SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.2

Section B : Industrial Application Report

MgO薄膜の添加元素の局所構造解析
Local Structural Analysis of Dopants in MgO Thin Film

DOI:10.18957/rr.1.2.83
2011B1986 / BL14B2

森田 幸弘a,b, 辻田 卓司a,b, 寺内 正治a,b, 西谷 幹彦a,b

Yukihiro Moritaa,b, Takuji Tsujitaa,b, Masaharu Terauchia,b, Mikihiko Nishitania,b

aパナソニック株式会社, b大阪大学

aPanasonic Corp., bOsaka University

Abstract

 プラズマディスプレイ(PDP)の高性能化のためのキー材料である保護膜の局所構造解析をXAFS測定によって行った。石英基板上にスパッタ製膜で形成したMgO:Sn薄膜(1 μm)を大気アニールし、Sn-K端の吸収スペクトルを測定した。その結果、500°Cの大気アニールでは、局所構造の変化はほとんど無いが、800°Cでアニールすると、第二近接の強度が顕著に小さくなることが分かった。


キーワード: プラズマディスプレイ、保護膜、局所構造、XAFS

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背景と研究目的:

 プラズマディスプレイ(PDP)の課題は低消費電力化と低コスト化である。PDPは放電を用いた自発光デバイスであり、書き込みや発光等ほぼすべての動作を放電によって行っている。従って、上記課題を解決するためには高精度な放電制御が必須となる。PDPにおける放電は、保護膜(MgO)が電極の役割を担っており、保護膜からの電子放出特性によって放電特性が決まっている。放電特性を制御するためには保護膜の電子放出特性を制御しなければならず、保護膜の電子放出特性を制御するためには、保護膜の電子状態を制御しなければならない。従って、保護膜の分析技術、特に、電子状態、そしてそれを決定する原子配列に関する解析は非常に重要である。

 保護膜の電子状態を制御するための手段として、MgOに添加元素を加えるアプローチがある。添加元素によって保護膜の電子状態を制御し、電子放出特性を変えようとする試みである。

 添加元素によって電子状態の制御を行う場合、添加元素まわりの局所構造に関する情報が非常に重要である。そこで、課題番号2011A1762[1]のXAFS測定によってSn、LaをMgOに添加したときの局所構造を調べた。添加元素としてSn、Laを選んだ理由は、簡易サンプルを用いたチャンバーでの放電実験において、Sn、Laの添加によって放電特性、すなわち、イオン誘起二次電子放出係数が変化することが分かっているからである。XAFS測定の結果、Sn、La共に、Mgサイトと置換していることが分かった。また、最近接の酸素の結合距離は、MgOに比べてSnは短く、Laは長くなることが分かった。

 As-depo膜の局所構造は明らかになったが、PDPのパネル化工程では、保護膜製膜後に500°C程度の熱工程がある。従って、500°C程度のアニールによる局所構造の変化を調べる必要がある。また、PDPのデバイス特性は保護膜最表面の状態によって支配されるが、一方では、保護膜表面は放電によるスパッタと再堆積を繰り返すため、最表面は再堆積膜に変化する。再堆積膜に関する考察を行う場合には、添加元素の局所構造の安定性に関する情報が必要である。従って本課題では、パネル化時の熱工程及び高温でのアニールによる局所構造の変化を調べ、添加元素のまわりの局所構造の安定性を明らかにし、PDPの初期特性及び信頼性に関する知見を得ることを目的とする。

 

実験:

 実験はSPring-8 BL14B2で行った。測定吸収端は、Sn-K(29.2 kV)とし、斜入射(7.0°)蛍光法により吸収端におけるXAFSスペクトルを取得した(モノクロ結晶面はSi(311))。蛍光X線計測用には19素子Ge半導体検出器を用いた。使用したサンプルは、MgO:Sn(1 μm)/石英基板(25 mm×25 mm×1 mm)である。

 SPring-8のトラブルにより、6シフト中3シフトしか実験ができなかったため、Snを添加したサンプルしか測定できなかった。そのため、今回の報告では、Snを添加したサンプルに関する結果のみ報告する。

 

結果および考察:

 課題番号2011A1762[1]のXAFS測定結果から、数%程度の添加ではMgOの局所構造を維持し、また局所構造の乱れも小さいことが分かっているため、今回の実験では、Snを3%及び7%添加したMgO薄膜を用いた(添加量はatm%)。

 得られたSn-K吸収端のXAFS測定から得られたEXAFS振動k3χ(k)と波数2 Å-1から12 Å-1の範囲をフーリエ変換して得られた動径構造関数(RSF)を図1〜図4に示す。PDPのパネル化工程でのアニール温度は500°C程度である。図2及び図4から分かるように、500°Cの大気アニールでは、Snまわりの局所構造に変化がないことが分かる。一方、さらに高温の800°Cでアニールをした場合、第二近接の強度が顕著に小さくなっていることが分かる。製膜時において、SnはMgOの局所構造を壊すことなくMgサイトに入り、500°CのアニールではSnの局所構造に変化は無いが、さらに高温の800°CでアニールするとMgOのNaCl構造を保てなくなり、より安定な局所構造へ変化していると思われる。このことから、MgO中のSnはNaCl構造では本質的に安定ではない可能性がある。放電によって保護膜表面がスパッタされ再堆積する状態は、非常に遅い製膜レートでゆっくり堆積している状況と考えることができる。従って、Snの局所構造は、スパッタ製膜で堆積する場合よりも、より安定な局所構造となる可能性も考えられる。今回の実験結果は、もちろん直接的に再堆積膜の構造に対応するものではないが、局所構造の安定性という意味では、再堆積膜を考察するひとつの有用な知見である。

 以上のことから、保護膜としてSnを添加したMgO膜を用いた場合、パネル化後に関しては、MgサイトにSnが置換されている可能性が高いが、放電後、再堆積した場合、MgOのNaCl構造とは異なる局所構造になり、電子放出特性が変化する可能性が考えられる。

 今後は、今回実験できなかったLaをはじめ、他の添加元素に関しても、MgO膜の局所構造を調べると共に、アニール温度による変化を調べていく予定である。

 

 

       

図1 MgO:Sn(3%)のSn-K端に関するk3χ(k) 図2 MgO:Sn(3%)のSn-K端に関するRSF

 

 

       

図3 MgO:Sn(7%)のSn-K端に関するk3χ(k) 図4 MgO:Sn(7%)のSn-K端に関するRSF

 

 

参考文献:

[1] 森田 幸弘他、平成23年度重点産業利用課題成果報告書(2011A),pp.129,2011A1762.

 

 

©JASRI

 

(Received: May 8, 2012; Accepted: March 8, 2013; Published: June 28, 2013)