SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.2

Section B : Industrial Application Report

走査/結像ハイブリッド型高感度高分解能微分位相X線顕微鏡を用いた加熱処理毛髪の構造解析
Structural Analysis of Heated Human Hair Using Scanning/Imaging Hybrid Type High-sensitive and High-resolution Differential Phase-contrast X-ray Microscope

DOI:10.18957/rr.1.2.46
2011B1816 / BL20XU

竹原 孝二a, 井上 敬文b, 藤森 健a, 河合 朋充a, 上杉 健太朗c, 竹内 晃久c, 鈴木 芳生c

Kouji Takeharaa, Takafumi Inoueb, Takeshi Fujimoria, Tomomitsu Kawaia, Kentaro Uesugic, Akihisa Takeuchic, Yoshio Suzukic

a(株)カネボウ化粧品 スキンケア研究所, b価値創成研究所, c(公財)高輝度光科学研究センター

aSkincare Research Laboratory, bInnovative Beauty Science Laboratory, Kanebo Cosmetics Inc., cJASRI

Abstract

 走査/結像ハイブリッド型高感度高分解能微分位相X線顕微鏡により、ヘアアイロンによる加熱処理毛髪の内部微細構造を三次元で測定することができた。加熱処理毛髪と未処理毛髪の比較から、毛髪キューティクル部位で加熱処理により凹凸や空隙と思われる微細構造が生じることが確認された。今後、加熱処理によるダメージをより詳細に観察できるものと期待される。


キーワード: X線顕微鏡、Computed Tomography (CT)、毛髪、イメージング

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背景と研究目的:

 我々は、切片の作製や染色処理を実施せずに、インタクトな状態の毛髪内部構造を観察することを目的としてX線顕微鏡の有効利用を考えている。すでに、結像型のX線マイクロComputed Tomography(CT)を用いてヒト毛髪の三次元微細構造を観察し、パーマやブリーチなどの化学処理により、毛髪の軸方向にサブミクロンからミクロンオーダーの径を持った円柱状の空隙構造が生じることを見出している[1]。また、毛髪ダメージはパーマ処理やブリーチ処理以外でも生じることが知られており、特にヘアアイロンを使った加熱処理によるダメージへの対応は、新たなヘアケア製剤の開発に重要である。そして、ヘアアイロンを使った加熱処理により、パーマ処理毛髪同様に、毛髪周辺部位で損傷が大きいことをXANESによるイメージングで把握している[2]。また、走査型微分位相X線顕微鏡を用いることで、ヘアアイロンを使った加熱処理毛髪の内部微細構造を測定することができている。しかしながら、走査型X線微分位相顕微鏡では、技術的に現状二次元の測定に制限されるため、三次元微細構造を推定する補助的な情報にとどまってしまう[3]

 本課題では、毛髪内部微細構造を三次元で測定することができる走査/結像ハイブリッド型高感度高分解能微分位相X線顕微鏡(以下、ハイブリッド型顕微鏡と呼ぶ[4])を用いて、加熱処理により引き起こされる毛髪内部の微細構造の変化を把握することを目的とした。

 

実験:

 毛髪試料は、パーマやカラーの履歴をもたないアジア人女性の同一人毛に対し、0.2% sodium laureth sulfate水溶液に30秒間浸漬後、精製水の流水で1分間すすぐことにより洗浄したものを未処理毛髪として使用した。また、同一人毛に対し、ヘアアイロンで120℃および160℃で3分間、60回接触させたものを加熱処理毛髪として使用した。

 測定は、SPring-8のBL20XUにおいて実施した。ハイブリッド型顕微鏡は、V 150 μm × H 0.13 μmの線状に絞ったX線プローブで試料上を走査し、試料を透過したことによる位相変化量を測定する手法である[4,5]。プローブのライン上、各点の位置情報は一次元フレネルゾーンプレートを用いた結像光学系によって取得する。これにより、ラインプローブの一方向の走査のみで二次元空間の情報を得ることが可能になる。撮影はTable 1の条件にて行った。毛髪を180度回転させながら、毛軸に対して赤道方向に繰り返し走査を行い、測定したデータを用いて毛髪試料の三次元密度分布CT像を再構成した。

 

 

Table 1. 測定条件

 

結果および考察:

 Fig. 1Aに未処理毛髪の横断面断層画像、Fig. 1Bにヘアアイロン加熱処置毛髪の横断面断層画像を示す。未処理毛髪と比較し、ヘアアイロン加熱処置毛髪では、キューティクルとコルテックスの層間にドーム状の空隙が観察された(赤楔印参照)。これは、従来実施した走査型X線微分位相顕微鏡を用いた観察と同様であった。また、二次元の走査型ではキューティクル側面の状態が観察できなかったが、今回のハイブリッド型顕微鏡の測定では三次元画像を得ることが可能となり、その形態を観察することが可能となった。Fig. 2Aに未処理毛髪の横断面三次元画像、Fig.2Bにヘアアイロン加熱処置毛髪の横断面三次元画像を示す。未処理毛髪と比較し、ヘアアイロン加熱処理により、キューティクルに細かい亀裂(緑楔印参照)やFig. 1Bで確認された空隙のような凹凸が観察された(橙楔印参照)。また画像には示さないが、中には毛軸と同じ方向の大きな亀裂がある様子も観察された。また、コルテックス部の空隙も走査型での結果同様に確認された(青楔印参照)。

 

 

 

Fig. 1A 未処理毛髪の横断面断層画像 Fig. 1B 加熱処置毛髪の横断面断層画像

 

 

 

Fig. 2A 未処理毛髪の横断面三次元画像 Fig. 2B 加熱処置毛髪の横断面三次元画像

 

 

今後の課題:

 ハイブリッド型顕微鏡を用いることで、ヘアアイロンによる加熱処理毛髪の内部微細構造を三次元で測定することができた。今回の実験で、加熱処理毛髪においてキューティクルとコルテックスの層間に空隙が存在するという走査型微分位相差X線顕微鏡での観察を裏付ける結果を得ることができた。さらに、加熱処理によると見られる毛軸と同じ方向のキューティクル上の亀裂が観察された。今後、毛髪内部の損傷についても詳細に解析していく予定である。また、今回得た画像は、XANESとの相関を考察するのに有意義な結果を得たものと考えられる。特に近年は、消費者のヘアアイロンの使用拡大に伴い、ヘアアイロン等の熱から受ける毛髪損傷の予防が期待されていることから、ヘアアイロンによる加熱処理ダメージを三次元のイメージングとして捉えられたことは、消費者への明確なメッセージとなると共に、製剤開発に貢献できるものと考えられる。今後、加熱処理によるダメージをより詳細に検討することで、ダメージ発生のメカニズム解明や効果的な抑制法の確立ができるものと期待される。

 

参考文献:

[1] 竹原孝二ら、日本化粧品技術者会誌、44、292(2010).

[2] 井上敬文ら、第25回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム要旨 9P119(2012).

[3] 井上敬文ら、利用報告書 2009A1807.

[4] 竹内晃久ら、利用報告書 2011A1449.

[5] 井上敬文ら、利用報告書 2011A1695.

 

©JASRI

 

(Received: April 6, 2012; Accepted: March 8, 2013; Published: June 28, 2013)