Volume4 No.2
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
固体酸化物形燃料電池用酸素イオン伝導体のin-situ XRD解析
In-situ XRD Analysis of Oxygen Ion Conductor for SOFC
(株)ノリタケカンパニーリミテド
NORITAKE CO., LIMITED
- Abstract
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固体酸化物形燃料電池(SOFC)電極に用いる酸素イオン伝導材料としてPrBaCo2O5+δが期待されており、低温作動化かつ高性能化を実現している。この材料組成でBaサイトへのSr置換およびCoサイトへのFe置換について、作動条件での材料挙動をin-situ XRDで解析した。どちらの元素を置換しても、結晶構造の対称性が高まることが確認された。作動雰囲気においての材料の安定性が高まることが期待される。
キーワード: ペロブスカイト型酸化物、in-situ XRD、燃料電池
背景と研究目的:
資源・エネルギー問題の解決、循環型社会の実現を目指し、水素エネルギーシステムの確立が強く望まれている。高効率な固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、触媒に貴金属が不要で、熱と電気の併給が可能であり、天然ガス、アンモニア、バイオガス等種々の燃料が利用可能である等の利点を活かし、災害時対応も可能な家庭用分散電源としての応用が期待されている。
SOFCには、膜材料や電極材料として、酸素イオン伝導材料が用いられており、我々は高性能かつ低価格な酸素イオン伝導材料開発に取り組んでいる。Fe系ペロブスカイト酸化物に代表される新規材料の探索に成功しており、世界トップレベルの性能発現を実証してきた。
SOFCには低温作動化が期待されている。従来の800°C以上の運転温度から600−700°Cまで低下させることで、周辺部材やインターコネクタなどの材料の選択肢が広がり、より安価な材料を使用することが可能となる。しかし、低温化することで、正極(空気極)の電極抵抗が増大し、著しい性能低下が起こることが大きな課題となっている。SOFCの作動温度を低下(700°C以下)させるため、新たな材料系の開発が望まれており、層状ペロブスカイト構造をとるLnBaCo2O5+δ (Ln = Pr, Gd, Ndなど)が新たな空気極材料として期待されている[1,2]。
PrBaCo2O5+δにおいて、BaサイトへのSr置換およびCoサイトへのFe置換を検討した。サイト置換による結晶構造変化に伴う物性変化の知見を明確にするため、本実験において評価を実施した。さらには作動温度域において導電に寄与する構成元素の結合状態がどのように変化するかを検討した。
実験:
試料粉末PrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δ (x : y = 0.00 : 0:00, 0.00 : 0.50, 0.00 : 1.00, 0.25 : 0.00, 0.25 : 0.50, 0.50 : 0.00, 0.50 : 0.50)は固相法で合成した。粉末化した試料は内径φ0.3 mmの石英ガラスキャピリーに充填した。粉末X線回折の測定はSPring-8のBL19B2に設置してある大型Debye-Scherrer計を使用し、検出器は散乱角2θが高角度の回折線まで捉えられるImaging-Plate (IP)を用いた。測定に使用した波長は0.4 Åであり、波長較正はCeO2標準試料を用いて実施した。測定は室温、300°C、500°C、700°Cにて行った。なお、加熱装置の不具合により、実験の後半に測定したサンプルは温度が実温度に達しておらず、20-30°C程度低くなっていた可能性が高い。本実験では設定温度を示した。
実験で得られたXRDパターンについて、RIETAN-FP[3]を用いてリートベルト解析を行い、Dysnomia[4]を用いて最大エントロピー法にて電子密度分布を計算した。結果の描画にはVESTA[5]を用いた。
結果および考察:
図1にPrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δ (x : y = 0.00 : 0.00, 0.00 : 0.50, 0.00 : 1.00)のSOFC動作温度である700°CにおけるX線回折パターンを示した。Fe置換量の増加に伴い、低角側にシフトしていることがわかった。最も強いピークの回折角はFeを含まない試料では、8.28°に観測されたが、Feの添加量とともに、単調に低角側に移動し、25%置換したy = 0.50の試料では8.26°に観測された。また、y = 1.00の試料では8.24°に観測された。Fe置換がない試料で回折角12°近傍に観測された2つのピークはFeの置換量の増加とともに、回折角の差が減少し、y = 1.00では1本のピークとなって、より高い対称性を有する構造になった。一方、Sr置換量の増加に伴い、高角側にシフトしていることがわかった。最も強いピークの回折角はSrを含まない試料では、8.28°に観測されたが、Srの添加量とともに、高角側に移動し、25%置換したx = 0.25の試料では8.30°に観測された。また、x = 0.50の試料では8.35°に観測された。Sr置換がない試料で回折角12°近傍に観測された2つのピークはSrの置換量の増加とともに、回折角の差が減少し、x = 0.25, 0.50では1本のピークとなって、より高い対称性を有する構造になった(図2)。この傾向は温度に関わらず、同様であった。各元素置換量によっては層状構造を保持できていない可能性も示唆された。図3に一例として、PrBaCo1.5Fe0.5O5+δのリートベルト解析結果を示した。
精密化を行った格子定数から算出した単位体積をSr置換およびFe置換について評価した。図4に示すように、BaサイトへのSr置換により、123.5 Å3からx = 0.25, 0.50で119.2, 118.3 Å3と格子体積が小さくなることがわかった。Baと比較し、Srはイオン半径が小さいためであると推察する。一方でCoサイトへのFe置換により、123.5 Å3からy = 0.50, 1.00で122.5, 122.3 Å3と格子体積が若干低下することがわかった。またCoとFeのイオン半径は3価、6配位では同一である。そのため、格子体積の変化はBaサイトへのSr置換と比較して小さいと推察した。また、低角側にシフトした結果と矛盾するため、対称性が高くなったことが影響したと推察する。
図5に各測定温度における格子体積を示した。Sr置換の場合は、Sr置換量の増加に伴い、格子体積および格子膨張率は低下することがわかった。Fe置換の場合は、室温での格子体積はFe置換の方が大きいが、格子膨張率はFe置換の方が小さいので、300°C以上において大小関係は逆転した。
リートベルト解析の結果から、CoおよびFeを中心とする配位多面体について検討した(図6)。Co, Feを中心に酸素が6配位の八面体を形成している構造である。Co, Fe-O間の結合距離はFe置換量が増加しても大きな変化はないため、Bond Valence Sum (結合原子価、以下BVS)も大きく変化はしていない。しかし、八面体の構造の対称性を表す尺度であるBond Angle Variance (結合角分散、以下BAV)は低下しており、対称性は向上していることがわかった。一方でBaサイトへのSr置換量が増加すると、図2,4のように結合距離(格子体積)の変化により、CoのBVSが増加するとともに、BAVが低下し、八面体の対称性が向上することがわかった。
ペロブスカイト型酸化物(ABO3)については遷移金属Bと酸素OのB-O-B結合が電子伝導性に寄与することが報告されており[6]、配位多面体の構造が物性に大きく寄与することが予測される。PrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δついては、BaサイトおよびCoサイトへ元素置換することで、いずれも八面体の対称性が向上した結果から、電極として求められる特性であるイオン導電性などの物性変化が起こったと考えられる。今後は導電性や熱特性の評価を用い、元素置換による材料物性の変化と結晶構造の変化を定量的に議論する。
図1 700°CにおけるPrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δのX線回折パターン(a) x : y = 0.00 : 0.00, (b) x : y = 0.00 : 0.50, (c) x : y = 0.00 : 1.00
図2 700°CにおけるPrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δのX線回折パターン(a) x : y = 0.00 : 0.00, (b) x : y = 0.25 : 0.00, (c) x : y = 0.50 : 0.00
図3 700°CにおけるPrBaCo1.5Fe0.5O5+δのリートベルト解析結果
空間群: P4/mmm (No. 123). 格子定数:a = b = 3.96975 Å, c = 7.77455 Å, Rwp = 9.506%, RB = 4.838%, RF = 2.569%
図4 リートベルト解析により精密化したPrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δの格子体積。(700°C)
(左図)PrBaxSr1-xCo2O5+δ(x = 0, 0.25, 0.50)(右図) PrBaCo2-yFeyO5+δ(y = 0, 0.50, 1.00)
図5 各測定温度におけるPrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δの格子体積。
(左図)PrBaxSr1-xCo2O5+δ(x = 0, 0.25, 0.50)(右図) PrBaCo2-yFeyO5+δ(y = 0, 0.50, 1.00)
図6 リートベルト解析により精密化したPrBa1-xSrxCo2-yFeyO5+δのBond Valence SumとBond Angle Variance。(700°C)
(左図)PrBaxSr1-xCo2O5+δ(x = 0, 0.25, 0.50)(右図) PrBaCo2-yFeyO5+δ(y = 0, 0.50, 1.00)
今後の課題:
今回のデータを基に、各組成の結晶構造データを詳細に解析し、導電性および熱特性との関係性を議論する。
参考文献:
[1] Y. C. Chen, M. Yashima, J. P. Martinez, J. A. Kilner, Chem. Mateials. 25 (13), 2638 (2013).
[2] S. Park, S. Choi, J. Kim, J. Shin, G. Kim, ECS Electrochem. Lett., 1 (5), F29 (2012).
[3] F. Izumi, K. Momma, Solid State Phenom., 130, 15 (2007).
[4] K. Momma, T. Ikeda, A. A. Belik, F. Izumi, Powder Diffraction, 28, 184 (2013).
[5] K. Momma, F. Izumi, J. Appl. Crystallogr., 44, 1272 (2011).
[6] J. Richter, P. Holtappels, T. Graule, T. Nakamura, L. J. Gauckler, Monatsh. Chem., 140, 985, (2009).
ⒸJASRI
(Received: August 28, 2015; Early edition: March 25, 2016; Accepted: June 24, 2016; Published: July 25, 2016)