SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume4 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

半導体パッケージ基板用樹脂の熱硬化過程における残留応力その場観察
In situ Residual Stress Analysis in Resins for Semiconductor Packaging Substrates during Curing Process

DOI:10.18957/rr.4.2.294
2014B1895 / BL19B2

若林 みどり, 鈴木 咲子, 中井戸 宙, 渡邊 俊明, 和泉 篤士

Midori Wakabayashi, Sakiko Suzuki, Hiroshi Nakaido, Toshiaki Watanabe, Atsushi Izumi


住友ベークライト(株)

SUMITOMO BAKELITE CO., LTD.


Abstract

 半導体パッケージ基板用樹脂/銅箔界面の残留応力について、基板樹脂の熱硬化過程におけるその場観察を行った。加熱試料台を用い、Cu(331)面のX線回折プロフィール変化を側傾法により測定し、sin2ψ法により熱時の残留応力を算出した。その結果、熱硬化過程における基板樹脂/銅界面の残留応力その場観察に成功し、樹脂の熱膨張や収縮、硬化収縮挙動を残留応力変化の観点から解明した。これによりシリカフィラー含有量(FC)の多い樹脂の方が少ない樹脂と比較して熱時の残留応力変化が小さいことが明らかとなった。


キーワード: 残留応力解析、sin2ψ法、その場観察、半導体パッケージ、長期信頼性


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背景と研究目的:

 近年の半導体高性能化および長期信頼性の観点から、半導体パッケージ基板用樹脂(以下、基板樹脂)には高度な耐熱性、電気絶縁性、熱伝導性、耐湿性が求められている。半導体パッケージ基板は、熱硬化性樹脂と無機フィラーを主成分とする基板樹脂と金属(配線およびリードフレーム)で構成される複合部材であり、それら異種材料間の弾性率と線膨張率(CTE)が異なるため、半導体パッケージ製造工程における熱プレスおよび熱硬化、半田リフローなどの加熱処理に伴い、材料界面に熱応力が発生する。更に、複数の加熱冷却過程を経ることによりその応力が樹脂と金属界面に残留応力として蓄積し、半導体パッケージの歪みや反りの要因となる。それらは、界面の密着性に影響を与え、最終的には剥離という半導体パッケージにおける致命的な不良につながる。そこで半導体パッケージ製造の各工程において発生する熱応力をその場観察し、残留応力発生メカニズムを把握することができれば、プロセス改善による基板樹脂と金属界面の残留応力制御が可能となり界面密着性向上が期待される。すなわち、基板樹脂開発における界面の残留応力の解析と残留応力発生メカニズムの把握は、半導体パッケージの長期信頼性保障のためにも重要な課題である。基板樹脂界面の残留応力観察には、非破壊的な残留応力評価手法であるX線回折を用いたsin2ψ法が有効である[1]。課題番号2014A1767ではsin2ψ法を用いて半導体パッケージ用樹脂/金属界面の残留応力評価に成功した[2]

 本検討ではsin2ψ法を用い、基板樹脂の熱硬化過程における樹脂/銅箔界面の残留応力その場観察を行い、基板樹脂/銅配線界面の残留応力発生メカニズムの解析を行った。


実験:

 半導体パッケージにおける基板樹脂/銅配線界面のモデル試料として、銅箔(厚さ12 μm)上にシリカフィラー含有量(以下、FC)が0および70 wt%の熱硬化性の基板樹脂を140°Cで30分間成形し、20 mm × 20 mm × 0.50 mmの測定試料を得た。残留応力測定はBL19B2のHUBER社製多軸回折計を用いて実施し、入射X線エネルギーは25 keV、入射X線ビームサイズは縦0.2 mm × 幅6 mmとし、回折X線は発散角0.1°の受光ソーラースリットを介してシンチレーションカウンターにより計測した。加熱試料台にはアントンパール社製試料加熱ステージを用い、室温で樹脂硬化前の残留応力を測定した後に225°Cまで加熱し80分間保持して樹脂硬化過程の残留応力を測定した。再度室温に戻す過程では175°Cおよび135°Cにおいて等温保持し、室温までの冷却過程および室温で樹脂硬化後の残留応力測定を行った。さらに再度225°Cに加熱、残留応力測定した後に半田リフローを想定した260°Cまで再加熱しリフロー温度における残留応力測定を行い、室温まで冷却してリフロー後の残留応力を測定した。残留応力の解析方法はNakamaeやNishinoらによる、エポキシ樹脂/金属界面の残留応力解析法を参考にsin2ψ法を適用し[1, 3, 4]、側傾法でCu(331)面の回折ピークプロフィールを測定した。回折ピークトップはガウス関数フィッティングにより算出した。sin2ψ法におけるψ角は、0.0, 13.6, 24.1, 31.8, 38.6, 41.6, 45.0°とし、試料台傾斜時の試料落下を防止するため、試料台付属のクリップを用いて測定試料の四つ角を固定した。sin2ψ法による残留応力計算においてはCuの物性データとして弾性率は65 GPa、ポアソン比は0.343を用いた。


結果および考察:

 図1に基板樹脂FC=0%の室温におけるCu(331)の回折ピークプロフィールのオフセット角度(ψ)依存性を示す。いずれのψにおいても明確な回折ピークプロフィール、およびψ増加に伴うピークトップの広角シフトが観測された。また、図2に示す2θ−sin2ψ線図が直線状であることから、本検討の残留応力評価手法の妥当性が確認された。図3に熱プロセスにおける基板樹脂/銅箔界面の応力のその場観察結果を示す。図中に示す温度プロフィールは加熱ステージの温度制御シーケンスである。(a) 未硬化の基板樹脂は室温で圧縮応力を示した。これは樹脂成形時(140°C, 30 min)において樹脂が熱膨張した状態で基板樹脂/銅箔界面が形成され、室温に戻した際の樹脂の熱収縮により銅箔側が圧縮されたためと推定される。(b) 225°Cでの熱硬化過程において圧縮応力は減少し、樹脂比率の多いFC=0%の方がこの挙動が顕著であった。これは樹脂の熱膨張によって銅箔側の圧縮が緩和されたためと考えられる。(c) 硬化温度から室温への降温過程において圧縮応力は増大し、室温到達時には硬化前(a)と比較して、FC=0%においては大きく増加、FC=70%では同等であった。これは樹脂比率が多いFC=0%が示す挙動であることから熱硬化過程(b)における樹脂の硬化収縮による影響と考えられる。(d) リフロー工程を想定した260°Cに再加熱した後、室温に戻した結果、加熱前後の応力に差はないことが確認できた。これより、熱硬化過程(b)において、硬化収縮を伴う反応が完了しており、リフロー温度においては更なる硬化収縮が生じなかったと推定される。

 以上より、基板樹脂の熱硬化過程における樹脂/銅箔界面の残留応力について、X線回折を用いたsin2ψ法によるその場観察手法を確立し、樹脂の熱膨張や収縮、硬化収縮挙動を残留応力変化の観点から解明することに成功した。これによりFCの多い樹脂の方が少ない樹脂と比較して熱プロセスにおける残留応力変化が小さいことが明らかとなった。



図1 室温時基板樹脂(FC=0%)/銅箔界面におけるCu(331)の

    回折ピークプロフィールのψ依存性



図2 図1から得られた2θ−sin2ψ線図



図3 熱プロセスにおける基板樹脂/銅箔界面の応力のその場観察結果

 (1測定当たりの所要時間は40分)


今後の課題:

 今後は半導体パッケージ製造プロセス改善による基板樹脂と金属界面の残留応力制御技術獲得のため、当技術を応用し、試料成形条件(温度・時間)や硬化条件(温度・時間)と残留応力の更なる相関解明を目指す。なお、本課題の実施にあたり、応力算出に用いる最適な回折ピークの探索、スリット条件、揺動条件、露光時間や、熱時の回折ピークシフトやピーク形状変化を考慮した最適な測定条件決定のための検証実験に多くの時間を要したため、当初計画していた樹脂種や樹脂厚みが熱時の残留応力変化挙動に与える影響についての検証は実施できなかった。これらの検証についても今後の検討課題である。


参考文献:

[1] 田中啓介 他, "放射光による応力とひずみの評価",及川清, 養賢堂, 東京 (2009) p56-60.

[2] 若林みどり 他, SPring-8/SACLA利用研究成果集 Vol.3 No.2, 2014A1767 (2015).

[3] K. Nakamae et al., J. Appl. Polym. Sci., 40, 2231 (1990).

[4] T. Nishino et al., J. Appl. Polym. Sci., 45, 1239 (1992).



ⒸJASRI


(Received: April 16, 2015; Early edition: May 25, 2016; Accepted: June 24, 2016; Published: July 25, 2016)