SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

X線マイクロトモグラフィーによるろ過膜の3次元構造解析
Analysis of Three-Dimensional Morphology of Polymetric Membranes by X-Ray Micro-Tomography.

DOI:10.18957/rr.2.1.13
2011B1823 / BL47XU

皆川 正和, 渡辺 賢一, 小林 貴幸, 末岡 加奈

Masakazu Minagawa, Kenichi Watanabe, Takayuki Kobayashi, Kana Sueoka

三菱レイヨン(株)

Mitsubishi Rayon Co., Ltd.


Abstract

 サブµm~µmオーダーの多孔質構造からなる高分子水処理用ろ過膜についてX線マイクロトモグラフィーによる観察法の検討を実施した。高速スキャン条件、クライオユニットによる冷却等により、X線照射による高分子へのダメージが抑制され良好な3次元像が得ることを確認した。


キーワード: X線マイクロトモグラフィー、水処理膜、クライオユニット



背景と研究目的:

 世界的に水資源が枯渇しつつあるという状況の中、その対策として水の浄化技術は更に高性能、コンパクト化、低エネルギーコスト化が求められている。このような背景のもと多孔質膜を利用した水処理が、その有用性について世界的に認められてきている。

 膜に求められる性能として、透水性、分画性能、耐薬品性、機械的耐久性等があり、我々はこれらの要求性能を満たすため、膜基材として適切な高分子素材を選択し、相分離現象を利用した中空糸膜の製造技術を確立し、水処理施設への導入を世界規模で進めている。

 相分離により形成される3次元的に連結した多孔構造は上記性能を発現する上で支配的な要因である。特に数10 nm~数100 nmの分画部の構造は透水性・分画性能を決定する上で重要であるが、そのサイズより3次元構造を実験室レベルのX線CTでは観察できていなかった。

 これまで高分子膜について放射光を用いた実績[1]では、µmオーダー以上の分解能であるのに対し、弊グループの前回の検討(課題番号2010B1805)では位相差CT法によりコントラストを増強することで、サブµmオーダーの多孔質構造を確認した[2]。上記観察像を用いて、ラトックシステムエンジニアリング社製TRI/3D-BONにより3次元画像解析(3D粒子解析/連通孔解析)を実施し、多孔質膜の3次元構造に関する情報が得られつつあるが、前回の検討では、膜の素材によってはX線によるサンプルのダメージが発生し、3次元像が得られなかった。

 本検討ではSPring-8のBL47XUにおいて観察中のサンプルへのダメージの抑制手法として高速スキャン条件(短時間露光)及びクライオユニットによる冷却を検討し、これまで不可能であった高分子膜の高分解能マイクロトモグラフィーによる細孔構造の3次元的評価の技術確立を目的として、3次元構造が明瞭に観察できる測定条件の探索を行った。


実験:

 サンプルとして非溶媒相分離法等により製膜した高分子膜(走査型電子顕微鏡による孔径数100 nm~数 µm程度)を用いた。高速スキャン条件で分析を実施し、サンプルのダメージを透過像及び目視で確認した。ダメージのあったサンプルについてはクライオユニットによる冷却でサンプルへのダメージ低減を試みた。またコントラスト増強を目的として位相差板を用いた[3]

実験装置の外観を図1に、サンプル形態の模式図を図2に、最終的に測定を実施した測定条件について以下に示す。



図1.実験装置の外観


図2.サンプル形態の模式図


[測定条件]  ( )内は前回検討(課題番号 2010B1805)時の条件。

 ・X線のエネルギー: 8 keV

 ・アンジュレーターギャップ:12.6 mm (12.75 mm)

 ・X線照射時間:100 msec (500 msec)

 ・ステップ間隔:0.4° (同)

 ・検出器:CCDカメラ (同)

 ・ビニング:4×4 (同)

 ・位相差板:有 (同)

 ・クライオユニット使用条件:

   液体窒素流量 0.5 ml/min

   設定温度 220 K


結果および考察:

 前回検討時の条件において観察が行えたサンプルに関しては、上記高速スキャン条件によっても良好な3次元像を得ることができた。観察例について、膜の断面構造を示すz軸方向スライス画像を図3に、ImageJの3D Viewerプラグインを用い直交断面表示させた3次元像を図4に示した。また高分子膜の内部構造の参照として同サンプルについて液体窒素中で凍結割断により断面出しを行い走査型電子顕微鏡(以下、SEM)により観察を行った結果を図5に示した。図3と図5は共に膜の断面構造を示しており、両図の比較より、今回の測定条件において膜の内部構造が非破壊で明瞭に観察できていることが確認できる。さらに図4よりSEMによる断面観察では困難である膜内部の3次元像が明瞭に得られていることが確認できる。



図3.高速スキャン条件で測定した高分子膜のX線マイクロトモグラフィーでの観察結果例



図4.高速スキャン条件で測定した高分子膜のX線マイクロトモグラフィーでの観察結果例

   ImageJの3D Viewerプラグインを用い直行断面表示させた3次元像



図5.高分子膜の走査型電子顕微鏡写真


 一方、前回検討時の条件においてダメージがあり観察が行えなかったサンプルに関しては、高速スキャン条件においてX線照射時間が1/5になっているにも関わらず、サンプルにダメージが見られ観察が行えなかったが、クライオユニットによる冷却を行うことによりダメージが抑制され3次元像を得ることができた。観察例について、膜の断面構造を示すz軸方向スライス画像を図6に、ImageJの3D Viewerプラグインを用い直行断面表示させた3次元像を図7に示した。また、高分子膜の内部構造の参照として同サンプルについて液体窒素中で凍結割断により断面出しを行いSEMにより観察を行った結果を図8に示した。図6と図8は共に膜の断面構造を示しており、両図の比較より、今回の測定条件において膜の内部構造が非破壊で明瞭に観察できていることが確認できる。さらに図7よりSEMによる断面観察では困難である3次元像が明瞭に得られていることが確認できる。



図6.冷却下測定した高分子膜のX線マイクロトモグラフィーでの観察結果例



図7.冷却下測定した高分子膜のX線マイクロトモグラフィーでの観察結果例

   ImageJの3D Viewerプラグインを用い直行断面表示させた3次元像



図8.高分子膜の走査型電子顕微鏡写真


 以上より、高速スキャン及びクライオユニットによるサンプルの冷却はX線によるダメージを受けやすい高分子水処理膜のX線マイクロトモグラフィー観察に有効な手段であると考えられる。


今後の課題:

 今回得られた投影像の画像処理により、孔の連結性といった膜性能に直結する特性の定量化手法を確立し、膜の開発検討へと反映させたい。


参考文献:

[1] J.C.Remigy, M. Meireles and X. Thibault: Journal of Membrane Science, 305, 27-35, (2007).

[2] 平成22年度 SPring-8重点産業利用課題成果報告書(2010B1805).

[3] A. Momose, T. Takeda, Y. Itai and K. Hirano: Nature Medicine, 2, 473-475, (1996).



ⒸJASRI


(Received: February 8, 2012; Early edition: May 20, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)