SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume4 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

固体酸化物型燃料電池用Ni電極のアンモニア環境下におけるIn-situ XAFS解析
In-situ XAFS Analysis of Ni Anode for Solid Oxide Fuel Cell under Ammonia Gas

DOI:10.18957/rr.4.2.324
2015A1979 / BL14B2

犬飼 浩之, 岩井 広幸, 里見 恵梨佳, 斎藤 正紀

Koji Inukai, Hiroyuki Iwai, Erika Satomi, Masaki Saito


(株)ノリタケカンパニーリミテド

NORITAKE CO., LIMITED


Abstract

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)に用いるNi電極について、アンモニア及び水素含有N2ガス雰囲気で材料の窒化挙動をXAFS測定で解析した。5 ppmNH3-N2ガス雰囲気ではNi K-edgeのXANESスペクトルの変化は顕著でなかったが、アンモニアの完全分解を想定したガス(25%N2+75%H2)雰囲気で処理したサンプルのNi K-edgeのXANESスペクトルは、低温から低エネルギー側へのシフトが観察され、Ni電極の窒化の進行が示唆された。しかしながら、100%アンモニアガス中で処理した材料に比べてスペクトルの変化が小さいことから、アンモニアガスが完全分解したガス雰囲気下では、Ni電極の窒化反応が進みにくいことを明らかにした。


キーワード: SOFC、アンモニア、Niアノード


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背景と研究目的:

 CO2の排出量の大幅削減には、脱化石燃料や低炭素社会を進め、再生可能エネルギーの大規模利用や水素社会の普及が必要とされてきている。しかし、水素は貯蔵や輸送に関して、技術的なハードルを多く抱えており、純水素を使用したシステムの構築は困難をともなう。一方、アンモニアは肥料原料や汎用化学品原料として大量に使用され、製造・輸送・貯蔵まで一貫した技術が十分に整備されているので、次世代の低炭素社会を担う化学物質(エネルギーキャリア)としての可能性を十分に秘めている[1]。したがって、アンモニアを燃料とするカーボンフリーのエネルギー変換システムとしてアンモニア燃料電池が確立できれば、社会的意義がある。当社では、アンモニアを燃料とするSOFCによる高効率発電のシステム研究を行っており、セルスタックを作製、供給している。SOFCの燃料極にはNi-YSZのようなニッケル系のサーメットが広く用いられている。発電時の作動温度は500-800°Cの高温度領域が想定され[2]、燃料のアンモニアとの反応が危惧されている。そのため、将来の材料設計において、温度による反応速度解析及び劣化メカニズムの解明が必要である。

 本研究では、アンモニアガスを5 ppm含有するN2ガスや水素を含むガスでNi電極が窒化する材料挙動を室温から800°Cの温度範囲でin-situ XAFS法により測定し、NiのXANESスペクトル変化から、材料の各種ガス雰囲気におけるNi電極の挙動を解明することを目的とする。


実験:

 Ni-powder(平均粒子径0.2 µm)を使用し、適量の窒化ホウ素(BN)と混合して、プレス成形(φ10 mm×0.1 mm)して、XAFS測定試料とした。測定試料は、分光結晶にはSi(311)を用いて、透過法によりNi K-edge in-situ XAFS測定を実施した。標準試料として、Ni-foil及びNiO-powder(平均粒子径0.8 µm)を用いた。純粋な窒化ニッケルNi3Nは市販品として得られないため、100%NH3を燃料とするアンモニア発電を想定して、Ni-YSZを100%NH3雰囲気下(ガス流量100 mL/min)で、予め還元処理(600°C、10時間)し、Ni電極が部分的に窒化されたサンプル(Ni-100%NH3)を作製し、比較対象とした。in-situ測定で用いるガス種は、5 ppmNH3-N2(アンモニアガスを5 ppm含有するN2ガス)、100%N2、25%N2+75%H2(NH3が窒素と水素に完全分解を想定)であり、ガス流量は100 mL/minとした。測定は、室温から800°Cまで100°C毎に行い、昇温速度は、10°C/minとした。測定温度到達後5 minの保持時間を設けた後XAFS測定した。XANESスペクトルの解析にはAthenaを、EXAFS振動の解析にはArtemisを用いた。


結果および考察:

 図1にNi-foil、Ni-powder、NiO-powder及びNi-100%NH3を大気中室温で計測したNi K-edgeのXANESスペクトルを示す。Ni-100%NH3のNiの吸収端エネルギーは低エネルギー側にシフトした。Ni化合物のNi K-edgeの吸収スペクトルがNi-foilよりも低エネルギー側にシフトする挙動は、LaNi5においてMukerjee et al.によって報告されている[3]。K-edgeの吸収スペクトルは1s電子の励起によるものであり、吸収端におけるピークの強度は、空のd軌道数の間接的測定と見ることができる[3]ため、Ni-100%NH3のXANESスペクトルは、還元により空のd軌道数が増加したことを示唆するものである。Ni-powderはわずかにNi-foilと異なっており、Ni-powderの表面の酸化によって、吸収端の高エネルギー側へのシフト及びホワイトラインの強度が高くなったと推定される。



図1 XANESスペクトル(Ni K-edge、室温)


 図2にNi-foil、Ni-powder及びNi-100%NH3の大気中室温で測定したNi K-edge EXAFSスペクトルのk2×χ(k)を、図3にNi K-edge EXAFSスペクトルのフーリエ変換の結果を示す。k2の重みづけをし、フーリエ変換の範囲は2-13 Å-1とした。2.1 Å付近のピーク強度は、第1近接NiとのNi-Ni結合に帰属される。Ni-powderの動径分布構造は、Ni-foilと比較してピーク強度がわずかに低下した。わずかにできたNiOによりNi-Ni結合の割合が減少したことによるものと考えられる。Ni-100%NH3の動径分布構造は、ピーク強度が大きく減少した。R空間のフィッティングを1-3 Åの範囲で行い、フィッティングパラメータの結果を表1にまとめた。Ni-foilの配位数(CN)を12に固定し、フィッティングした減衰因子(S02)は0.79であり、妥当な数値となった。このS02値を用いてNi-powder及びNi-100%NH3のフィッティングを行った。Ni-100%NH3のCN値はNi-foilの12より小さく8.0、DW(Debye-Waller)因子は0.0054と見積もられた。フィッティング結果より、ピーク強度の低下はNi周りの配位数の減少が原因であると考えられる。


          

図2 Ni K-edge EXAFSスペクトルk2×χ(k)    図3 動径分布構造とフィッティング結果


表1 Artemisによるフィッティングパラメータ



図4(a) Ni K-edge XANESスペクトルの温度依存性測定

(5 ppmNH3-N2ガス雰囲気)



図4(b) 各ガス条件の8335 eVにおけるピーク高さの温度依存性


 図4(a)に5 ppmNH3-N2ガス雰囲気中でin-situ XAFS測定を行った時のNi K-edgeスペクトルの温度依存性を示す。スペクトルの変化は小さいが、温度の上昇に伴い低エネルギー側へシフトした。スペクトルの変化をわかりやすくするため、図4(b)にスペクトルの8335 eVにおけるNormalized absorptionの値を比較した図を示し、また25%N2-75%H2及び100%N2の各ガス雰囲気で測定結果も合わせて示す。25%N2-75%H2ガス雰囲気で600-800°Cの測定は、漏洩ガス検出器の不調で測定を中止した。

 5 ppmNH3-N2と100%N2のガスを用いた実験では温度依存性は同等であり、5 ppmのNH3を含有した影響は非常に小さいものと推定される。一方、25%N2-75%H2ガス(NH3ガスの完全分解を想定)は、低温からスペクトルの変化が大きく、5 ppmNH3-N2の場合よりも低温から窒化されることが示唆された。しかしながら、いずれのスペクトルも、Ni-100%NH3処理品のスペクトルよりもNi-powder側に近いことから、Ni電極の窒化の程度は小さいことが示された。

 次に、5 ppmNH3-N2ガスを用いて雰囲気500°Cで長時間暴露の検証を行った。図5にNi K-edgeスペクトルを10 min間隔で測定し、各ガス条件の8335 eVにおけるNormalized absorptionの値の変化を示した。本実験におけるビームタイムの制約から4.5時間で計測を終了した。5 ppmNH3-N2ガスを用いた雰囲気500°Cでは、XANESスペクトルに顕著な変化は認められず、Ni電極の窒化は進行していないと考えられる。



図5 Ni K-edgeスペクトルの8335 eVにおける

Normalized absorptionのピーク高さの時間依存性

(5 ppmNH3-N2ガス雰囲気500°C)


 以上のことから、アンモニアが完全分解した場合や、アンモニアを含んでも微量の場合は、Ni電極の窒化の程度が小さいことが明確となった。さらなる検証が必要であるが、アンモニアをエネルギーキャリアとしたSOFCにおいて、Ni電極の窒化抑制のためにはアンモニアガスの分解が十分になされることが重要であることがわかった。


今後の課題:

 アンモニア発電が行われている実際の状況を再現し、Ni電極が窒化する状況を把握するためには、高いNH3濃度かつ長時間での実験が可能な設備環境を構築する必要がある。


参考文献:

[1] 江口浩一, NH3燃料電池研究の現状と展望, 第115回触媒討論会「特別シンポジウム」予稿集, P.7

[2] A.F.S. Molouk et al., J. Electrochem. Soc., 162, F1268-F1274 (2015)

[3] S. Mukerjee et al., J. Electrochem. Soc., 142, 2278-2286 (1995)



ⒸJASRI


(Received: October 27, 2015; Early edition: April 25, 2016; Accepted: June 24, 2016; Published: July 25, 2016)