Volume5 No.1
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
超高速・低温フレームを特徴とする衝撃焼結被覆技術を用いた、昇華性材料、窒化アルミニウム(AlN)溶射皮膜の気孔率評価方法の開発
Development of a Method for Measuring Porosity for Aluminum Nitride Coatings by Low Temperature High Velocity Oxygen Fuel Spraying
a群馬県立群馬産業技術センター, b群馬県東部環境事務所, c横浜国立大学, d豊橋技術科学大学, e九州大学
aGunma Industrial Technology Center, bGunma Tobu Environmental Affairs Office, cYokohama National University, dToyohashi University of Technology, eKyushu University
- Abstract
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原料粒子を超高速に加速し基材に衝突させ、その衝撃により焼結させ成膜する技術(以下「CASP」という。)による最適皮膜特性の確立に関して、最大の研究課題は、耐プラズマ性および熱伝導性・放熱性を向上させることであり、窒化アルミニウム(以下「AlN」という。)皮膜の緻密性を向上させることに他ならない。この膜の緻密性の評価方法として、大型放射光施設であるSPring-8の結像型X線CTによる断面画像から空隙の割合を求め、この値をもとにSEM画像の2値化の閾値をチューニングするという気孔率の評価方法を開発した。
キーワード: 衝撃焼結成膜、半導体製造工程、イメージング
1.背景と研究目的:
半導体製造工程のデバイス製造プロセスでは、フッ素系や塩素系などのプラズマを多用する。金属やセラミックからなる装置や機構部品の装置内部に面する部位は、非常に腐食性の強いそれらの雰囲気に曝される。従って、非常に腐食性の強いそれらの雰囲気に曝されるため、保護膜が必須である。
保護膜の技術要素として、「化学組成」と「成膜方法」の2技術が代表的である。「成膜方法」としては、100 µm程度の厚みの皮膜が容易に得られるプラズマ溶射(図1)が、現在比較的多く用いられている。しかしながら、同じ化学組成であっても、成膜方法により、耐プラズマ性が大きく異なる。現在、プラズマ溶射による皮膜を凌駕する耐プラズマ性を持つ技術の開発競争が行われている[1]。
本研究では、図2に示すような原料粒子を超高速に加速し基材に衝突させ、その衝撃により焼結させ成膜するCASPにより、プラズマ溶射に対し、「より粒径の小さい微粒子の原料」を「より低温、より高速に」溶射し得られるが、耐プラズマおよび熱伝導性・放熱性に優れたAlN皮膜の緻密性の評価方法において、SEM画像を用いた場合、炭化水素系燃料に起因するススのような軽元素と空隙との判別が付かない。そこで、SPring-8の結像型X線CTによる断面画像から空隙の割合を求め、この値をもとにSEM画像の2値化の閾値をチューニングするという気孔率の評価方法を検討した。
図1. プラズマ溶射による成膜方法 図2. CASPよる成膜方法
2.実験:
2.1 測定に用いたワーク
申請時の測定用のワークについては、プラズマ溶射およびCASPによる、AlN薄膜、Y2O3薄膜を各2ワーク(2ワークのうち1ワークは、予備)合計8ワークとしていたが、プラズマ溶射では、常圧下では融点を持たず、また昇華点も低いAlNは昇華分解し、成膜が困難であった。
本実験では、CASPによる皮膜のみの比較を行うことを目的として、AlN薄膜、Y2O3薄膜を各1ワーク、合計2ワークの測定を結像型X線CTにより計測した。
2.2 AlN皮膜およびY2O3皮膜の成膜条件
CASPによるAlN皮膜およびY2O3皮膜の成膜装置の概念図を図3に示す。SPring-8の結像型X線CTにより測定が可能と思われる膜厚(100 µm程度)の成膜条件は、表1のとおりである。
図3. CASPよる成膜装置の概念図
表1. 成膜条件
2.3 測定条件
実験はSPring-8(BL47XU)で実施した。図4に光学系、図5にセットアップおよびステージ上のワークを示す。ワークは、CASPによるAlN皮膜、Y2O3皮膜で、サイズは、80 µm×80 µm×100 µmである。ワークは、異物分析等で用いられるマイクロサンプリング技術により、ミニナイフを用いて手動で作製した。
図4. 光学系 図5. セットアップおよびステージ上のワーク
条件は以下のとおりである。
・X線のエネルギー:8 keV
・露光時間:250 msec
・試料方位角間隔:0.2°(ハーフスキャン0~180°)
・検出器:sCMOS撮像素子を利用した可視光変換型の検出器
・分解能:54 nm/pixel
・画像の再構成:Convolution back projection法[2]
3.結果および考察:
3.1 断面画像を用いた気孔率測定
断面画像は、VOXELCON(くいんと社製)により、ボクセルモデル化し、空隙の割合を求めた。
断面画像から、最終的に気孔率を算出する為の空隙データを作るまでの概念図を図6に示す。図6の方法で求めた各ワークの空隙のボクセルデータを図7、8に示す。
図6. 断面画像から空隙データを作るまでの概念図
図7. AlN皮膜の空隙のボクセルデータ 図8. Y2O3皮膜の空隙のボクセルデータ (CASP) (CASP)
3.2 SEM観察像の閾値のチューニング
これまでもAlN皮膜の膜厚等の観察に使用してきたSEM観察像と、その画像を2値化処理し気孔率の算出法について検討を行った。この際、2値化の閾値は、気孔率がSPring-8で得られた断面画像から求めた気孔率に合致するように調整した。閾値の調整に供したSEM観察像を図9に示す。使用した電子顕微鏡は、JSM-5600LV(日本電子社製)、倍率は1,000倍である。
図9. AlN皮膜のSEM画像
図9の点線部のように、AlN皮膜のみを選択し、ボクセルデータから求めた気孔率である47%にチューニングを行った。図10にチューニングを行ったエリア、気孔率を10〜47%とした2値化処理後の画像を示す。2値化処理で使用したソフトウェアは、Image-Pro Plus(メディアサイバネティクス社製)である。
図10. SEM画像の2値化処理
同様に、Y2O3皮膜の気孔率をボクセルデータから求めた気孔率である4.4%にチューニングを行った。閾値の調整に供したSEM観察像を図11に、2値化処理後の画像を図12に示す。
図11. Y2O3皮膜のSEM画像 図12. SEM画像の2値化処理
4.まとめ:
大型放射光施設SPring-8のシンクロトロン放射による結像型X線CTを利用することで、膜厚100 µm程度のCASPによるAlN皮膜の断面画像の取得が可能であり、断面画像のCT値によるボクセルデータの実体部および空隙部の切り分けにより、最適皮膜特性の確立に欠かすことの出来ない気孔率を求められた。
また、断面の観察に使用してきたSEM観察像について、気孔率がSPring-8で得られた断面画像から求めた気孔率に合致するように調整し、SEM観察像からの気孔率測定を実現した。最適皮膜特性に関する基礎的なデータが採取されたことにより、成膜条件の最適化の効率化が図られ、CASPによるAlN皮膜の実用化に向けた取組が飛躍的に進展するものと期待される。
謝辞:
本研究は、経済産業省の平成24年度戦略的基盤技術高度化支援事業により遂行されたものであることを記し、ここに深く謝意を表します。
参考文献:
[1] 日野高志、東芝レビュー, 71(2), 48 (2016).
[2] A. C. Kak & M. Slaney:Principles of Computerized Tomographic Imaging, IEEE Press, New York (1988) (http://www.slaney.org/pct/)
ⒸJASRI
(Received: July 6, 2016; Accepted: December 12, 2016; Published: January 31, 2017)