 架橋ゴムの粘弾性特性に及ぼすCB分散状態の影響について調査した。動倍率、貯蔵弾性率の歪依存性の異なる架橋ゴムの静的状態でのCB分散状態を走査型プローブ顕微鏡観察やSPring-8 BL19B2における試料が静的状態でのUSAXS測定では差異が認められなかった。しかし、架橋ゴムに粘弾性測定機により微振幅加振を与え、静的状態との散乱強度の差を比較することで微振幅領域における振幅の増加に伴う貯蔵弾性率低下現象(ペイン効果)に影響するCB分散状態変化を示唆する結果を得た。ゴム試料を静的状態で測定したUSAXSデータでは、Porod領域の散乱強度のq依存性ではSRF試料におけるXBR配合の有無での差は認められていない。しかし、貯蔵弾性率の歪依存性の小さいXBRを配合したSRF試料では、加振状態でUSAXS測定を行った場合、θ//方向でq ≤ 0.01 nm−1領域で強度増減率が増加し、q ≥ 0.01 nm−1では減少した。

 この結果より、ゴムに微振幅加振を与えた時に加振方向と同方向(θ//)でのq ≤ 0.01 nm−1におけるCB二次粒子が形成する高次構造が静的状態と比較して、変化しないもしくは高次構造を形成する二次凝集体量が増加する方が、歪振幅の増加による貯蔵弾性率の低下が抑制されていると推察される。これは、歪振幅増加によるCB二次凝集体が形成する高次構造の分断が起こりにくくなることが要因と考えられる。


今後の課題:

 今回の測定では、小角側でqが5.0×10−3 nm−1近辺までの領域において、静的状態と加振状態での散乱プロファイルの強度増減率を調べたところ、加振によりCBの凝集体ネットワーク構造が崩れる現象が確認できた。この強度増減率のプロットにおいては、qが5.0×10−3 nm−1よりも小さい領域でも強度変化を生じることが予想され、更に大きな凝集体ネットワーク構造が変化している可能性がある。そのため、加振によるCBの凝集構造変化全体を解明するためには、qがより小さい領域でのUSAXS測定の必要があると考えている。


参考文献:

[1] A. R. Payne, Rubber Plast. Age, 111, 963 (1961).

[2] 2011A1745, 平成23年度SPring-8 重点産業利用課題成果報告書.

[3] 2011B1950, SPring-8 利用研究成果集, Vol.1 No.2, 59 (2013).

[4] G. Beaucage, J. Appl. Cryst., 28, 717 (1995).



ⒸJASRI


(Received: March 18, 2016; Accepted: December 12, 2016; Published: January 31, 2017)