SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.2

Section B : Industrial Application Report

タイヤの耐久性向上のための黄銅/ゴムの接着結合様式の解析 -ゴム中のCo塩の化学状態解析
Analysis of the Adhesion Binding Style of Brass/Rubberfor Durable Improvement of the Tire – Analysis of the Chemical State of Cobalt Salt in Rubber Compound

DOI:10.18957/rr.1.2.40
2011B1794 / BL14B2

清水 克典, 鹿久保 隆志, 網野 直也

Katsunori Shimizu, Takashi Kakubo, Naoya Amino

横浜ゴム株式会社

The Yokohama Rubber Co., Ltd.

Abstract

 タイヤ中のスチールコードとゴムを接着させることで耐久性が維持される。金属接着用ゴムには有機酸コバルト(Co)塩が含まれるが、ゴム中のコバルト(以下、Co)の化学的情報はこれまであまり知られていない。そこで、有機酸Co塩を配合したゴムを加硫(加熱)処理して、加硫時間ごとにゴム中のCoの化学状態をXAFS 測定にて解析した。加硫時間を変えることにより170 °Cでは3 minまでにCoの酸化反応が進行し、それ以降は化学状態がほとんど変化しないことがわかった。今回の測定により、金属接着ゴム中のCo塩の状態を把握することができた。


キーワード: タイヤ、ゴム、接着、コバルト、XAFS、XANES、EXAFS

pdfDownload PDF (561 KB)

 

背景と研究目的:

 タイヤの耐久性向上に対して重要なことは、ゴムの耐劣化性を向上すること、タイヤの補強材として用いているスチールコードとゴムの接着を長期に安定化させ破壊を起こさせないこと、が挙げられる。特に、車両走行中に接着破壊が生じた場合には、タイヤがバーストして重大事故に派生する危険性があるため、接着の長期安定化は極めて重要な課題である。タイヤ中にあるスチールコード表面にはブラス(Cu-Zn合金)めっきが施してあり、ブラスとゴムがゴム中の硫黄(S)を介して反応することで接着する[1]。ブラス表面のゴム接着反応は数多く研究されてきたが、内容の多くはXPSやXRDによる接着界面分析が主であった[2.3]。ブラスとゴムの接着性向上には有機酸Co塩の添加が有効であるとされているが、Coの触媒作用はまだ明らかになっていない。Coの化学状態、触媒作用を解明することができれば、より接着性を高めるための新たな配合手法の検討やレアメタルであるCoに代わる触媒の探索が可能となる。ゴム中に微量に存在するCoの化学状態を解析するにはSPring-8においてXAFS測定することが非常に有効である。ゴムの熱処理(加硫)時におけるCo塩の化学状態を把握することで、Coの解離状態及び再結合状態が観察でき、ゴム中に配合されている化合物との相互作用について議論ができる。また、加硫後のCo塩の化学状態を観察することで加硫後のゴムの劣化メカニズムの把握を目指す。本実験ではゴム中や金属表面のCo塩の変化を把握することを目的とする。

 

実験:

 ゴム試料を170°Cで1,3,5,10 min加硫し、2 mmの加硫ゴムシートを得た。またブラスによる影響を調べるためブラス板上にゴムが100 μm 程度の厚さになるよう加硫処理したサンプルを調製した。

 ゴム試料には天然ゴムにカーボンブラック、酸化亜鉛、硫黄、加硫促進剤とステアリン酸Co塩が含まれる。基準試料として加熱処理しない厚さ2 mmのゴムシートも作製した。

 モノクロ結晶面方位はSi(111)を用いて、蛍光法でXAFS測定した。検出器は19素子Ge半導体検出器を使用した。スペクトル解析にはIfeffitのAthenaを用いた。測定したCo化合物を特定するため、Co、CoO、CoSO4を標準試料として透過法により測定した。標準物質と熱により化学変化したCo化合物のCo-K吸収端のピーク形状を比較することにより、ゴム中に存在するCoの化学状態を解析した。

 

結果及び考察:

 実験結果から以下のことが観察された。今回観察されたCo-K吸収端のピークは加硫時間0 minから3 minまでのサンプルにおいて大きく変化した(図1-a)。大幅なピーク変化は加硫時間3 minまでにほぼ収束していることから、加硫によるステアリン酸Coの化学変化は加硫時間3 minの間に行われることがわかった。ピーク位置の変化はあらかじめ測定した基準物質であるCoO とCo3O4のピーク位置との比較により加硫0 min及び1 minのサンプルではCo(Ⅱ)、加硫時間3 min以降のサンプルではCo(Ⅱ,Ⅲ)に変化していることが確認できた。これらの結果より、Coは加硫初期に酸化していることが推測された。ブラス上にて加硫したゴムサンプルのCo-K端XAFSスペクトルを図1-bに示す。ゴムシートのスペクトルと比べてノイズは多いが、傾向は一致していることから、ブラスによる影響は顕著ではない。

 図1に示したXAFSスペクトルのEXAFS領域を波数変換した時のk3χ(k)−XAFSスペクトルを図2に示す。10Å-1以降はノイズとみなし除去した。

 図2で行った補正成分を基にフーリエ変換して、得た動径構造関数を図3に示す。

 図3はCo原子に隣接する化合物の原子間距離を示している。

 図1と同様に加硫時間3 minまでにピーク変化が起こっていることが確認できた。加硫初期にCoに隣接する化合物の原子間距離がわずかに遠くなったことが確認された。ブラス上にて加硫したゴムサンプルも同様の傾向が見られた。これまでゴム中のCoの化学状態解析は含有量が微量であったため特定が困難であったが、SPring-8におけるXAFS測定により加硫時間ごとの化学状態を特定することができた。

 

 

図1 Co-K端XAFSスペクトル
(a:ゴムシート b:ブラス上に被覆したゴム)

 

 

図2 k3χ(k)-XAFSスペクトル

 

 

 

図3 EXAFS領域より求めたCo原子に隣接する化合物の動径構造関数
(a:ゴムシート b:ブラス上に被覆したゴム)

 

 

今後の課題:

 SPring-8におけるXAFS測定により、加硫初期にゴム中のCoの化学状態変化(酸化)が起こり、また隣接する化合物の距離が変化することが分かった。これらの結果より、加硫中においてステアリン酸CoからCoが解離し、なんらかの元素と反応を起こすことで、硫化のプロモーターとして作用していると推測する。ただし、詳細な化学構造変化、隣接化合物の推定、酸化物の定量等は行っていない。今後、種々の基準物質を追加測定したりスペクトルの詳細解析を行い、さらに詳細な化学状態を把握することで接着層形成におけるCoの役割について調査を行う。

 

参考文献:

[1]平川弘, 石川泰弘, 日本ゴム協会誌, 45巻, 10 号(1972).

[2] Y. Ishikawa: Rubber Chemistry and Technology, 57, pp. 855-877 (1984) .

[3] Y. Ishikawa and T. Hotaka: Wire Journal International, pp. 69-78 (2002).

 

©JASRI

(Received: April 6, 2012; Accepted: March 8, 2013; Published: June 28, 2013)