SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume4 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

MYTHENを利用した新しい粉末回折装置のカメラ半径の検討
Determination of Reasonable Camera Radius for Developing Powder Diffractometer Using 1-D Detector MYTHEN

DOI:10.18957/rr.4.2.248
2012B1395 / BL19B2

大坂 恵一a, 佐藤 眞直a, 松本 拓也b, 広野 等子c, 川瀬 守弘a, 豊川 秀訓a

Keiichi Osakaa, Masugu Satoa, Takuya Matsumotob, Toko Hironoc, Morihiro Kawasea, Hidenori Toyokawaa


a(公財)高輝度光科学研究センター, b(株)スプリングエイトサービス, cボン大学

aJASRI, bSPring-8 Service Co., Ltd., cUniversity of Bonn


Abstract

 産業利用ビームラインに導入を検討しているオンライン1次元検出器MYTHENを利用した新しい粉末回折装置の設計上、最も重要な要素のひとつである「カメラ半径」の最適化検討のためのデータ収集を行った。その結果、検出器形状の影響を抑制し、良好なデータが取得できる条件を得ることができた。


キーワード: 粉末回折、新装置開発、自動化、高効率化、高度化


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背景と研究目的:

 SPring-8のBL02B2ならびにBL19B2に設置されている粉末回折装置(大型デバイシェラーカメラ)は、数mg程度の極微量な試料でも電子レベルの精密構造解析が可能なデータが収集できる。そのため、学術界のみならず、産業界においても、新規材料開拓に必要不可欠な実験・解析技術として認知されている。我々は、BL19B2の装置において、試料搬送・精密位置決めロボット「JukeBox」を開発し[1]、データ収集の高効率化・省力化を推進し、X線を利用した実験に慣れていないユーザーでも高品質のデータを効率よく収集できる仕組みを作り上げた。我々は、利便性のさらなる向上を目指し、2012年度より「オンライン検出器」を用いた新しい粉末回折装置(以下、新回折計)の開発をスタートした。検出器として導入を検討しているMYTHEN[2, 3]は、Swiss Light SourceのMaterials Scienceビームライン(MS-X04SA)の粉末回折用検出器として開発された1次元固体Si検出器である。我々は、この検出器の特徴である高速時分割測定を応用した新しい結晶粒度評価法を開発し[4]、新回折計実現に向けてより具体的な設計の段階を迎えている。

 この設計において重要なパラメータの一つがカメラ半径である。MYTHENを用いた回折計では、X線検出部の形状は7 mm×64 mmの平面であるため、検出器の配置は理想的な「円筒形」ではなく、いわゆる「多角形」様となる。この「円筒形」と「多角形」の形状差は、主に回折線が観測される角度2θの補正に影響するが、カメラ半径を大きくすることによってその影響を小さくすることができると同時に、角度分解能が向上する利点がある。しかしながら、1個のMYTHENで観測できる回折角の幅が狭くなるので、広角のデータを測定するためには、多数のMYTHENが必要になる。それに伴う導入コスト増加は、新装置導入を検討する際の大きな障壁になってしまう。そこで本実験では、MYTHENを用いた回折計において、カメラ半径が回折角補正および角度分解能に与える影響を明確にし、新回折計に最適なカメラ半径を検討するためのデータ収集を目的とした。


実験:

 実験装置の概略図を図1に示す。実験はSPring-8産業利用IビームラインBL19B2第2実験ハッチに設置されているHuber社製多軸回折計を用いて行った(図1(a))。MYTHEN検出器は、多軸回折計の2θ軸(以下、2θH軸)上に設置した。2θH軸上にはMYTHENの位置を変更してカメラ半径を調整するためのレールを設置した。X線のエネルギーは30 keV,ビームサイズは大型デバイシェラーカメラで用いるものと同じ鉛直0.3 mm×水平3 mmに設定し、MYTHENの下流側直前にも水平幅可変スリットを設けて検出される回折X線の幅を制限し、大型デバイシェラーカメラで測定するデータと同等の幅にした。試料はNIST標準試料CeO2粉末(結晶粒径:約380 µm)で、ガラスキャピラリーに封入した。



図1 実験装置の概略図.(a)実験ホール側から見た全体図,(b)検出器と回折X線の幾何学的関係を表す図.


 MYTHENで観測されるデータは、検出器上の位置を回折角2θに変換して評価する必要がある。MYTHENでは、X線検出部の長辺(64 mm)の方向に0.05 mm間隔で検出素子(ストリップと呼ぶ)が1280個設けられ、1次元検出器として機能する。1ストリップあたりの回折角幅Δφは、図1(b)で示した回折X線とMYTHEN検出面の幾何学的な関係を用いて、以下の式で表される。


 ここでdはストリップ間距離(すなわち0.05 mm)である。本研究では、ストリップ番号nに対応する回折角2θを以下の式で定義する。


 ここで2θHは多軸回折計の2θ軸の角度位置,n0は2θH=0としたときのダイレクトビーム位置で求めることができる。(1)式はMYTHENの検出面が平面状であることを前提としているので、(2)式で求められる2θは、検出面の端に近づくにしたがって、本来の2θとの差が顕著になる。本実験では、この差を、MYTHENの形状に由来する回折角補正のカメラ半径依存性として議論する。

 カメラ半径Rは、ダイレクトビームの位置(2θ=0)を2θH=0以外の位置で受光した際のストリップ番号nがわかれば、(1)(2)式を用いて計算できる。本実験では、カメラ半径を、344.28 mm,504.92 mm,711.06 mmの3通りに設定し、2θH軸を一定の角度間隔で移動させて、広角の粉末回折プロファイルを測定した。これは、上記光学条件と同等の条件で測定された大型デバイシェラーカメラ(同じ第2実験ハッチに設置。カメラ半径286.48 mm)のデータと比較するためである。


結果および考察:

 測定された粉末回折プロファイルは、(1)(2)式を用いて回折角2θにおける回折強度に変換した後、観測されたすべての回折ピークに対してプロファイルフィッティングを行った上で、回折角補正および角度分解能の評価を行った。

 まず、プロファイルフィッティングで得られたピーク位置と、本実験の実験条件において理論計算で得られるピーク位置との差を「回折角補正」Δ2θと定義して、図2を用いて議論する。図2(a)は、3通りのカメラ半径に対するΔ2θを回折角2θに対してプロットしたものである。これを見ると、カメラ半径が大きくなるほど、Δ2θの分布は相対的に小さくなっている。このようなΔ2θの分布の特徴から、検出器の形状に由来する回折角のずれが支配的であることが推測できる。ここで、回折角補正の大きさが|Δ2θ|よりも小さい回折ピーク数の百分率をP(|Δ2θ|)と定義し、図2(b)としてプロットした。例えば、カメラ半径が504.92 mmの場合、回折角補正が±0.005°以内である回折ピークは、全体の約45%という意味である。カメラ半径が大きくなるにつれて、回折角補正値は小さくなる傾向が見られる。特に、カメラ半径が概ね500 mmを超えると、回折角補正はすべての回折ピークに対して±0.01°以内となることがわかる。しかし、カメラ半径が小さい344.28 mmの場合、 ±0.01°以内の補正で収まるピークの割合は約25%しかなく、すべてのピークを補正するには±0.02°より大きい補正が必要である。一方で、700 mm程度まで大きくしても、回折角補正値が小さくなる傾向は鈍化するように見える。前述の通り、カメラ半径を大きくすることは、検出器の導入コストを増やすことに直結する。したがって、実験データの質(ここでは、回折角補正を小さくすること)に対する費用対効果の観点から見れば、カメラ半径は500–700 mmの間で検討すべきである。



図2 MYTHENを用いて測定した粉末回折プロファイルの回折角補正.(a)回折角依存性,(b)回折角補正の大きさが|Δ2θ|よりも小さい回折ピーク数の百分率P(|Δ2θ|).


 次に、角度分解能を議論するにあたり、回折ピークの半値幅を指標にして議論する。図3は、3通りのカメラ半径で測定した回折ピークの半値幅を2θに対してプロットしたものである。比較対象として、同一の光学条件および試料を大型デバイシェラーカメラ(イメージングプレート(IP)を使用)を用いて測定したデータに対する結果も示した。回折角が高角になるにしたがって、半値幅が緩やかに大きくなる傾向は、すべてのデータに対して共通の特徴である。特筆すべきは、IPで観測されたものに比べて、MYTHENで観測された回折ピークは半値幅が総じて格段に小さいことである。このことから、MYTHENを導入することによって、IPを用いた大型デバイシェラーカメラでは困難であった、回折角が近接したピークの分離が容易となることが期待できる。特に、SPring-8の特徴である高エネルギー(=短波長)X線を用いた粉末回折実験では、回折ピークの重畳がデータ解析を難しくしている場合があり、この問題を解決できるのはユーザーにとって大きな利点となる。なお、MYTHENのカメラ半径を大きくすると、半値幅が小さくなる傾向があるが、検出器の違いによる差に比べれば、その効果は小さい。したがって、角度分解能の観点から見れば、カメラ半径は300–700 mmの間であればIPを凌ぐ十分な性能を発揮すると言える。



図3 粉末回折ピークの半値幅の回折角依存性.


 以上の回折角補正および角度分解能の解析を踏まえて、新回折計のカメラ半径は500–700 mmが適していると結論した。


今後の課題:

 本実験の成果は、産業利用ビームラインに将来導入を計画しているオンライン検出器型粉末回折測定装置の開発にフィードバックされる。この装置の開発にあたって、今後は、「検出器のフォトン計数効率の検証」に関する実験が必要である。特に、SPring-8の特徴である高エネルギー領域のX線に対する計数効率を実測することは重要である。


参考文献:

[1] K. Osaka, T. Matsumoto, K. Miura, M. Sato, I. Hirosawa and Y. Watanabe : AIP Conference Proceedings, 1234, 9-12 (2010).

[2] B. Schmitt, Ch. Brönnimann, E.F. Eikenberry, F. Gozzo, C. Hörmann, R. Horisberger, B. Patterson : Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, 501, 267–272 (2003).

[3] http://pilatus.web.psi.ch/mythen.htm

[4] 大坂 恵一,佐藤 眞直,松本 拓也,広野 等子,川瀬 守弘,豊川 秀訓:SPring-8/SACLA利用研究成果集(SPring-8/SACLA Research Report), 4, 75–78 (2016).



ⒸJASRI


(Received: March 25, 2016; Early edition: May 25, 2016; Accepted: June 24, 2016; Published: July 25, 2016)