SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume4 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

XAFS遠隔化を目指した次期Quick XAFS測定プログラムの開発
Development of the Next Version of QXAFS Program for XAFS-remote-experiment System

DOI:10.18957/rr.4.2.252
2012B1871 / BL14B2

高垣 昌史, 本間 徹生

Masafumi Takagaki, Tetsuo Honma


(公財)高輝度光科学研究センター

JASRI


Abstract

 BL14B2におけるXAFS測定環境の遠隔化を実現するに先立ち、現行のQuick XAFS測定プログラムの最適化を行った。コードの見直しを行った結果、メンテナンス性の向上はもとより、ユーザーインターフェースが簡素化され、操作性が向上した。


キーワード: 遠隔実験、XAFS、最適化


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背景と目的:

 産業利用推進室では、BL14B2のXAFS自動測定システムを基盤として、インターネット経由でXAFS測定を可能にする「遠隔XAFSシステム」を構築すべく開発を進めている。産業利用分野においては、人的、資金的、時間的資源上の制約から、ユーザー実験は小数の熟達した測定担当者が行い、実験結果を真に求めている試料提供者が実験に参加できず、その意見が実験進行にフィードバックされづらいケースが少なくない。遠隔XAFSシステムが完成すれば、ネット接続が可能な環境にいる限り、どこからでも実験に参加することが可能となるため、試料提供者の実験参加(リアルタイムに意見をフィードバックすること)が非常に容易になる。これにより、より商品開発に密着した高品質の実験結果の創出が期待される。

 遠隔XAFSシステムの中核のひとつは、Quick XAFS(*)である。遠隔版Quick XAFS測定プログラムは、現行のローカル版プログラムに従った構造となる。ローカル版との違いは「無人測定のためのサーバプロセス」という点である。サーバプロセスに求められる (1) 高い安定性と(2) 無駄のない動作による高レスポンス性を実現・維持管理するためには、コードの見通しが良く、メンテナンス性が高いことが重要であるが、ローカル版は、手法開発過渡期のコード(現在では不要)が散在し、メンテナンス性を著しく低下させている。本課題の目的は、現行のローカル版プログラムから冗長なコードや、もはや使用されなくなった機器制御コードを取り除き、シンプルで見通しが良いプログラムに最適化することである。


 (*) 高速XAFS測定の手法。透過法では従来の2〜5倍の測定効率を有する。


結果:

 図1に、最適化前後のQuick XAFS(QXAFS)測定プログラムの外観を示す。不要機能の削除の結果、ユーザーインターフェースが簡素化され、操作性が向上した。加えて、直感性に欠ける操作部の見直し、計算可能なパラメータの自動入力機能の付加により、簡便性が増した。

 本プログラム開発初期に発生したと思われる冗長なデバッグコードを含む不要コードの削除、複雑な条件分岐等の見直しにより、コード総量はファイルサイズ換算で約55%が削除され、見通しのよいコードとなった。



図1. (上)最適化前 (下)最適化後のQXAFS測定プログラム


 図2に、最適化後のプログラムによる透過配置のXAFSスペクトルを示す。BL14B2標準試料のZr foilを用い、測定はZr-K吸収端、モノクロ結晶面はSi(111)である。Dwell time(データの取り込み時間)は10 msとした。最適化前と比較して機能面での差異は認められず、現在、問題なくユーザー利用に供されている。



図2. Zr foilのXAFSスペクトル(Zr-K吸収端, Si(111))


今後の課題:

 遠隔システムにおいて重要な要件のひとつに、ユーザーの誤操作の防止がある。そのためには、ユーザーによる操作そのものを最小限に抑えることが重要である。現行版のプログラムは、モノクロの測定角度範囲をユーザーが直接入力する形式を採用しており、誤入力による測定の破綻や機器破損の危険性がある。遠隔版Quick XAFSでは、吸収端を指定するだけで測定角度範囲を算出する機能を組み込む予定である。この機能はローカル版にも有効であるため、本課題によってユーザーインターフェースが簡素化されたQXAFS測定プログラムに組み込み、さらに操作性・安全性を向上させることが今後の課題である。



ⒸJASRI


(Received: March 7, 2016; Early edition: May 25, 2016; Accepted: June 24, 2016; Published: July 25, 2016)