SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume4 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

すれすれ入射広角X線回折による修飾された無機材上有機薄膜の構造評価
GI-WAXD Measurements of Organic Film on Modified Inorganic Substrate

DOI:10.18957/rr.4.2.259
2013B1510 / BL19B2

権藤 聡a, 馬路 哲a, 和泉 篤士b

Satoshi Gondoa, Satoshi Majia, Atsushi Izumib


a住ベリサーチ(株),b住友ベークライト(株)

aS. B. RESEARCH CO., LTD, bSUMITOMO BAKELITE CO., LTD.


Abstract

 有機-無機複合材料において無機材料の表面を改質することで、様々な特性を付与することができる。その例として、エポキシ樹脂-アルミナ複合材料の熱伝導性は、アルミナ表面を脂肪酸で修飾することで向上することが分かっている。このことは、表面修飾によって樹脂の高次構造の変化に起因している可能性を推定している。本研究では、脂肪酸がエポキシ樹脂の高次構造に与える影響について、放射光によるX線反射率(XRR)測定およびすれすれ入射広角X線回折(GI-WAXD)による解析を行った。同一炭素数で二重結合数が異なる脂肪酸を使用して検証を行った結果、エポキシ樹脂の構造が脂肪酸の二重結合数によって異なる可能性が示された。


キーワード: すれすれ入射広角X線回折、表面修飾、熱伝導性


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背景と研究目的:

 近年の電子機器の高機能化、高速化に伴い、その発熱量が増加傾向にある。さらに、省エネルギーを目的としたパワーデバイスの需要の増加が見込まれているが、動作時に高温の環境となりやすいため、発熱放熱の制御が課題となっている。そのため、各種基板、樹脂シート、スペーサー、半導体封止材などの放熱用部材においても高放熱性の要求が高まっている。これら放熱用部材の多くは樹脂と無機充填材から構成されているが、無機充填材において様々な熱伝導性付与の検討が進められている。

 一方、我々は無機粒子に有機物を修飾させることで、高熱伝導性無機充填材の開発を行っている。その中で、エポキシ樹脂硬化物の無機充填材として、脂肪酸で表面修飾を行ったアルミナを用いると、未修飾アルミナを用いた硬化物と比べて、熱伝導性が向上する結果が得られているが、そのメカニズムは分かっていない。

 熱伝導を担うフォノンは格子欠陥や分子振動の非調和性により散乱を起こし、熱伝導性を低下させるため、一般に高分子材料は熱伝導性が低いが、分子を配向させ分子構造の秩序性(いわゆるパッキング性)を高めれば、熱伝導率が向上することが分かっている[1]

 このことより、脂肪酸で表面修飾したアルミナ粒子界面近傍に存在するエポキシ樹脂のパッキング性が、修飾剤により変化を起こし、複合材料の熱伝導率に影響を与えていると考察した。そこで、本研究では、エポキシ樹脂の構造をすれすれ入射広角X線回折(GI-WAXD)およびX線反射率(XRR)測定を用いて解析することで、表面修飾による高熱伝導性発現のメカニズムを明らかにすることを目的とした。今回の実験では、パッキング性に与える脂肪酸のアルキル鎖中の二重結合数(n)の影響を検証するために、同一炭素数の脂肪酸三種(n=0,1,2)について検証した。


実験:

 測定試料の前処理方法を以下に示す。第一段階の処理として、LED用サファイア基板(京セラ製)に脂肪酸(n=0,1,2)をそれぞれ塗布あるいは脂肪酸を塗布せずに、加熱反応させた後、エタノールで洗浄、乾燥して表面処理を行った。第二段階の処理として、これらの基板およびブランク基板に、ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱樹脂製)をスピンコート後、200°Cで硬化させサファイア基板上に有機薄膜を作製した。脂肪酸で処理した基板を、脂肪酸の二重結合の数の順にS-0、S-1、S-2と記し、これらにエポキシ樹脂を塗布した基板をS-0-E、S-1-E、S-2-Eとした。同様に、第一段階の処理を行わなかったブランク基板をそれぞれBlank-0、Blank-0-Eと記し、第一段階で脂肪酸を加えずに処理を行った基板それぞれをBlank-1、Blank-1-Eと記す。

 XRR測定およびGI-WAXD測定はBL19B2のHUBER製多軸回折計を用いた。X線波長は0.1 nm、GI-WAXD測定での入射角(入射X線と試料表面の間の角度)は0.125°とした。検出器はシンチレーションカウンターを使用し、入射X線は幅0.2–0.3 mm とし、受光側は発散角0.1°のソーラースリットを用いた。また、カプトンドームを使用してHeガス雰囲気で測定を行った。

 次に、加熱測定用実験方法について示す。サファイア基板に脂肪酸(n=1)を塗布、加熱反応させた後、エタノールで洗浄、乾燥して表面処理を行った。さらに、エポキシ樹脂をスピンコート後、120°Cで溶媒を揮発させサファイア基板上に未硬化エポキシ樹脂膜を作製した。

 上記基板をアントンパール製ステージを用いて加熱し、室温から100°Cまでを10°C /minで昇温させ、その後、1°C /minで200°Cまで昇温させる間、約8分間隔で2θスキャンを繰り返し、エポキシ樹脂を硬化させながらGI-WAXD測定を行った。


結果および考察:

 図1にエポキシ樹脂膜塗布前の各サファイア基板のXRR測定プロファイルを示す。なお、データを見やすくするため、各データを縦軸方向にスライド表示させてある。Blank-0とBlank-1を比較するとBlank-1は2θ =2°、4.5°付近に屈曲が生じている。フィッティング解析の結果、約1.4 nmの層が形成されており、基板表面が変質している可能性が考えられる。S-0はBlank-1に比べ、2θ=2°付近に明確な屈曲が見られており、平坦な修飾層が形成されていると考えられる。S-1、S-2は詳細な解析はできなかったが、屈曲が見られていないことから、修飾層が1 nm以下であるか、修飾剤の分布ムラが大きい状態であると推測される。

 図2にエポキシ樹脂膜塗布後の各サファイア基板のXRR測定プロファイルを示す。Blank-0-EおよびBlank-1-Eはフィッティング解析によりエポキシ樹脂膜厚が28 nmと見積もられた。Blank-1-EはBlank-0-Eに比べ、フリンジが不明確になっていることから、膜のラフネスが増大していると考えられる。S-0-Eは修飾層が1.3 nm、エポキシ樹脂層が4.1 nmと見積もられ、Blank-1-Eと比べ膜厚が薄くなっている。S-1-E、S-2-Eはフリンジが非常に小さいため、精度よく解析することはできなかったが、30 nm程度のエポキシ樹脂膜が塗布されていると見積もられた。また S-1-E、S-2-EはBlank-1-Eと比べ、フリンジが不明確なことから、膜の表面はラフネスが大きいと考えられる。これらのラフネスの増大は、表面修飾による濡れ性低下等の理由でエポキシ樹脂の塗布ムラが大きくなったためと推測される。また、S-0-EはS-1-Eに比べ膜厚が薄くなっていることから、特に修飾層表面の濡れ性が異なっていると推測される。



図1 表面修飾したサファイア基板表面のXRR測定プロファイル



図2 エポキシ樹脂膜付サファイア基板表面のXRR測定プロファイル


 図3にエポキシ樹脂膜塗布前の各サファイア基板のGI-WAXDプロファイルを示す。Blank-0と比較するとその他の試料は全体として回折強度が増大しており、基板表面構造からの回折が観測されていると考えられる。S-0では2θ =5°付近にブロードなピークが見られていることから、約1 nm周期の構造の形成が見られ、修飾剤が基板に対して垂直に規則的に配列していると推測される。その他の試料では修飾剤に由来する特徴的なピークは観測されなかった。なお、S-2の2θ =16°、23°付近等に観測されている鋭いピークはBlank-0には見られなかったことから、第一段階の熱処理で生じた基板表面の変質物由来と推測される。

 図4にin-plane方向のGI-WAXDプロファイルを示す。いずれの試料においても、2θ =13°付近にエポキシ樹脂由来と考えられるアモルファスハローが観測された。S-0-Eにおいては、S-0と同様に2θ =5°付近にブロードなピークが見られた。アモルファスハローについてはS-0-Eを除いてGI-WAXDプロファイルに違いが見られず、膜中の樹脂の構造の違いは見られなかった。S-0-Eではアモルファスハローの強度が低下していることから、塗布されているエポキシ樹脂膜が薄いことに起因している可能性もあるが、周期構造の発達により不規則構造が減少している可能性も考えられる。

 これらの結果から、二重結合の無い脂肪酸は基板表面で垂直配向性が高く、その影響を受けてエポキシ樹脂の配向周期性が高くなっている可能性が示唆された。



図3 表面修飾したサファイア基板表面のin plane方向のGI-WAXDプロファイル



図4 エポキシ樹脂膜付サファイア基板表面のin plane方向のGI-WAXDプロファイル


 本実験では、サファイア基板に塗布されたエポキシ樹脂膜を過熱させながらGI-WAXD測定し、エポキシ樹脂膜の硬化過程の観測も行った。

 各温度でのin-plane方向のGI-WAXDプロファイルを図5に示す。加熱によりアモルファスハローの強度が若干低下したが、有意と考えられるエポキシ樹脂膜の構造変化は観測されなかった。



図5 加熱過程におけるエポキシ樹脂膜付サファイア基板表面のin plane方向のGI-WAXDプロファイル


今後の課題:

 今後は表面修飾剤の塗布量が異なる試料等を用い、表面修飾剤や樹脂の配向状態等の構造をGI-WAXD測定で調べ、修飾剤が樹脂構造へ与える影響と熱伝導性への影響の関連性を明らかにしていく予定である。


参考文献:

[1] C. L. Choy, Polymer, 18, 984 (1977)



ⒸJASRI


(Received: April 16, 2014; Early edition: February 25, 2016; Accepted: June 24, 2016; Published: July 25, 2016)