Volume2 No.1
Section B : Industrial Application Report
X線CTによる海水で練り混ぜたセメント系材料の微細組織の直接観察
Direct Observation of Fine Structure of Cementitious Materials Mixed with Sea-Water Using X-ray CT
(株)大林組
Obayashi. Co. Ltd.
- Abstract
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海水を練混ぜ水に用いて作製したセメント硬化体の微細構造をSPring-8 BL20XUの高分解能X線CTを用いて観察した。シリカフュームを入れることで、粗大な空隙が減少し、海水を入れることでさらに全体の空隙量が減少する傾向、同様に密実な物質が生成していると考えられる結果を得た。海水を材料として用いたセメント硬化体には、今回の結果ではわずかであるが通常のセメント硬化体をち密化する可能性があると考えられる。
キーワード: 海水練り混ぜセメント、微細構造、X線CT
背景と研究目的:
離島や沿岸地など、コンクリートを製作するにあたり上水の調達が困難な場所での施工では代替え材料として海水の使用が望まれる。しかし、海水に含まれる塩分は、コンクリート中の鉄筋を腐食させ膨張させるために、コンクリートを破壊する原因物質として考えられてきた。このため、これまで海水を材料に用いた例はほとんどない。
近年、腐食の程度を極めて押さえたステンレス鉄筋や表面を被覆化したエポキシ鉄筋などが一般に用いられるようになり、海水の使用に対する懸念が少なくなってきている。本研究では、製鉄所からの副産物である高炉スラグをセメントに混入させた高炉セメントを主成分とし、海水を材料とした場合のセメント硬化体の空隙の変化や成分の変化について調べた。
実験:
試料は、基本となる高炉セメントに海水およびフェロシリコン精製時の副産物であるシリカフュームを材料として用い、砂や石を入れないセメント硬化体から採取したものとした。これら粉体成分を混合したものを結合材と呼ぶが、セメント硬化体作製時の水-結合材の比率は50%とした。この仕様で上水や海水を入れて練り混ぜたのち、円筒型枠に打設し、24時間硬化させた後に脱型し上水中で保存した。試料は、事前に計画したもののうち、その後の検討により強度など実用的な性質を有する以下の3種を対象とした。基本となる高炉セメントを上水で練り混ぜたもの(以下、WB50と略記)、高炉セメントの15%をシリカフュームで置換し上水で練り混ぜたもの(以下、WBSF15と略記)、高炉セメントの15%をシリカフュームで置換し海水で練り混ぜたもの(以下、CBSF15と略記)の3種とした。試験は、試験直前に硬化体をワイヤー切断機で1 × 1 × 15 mmの角材形状に切り出し、冶具に固定の上、X線CTで観察を行った。対角方向で試料規模が1 mmを超えるため透過性を確保するためエネルギーは20 keVとし、投影数は1800、露光時間は200 msとした。観察領域は1 mm(X) × 1 mm(Y) × 650 mm(Z:高さ方向)の領域とした。
結果および考察:
得られた断面図の一覧を図1に示す。図の明暗は吸収係数に対応しており、分子量と密度の積が大きいものほど明るい表示となる。逆に空気は暗い色調となる。いずれの断面においても白色の粒子が散見されたが、これらは密度の高い未水和のセメント粒子と推定される。X線吸収係数と画素の明るさの関係は未水和のセメント粒子、水酸化カルシウム、カルシウムシリケート水和物の順に暗くなることが、NISTのデーターベースより示されている。シリカフュームを混和した後者2種の材料では暗い色調にあり、カルシウムシリケート水和物の生成が卓越すると判断される結果となった。得られた断面図群の高さ方向で50 μmごとの断面図10枚に対し、空隙を画像の二値化で抽出し、円で近似する方法で空隙量を求めその平均を各試料の空隙量とした。横軸には観察結果で得られた空隙の径をとり図2に空隙量の比較を示す。空隙半径を1 μmずつ変化させ、その範囲に入る空隙の全体に占める割合を示した。シリカフュームを入れることで粗大な空隙が減少し、海水を入れることでさらに全体の空隙量が減少する傾向が認められた。図3に断面図における画素数のX線吸収係数とのヒストグラムを空隙量と同様に断面図10枚の平均値で示す。吸収係数の結果では、試料WB50に比べてWBSF15およびCBSF15が吸収係数の大きな成分が存在するが、海水の影響は少なく、シリカフュームの混和による影響が大きい結果となった。
海水を入れたセメント硬化体には、今回の結果ではわずかであるが空隙が減少し、通常のセメント硬化体よりち密化している可能性がある。ち密化は外部からの物質侵入を抑制することであり、硬化体自体の強度を増すことでもあるため、コンクリートの性能向上につながる可能性を示唆する結果を得たと考えられる。
図1. 各試料の断面X線CT像
WB50:高炉セメントを上水で練り混ぜ
WBSF15:高炉セメントの15%をシリカフュームで置換し上水で練り混ぜ
CBSF15:高炉セメントの15%をシリカフュームで置換し海水で練り混ぜ
図2. 空隙量の比較(空隙半径:50 μmごとの断面図10枚に対し空隙を抽出し円で近似、
区間空隙率:空隙半径を1 μmずつ変化させその範囲に入る空隙の全体に占める割合)
図3. X線吸収係数の比較
今後の課題:
今回の観察では、供試体を制限したため結果として明瞭な差異を見い出せなかった。また、経験的にS/N比の高いことが分かっている15 keVの照射エネルギーより高く設定したことも原因と考えられる。今後は、強度など実用的な条件から除外したものも検討対象に加え、試料調整やエネルギー調整を最適化したうえで精密な測定を再度試みる。
ⒸJASRI
(Received: May 7, 2012; Early edition: April 25, 2014; Accepted: July 3, 2014;
Published: July 10, 2014)