SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.2

Section B : Industrial Application Report

都市ごみ処理飛灰中鉛のメカノケミカル処理による形態変化と溶出特性の関係
Relation between Chemical State and Leaching Property of Lead in Fly Ash Treated by Mechanochemical Method

DOI:10.18957/rr.1.2.31
2011B1771 / BL14B2

原田 浩希a, 山本 常平a, 高岡 昌輝b

Hiroki Harada a, Tsunehira Yamamoto a, Masaki Takaoka b

a 日立造船(株), b 京都大学

aHitachi Zosen Corporation, bKyoto University

Abstract

 都市ごみ処理飛灰のメカノケミカル処理によるPbの不溶化処理をねらいとした基礎検討を行った。結果、溶出液がアルカリ性の飛灰ではPbの溶出量が低減するが、その機構はPbの化学形態の変化ではなく、比表面積の変化が影響していると考えられた。また溶出液が弱酸性となる飛灰では、MC処理による形態の変化に対してpHの影響が卓越し、Pbの溶出量が低減しなかった。以上のMC処理の特徴は、現行のキレート処理による不溶化機構とは異なることが示唆された。


キーワード: 都市ごみ焼却飛灰、メカノケミカル、鉛、溶出

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背景と研究目的:

 都市ごみ処理施設において発生するばいじん(以下、飛灰)は特別管理一般廃棄物に指定されており、含有する有害重金属類の最終処分場における溶出抑制処理を行うことが義務付けられている[1]。したがって、多くの処理施設では、液体キレート剤などの薬品による溶出抑制処理が施されている。しかしながら、この重金属対策用の液体キレート剤は非常に高価で、施設の用役費のおよそ20%を占めており、キレート剤によらない安価な溶出抑制処理技術の開発が強く望まれるところである。

 そこで当社では、重金属の溶出抑制処理の従来とは異なる新規の手法として、メカノケミカル処理(以下、MC処理)に着目した。MC処理は、粉末の供試物と複数の金属製の球体を密閉容器に投入し、容器を遊星ミルにより回転(自転および公転)させることで、容器内部のボールの衝突エネルギーにより試料の物性を変化させるものである[2]。これまでの検討において、キレート剤のような溶出抑制のための薬剤を添加しなくても、MC処理のみで重金属の溶出抑制効果が発現することを確認しており、本研究ではその機構について検討を行うことを目的とした。

 

実験方法:

(1) 供試試料

 ガス化溶融形式の施設Aにおいて溶融飛灰(Pb濃度 2,400 mg/kg)を、バーナ式灰溶融炉の施設Bにおいて溶融飛灰(Pb濃度 9,600 mg/kg)を、ストーカ形式の施設Cにおいて焼却飛灰(Pb濃度 680 mg/kg)をそれぞれ採取し、これらを原灰とした。各原灰を遊星ミルによってMC処理したものをMC処理後飛灰、また比較検討のための試料として、各原灰に対してキレート処理も実施し、これらをキレート処理飛灰とした。

(2) MC処理

 遊星ミル装置は、レッチェ製PM-100を用い、ステンレス製の500 mL容器にφ15 mmのステンレス製球体を50個、30 gの各試料と共に投入した。処理条件は、公転が1 minあたり500回転、自転は1 minあたり1000回転の条件で、30 min回転させた。

(3) キレート処理

 キレート処理には、日立造船(株)製L5100(70)(ピペラジン系キレート剤、分子量314)の有効成分濃度35%のものを用い、原灰重量に対して施設Aは6 wt%、施設Bは20 wt%、施設Cは3 wt%にそれぞれ相当する量を、約30 wt%の水と共に添加し、試料が均一になるまで混練した。なお、キレート剤の添加量は、各飛灰中のPbが十分にキレート剤と反応した状態で測定に供するため、後述の溶出試験によるPbの溶出濃度が、基準値である0.3 mg/Lを下回るために必要な添加量として、事前検討により決定した。

(4) 溶出特性の評価

 原灰、MC処理灰、キレート処理灰の各灰について、実際の処理灰を埋立て処分する際に適用される溶出試験(環境庁告示第13号、昭和48年)に定められた方法(以下、JLT-13)に準拠し、Pbの溶出量と溶出液のpHを測定した。なお、このJLT-13は、検体に蒸留水(pHが5.8〜6.3)を、重量体積比が1(g):10(mL)となるように添加して密封容器に入れ、常温・常圧下において水平方向に幅4〜5 cmの区間を200回/minの頻度で振とうし、さらに孔径が1 μmのグラスファイバー製のフィルタによりろ過したろ液中のPb濃度を測定するものである。

(5) XAFS測定

 SPring-8 BL14B2において、すべての試料をポリエチレン製の袋に密封した状態で、PbのXAFS測定を実施した。対象はPb LIII吸収端、入射X線のエネルギー範囲は13.00〜13.15 keVのXANES領域、測定法は19素子SSDによる蛍光法、分光結晶面はSi(111)面、複数回のクイックスキャンによるスペクトルの積算によった。それぞれの試料のスペクトルは、標準物質としてのPb化合物(PbO、PbO2、PbCl2、PbS、PbSO4、2CaO・PbO2)、また試薬級のPb(NO3)2の標準溶液(NaOHによりpHを12に調整)に同種のキレート剤を添加して調製したキレート結合態のそれぞれの標準スペクトルと形状比較を行った。さらにMC処理によるPbの状態変化を知るために、原灰とMC処理後について13.00〜13.10 keVの範囲で標準化合物のスペクトルとのフィッティングを行い、化合物成分比を求めた。2本の曲線の形状差から作られる面積の大きさ(試料のスペクトルで描かれる面積に対する差分の面積の割合)をR値として、フィッティングの妥当性を検証した。

 

結果および考察:

 JLT-13の結果を表1に示す。施設A、B、Cのいずれの飛灰においても、キレート処理では、基準値0.3 mg/Lの10分の1のオーダーまで溶出量が低減した。

 

 

表1. 溶出試験結果

 

 

 一方、施設AおよびCについては、MC処理のみによっても基準値のオーダーまで溶出量が低減したが、施設Bの溶出量は大きく変化しなかった。施設AとCの溶出液のpHについては、排ガス処理工程で消石灰の吹込みによる脱塩処理を行っているためにアルカリ性を呈したと考えられ、脱塩処理を行っていない施設BのpHは弱酸性となった。

 さらに、これらのpHはMC処理およびキレート処理のいずれによっても0.6以上の変化が認められなかったので、鉛の溶出量変化はpHの変化によるものではないと考えられる。

 次に、各試料のXANESスペクトルを図1に、標準物質を用いたパターンフィッティングの結果を表2に、それぞれ示す。なお、図1の標準物質のスペクトルは、解析の結果から各試料のスペクトルを表現するために妥当と思われたPbO、PbCl2、PbSの三種についてのみ記している。施設AおよびCでは、原灰は酸化物の形態に近く、MC処理による大きな変化が認められなかった。施設Bでは、原灰は塩化物に近い形態であったが、MC処理によって硫化物に近い形に変化していることがわかった。

 

 

図1. XANESスペクトル

(グラフ中○印はフィッティングの結果例)

 

 

表2. パターンフィッティングの結果

 

 

 

 一方、キレート処理飛灰については、全ての施設において本研究で調製したキレート結合態の形状に酷似しており、原灰およびMC処理灰とは異なるものであったことから、Pbの形態の変化が溶出の低減に寄与したものと考えられた。

 施設AおよびCの飛灰については、MC処理によるPb溶出量の低減が、pHと形態の変化から説明されないことから、物理的な性状に着目してMC処理飛灰の比表面積をBET多点法にて測定した。その結果、施設Aの飛灰の比表面積はMC処理により2.3 m2/gから1.3 m2/g、施設Cの飛灰では30 m2/gから4.6 m2/gにそれぞれ減少しており、MC処理において飛灰の構成粒子の表面形状が変化し、Pbの溶出量の低減に寄与したと考えられた。

 一方、施設Bについては、MC処理によって飛灰の比表面積は1.6 m2/gから0.7 m2/gに減少し、PbはPbSを主体とする化学形態に変化したものの、pHが弱酸性域であることが影響し、溶出低減には至らなかったと考えられた。

 

まとめ:

 都市ごみ処理飛灰をMC処理することによってPb溶出量を低減させることは可能であるが、その機構はPbの化学形態の変化が主たる要因ではなく、比表面積の変化が影響していると考えられた。また、脱塩処理を行っていない施設の飛灰で、その溶出液が弱酸性を呈するような場合では、MC処理によって飛灰の比表面積と形態が変化しても、pHの影響が卓越しPbの溶出量の低減に至らないことがわかった。さらにキレート処理は、弱酸性域とアルカリ性域の両方においてPbの化学形態を著しく変化させることにより溶出の低減に寄与していると考えられ、MC処理による不溶化機構とは異なることが示唆された[1]

 

参考文献:

[1] 環境省告示第103 号:特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物の処分又は再生の方法として環境大臣が定める方法(2006).

[2] 野村祐吾、藤原一夫、高田誠、中井智司、細見正明、廃棄物学会論文誌、17 (5), 355(2006).

 

©JASRI

(Received: April 6, 2012; Accepted: March 8, 2013; Published: June 28, 2013)