Volume1 No.2
Section B : Industrial Application Report
室温合成による希土類フリー蛍光体の構造解析
Structure Analysis of Rare Earth Free Phosphors Synthesized at Room Temperature
a新潟大学超域学術院, b新潟大学自然科学研究科, c新潟大学工学部
aCenter for Transdiciplinary Research, Niigata University, bGraduate School of Science & Technology, Niigata University, cFaculty of Engineering, Niigata University
- Abstract
放射光を用いた粉末X線回折で、室温で原料を接触させて静置するだけで反応させたRbVO3蛍光体の結晶構造解析を行った。リートベルト法による分析で、合成された蛍光体は不純物が非常に少ない単相であることが確認された。
キーワード: 蛍光体、リートベルト解析、室温合成
背景と研究目的:
現在、無機蛍光体は、白色LED照明用、蛍光ランプ用、信号機をはじめとする表示機器用、ディスプレイのバックライト用および植物育成用などといった様々な場面で利用されている。このため、長寿命発光、化学・物理安定性が高い、高エネルギー効率などといった機能性ある蛍光体の開発が望まれている。
特に、東日本大震災の影響から、長寿命、高効率、水銀フリーのLED照明への移行が起こっている。しかしながら、LED用をはじめとする無機蛍光体のほとんどには、発光中心として希土類イオンが用いられている。近年、中国による希土類元素の輸出制限問題もあることから、希土類イオンの省資源化が求められる蛍光体の開発が望まれている。
このため、蛍光体の作製においては、発光中心となる付活剤の配位環境の理解につながる母体の構造情報を正確に知ることが非常に重要である。
申請者らの研究では、室温で原料粉末を接触させて静置しておくだけで反応が進み、結晶性の複合酸化物が生成するという世界で初めての現象を見出している。合成したRbVO3は、近紫外線励起により内部量子効率が80%以上の白色発光を効率的に行うため、LED照明用の蛍光体として有望である。一般的な無機蛍光体は、1000°C以上の高温での熱処理により合成されるが、原料粉末を接触させて置いておくだけで、室温で結晶質の複合酸化物の反応が起こることをRb2CO3(もしくはCs2CO3)とV2O5の組み合わせで確認した[1]。室温で静置しておくだけで結晶性の物質が得られることは、無機化合物の合成にかかるエネルギーを大幅に低減できるためこの点で有利であるが、反応のメカニズムや生成物の純度に関してはまだ分かっていない。本実験では、生成物の結晶構造を調査し、実用化できるような化合物として反応しているのかを検証した。
実験:
Rb2CO3とV2O5を接触させて反応させた混合粉末をφ 0.3 mmのキャピラリにセットした。このキャピラリをSPring-8のBL19B2の回折計にセットし、X線を300 秒間照射し、イメージングプレートを用いて回折パターンを測定した。なお、波長はCeO2 (a = 5.4109 Å) 粉末を標準試料として校正し、波長は0.5000 Åとして解析を行った。このほかCs2CO3とV2O5を接触反応させたCsVO3試料や希土類発光中心を賦活した試料も測定した。しかしながら、これらの試料については反応が十分に進んでいなく、原料の回折ピークが確認された。実験にて得られたサンプルのデータはS/N比が十分に有り、リートベルト解析に適したデータを得ることができた。
測定された回折を元に、独自に開発したRietan[2]専用GUI、CRietanF[3]を用いてリートベルト解析を行った。
図1 室温合成したRbVO3のリートベルト解析図形
結果および考察:
一般的に発光中心を賦活した試料は賦活量が数%と少ないため、置換が明確にできなかった。ここでは、測定した中でもリートベルト解析が精度良く一致したRbVO3の例を示す。一般的な低温合成では、不純物相や原料相などがX線回折パターンとして観察されることが多い。これは熱処理によって格子中への拡散反応が十分に起こらない場合や、反応速度の遅い反応であることが主な原因となる。しかし、本実験で作製し測定した試料は、不純物相の回折は全く観察されなかった。この試料についてリートベルト解析を行ったところ、S = 1、Rwp = 2%程度となり、既往の報告[2]と非常に良い一致を見た(図1)。つまり、出来上がった化合物はX線回折で見る限り、アモルファス構造ではなく、固相反応法で合成された化合物と変わりない周期構造が保たれていることが分かった。また、既往の報告a = 5.261、b = 11.425、c = 5.715[4]と比べて格子定数がa = 5.274、b = 11.456、c = 5.728(単位はいずれもÅ)と、3軸共に若干長くなっており、体積が僅かながら大きくなっていることが判明した。これは、空気中の水分を使って反応が進んでいることや、通常の固相反応法が500-600ºC程度で反応させているのに比べて、室温と言う極端に低い温度でも同じような原子の並べ替えが起きていることに何らかの要因があると思われるが、発光スペクトルの形状にはほとんど変化がないことから焼成を経ることなく、焼成後と同じような構造を維持できるという特徴が確認できた。なお、RIETANによる対称プロファイルパラメータを用いた計算により、結晶子サイズはおよそ200 nm程度であることも算出された。
今後の課題:
これらの反応現象の詳細は、未解明の部分が多く、条件や適応できる系の調査が必要である。また、反応中の構造変化も興味深い。これらのことが詳細に調べられれば、無機材料化学の新たな切り口が見えてくると考えており、精力的に研究を行う予定である。
参考文献:
[1] 特開2011-16670.
[2] F.Izumi,et al.,Mater.Sci.Forum59,378-381 (2001).
[3] http://mukiken.eng.niigata-u.ac.jp/chemsoft/CRietan2000/rietan-top.html
[4] F.C.Hawthorne,C.Calvo,J.Solid State Chem.22,157 (1977).
©JASRI
(Received: May 8, 2012; Accepted: March 8, 2013; Published: June 28, 2013)