SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

深紫外光源用Gd添加AlN薄膜の高エネルギー光電子分光法による深さ方向解析(2)
Depth Analysis of the Gd Doped AlN Thin Film for Deep Ultraviolet Light by Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy(2)

DOI:10.18957/rr.2.1.27
2011B1961 / BL46XU

小林 幹弘a, 石原 嗣生b, 泉 宏和b, 西本 哲朗a, 田中 寛之a, 喜多 隆c, 來山 真也c, 市井 邦之c

Mikihiro Kobayashi a, Tsuguo Ishihara b, Hirokazu Izumi b, Tetsuro Nishimoto a, Hiroyuki Tanaka a, Takashi Kita c, Shinya Kitayama c, Kuniyuki Ichii c

a(株)ユメックス, b兵庫県立工業技術センター, c神戸大学

aYUMEX INC., bHyogo Prefectural Institute of Technology., cKobe University.

Abstract

 我々は深紫外光源用蛍光体として開発しているGd添加AlN薄膜の電子線ビーム照射前後の構成元素について、化学結合状態を調べるために光電子分光測定による分析を行っている。今回は薄膜の表面から内部にかけて薄膜の劣化状態を調べるために光電子スペクトルの検出角度依存性を測定した。測定結果より電子ビーム照射後の試料では、AlとNが還元された状態と酸化された状態で共存しており、電子ビーム照射により薄膜は深層部まで残存酸素が還元除去された後、表面近傍だけが酸化された状態になっていると考えられる。


キーワード: Gd添加AlN、深紫外光源、HAXPES


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背景と研究目的:

 我々は水銀ランプの代替利用を目的に、窒化アルミニウム(AlN)を母体として希土類元素(Gd)を添加し、Gdのf-f電子遷移を利用した水銀フリー深紫外光源として有望なGd添加AlN薄膜の開発を行ってきた[1-3]。しかし、Gd添加AlN薄膜は大電流を印加するとカソードルミネッセンス強度が急激に減衰する現象が生じており、その原因としては電子ビームによる膜の損傷を考えている。そこで我々は薄膜の深層部の情報を非破壊で評価できる硬X線光電子分光法(HAXPES)により薄膜の解析を進めた。

 前回の重点産業利用課題(課題番号2010B1815)の結果より、電子ビーム照射によりダメージを受けた試料は一度還元された後、大気中で試料の極表面だけ酸化されたという機構を考えた[4]。今回の課題では光電子スペクトルの検出角度依存性を測定することにより、薄膜の深さ方向に依存した化学結合状態を解析することで、前回の結果より得られた劣化機構の妥当性を検討して、カソードルミネッセンス強度の大幅な減衰機構を明らかにし、高輝度発光材料の開発指針を得ることを目的とした。


実験:

 測定試料は、反応性高周波マグネトロンスパッタリング法により石英ガラス基板上にAlNバッファー層を 700 nm形成した後、Gd濃度が1 mol%のGd添加AlN発光層を700 nm成膜した。得られた薄膜に加速電圧~5 kV、加速電流~100 µAの電子ビームを照射して損傷を与え、カソードルミネッセンス強度が79.2%(after 1)、及び72.7%(after 2)に減少した試料を準備した。その後、HAXPES測定時のチャージアップを防止するため、金薄膜を1~4 nmコーティングした。HAXPES測定はSPring-8 BL46XUにおいて、励起光エネルギーが 7940 eVのX線を入射させ、生じた光電子を半球型アナライザー(VG-SCIENTA製R4000)により室温で測定した。アナライザー入射スリットはcurved 0.5 mm、パスエネルギーは200 eVにそれぞれ設定した。X線入射角は試料面から10°、光電子検出角は80°~20°の範囲で変更し、深さ方向の組成分布を調べた。光電子スペクトル測定は薄膜構成元素であるAl(Al 1s、Al 2s)、N(N 1s)、Gd(Gd 3d)について測定し、得られたスペクトルは、同時に測定したAu 4f7/2光電子の結合エネルギーを84.0 eVとして帯電補正を行った。


結果および考察:

 図1(a)は電子ビーム照射前後の試料について、光電子検出角を80°とした時のAl 1sの光電子スペクトルである。加速電圧5 kVで入射した電子は、薄膜の約150 nmの深さまで進入すると考えられる。電子ビーム照射によるダメージが大きい試料ほどピーク強度が減少したが、これは電子ビームによりAlN膜がエッチングされると共に、試料表面に炭素系の不純物が多く付着したためと考えられる。また、電子ビーム照射によってピーク位置がAl 1sは1560.9 eVから1560.6 eVに、Al 2sは119.3 eVから118.9 eVにシフトしていた。これは、電子ビーム照射によりGd添加AlN薄膜中の残存酸素の一部が還元除去されたためと考えられる[5]。また、Al 2pピークについてはAu 5p1/2ピークに隠れて判別できなかった。

 次に、薄膜の厚さ方向における構成元素の化学結合状態を調べるために、光電子検出角を80°から40°まで変化させて測定した。図1(b)にAl 1sの結果を示す。電子ビーム照射前の試料(黒線) では、検出角を変化させてもスペクトル形状に変化は見られなかったことから、膜の表面部と内部とでAlの化学結合状態の差はほとんど無く、厚さ方向でほぼ均質な膜になっていると考えられる。これに対し、電子ビーム照射後の試料(赤線)では、光電子スペクトルのピークが照射前に比べて僅かながら低エネルギー側へシフトし、検出角を小さくするにつれてAl 1s、Al 2sピークの高エネルギー側の裾(で示した箇所:Al 1sは1562~1565 eV、Al 2sでは120~122 eV付近)が、僅かながら大きくなっていた。



図1.(a)電子ビーム照射量によるAl 1s光電子スペクトルの変化、及び

   (b)検出角度依存性(はピークシフトと強度減少、は裾を示す)


 図2に検出角40°における電子ビーム照射後のAl 1s光電子スペクトルのピーク分離結果、及び表1に検出角40°~80°における電子ビーム照射前後のAl 1s光電子スペクトルについてピーク分離より得た解析結果を示す。電子ビーム照射前後のスペクトルをピーク分離した結果、電子ビーム照射後は低エネルギー側の金属的性質の割合(Al-Al成分)と、高エネルギー側の酸化や不純物の影響の割合(Al-O or Al-C成分)が大きくなる傾向が現れた。また検出角が小さくなるにつれてAl 1s、Al 2sともに高エネルギー側のAl-O or Al-C成分の割合が大きくなる傾向が現れた。電子ビーム照射後の試料において検出角80°の場合、Al-O or Al-C成分のエリア面積の割合がAl 1sの場合は14.9%であったのが、検出角40°になると23.2%であった。これは表面近傍で酸化や炭素系不純物の影響が大きことが考えられる。

 電子ビーム照射の前後におけるN 1s光電子スペクトルを図3(a)に示す。電子ビーム照射によってピーク位置は397.6 eVから397.4 eVへシフトしていた。このことはAl 1s、Al 2sピークと同様に、電子ビーム照射を受けた試料では残存酸素の一部が還元除去されたためと考えられる。



図2.Al 1sのピーク分離結果


表1.Al 1sピーク分離より得た解析結果


 また、検出角度依存性の測定結果(図3(b))から、電子ビーム照射前の試料(黒線)では、検出角を変化させてもスペクトル形状に変化はなく、膜の表面部と内部の厚さ方向でほぼ均質な膜になっていると考えられるのに対し、電子ビーム照射後の試料(赤線)では、光電子スペクトルのピークが僅かながら低エネルギー側へシフトすると共に、検出角を小さくするにつれてN 1sピークの高エネルギー側の裾(で示した箇所:N 1sは399.4 eV付近)が、僅かながら大きくなっていた。これは電子ビーム照射を受けた試料では、還元された状態と酸化された状態とが共存しており、薄膜の表面では酸化が進んでいることを示唆している。浅い検出角では表面近傍の結合状態を選択的に検出しており、検出角40°での測定結果には電子ビーム照射により還元反応をした状態と表面酸化した状態がスペクトル形状に現れていると考えられる。



図3.(a)電子ビーム照射量によるN 1s光電子スペクトルの変化、及び

   (b)検出角度依存性(はピークシフトと強度減少、は裾を示す)


 図4に検出角40°における電子ビーム照射後のN 1s光電子スペクトルのピーク分離結果、及び表2に検出角40°~80°における電子ビーム照射前後のN 1s光電子スペクトルについてピーク分離より得た解析結果を示す。電子ビーム照射前後のスペクトルをピーク分離した結果、電子ビーム照射後は低エネルギー側の欠陥構造の割合(N-N成分)と、高エネルギー側の水酸化物や不純物の影響の割合(N-H or N-C成分)が大きくなる傾向が現れた。電子ビーム照射後の試料において検出角80°の場合、N-H or N-C成分のエリア面積の割合が14.8%であったのが、検出角40°になると26.3%と増大しており、表面近傍で水酸化物や炭素系不純物の影響が大きいことが考えられる[6]



図4.N 1sのピーク分離結果


表2.N 1sピーク分離より得た解析結果


 今回の測定により、電子ビーム照射によって発光強度が低下したGd添加AlN薄膜について、膜厚方向での化学結合状態の変化が確認できた。電子ビーム照射により薄膜は深層部まで残存酸素が還元除去された後、表面近傍のみが酸化されたと考えられる。

 前回課題の結果から薄膜は電子ビーム照射により還元された後、大気中で極表面だけ酸化されたという機構を考えたが、今回の測定結果もそれを支持するものであり、電子ビーム照射による 還元反応が薄膜の表面と内部で進行し、その後、大気中で薄膜の表面が酸化されたものと考えられる。


今後の課題:

 今回はGdに関する光電子スペクトルのピーク強度が低く、条件を変えた場合のスペクトル変化があるかどうかが判断できなかった。電子ビームによる発光強度の低下を抑制する方法として、紫外蛍光薄膜の導電率を高める方法が考えられる。今後、Si添加と導電膜コーティングを施したGd添加AlN薄膜について、電子ビーム照射により発光強度及び化学結合状態がどのように変化するか確認したい。


参考文献:

[1] T. Kita, S. Kitayama, M. Kawamura, O. Wada, Y. Chigi, Y. Kasai, T. Nishimoto, H. Tanaka and M. Kobayashi: Appl. Phys. Lett., 93, 21190 (2008).

[2] S. Kitayama, T. Kita, M. Kawamura, O. Wada, Y. Chigi, Y. Kasai, T. Nishimoto, H. Tanaka and M. Kobayashi: IOP Conf. Ser.: Mater. Sci. Eng., 1, 012001 (2009).

[3] S. Kitayama, H. Yoshitomi, S. Iwahashi, J. Nakamura, T. Kita, Y. Chigi, T. Nishimoto, H. Tanaka, M. Kobayashi, T. Ishihara and H. Izumi: J. Appl. Phys., 110, 093108 (2011)."

[4] 宮永昭治、井上亨、「窒化アルミニウム薄膜の作製方法」特許第3238459号.

[5] M. Harada, Y. Ishikawa, T. Sato and N. Shibata: Jpn. J. Appl. Phys., 42, 2829 (2003).

[6] D. Chen, D. Xu, J. Wang and Y. Zhang: J. Phys. D: Appl. Phys., 41, 235303 (2008).



ⒸJASRI


(Received: April 3, 2012; Early edition: May 20, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)