SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume4 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

LED用蛍光体材料の温度消光メカニズム解明(2)
Investigation of the Mechanism of Thermal Quenching of Phosphor Materials for White LED(2)

DOI:10.18957/rr.4.2.237
2012A1609 / BL14B2

上田 恭太a, 本間 徹生b

Kyota Uhedaa, Tetsuo Honmab


a(株)三菱化学科学技術研究センター, b(公財)高輝度光科学研究センター

aMitsubishi Chemical Group Science and Technology Research Center, bJASRI


Abstract

 発光強度の温度依存が異なる二つの白色LEDランプ用蛍光体(Y3Al5O12:Ce)の発光中心であるCeイオンの価数および周辺局所構造をX線吸収微細構造(XAFS)測定により調べた。まず、Ce-LIII吸収端XAFSスペクトルからCeイオンの価数は、両蛍光体試料ともにほぼ3価であることを確認した。次いで、Ce-K吸収端XAFSスペクトルから得られる動径構造関数からCe発光中心周辺の原子が秩序立っているほど、発光特性に優れ、更に発光強度についても優れた温度特性を示すことが明らかとなった。


キーワード: 白色LED、蛍光体、温度消光、XAFS、YAG:Ce、デバイワーラー因子


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背景と研究目的:

 白色LEDランプ内の蛍光体は、青色LEDデバイスによって70〜100 °Ϲに加熱され、発光強度が著しく劣化(温度消光)する。この理由から、高い発光強度を示す安価の蛍光体であっても、温度消光の懸念から白色LEDランプへの利用が断念されることがあった。したがって、これら蛍光体が示す温度特性の改良は、白色LEDランプの動作安定性向上はもとより、更にランプそのものの高効率化あるいは低価格化に結びつくと期待される。これまで、白色LEDランプではY3Al5O12:Ce黄色蛍光体が主に使用され、その改良品において高効率化と温度特性の改良が行われてきた。しかし、その改良の技術的根拠は明らかにされてこなかった。

 これまで、改良によって温度特性が異なるガーネット構造を有した3種類の蛍光体(温度消光が大きい順:I-Y3Al5O12:Ce>I’-Y3Al5O12:Ce>II-Y3Al5O12:Ce)の発光イオンの吸収端(Ce-LIIIおよびCe-K)におけるXAFS測定を行った[1]。このとき、I-Y3Al5O12:CeにCeO2が含まれていたため、この試料のXAFSスペクトル測定だけ断念し、約20 Kから室温までのXAFSスペクトル測定にはI’-Y3Al5O12:Ce、II-Y3Al5O12:Ceのみを用いた。その結果、I’-Y3Al5O12:Ceと比較して発光強度・温度特性に優れたII-Y3Al5O12:Ceは、動径構造関数においてピーク強度が高く、発光イオンのCe周りにあるデバイワーラー因子が小さく、Ce周りの局所構造は静的な構造乱れが抑えられて優れた発光強度、ひいては温度特性を示すと考えた。しかしながら、線形項だけを考慮したデバイワーラー因子を両者で比較したところ、I’-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ce間でCe周りの局所構造の差異を厳密に議論することができなかった。従って、温度特性が更に大きく異なるI-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceの試料間で測定し、再検討する必要があることが分かった。

 松本らは難溶性の酸化セリウム(IV)を硫酸水素アンモニウムと混ぜて加熱すると、セリウム(IV)がセリウム(III)に還元され、容易に溶融分解できることを報告している[2]

 本報告では、硫酸水素アンモニウム融解処理してCeO2を取り除いたI-Y3Al5O12:Ce(図1(a))、それを再焼成して得られたI2-Y3Al5O12:Ce(図1(b))とII-Y3Al5O12:Ceの低温から室温までのCeイオンのXAFSスペクトルを測定し、解析後、比較検討した結果を報告する。



図1. (a) 硫酸水素アンモニウム融解法によりCeO2を取り除いたI-Y3Al5O12:CeのXRDパターンと(b)それを再焼成して得られたI2-Y3Al5O12:CeのXRDパターン


実験:

 測定に用いた蛍光体試料、I2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceの発光強度に関する温度依存性を図2に示す。図よりこれら二つの蛍光体試料を温度消光の大きい順に並べると以下のとおりになる。


 I2-Y3Al5O12(≈I-Y3Al5O12)> II-Y3Al5O12


それぞれ蛍光体の発光イオン(Ce)濃度は、Yサイトにおいてそれぞれ3 mol%とした。蛍光体試料はすべて粉末で、大気中で化学的に安定である。各試料粉末はXAFS測定に用いるため、直径10 mmのペレットに成型した。また、Ceの3価および4価の標準試料としてCe(CH3CO)3H2O(Std(III))とCeO2(Std(IV))を用いた。

 XAFSスペクトル測定は、産業利用ⅡビームラインBL14B2で透過法により行った。まず、室温で、上記試料のCe-LIII吸収端XAFSスペクトルを測定した。次に、低温から室温におけるCe-K吸収端XAFSスペクトルを測定した。Ce-K吸収端XAFSについては、室温において測定条件を検討し、次いで、クライオスタットを用いて10 Kから室温まで7点測定(10、80、130、180、220、260 K、RT)した。

 室温におけるXAFSスペクトルのXANES領域からそれぞれの発光イオンが示す電子状態(価数)を、また、EXAFS領域から発光イオンの局所構造を解析し、それぞれの温度変化を調べた。



図2. 室温以上における各種蛍光体試料が示す発光強度(:励起波長455 nm)の温度依存性


結果および考察:

 図3に室温におけるI2-Y3Al5O12:CeのCe-LIII吸収端XAFSスペクトルを示す。図1(b)の回折パターンでも確認されたようにXAFSスペクトルにおいても僅かにCe(IV)O2を認めた。



図3. 室温におけるI2-Y3Al5O12:CeのCe-LIII吸収端XAFSスペクトル


 図4に10 Kと室温におけるI2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceの動径構造関数を示す。なお、k3χ(k)におけるフーリエ変換の範囲を2 – 11 Å-1とした(図4(b))。温度によらず、I2-Y3Al5O12:Ceは、II-Y3Al5O12:Ceと比較して第1近接および第2近接のピーク強度が極端に小さくなっている。また、10 Kにおける第2近接と第1近接のピーク強度を比較するとI2-Y3Al5O12:Ceの方の強度が小さくなっている。これらの結果は、II-Y3Al5O12:Ceと比べてI2-Y3Al5O12:Ceの発光中心Ce周りの局所構造において静的な乱れが大きいことを示唆している。また、I2-Y3Al5O12:Ceのピーク位置はII-Y3Al5O12:Ceよりも短距離側にシフトしている。特に第2近接のピーク位置は第1近接と比べて大きくシフトしている。このように同じYAG構造を有するものの、発光強度と温度特性が異なる蛍光体における発光中心Ceの局所構造は、発光強度およびその温度特性と関連付けられることが明確に示唆された。



図4. (a) 10 Kと室温におけるI2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceの動径構造関数と(b) 室温におけるI2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:CeのEXAFS振動スペクトル


 次いで、10 Kから室温までの各温度におけるI2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceの動径構造関数を図5に示す。



図5. 10 Kから室温までの各温度におけるI2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceの動径構造関数


 ガーネット結晶構造中のYサイトをCeイオンで置換したモデルを用い、I2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceの動径構造関数の第一配位圏(Ce-O)をフィッティングすることによって求めたデバイワーラー因子の温度依存性を図6に示す。I2-Y3Al5O12:Ceにおけるピークフィッティングの誤差が総じて大きかったものの、温度特性が優れたII-Y3Al5O12:CeはI2-Y3Al5O12:Ceと比較して動的な乱れがほとんど無い低温下においてもデバイワーラー因子が小さいことが明らかとなった。この結果は、発光中心であるCe周りの静的な乱れがII-Y3Al5O12:CeよりもI2-Y3Al5O12:Ceの方が明らかに大きいことを示し、Ce発光中心周辺の原子が秩序立っているほど、発光特性に優れ、更に発光強度についても優れた温度特性を示すことが明らかとなった。I2-Y3Al5O12:Ceの第二配位圏をこのモデルでフィッティングすることはできなかったが、図5に示した動径構造関数の温度依存性から第二配位圏のデバイワーラー因子の温度依存性も第一配位圏と定性的には同様の傾向を示すと考えられる。



図6. I2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceのデバイワーラー因子(Ce-O)


今後の課題:

 I2-Y3Al5O12:CeとII-Y3Al5O12:Ceについて発光強度が大きく変化する(図2)室温以上(<200 °Ϲ)におけるXAFSスペクトル変化を測定し、実際に駆動させている白色LEDランプ内の温度、特に100 °Ϲ付近で測定されるこれら試料の動径構造関数とその温度消光との関係を検討する。

 また、Lu3Al5O12:Ce をはじめ、(Y,Lu)3Al5O12:Ce蛍光体が示す温度特性の差にも注目し、Y3Al5O12構造におけるYサイトにLu等の希土類元素を固溶置換させたときの動径構造関数をそれぞれ測定し、それらが示す温度特性の差について検討が必要となる。


参考文献:

[1] 上田恭太, 本間徹生, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 3(2), 407 (2015)

[2] 松本健, 北川真由美, BUNSEKI KAGAKU, 47, 491 (1998)



ⒸJASRI


(Received: November 25, 2015; Early edition: February 25, 2016; Accepted: June 24, 2016; Published: July 25, 2016)