Volume1 No.2
Section B : Industrial Application Report
IGZO薄膜の局所構造解析
Local Structural Analysis of IGZO Thin Film
aパナソニック株式会社, b大阪大学
aPanasonic Corp., bOsaka University
- Abstract
アモルファスシリコンに比べて10倍以上の移動度を持つことで注目を集めているアモルファス酸化物半導体(InGaZnO(IGZO))の局所構造解析をXAFS測定によって行った。スパッタ製膜時の基板温度とプロセスガスを変えた時の局所構造の変化を調べた結果、基板温度が高く、プロセスガスをAr + O2とした場合に、第二近接の強度が大きくなることが分かった。このことから、アモルファス構造においても、プロセス条件によって局所構造を制御できる可能性があることが分かった。
キーワード: アモルファス酸化物半導体、IGZO、局所構造、XAFS
背景と研究目的:
アモルファス酸化物半導体InGaZnO (IGZO) はアモルファスシリコンに比べて10倍以上の移動度を持つ材料として大きな注目を集めている。IGZO薄膜を用いた薄膜トランジスタの研究開発は近年非常に精力的に行われており、産業レベルでも一部の企業が量産を開始する段階に来ている。 しかし、今後の高精細、高画質、大画面化に対応するためには、さらなる移動度向上や安定性向上が必要である。そのためには、アモルファス構造中の各金属元素の価数や局所構造を詳細に調べることで、電気伝導ネットワークや結合状態を解析することが重要である。
そこで本課題では、製膜時の条件(基板温度や酸素流量)を変えたIGZO膜を作製し、XAFS測定によってIGZO膜の局所構造がどのように変化するかを調べることで、IGZO薄膜の局所構造の解析を行い、薄膜トランジスタなどの性能や安定性と局所構造との相関を明らかにするための基礎データを得ることを目的とする。
実験:
実験は、SPring-8 BL14B2で行った。測定吸収端は、In-K、Ga-K、Zn-Kとし、斜入射(11.2°(Zn、Ga)、7.6°(In))の蛍光法により各吸収端におけるXAFSスペクトルを取得した。蛍光X線計測は19素子Ge 半導体検出器を用いて行った。また、分光結晶は、Zn、Gaに対してはSi(111)、Inに対しては、Si(311)を用いた。サンプルは、InGaZnO4をターゲットとして、石英基板(1 mm 厚)上にRFスパッタによって製膜(膜厚1 μm)したものを使用した。サンプルのサイズは25 mm角である。測定に用いた4個のサンプルの製膜時のプロセス条件は以下の通りである。また、製膜は1 Paの圧力下で行った。
1.プロセスガス:Ar(10 sccm)/O2(1 sccm)、基板温度:300°C
2.プロセスガス:Ar(10 sccm)、 基板温度:300°C
3.プロセスガス:Ar(10 sccm)/O2(1 sccm)、基板温度:室温(RT)
4.プロセスガス:Ar(10 sccm)、 基板温度:室温(RT)
局所構造は金属元素と酸素原子の多面体構造のネットワークで決定されると考えられるため、まず製膜時の酸素量の過不足と基板温度を変えることで、局所構造を制御できないかと考えたからである。また、同条件で製膜したサンプルの一部に対して、光電子分光収量測定や光電流の測定を行い、大きな特性差が確認できたことも背景にある。
結果および考察:
図1、3、5はIn、Ga、Zn 吸収端のEXAFS振動k3χ(k)、図2、4、6はそれぞれのフーリエ変換(波数範囲はすべて、2〜12 Å-1)をして得られた動径構造関数(RSF)である。図2、4、6を見ると、どの元素に関しても、基板温度300°C、Ar/O2の条件とその他の条件のグループに分かれた振る舞いが見られる。基板温度300°C、Ar/O2の膜のみ第二近接のピーク強度が大きく、その他の条件では、EXAFSスペクトルでは見分けがつかない結果である。IGZOは、広い範囲の組成やプロセス条件において安定的にアモルファス構造をとることが知られているが、プロセス条件によってネットワークの制御が可能であることを示していると考えられる。微小角X線散乱法などを用いたさらなる解析を行う必要があるが、金属元素を酸素が囲む多面体のネットワークが変化した結果として、今回のような動径構造関数の違いが見られたのかもしれない。一方で、価数に関しては、In、Ga、Zn共に、すべての条件のサンプルで大きな違いは見られなかった。
今回の結果から、製膜条件によって局所構造が制御できる可能性が示唆された。また、Ar/O2雰囲気において、製膜時の基板温度が室温と300°Cのサンプルを用いて薄膜トランスタを作製したところ、移動度に大きな差が見られた。動径構造関数の第二近接ピークに現れたような局所構造に起因している可能性も考えられる。
今後は、単膜での物性評価を進めると共に、他のプロセス条件の薄膜に対しても薄膜トランジスタを作製し、トランジスタ特性と局所構造との相関を調べていく予定である。また、酸素欠損等の欠陥と局所構造との相関を明らかにして、局所構造がデバイス特性(性能、安定性)に与える影響を調べていく予定である。
図1 In-K端に関するk3χ(k) 図2 In-K端に関する動径構造関数
図3 Ga-K端に関するk3χ(k) 図4 Ga-K端に関する動径構造関数
図5 Zn-K端に関するk3χ(k) 図6 Zn-K端に関する動径構造関数
©JASRI
(Received: May 8, 2012; Accepted: March 8, 2013; Published: June 28, 2013)