SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.2

Section B : Industrial Application Report

窒化ガリウム中のマグネシウムの化学状態解析
Chemical State Analysis of Magnesium in Gallium Nitride

DOI:10.18957/rr.1.2.43
2011B1795 / BL27SU

米村 卓巳, 飯原 順次, 斎藤 吉広

Takumi Yonemura, Junji Iihara, Yoshihiro Saito

住友電気工業株式会社

Sumitomo Electric Industries Ltd.

Abstract

 窒化ガリウム中のマグネシウムのXAFS測定技術を開発した。本系においては、ガリウム成分とマグネシウム成分の分離が困難であり、これまでXAFS法を用いた窒化ガリウム中のマグネシウムの化学状態解析は行われてこなかった。今回、我々はSPring-8のBL27SUにてSilicon Drift Detectorを用いた蛍光XAFS法を使ってガリウム成分とマグネシウム成分の分離技術を開発した。その結果、マグネシウム濃度が1E19 /cm3のEXAFS測定が可能となり、窒化ガリウム中のマグネシウムの化学状態がアニール処理方法によって変化することを初めて見出した。


キーワード: GaN、ドーパント、Mg、XAFS、蛍光法、SDD

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背景と研究目的:

 窒化ガリウム(以下、GaN) はワイドギャップ半導体として知られており、レーザーダイオード、LED、トランジスタなどで実用化が進んでいる。GaNの電気的特性は、ドーパント元素であるSiやMgを添加し、n型化、p型化することで制御される。特に、Mg添加に伴うGaNのp型化は難しく長年の研究テーマであったが、赤崎らが初めて、電子線照射を用いた手法にてGaNのp型化に成功した[1]。その後、中村らによって、アニール処理を用いたGaNのp型化の手法が提案され、p型化阻害要因として残留水素によるMgのパッシベーション効果説が提唱された[2]

 しかしながら、ドーパント元素であるMgの結晶格子内での挙動に関して、ミクロレベルで実験的に解析した事例はほとんどない。通常、ドーパント元素のような微量元素の局所構造解析手法として、X線吸収微細構造法(X-ray Absorption Fine Structure:以下、XAFS)が有用であると思われるが、MgのK吸収端(~1303 eV)とGaのLI吸収端(~1299 eV)が近接しており、蛍光スペクトルでのGa成分とMg成分の分離が難しく、MgのK-XAFSは測定困難であった。我々は、2010B1825、2011A1716の課題において、GaN中のMg濃度が1E18 /cm3のXANES測定技術を開発した。

 本課題の目的は、一次標準試料(MgO粉末)と二次標準試料(MgO+GaN粉末)を用いて、Mg濃度が1E19 /cm3のEXAFS測定技術を開発し、アニール処理に伴うp-GaNエピ中のMgの化学状態の変化を調査することである。

 

実験:

(a) Sample

・GaN中MgのEXAFS測定技術開発にあたり、一次試料としてMgO標準試料、二次試料としてMgO+GaN粉末混合試料を準備した。二次試料に関しては、un-dope GaNを粉状にしたあと、MgO粉末試料を混ぜ合わせた。その際の混合比率は、MgO : GaN = 1 : 10000であり、このときGaN粉末中のMg濃度が1E19 /cm3程度となる。

・アニール処理(Mg活性化処理)前後におけるp-GaNエピ中のMgの化学状態の変化を調査するにあたり、アニールなし、およびアニール800℃処理を施したサファイア基板上にc面成長させた実試料を準備した。なお、Mg濃度は3E19 /cm3である。

(b) Method

 XAFS実験は、SPring-8のBL27SUにて実施した。2010年に導入されたアワーズテック社製のSDD (Silicon Drift Detector) を用いた蛍光XAFS法を本系に適用した[3]。測定は、入射X線のエネルギーを変えながら、SDDにて蛍光X線スペクトルを取得し、測定後にMgとGaの蛍光X線成分の分離を行って、Mg-K端のXANESスペクトルを取得した。その際、二次試料の蛍光X線スペクトルの切り出し範囲(ROI)を変えて複数パターンのXANESスペクトルを取得し、一次試料MgOのMg-K端のXANESスペクトルと形状が同じになるように最適ROIを決定した。最適ROIを決めた後、EXAFS測定を実施し、XANES測定と同様に、EXAFS振動構造が一次試料MgOのEXAFS振動構造と同じになるかどうかを確認した。なお、EXAFS測定においては、吸収端から離れるに従って振動が弱くなるので、S/Nを良くする目的で表1のように測定領域を5分割して測定した。EXAFS 振動構造が一致することを確認した後に、アニール処理方法の異なるp-GaNエピ中のMgのEXAFS測定を実施した。なお、このときの入射X線の偏光ベクトルはGaN試料のc軸方向から1~2°傾斜した方向である。

 

 

 表1. EXAFS測定条件

 

 

結果および考察:

 まず、2010B1825、2011A1716の課題で開発した手法にて、蛍光X線スペクトルの最適切り出し範囲を決定した。図1に、励起エネルギー1320 eVにて測定した蛍光X線スペクトルを示す。図1-(a)が一次標準試料、図1-(b)が二次標準試料の測定結果である。(a)よりMg-K成分は450 channelから540 channelの間であることがわかる。(b)よりMg-K成分はGa-LI成分の裾に埋もれていることが分かる。図2は、二次標準試料中のMgのK-XANESスペクトルのROI依存性の結果である。併せて、一次標準試料中のMgのK-XANESスペクトルも示す。ROIの切り出し範囲は、上限を540 channelに固定し、下限が450 channel、470 channel、490 channel、500 channelの4水準で実施した。図2よりROIの下限を増大させるにつれて、MgのK吸収端近傍の裾が小さくなっていることがわかる(図中の橙矢印)。同時に、吸収端より高エネルギー側のXANES 構造が明瞭になっていることがわかる。ROIが490 channel ~540 channelの場合と、500 channel ~540 channelの場合のスペクトル形状は違いがほとんど見られず、かつ、一次標準試料であるMgOのXANESスペクトル形状と酷似したことから、この範囲を最適ROIと決定した。以後の測定は、この最適ROIを用いてXAFSスペクトルを取得した。

 

 

図1. 一次標準試料(a)と二次標準試料(b)の蛍光X線スペクトル

 

 

図2. 二次標準試料のMgK-XANES

 

 

 次に、この最適ROIを用いて二次標準試料中のMg(~1E19 /cm3)のEXAFS測定を実施した。測定結果を図3に示す。図3より二次標準試料中のMgのEXAFS振動構造が、一次標準試料の振動構造と類似していることがわかる。つまり、最適ROIを用いることでEXAFS領域においてもGa-LI成分の影響を除去することができ、EXAFS 測定技術の開発に成功した。

 最後に、本手法を用いてアニール処理前後のp-GaNエピ中のMgのEXAFS測定を実施した。測定結果を図4に示す。図4よりアニール処理前後において、p-GaNエピ(Mg:3E19 /cm3)中のMgのEXAFS振動構造が明らかに違うことがわかる(図中破線丸)。つまり、アニール処理に伴いMgの化学状態が変化し、それに伴いMgが活性化したことを示唆している。現在、得られたデータに対しEXAFS解析を実施することで、各々の試料に対する最適モデルの探索を行っている。

 以上まとめると、2011B期課題において、Mg濃度が~1E19 /cm3のEXAFS測定技術の開発に成功した。本手法を熱処理条件の異なるp-GaNエピ試料(Mg: 3E19 /cm3)に適用したところ、実試料中のMgのEXAFS測定に初めて成功したことに加え、熱処理に伴いMgのEXAFS振動構造が変化していること、つまりはMgの化学状態が変化していることを明らかにした。

 

 

図3. 一次標準試料と二次標準試料のMg K-EXAFS振動構造

 

 

図4. 熱処理条件の異なる(アニールなし/アニール800℃) p-GaNエピ試料のMg K-EXAFS振動構造スペクトルのROI依存性

 

 

今後の課題:

 1試料に要するEXAFS測定時間は6時間程度であり、測定時間が長いという問題がある。現在、蛍光X線信号によるSDDの飽和を避けるために、検出器を試料から離して測定を行っており、試料からの信号を無駄にしているのが現状である。より高感度なSDDが導入されれば、測定時間が大幅に短縮されると考えられる。

 

謝辞:

 本課題の実験に際し、SPring-8のBL27SU担当である為則様には多大なるご協力を頂きました。

この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

 

参考文献:

[1] H.Amano,M.Kito,K.Hiramatsu and I.Akasaki:Jpn.J.Appl.Phys.28 (1989) L2112.

[2] S.Nakamura,N.Iwase,M.Senoh and T.Mukai:Jpn.J.Appl.Phys.31 (1992) pp. 1258-1266.

[3] Y.Tamenori,M.Morita and T.Nakamura:J.Synchrotron Rad.18 (2011) 747-752.

 

©JASRI

(Received: April 6, 2012; Accepted: March 8, 2013; Published: June 28, 2013)